部長という役目こそ自分がやっているが、宮守女子の精神的な支柱はシロであると塞は思っている。
幼馴染故の贔屓ということではない。これは監督を含めたシロ以外の全員が思っていることだ。
シロは面倒くさがりで自己主張することも少ない。何かを決める時も大抵は他の人間が決めるし、シロはダルダル言いながらそれに従う……素振りだけで実際には自分か胡桃が背中に蹴りを入れる直前までぼーっとして動かないことばかりだ。
リーダーシップ然としたものもないし特別頭が切れる所を見せたりすることもない。
それでもシロがやると言えば全員がそれに従うのは、カリスマのようなものがあるのだ……と愚考せざるを得ない。あのガラス玉のような無駄に澄んだ瞳に知性を感じたことは一瞬もないのだが『この人のために何とかしてあげないと……』と同性に思わせることは昔から得意で、京太郎がいない時はクラスの物好きな女子が。今の麻雀部では気は優しくて力持ちな豊音があれこれ世話を焼いてくれている。
ただこの真っ白毛並みの岩手産ダルパンダ。自分の代わりに何かをしてくれて、自分をどこかに連れて行ってくれるならば誰でも良いのかと言えばそういう訳でもない。シロにはシロなりの自分の傍にいても良いという偉そうな基準があり、そこに満たない人間がいる場所には自分から近づこうともしない。場所の雰囲気にさえ煩いし、人間の好き嫌いは多分部の中で一番激しい。
繊細と神経質の大分神経質寄りの所にいる――京太郎に言わせるとそこが良いところらしいのだが塞には未だに理解できなかった。ダメな所をダメだと認識したまま、それを良いものだと思えるのは彼の長所で塞も大好きな所ではあるのだが、それはそれとして頭のおかしい所だと思う。その内頭のおかしな女に捕まって正気を疑うような目に合うんじゃないかと心配である。
『あのピンクは許せない』
『冷静になって許せるかなと思ったけどやっぱ無理だった』
『あのピンク徹底的にやっちゃって』
シロにピンクと呼ばれるあの少女――原村和へのシロの好感度はとても低い。波長の合わない人間には無干渉を貫くシロがやっちゃえとまで言うのだ。彼女の敵対心の強さが伺える。
それも無理はないか、塞でも思う。
さらっさらの桃色の髪はツインテールに。タレ目気味の童顔はある種子供っぽくも見えるが表情には気の強さが見える。
加えておもち。何よりおもち。巨乳ですが何か? という自信に満ちた振る舞いの永水のおっぱいおばけもムカつくが、人間外見ではなく中身ですという風な涼やかな傲慢さが見えるピンクの態度もそれはそれで癪に障る。
総合して、如何にも京太郎が好みそうな容姿に如何にも京太郎の興味を引きそうな性格。加えてインターミドル覇者と麻雀も達者であるのだから疑問は深まるばかりだ。
このピンクは何故、まだ京太郎の彼女になっていないのだろうか。
清澄にあのピンクがいると知った時、シロは二人の間には何もないと解るまで一週間くらい不貞腐れていた。これは勝負が決まったかなと塞も胡桃も思ったものだ。あの容姿性格で同級生で同じ部活で同じバイト先。時間が立てば立つほど京太郎とピンクの接点は増えるばかりだったがそれ以上に塞たちの疑問は深くなっていった。
どうして? と思ってもまさか京太郎本人には聞けないのだからどうしようもない。
『五人全員で足引っ張りあってるんじゃない?』
これは胡桃の意見である。ピンクだけでなく残りの四人ともくっ付いていないのだから割とありそうな気もした。如何にも京太郎好みなピンクが一際目を引くが、他の四人も中々強敵かつ曲者である。
部長の竹井久。三年。この人は何か許せる気がする。
自分たちと同級生というのもあるが、最大の理由は身に纏う雰囲気――年下の男の子相手に素直に攻めの姿勢でいることができない、面倒くさい捻じれた性格をしている恋愛弱者の匂いを感じたからだ。それっぽいのは見た目だけというのはもはやギャグの領域である。
