セングラ的須賀京太郎の人生   作:DICEK

33 / 86
31 中学生二年 須賀京太郎、西へ 後編②

 

 

 霧島神境。

 

 神代を本家とする巫女一族の総本山であり、日本でも有数の神道系組織の本部がある霊地である。政財界にも太いパイプを持ち、21世紀となった今でも無視できない勢力を誇っているその組織も、一般大衆に見せる顔は普通の神社とあまり変わるところがない。

 

 長い石段を登って到着した神社には、まだ夏休み中ということもあって多くの人がいた。巫女服を着ている明星に先導された京太郎は、観光客の視線を集めに集めていた。多くの人の視線に晒されることに、京太郎は慣れていない。無遠慮に注がれるそれに居心地の悪さを感じながら、明星の先導に従い歩いていく。

 

 視線をやり過ごしていると、周囲の視線は自然と京太郎ではなく先を歩く明星に向けられるようになった。それも、当然である。誰とも知らない少年よりも、物腰穏やかな美少女巨乳巫女の方がレアだろう。自分よりも遥かに興味本位の視線を浴びながら、しかし明星は澄ました顔で歩みを進める。この程度の視線は、彼女にとって慣れっこなのだろう。自分よりも大分小さな背中が、頼もしく見えた瞬間だった。

 

 明星の背中を見つめながら境内を抜けると、神境は様相を変えてくる。

 

 関係者のみが入ることを許されるエリアに観光客の姿はない。先ほどまでの場所と距離はそれほど離れていないのに、見えない何かで隔絶されているような気さえした。静か過ぎる環境に違和感を覚えた京太郎が耳を押さえると、明星がくすくすと小さく笑う。

 

「慣れない方は、皆そうされるんですよ」

「これでもしばらく通ってたんだけどな」

「あまりお顔を出されないからです。兄さまならいつでも歓迎しますから、来たくなったらいつでも明星に仰ってくださいね」

「流石に理由もなく来るのは駄目だろう」

 

 メンテナンスをやめる訳にはいかないが、ここを訪れた時と比べて大分オカルトに対する理解も深まった。今ではこの能力とも上手く付き合っていけるんじゃないかと、そんな気さえしている。

 

 それに、それなりに成長した京太郎は神境を訪れることに、少なくない抵抗を覚えるようになった。

 

 本来、この手のメンテナンスはタダであるはずがない。では本来はどの程度の金額が支払われることになるのか。それとなく聞いてみたことがあるが、神境の誰も教えてはくれなかったし、咏も知らない、気にするなの一点張りだった。支払いが発生しているとしたら、当然、中学生の須賀京太郎一人では支払いきれない額だというのは、察しがついた。

 

 三尋木家――より具体的には咏に請求が行っている可能性は大いにある。この世で一番世話になっている大事な人だ。自分の知らないところで迷惑をかけるにはいかないと思うが、咏が気にするなと言っている以上、それは彼女からの厚意であり、弟子としては無下にできるものではない。

 

 神境にいる春や初美のことは大事に思っているし、顔を出せるならば出したいが、メンテナンスという建前を掲げる以上、金のことは意識の隅について回る。友人を訪ねるように軽い気持ちで足を踏み入れるのには、やはり抵抗があった。今この場所も、本来ならば京太郎は入ることはおろか見ることもできない場所なのだ。

 

「そんな悲しいことを仰らないでください」

 

 京太郎の心情を察したのか、明星は苦笑を浮かべながら向き直った。頭一つ下に、明星の顔がある。そこからそっと手を伸ばすと、明星はそっと京太郎の頬に手を触れた。夏の日差しの下、白く暖かな手が触れている。髪に近い、薄い茶色の明星の瞳が京太郎を見つめていた。

 

「明星は兄さまに会いたいですし、それは姫様や他の皆も一緒のはずです。大切な人が顔を合わせるのに、堅苦しい建前が必要でしょうか」

 

 じっとこちらを見つめる明星の瞳には、一切の曇りがない。それは心底の本心を語っていると思わせるには十分だった。年下の少女からの言葉に、一人難しいことを考えていた京太郎は急に恥ずかしくなった。会いたいから会う。それで良いのだと言う妹分に、苦笑を浮かべる。

 

「……諭すのが上手くなったな。凄く巫女さんらしい」

「明星もいつまでも子供ではありません。それに、大好きな兄さまが明星に意地悪を言うんですもの。抵抗するのは妹として当然のことです」

「悪かった。これからもここには来るよ」

 

