最近のデバイスはわがままで困る   作:bounohito

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第四十一話「順風」

 

 

 ユニゾン・デバイスの製造許可───それは同時に、予算が承認されたことも意味する。

 流石に挨拶と確認ぐらいは必要かとマーティン部長の元を訪れ、アーベルは製造試験機1機と性能評価試験機1機の予算が認可されていることを確認した。

 

「ユニゾン・デバイスの設計製造は第六特機の設立目的であり現在の目標なんだから、無論私も知っているとも。

 しかしだ、ユニゾン・デバイスなんて私たちでも名前を知っていれば上出来、実物どころか資料さえ殆どないところにまともな内容と裏付けを伴った計画が提出されたわけだから、まあ、こちらも真面目に検討するわけだ。

 だが私もあの後は事件の後始末で手一杯だったし、今日になって本部長から呼ばれたものでね。……実は少し慌てた。

 君はデバイス・コアの生産が始まって以来多忙だったと聞くし、例の一件もあった。ともかく、先月だったか先々月だったか、第六特機から上がってきた中間報告書、あれが決め手になったようだよ。

 もちろん、こちらの都合で提出時に色好い返事が出来かねたことは、君も知っているね?」

 

 設立目的に対して実現の為の計画を提出することは、義務である。

 無論、先月はほぼアームド・デバイスに追われていたが、こちらはこちらで重要度も高く目的の一つでもあったから、アーベルらが趣味にかまけてさぼっていたわけではなかった。

 

「しかしだ、そこにもう一つ、無視できない要素が加わった。

 先日の一件だ。

 あれは外から見ればまさしく管理局の失態、しかし教会との連携は今後ますます重要になってくるから上は焦った。急いで得点を稼ぐなり何なり、管理局は教会と蜜月を続ける気がありますよと、態度で示さなくてはならなくなったわけだ」

「……もしかして、この事件で僕が丁度目立つ位置にいたものだから、そのまま使ってしまえと?」

「まあ、そんなところだろうね。

 管理局のデバイス行政を預かる我が第四技術部としては、喪われた技術の復活には興味もある。

 君も予算が向こうから自分で歩いてきたんだから、断る理由もないだろう?」

「はい、もちろんです」

 

 今ならあの馬鹿者に感謝しても罰は当たらないかも知れないねと、部長はとぼけた様子でアーベルに笑顔を向けた。

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 数日後、新規ユニゾン・デバイスの設計アウトラインと同時に、生産設備についてどうしたものかと頭を悩ませていたアーベルの元に、ようやくシグナムがやってきた。

 この日のために、わざわざ地上からゲルハルトを呼んでいる。あちらもデバイス・コアの増産に忙しいが、今日ばかりは第六特機を優先させた。そのついでにはやても呼んだが、こちらは『真』シュベルトクロイツの最終調整を行うためだ。

 

「以前から声を掛けて貰っていたのに済まなかった、マイバッハ二佐。

 研修中の名札は取れたが、今度はスクランブル要員として逆に忙しくなってしまったのだ」

「いや、無理を言ってるのはこちらだし、今回はきちんと航空本部も通してるからこれも任務だよ。

 ご協力に感謝する、シグナム三尉」

 

 ふむとお互い頷いて敬礼を解き、にやっと笑う。

 

「こら!

 わたしは無視か!」

「あ、いや、その、主はやて、公務の場合順番というものがありますので……」

「八神はやて特別捜査官、貴官の階級は現在准尉相当ですから、先にシグナム三尉と挨拶しないことには鼎の軽重が問われます……ってね」

 

 部外者はいないながら、はやてとシグナムの出張は正式な要請と召喚であり、本局にも通している。

 それに普段からすずかとのことを散々にからかわれているので、たまには逆襲してもお釣りが来るはずであった。

 

 ちなみに現在、はやての護衛兼補佐として意図的に無任所とされているザフィーラを除き、シグナムとヴィータは航空隊の三尉、シャマルは二尉相当の医務官と、階級がそれぞれ主人を上回っている。

 

「まあお遊びはこのぐらいにして……」

「ちょ!?」

「シグナムは初めてだったよね、こちらは嘱託のゲルハルト・マイバッハ技官。

 見ての通り、僕の弟だよ」

「はじめまして、騎士シグナム! 騎士はやて、お久しぶりです!

 ゲルハルト・マイバッハです!」

「ああ、よろしく」

「お久しぶりですー」

「古代ベルカ式デバイスの整備に限れば、はっきり言って僕よりもゲルハルトの方が腕は確かなんだ。

 何より整備適性持ちだし、教会騎士団にも出入りしていて多数の真正古代ベルカ式デバイスを肌で知っているよ」

「……ほう?」

「アーベルさんよりすごいて、それほんまにすごいなあ……」

「頑張りますので、よろしくお願いします!」

「うむ、元気なことだ。

 ゲルハルト技官、今日はついでにレヴァンティンを見て貰ってもよいか?」

「喜んで!」

「ゲルハルト、先にレヴァンティンを整備させて貰え。それとシュベルトクロイツも頼む。

 レヴァンティンの魔導回路の写しはこっちにもあるけど、お前なら実物見た方が早いだろ?」

「うん。

 手持ちの6機とも、全部騎士シグナム用にしちゃっていいんだよね?」

「もちろん。

 忙しいのわかっててゲルハルトを呼びつけた最大の理由だからな。

 粗方の調整はしたけど、今日はお前が頼りだよ」

 

 はやてとシグナム、ゲルハルト、マリーがメンテナンスルームに向かうと、仕事中には珍しく、クララがリインフォースを起動させた。

 

「どうかした?