今年で卒業だが地元の大学に進学して清澄には顔を出す予定と京太郎からも聞いているし連絡先を交換した胡桃が世間話でそれとなく聞いてきた。清澄の生徒会長――に相当する何かで成績も優秀だとか。それで今年は麻雀部を率いて学校初の全国出場を果たした。推薦合格は固いだろうしそれで落ちても模試もA判定で盤石であるという話である。
JKからJDにクラスチェンジした所で属性恋愛弱者がそのままであれば大した進展はなさそうだが、仮に彼女が京太郎とくっ付いたとしても頑張ったんだねと応援できる気がした。塞としては清澄で最推しである。
二年の染谷まこ。
この娘の悪い話は全く聞かない。二年の先輩。長野在住で何故か広島弁。実家が雀荘で京太郎とピンクがそこでバイトをしている……と、多分大して親しくない同じ学校の同級生でも知れることくらいしか塞も知らない。
実際に対局したエイスリンから何か情報が聞ければ良かったのだが、麻雀の相性が悪かったためか凹まされて帰ってきたのでそれどころではなかった。
もっともエイスリンはエイスリンで大会期間中はなるべく連絡しないようにね、とそれとなくルールを決めて皆で守ろうという話だったのに、対局室から控室まで戻ってくる間に自撮写真を送り付けてかわいいと褒められた罪で有罪が決まった。刑は即時執行されて皆からほっぺを引っ張られている。
ちなみに写真は撮ったが京太郎には送らなかった。赤くなったほっぺを抑え涙目で蹲る姿がかわいいと褒められたら罰にならないからである。
一年の二人、宮永咲と片岡優希。
前者は中学からの付き合いで塞たちも情報は多い。宮永照の妹で麻雀も達者と京太郎が言う辺りあの年代では突出した実力を持っている。事実一年であのピンクと共に長野の個人戦代表枠を手に入れた。
胡桃とシロはこっそり豆狸などと呼んでいるが愛嬌のある容姿は中々人好きがしてかわいいとは思う。姉とはまた違った美少女の路線だ。これでおもちだったら岩手から恨みの念でも送っていたろうけれども、幸か不幸か姉と一緒でスレンダーな体型をしている。姉を見るにここから急成長ということはないだろう。遺伝子というのは基本的には仕事をするものなのだ。
後者のちびっこは以前京太郎が奈良にいた時に顔を見た気がした。親戚? と聞いてみれば全く血縁のない赤の他人とのこと。ここまで似てる人間いる? と奈良のコピー元の現在を雑誌の特集で見てみると、そこにいたのはえらくあか抜けた超絶美少女だった。小学生の頃から順当に成長したと評される塞としては世の無常を嘆かずにはいられない。
これら四人に加えてあのピンクだ。正直食い合わせは良くないとは思うが、雰囲気が悪いという話は京太郎からも聞いていない。試合開始前に五人揃っている所を見た限り、仲が悪いようにも見えなかった。
京太郎の視線がある所では猫を被っているという可能性もないではないが、五人全員が他人にバレない程度に猫を被れるとしたらとんだ大魔境である。
問題は京太郎なら大魔境でも生き残れそうな所だ。魔境側の宮守としてはそこに助けられている所もあるので、塞の身ではどうこう言うこともできなかった。惚れた相手の度量が広すぎるというのも考え物である。
「よろしくお願いします」
ふいに声をかけられた。鈴の鳴るような声に視線を向ければ、そこにいたのは件のピンク。
この時塞は原村和を始めて間近で見た。
遠目に見ても美少女な美少女は、近くで見たらもっと美少女だった。容姿の特徴は雑誌で姿形をみて元から頭に入っていたつもりだったが、手を伸ばせば届く距離で見た和は塞の認識よりも五割増しくらいの美少女っぷりだった。
何やら良い匂いがするしおもちの存在感が凄まじい。同性でさえため息を漏らさずにはいられないそれは、異性ならどれほど人目を引くというのだろう。正直このおもちを好き放題にできるとなったら、塞でもちょっと心が揺らぐ。男子ならそれこそ一生に一度の青春を賭けるだけの価値があるのだろう。
ここまで隔絶したものをみせられると嫉妬さえ沸かないということはない。誰が相手でも羨ましいものは羨ましいし悔しいものは悔しいのだ。
シロはちょっと言い過ぎ構えすぎと思っていたのは撤回せざるを得ない。このピンクはここでやっつける……という展開にできれば良かったのだが、監督の予告の通り自分は別の選手に強力な因果が結ばれていることを肌で感じていた。