 解ってくれれば良いのです、と明星は名残惜しそうに手を離し、歩みを進めた。静かな並木道を歩きながら、京太郎は周囲の風景に目を向ける。怖いくらいに、初めてここを訪れた時と何も変わらない。もしかしてここは時間が止まっているのでは、と詮無い想像をしてみる。もちろん、そんなオカルトがありえるはずもないが、もしかしたらと思わせる力がここにはあった。

 

 オカルトが存在することを京太郎は身を持って知っているし、人間を超える超常的な存在が在ることも知っていた。目の前を歩く明星はその超常存在を降ろすことのできる家系の一人である。実際に神を降ろしているところを見たことはないが、彼女は姉貴分の霞に何か良くないことが起こった時の補欠だ。巫女としての力量は3つも上の霞には及ぶべくもないが、分家同士のパワーバランスも考えて選出される六女仙に筆頭を務める霞に加えて、更に石戸から一人選ばれたのは、一重に明星の努力と才能に寄る。明星も将来を約束された、優秀な巫女なのだ。

 

「今日は、姫様と霞姉さまは奥においでです。今日中にお会いできるとは思いますが、少し遅くなると思います。それまでは客間で、ゆっくりとお寛ぎください。お食事は、私達の中の誰かが持っていきますから」

「何から何まで済まないな」

「神境にとって兄さまは大切なお客様ですから、これは当然です。本当は明星がずっとお世話したいんですけど、そこは色々と話し合いがあったので、ずっとではないです。でも、明星が遊びにいった時は、かわいがってくださいね?」

「お手柔らかにな」

 

 苦笑と共に並木道を抜けると、開けた場所に出る。一般エリアと関係者エリアと、その間にある通路。それを明確に分けるその場所に、見知った巫女が二人いた。こちらに気づいた片方が、笑顔で手を振ってくる。それに手を振り返すが、もう一人の巫女には反応がない。つんと澄ました顔で微動だにしない巫女を見て、京太郎はそっと横の明星に耳打ちした。

 

「湧はどうしたんだ? 俺何かしたかな」

「湧ちゃんはですね。おしとやかな女性になりたいと一念発起したんですよ」

「少年漫画みたいな間違った実践をしてるなあいつ」

 

 要するに、みだりに感情を表に出したりしないのが、湧の考えるおしとやかな女性像ということなのだろう。それはそれで間違ってはいないと思うが、湧の実践の仕方だとそうじゃない女性はおしとやかではない、という風に取られかねない。例えば霞などは厳しいがいかにも霧島の巫女っぽくおしとやかで女性らしい。その霞は別に笑わない訳でも、ノリが悪い訳でもない。手を振るべき、笑顔を振るべき時ならばそうするだろう。

 

 あまり顔を合わせない京太郎ですら不自然に見えるのだから、六女仙を統括する立場の霞ならば、修正を入れてもおかしくはない。まだ中学生とは言え、湧は神境の将来を担う六女仙の一人。おかしな態度を取っていたら、神境の名前に、引いては小蒔の名前に傷がつくことになる。

 

 

 だが、湧は今も自分なりのおしとやかを実践している。誰も矯正した様子はない。馴染みとは言え、須賀京太郎は外部の人間である。間違った態度であるなら、その目に触れさせるのは良くないことである。

 

 まさかこの実践をいきなり始めたということはないだろう。それなりに準備期間があったはずだ。小蒔も他の皆も、知らないはずはなく、現に明星は湧の実践を知っていた。

 

 どうして放置しているのだろう。考えて、京太郎は旧友の巫女達の意図を理解した。要するに、自分に矯正させようというのだ。いつも一緒にいて付き合いは長いが、巫女さんたちは女性である。おしとやかは同性よりは異性の目を意識してのものだ。それならば、男である自分が言った方が、効果は高いに違いない。

 

「霞姉さんも人が悪いな」

「びっくりです。霞姉さまの仕業だってすぐ解ったんですね」

「修正しない、って方針を決めるとしたら霞姉さんしかいないからな。それにしても、すぐに言ってあげれば良いのに」

「そういう気持ちを持つのは大事なんですよ。湧ちゃんは今まで、ずっと男の子みたいでしたから。それがようやく、という時に水を差したくないみたいなんです」

「俺が言ったら余計にこじれないか?」

「兄さまが言ってくれたら、きちんと言うことを聞くと思いますよ。湧ちゃんも兄さまのこと大好きですから」

「だと良いんだけどな」

 