 ……ゲルハルトには君のこと秘密だから、はやてちゃんやシグナムへの伝言なら手短にね?」

“いや、違う。

 アーベルも知っていると思うが、融合機の件だ”

「ああ、心配しなくてもいいよ。

 いきなりはやらない」

“書の管制人格と融合騎の違いは理解しているだろうが……もうひとつ、注進を忘れていてな”

「……なんだい?」

“主はやては無論純粋なベルカの騎士だが、その能力は蒐集によって今後も拡大される。

 言うなれば、ベルカの騎士にミッドチルダ式の魔導を学ばせているようなものだが、主はやてに限っては、適性は希少技能によって考慮せずともよいという真に都合の良い状態だ”

「……つまり?」

“資料のまま作っても、ミッドチルダ式魔導の行使に問題がある不完全な融合騎に仕上がるだろう、ということだ。

 それもにもう一つ、試験機の魂の提供者はどうするつもりなのだ?

 半端な魔力の持ち主では、ただの愛玩融合騎が出来上がるぞ?”

「それでもいいんだけどね……」

 

 ユニゾン・コアは人格型デバイス・コアに特殊な方法───無限書庫で見つかった望天の魔導書の製作基礎データから判明していた───でリンカー・コアに相当する人造魔導魂を刻んでやらねばならないが、その時に魂の提供者とも言うべき術者の協力が不可欠であった。これを行わないと、単体での魔導行使どころか自律行動もおぼつかない無意味なユニゾン・デバイスが出来上がってしまう。

 

 しかも重要なことに出来上がった人造魔導魂の魔力量、資質、特性などは、基本的には提供者の能力に比例する。おまけに融合適性まで支配されるが、提供者はともかくその他の魔導師や騎士に融合して能力を存分に発揮できるかどうかは、出来上がってから調査するしかなかった。

 

「いきなりはやてちゃんを魔力提供者にするのは、僕だけじゃなくクロノ達も反対している。

 ……僕しかいないだろうね」

“そう言うだろう、とは思っていた。

 そこでだ、少しクラーラマリアの力が借りたい”

「クララの?」

“現在の私は一切の魔導を使えない。

 だがな、経験や知識を伝えることは出来るのだ”

 

 リインフォースの提案はアーベルを驚かせるに十分だったが、その内容には筋が通っている。

 アーベルは二つ返事で了承して、彼女の意見をユニゾン・デバイス試験機の構想に組み入れた。

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 レヴァンティンの整備と新造デバイスの調整を終えた三人が戻ってくると、先日と同じように射爆場に出向き、シグナムにデバイスを使って貰う。

 

「兄さん、フレーメン・ヴェルファーしか登録されてなかったんで調整ついでに魔法増やしたけど、よかったんだよね?」

「助かるよ。手間が省けた。

 シグナム、壊れ物じゃないけど手加減してくれよ?

 これらのデバイスはレヴァンティンをベースにしてるけど、使用術者の魔力ランク想定は最大AAなんだ」

「了解した」

「はやてちゃんも魔法の試し撃ちは構わないけど、広域殲滅魔法はだめだからね。

 ここ、あんまり広くないからなあ……」

「了解ですー」

 

 その後非人格型3機、人格型3機の計6機の試用試験が順に行われたが、シグナムはやはり凄い。彼女の言う手加減にも数段階あるようだが、全て同等同質の魔力投入でテストされている。

 

「こりゃあ僕が培養プラントに出向して、最初からゲルハルトとシグナムに全部任せていた方がスムーズに結果を引き出せてたかな……?」

「アーベルさん、課長が課に居ないとお仕事回りませんよ?」

「やっぱりマリーに引き受けて貰った方がよかったなあ。……今更だけど」

「いやですよ」

「わたし、やりましょか?」

「……ものすごく助かるけど、Sランクの魔導師を前線からポンと引き抜くだけの政治力をどこから持ってきたらいいか、はやてちゃんは心当たりない?」

「さあ……?」

 

 得られたデータとシグナムによる使用感や警告を突き合わせ、それぞれのデバイスに評価を付けていく。

 

「どうしてもレヴァンティンと比べてしまうが、各機とも想像したほど頼りないものではなかった。

 このまま実用品としても問題なかろうが、使い手としては両手剣と片手剣を同列に語ることも出来ない」

「となると……騎士さんに選んで貰うのが正解、でしょうか?」

「結局は騎士に合わせた調整をしてこその、古代ベルカ式デバイスですし……」

「……開発よりも、調整や整備が面倒そうだなあ。

 集中して運用してくれなんて、こっちから言えるわけない」

「そんなの、教会騎士団ぐらいだろうね」

「エース級デバイスの1カテゴリー、みたいな感じになりそうですね」

 

 各重要拠点に整備や調整ができるマイスターを配置して一般化しようなど、インフラの整備に金が掛かりすぎて夢のまた夢である。

 そりゃあ本局が300億の投資は高すぎると結論するわけだなと、アーベルは天を仰いだ。

 

 


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