敵は永水である。
役割は監督から何度も説明を受けた。麻雀という競技のルールに乗っ取った上で行使する永水の『彼女』の力は、非常にわかりやすくかつ強力だ。ルールなど気にせず全力でとなったら対応できなかっただろうと監督も言っていた。彼女らにとって麻雀というのは修行と趣味の一環であり、全力を出す場ではないのだという。本職の力を持ち出すのはフェアではないという考えが根底にあるのだろうが、こういう自分たちのような力を持たない人間からしたら、アマチュアも本職も大差ないだろうと思わないでもない。
そこは別に怒ったりはしない。相手が全力ではないという所に思う所がないではないが、欲しいのは勝利という結果であって良い勝負をしたという過程ではない。元より皆が持っているものだけで戦うことが正々堂々というのであれば、自分や豊音はとやかく言える立場ではない。
姫松の選手と並んで永水の彼女が対局室に入ってくる。
幼馴染が胡桃でなければ凄い小柄なと表現しただろう体格に円らな瞳。見た目相応の内面をしているかと思えば、立ち姿も雰囲気も見た目とは乖離した落ち着きを見せていた。
視線が交錯するとぴり、とした緊張が走る。同じものを感じたのか永水の彼女にも仏頂面が浮かぶ。
全力を出せない相手と、そのために全力を出す自分。
その間、他の二人が漁夫の利を得てしまったら世話がないが、これが一番取り分が多いと説明されれば、それが自分の役割であると塞も納得するしかない。たとえ華々しくアガったりかっこいい立ち回りができなくても、自分の役割を全力で全うしたとなれば京太郎も褒めてくれるだろう。
ここが臼沢塞の晴れ舞台なのだ。
――さあ、かかってくるがいいよ!
(やっべーですね……)
澄ました顔をしながらも、初美は自分の不利――を通り越して完敗を悟っていた。何かあるとは感じていた宮守の選手の気配が、対局室に足を踏み入れた瞬間、自分に牙をむいてきたのが肌で感じられた。
因果が結ばれた、とでも言えば良いのだろうか。巫女の直感は予知に等しく、悪い予感ほど確実性が高い。それは本来、自分の生存に関わるものだからだ。自分の生き死にに関わることほど感性というものは鋭く研ぎ澄まされていく。
その感性を磨くために幼い頃にゲロを吐きながら挑んだ修行を思い出してげんなりしたがそれはともかく……臼沢塞から感じるそれは自分にとって壊滅的に相性が悪いものだと察せられた。
こうなると宮守のオーダーは永水を狙い撃ちにしたのかというくらいに見事だった。
塞の力は巴と春には意味が薄く、逆に小蒔と霞には相性が悪い。後者にはもしかしたら可能かもしれないが、ダメだった時のリスクは計り知れない。宮守の監督はプロに片足を突っ込んだ人間のようだし、大将のノッポさんは全員人外の血が混じっているらしい宮守の中にあっても一際目立つ先祖返りだが臼沢塞は間違いなく素人だ。小蒔相手に仕掛けて失敗したら最悪意識を失う。
三年生が五人しかいない部活でそうなったらその時点で宮守の夏は終わる。必然こちらの戦法を熟知しているのであれば、自分にぶつけるというのが唯一の解、というのは自明の理だ。
手段を選ばないのであれは対処はできる。何かあった時のために護符は何枚か持ってきているし髪留めの石はオカルトに対する使い捨ての対抗手段だ。護符は一枚作るのに一週間。髪留めは一つ買うのに札束が必要なことを考えなければ有効な手段である。
それらを使わずとも自前の術でも何とかすることは可能だ。修行中の身とは言えプロの端くれ
である最高にかっこかわいい巫女である薄墨初美は、誰が相手でも早々遅れを取ったりはしないのだ。
ただ、神境の巫女は巫女としての修行を始めた段階で神境の約定に宣誓する。今の永水のレギュラーの中では自分を含めて三人がそれっぽい力を競技に持ち込んでいるが、それはあくまで麻雀のルールの範囲に収まるように調整されたもので、長老たちからも許可を取ったもの。対局相手のオカルトパワーを直接打ち消したり、ましてや術や道具を使うのは明確な約定違反であり違反者には厳しい罰則が待っている。