 昔は明星と一緒に兄さま兄さまとくっついてきてくれた湧が、おしとやかに振舞おうとしている。それは別に良いのだ。いつまでも少年っぽくはいられないだろうし、神境の環境がそれを許さないのも解るが、京太郎としてはそこに一抹の寂しさを感じるのだ。神境にあって気安い感じの湧は、京太郎にとって付き合い易い人間の一人だった。かわいかった湧が遠くに行ってしまったと思うと、やはり寂しい。

 

「京太郎」

「ご無沙汰してます、巴さん」

 

 巴が笑顔を浮かべて近づいてくる。巫女の衣装なのは明星や湧と変わりがないが、高い位置で結われた落ち着いた色の赤毛とフレームのない眼鏡が印象的だ。六女仙の中では霞、初美と同級で、最年長の一人である。京太郎も神境に通っていた頃は、色々な面で世話になった。特殊な立場である小蒔を除けば、神境で縁を持った女性の内、一番優しくしてくれたのがこの巴である。

 

「大きくなったね。これからもっと大きくなるのかな。頼もしい」

「幸い、まだ伸びそうです。巴さんは、お変わりないようで安心しました」

「美人になりましたね、くらい言っても良くない?」

「それは今更言うまでもないことですので」

「お世辞も言うようになって……長野では女の子泣かせてるのかな?」

「だと少しは自慢にもなるんですけど、今のところ女性とお付き合いをしたことはありません」

「京太郎が言うなら、そういうことにしておこうかな」

「お久しぶりです。京太郎さん」

 

 ぺこり、と巴の話が終わるのを待って、湧が頭を下げる。湧も立場のある巫女である。普段からかしこまった口調を、同年代の少女に比べれば使い慣れているはずだが、京太郎に対する言葉にはやはり固さが見てとれた。特に、京太郎さんという呼称には強い違和感がある。明星など、京太郎の背中に隠れて忍び笑いを漏らしていた。巴も苦笑を浮かべている。おしとやかになろうとした努力の成果が今の状態なのだとしたら、なるほど、まだ結果を出すには至っていないようだった。

 

 ちら、と視線を巴に向けると、巴が小さく京太郎に手を差し出した。委細は任せる、ということである。

 

 それを見て京太郎は考えた。おしとやかになろうという努力は買うが、自分の意思を優先させてもらえるのなら、女の子は自分らしく、自然に振舞っている方が好ましい。昔は男の子らしかった少女が年月を重ねて女の子らしくなる、というのも王道ではあるのだが、今すぐに変わる必要はない。それに呼ばれてみて解った。湧に京太郎さんと他人行儀に呼ばれるのは、やはり寂しい。

 

「おしとやかになろうとしてるんだって? 明星から聞いたぞ」

「はい。昔はにいさ――京太郎さんに色々とご迷惑をおかけしましたが、これからは女の子らしく振舞うことにきめました」

「そうか……昔みたいに、明星とつるんで色々遊ぼうかと思ってたんけど、おしとやかになるなら仕方ないな。明星、時間が取れるなら二人で遊ぶか」

「兄さまのお誘いなら喜んで!」

「ずるっ――」

 

 一瞬で本音が出掛けたが、湧は寸での所で飲み込んだ。すぐにボロを出すかと思っていたのに、意外に粘る。ぐぬぬ、と悔しそうな顔をしている湧を見て、京太郎は明星に目配せした。背中に隠れていた明星はぱっと京太郎の前に出て、これみよがしに腕を取る。素晴らしいおもちの感触が伝わるが、今は湧のことだ。

 

「特に何をするって決めてる訳じゃないけど、一週間滞在するんだから何かできるだろう。色々と積もる話もあるし」

「そうですね。おしとやかな湧ちゃんは、殿方の部屋になんてはしたなくて入れないでしょうから、明星と二人でお話しましょう」

「……」

 

 湧は目の端に涙を溜めていたが、それでもまだ我慢していた。その涙ぐましい努力に、巴は必死に笑い出すのを堪えている。後一押し。そう感じた京太郎は、更にダメ押しをすることにした。

 

「残念だな。湧と明星と三人で話すの、楽しみにしてたんだけど」

「兄さま。湧ちゃんはおしとやかになると決めたのです。ここはその意思を尊重してあげましょう」

「そうだな。俺は昔の元気な湧の方が好きなんだけど、本人が決めたならしょうがない――」

「兄さまのばかーっ!!」

 