醜態を公共の電波に晒したとなればお説教程度では済まないだろう。高校を卒業するような年になり六女仙というお役目も得た身で、ゲロを吐くような修行を再履修となったら恥ずかしくて神境にはいられないので、逃げるように神境を出て京太郎のお嫁さんになるしかなくなってしまう。
何だか別に負けても良いような気がしてきたが、同情に付け込んで男をひっかけた上役目を辞して神境を出て男の元に転がり込むなどしたら、おっぱいおばけが地獄の果てまで追いかけてきそうだ。
気が強いようで気が弱い、幼馴染のおっぱいおばけの言葉を思い出す。
『あのふしだらなピンクは京太郎に相応しくありません』
『同級生だからって調子に乗ってるわ』
『徹底的にやっちゃってきて』
頼んだわよ、とかなり強い調子で念押しされた。
京太郎の好きそうな要素がこれでもかと詰まっているピンクは確かに忌々しいことこの上ないが、ここまで目の敵にするほどかとも思う。これでふしだらなら石戸の二人は淫妖か何かだ。
大体おもちが近くに現れたくらいで慌て過ぎなのだ。決して前年のインターハイで見た天江衣が自分よりも小さく、また京太郎の関係者だと知って愕然としていた所を『これからはあの娘の時代かしらね』と煽られてムカついたことを覚えていたから仕返しをしている訳ではない。
仕返しはその時点でしている。ほほほと上機嫌に退場しようとした霞の背中に渾身のドロップキックを決めてやった。
しかし敵も然るもの。吹っ飛ぶのを堪えた霞は浮いたままの初美の足を掴むと外に向かってジャイアントスイングを慣行。弾丸のようにすっ飛んで池に落ちた初美を追って自分も飛び込み池の中で取っ組み合いを始めた。
普段であればこうなる前に巴がかけつけて止めてくれるのであるが、この日巴は実家に戻っていて留守だったのだ。池で取っ組み合いをしている自分たちを最初に見つけたのは滝見のばあ様で、他のばあ様たちまで呼ばれて朝まで正座でお説教をされる羽目になった。この件を蒸し返すとお説教のことまで思い出すので、二人で話し合い手打ちにしようということになったのだ。
大体世の中おもちが絶対正義なのであれば京太郎はとっくにおもちの魔力に屈しているはずだ。今なお京太郎がおもちおもち言えているのは、一重に小さいおもちだろうと彼の心に入り込む余地があるからに他ならない。
ならば初美にも取れる手段がある。
全体的に神境の巫女はおもちな傾向が強く、初美のような体型は一割程度であるが、その一割は成婚率ほぼ百パーセントという勝ち組軍団だ。初美も高校に入るまでこの身長であったことからそのグループに招かれ、色々と手ほどきを受けている。
身も蓋もない言い方をすれば男というのは突っ込む穴さえあればいいのだ。おもちなどにぎやかしであり、あるに越したことはないが絶対に必要な訳でもない。必要なのは男をその気にさせる態度、今日は大丈夫という曖昧な言葉、後は絶対に責任を取らせるという強い意志だ。
これからは『メスガキ』なるジャンルが流行るとその集まりでは分析されており、初美も余興の一環でざこざこと男性を煽る練習をさせられた。これが京太郎に受けるという気はさっぱりしないのだが、小学生のふりをしたりお兄ちゃんと呼んで甘えてみたり、プライドを捨てて旦那様をゲットした姐さんたちの言葉だ。信用には値するし何より手段は多いに越したことはない。
それは麻雀にも共通することだ。
何をしても良いというのであれば前年インターミドルのチャンプであろうと対処は可能だが、夏休みの後半をゲロを吐いて過ごすことになることを対価にするには、初美は霞ほどには和のことを目の敵にはできなかった。
ならば罰せられない範囲でとなると、純粋な麻雀力と理詰めで来るこの手のタイプはオカルトパワーの対極にある存在故に影響を受けにくい。
加えて初美の必殺技とも言うべき手段は既に潰されたようなものだ。これも流れを自分に引き込むという性質の都合上、ほぼ確実にツモで上がることになるので仮に宮守の仕掛けは不発だったとしても、霞の徹底的にやっちゃえというオーダーには応えにくい。
(狙い撃ちにできるように組めたら良かったんですけどねー)
何をツモるかはともかく何を切るかは対局者の判断に寄るため、手牌全てが当たり牌にでもならない限りあからさまな状況での振り込みは期待できない。自分のオカルトに合った理屈で組んだ技であり団体戦であろうと個人戦であろうと点棒を稼いで勝つという目的は達せられるので初美個人の考えではこの技には何の不満もない。
実際、これで鹿児島の個人戦代表の枠は確保できた。青春を捧げて麻雀の研鑽に費やした選手相手に、去年まで麻雀部でさえなかった自分が勝つというのは若干心苦しいものを覚えないでもないが、ここまでの技術を得るために修行に費やした時間を振り返ると、この結果は相応の対価であるとも言える。
勝った奴は偉いのだ。ただ勝ち方にも種類があるというだけの話なのだ。
同じ値段ならツモよりも直撃の方が点差は縮まる。点棒を積み重ねるならば自分のやり方がベストでも、最終的にトップに立つことを考えればその時点でトップの者を、あるいは自分を追いかける者の中で先頭の者を撃ち落とす方が話は速い。
ふぅと小さくため息を吐く。
ないものねだりは時間の無駄だ。弱音を吐かず、今あるものだけでできる限りのことをする。それが最高にかっこいい少年のやり方で、麻雀において初美の目指すものだ。必殺技が使えなくてもこれだけのことをやったぞと、胸を張って京太郎の前に立てるように。
因果の結ばれた、宮守の選手を見やって口の端を上げる。
――さあ、やってみるが良いのですよ!
全く持って手ごたえのない対局だった。
手を抜いた訳では決してないのだが、自分以外のところでずっとバチバチが続いていた影響が自分にまで来ていた気がする。
バチバチしていた永水と宮守の選手は対局が終わった後にがっちり握手をするとさっさと控室まで戻ってしまった。残っているのはぼんやりそれを眺めていた自分と清澄の選手のみ。
(好都合やな……)
一礼し、ぬいぐるみを抱えて対局室を出ていく和の後をそろそろと歩く。もう少し歩けばマスコミがいて、時間をかければ次の対局者が来る。他の高校の選手に見られるのは大した問題ではないが、恭子に見られるのは大目玉だ。控室で怒られたばかりなのに反省してないとなれば、ホテルに戻っても雷は固い。
その前に話を終わらせなければならない。絹恵に時間はないのだった。
「原村さん、ちょう見てほしいものがあるねんけど」
怪しいことこの上ない声かけだ。現に振り返った和はうさんくさいものを見る目を向けてきている。そんな和の前にスマホを、例のグラビアの一部だけが写った画像を差し出す。一部というのは雑誌のページの上の部分。人物で言えば髪くらいしか映っていないが、あの髪色は珍しいし毎日見ている人間ならばすぐにぴんとくるだろうという目算である。
現に画像を見た和はすぐに目の色を変えた。内緒話ということは理解しているのか顔を寄せ、小声で話しかけてくる。
「要件を聞きましょう」
「これは最新の長野の麻雀協会の広報誌やって。部には届くと思うけど一冊だけやろうから隠されたら大変やなー」
話をしながらも絹恵と和は顔を突き合わせて連絡先を交換していく。話が早いとはこのことだ。もうちょっとダウナーな性格を想像していたのだが、隣に感じるそれは肉食獣のそれである。
「貴重な情報をありがとうございます。見返りは?」
「須賀くんのこと、何でもいいから教えたって?」
「麻雀、瑞原はやりが大好きでお料理が得意です。あと家でカピバラを二匹飼ってます。おそらく日本で一番カピバラの飼育に精通している男子高校生です」
「…………」
「おう絹。原村某に例のあんちゃんのこと何か聞けたか?」
「やー、流石にガード固かったわー。何も聞けんかった」
「そら残念やったなー。しかしカピバラ飼っとるとは意外やったな」
「せやなー」
「そやろー? まぁお姉ちゃんとして忠告するとな? 絹は優しいから嘘つくのは向いてない思うでー」
青い顔をしてかたかた震える妹に、洋榎はにっこり微笑みかけた。
「さ、話聞かせてもらおか」
絹は嘘をついている
↓
原村某から話は聞けたが自分に言いたくはない
↓
カピバラやな