 とうとう堪えきれなくなった湧が、叫びと共に一歩踏み込む。何千、何万と打ち込みを繰り返した身体は、例え無意識でも適切な動作を覚えていた。からかいすぎたと思った時には、既に順突きは放たれる直前だった。痛いのは好きではないが、からかい過ぎたのも、妹分を泣かせたのも事実である。ここで拳の一つも食らうのが兄貴分の役目だろうと、拳を受ける覚悟を決める――が、湧の拳は京太郎の身体に当たる直前で、巴の手に受け止められていた。

 

「おしとやかに、でしょ?」

 

 巴は笑顔であるが、拳を受け止められた湧は青い顔をしていた。巫女も縦社会である。若輩の湧にとって、三つも年上の巴は何かと怖い存在なのだ。拳を引っ込め、慌てる湧に、見かねた京太郎は助け舟を出した。拳を打ち込むことになったのが自分のせいなら、巴に怒られようとしているのも、自分のせいである。

 

「いや巴さん。俺がからかいすぎました。拳が出るのも仕方ないです」

「そ、そうだよ! 兄さまのことだから霞さんみたいなキャラが好きだと思って努力したのに、昔の方が良いってどういうこと!? こういうの、ギャップ萌えとか言うんじゃないの!?」

「最初からギャップを狙ってる時点で色々と無理があるだろ。そういうのは時間をかけて変わるもので、いきなり変わろうとするもんじゃないと俺は思うんだけど、どうだろう」

「言ったでしょ、湧ちゃん。兄さまはいつもの湧ちゃんの方が好みだって」

「おっぱいもおしとやかもある明星に、私の気持ちは解らないよ!!」

 

 うー、と唸る湧は、酷く興奮している。いつも一緒にいるのが明星なら、同級生として色々と思う所はあるだろう。性格も振る舞いも身体つきも、男の京太郎の目から見てあざと過ぎるほどに女の子らしい。中学一年の段階でこれなのだから、成人する頃にはとんでもない色気を持つことになるのだろう。兄貴分としては、それを間違った方向に使うんじゃないかと今から心配であるが、京太郎の心配を他所に明星は澄ました顔で湧の背中を撫でていた。明星の落ち着いた声音に、湧も落ち着きを取り戻していく。

 

 成り行きを見守り、途中で手を出しかけた巴は、無難な所に着地したのを見てそっと溜息を漏らした。

 

「結局、おしとやかはやめるってことで良いのかな?」

「だって兄さまに受けないなら意味ないし……」

「やってみようかな、って思うことは無駄じゃないと思うぞ。時間をかけてやれば、そのうち本当におしとやかにもなるだろうさ」

「でも兄さまは、元気な方が良いんでしょ?」

「湧ちゃん。兄さまは女の子の性格がどうでも、それで選り好みしたりはしない紳士ですよ」

 

 そこまでは言ってないが、明星の言葉は確信に満ちていた。それには、多分に願望も含まれているのだろう。湧のような元気な人間が好みということになったら、その真逆の性質を持つ明星ははっきりと対象外になってしまう。

 

 紳士と言われて悪い気はしないが、好みを強制されているようで微妙な気分である。実際、何も考えずに脊椎反射でどういう女性が好みか考えた場合、明星と湧ならば明星の方が好みであるが、少しでも理性が混じると、自分でも驚くほどに差がなくなる。要するにそれは見た目の好みということで、それ以上に踏み込むならもっと、別の要素が必要ということなのだろう。意外に紳士だったな俺……と苦笑しつつ、京太郎は巴に向き直る。

 

「湧のことは、穏便にお願いできますか?」

「怒られるとかはないと思うよ? 湧が一人で言い出したことだから。まぁ、霞さんやはっちゃんには軽く嫌味を言われると思うけどーっと、京太郎。ここに来る前にどこにいた?」

「……明星にも聞かれましたけど、修行をしたかってことですか?」

「うん。修験者みたいな気配がするね。京太郎自身がそういう気配なんじゃなくて、そういう気配をした人が近くにいた感じ。昨日、どこから移動してきたのか知らないけど、鹿児島まで来てまだ残ってるんだから、相当力が強い人みたいだね。どんな人?」

「野山を走り回るのが趣味の、和菓子屋さんの一人娘ですよ」

「女の子? と言うか、和菓子屋さん? 修行とかしてないの?」

「そのはずです」

「へぇ、それは凄い。姫様とか霞さんとかとは、別の意味で天才だね。少し会ってみたいかも」

「それで、巴さん。このことなんですが……」

「姫様たちには内緒にってことだね。別に構わないよ。ちょっとじっとしててもらえる?」

 

 あまりに軽いノリだったので、京太郎も反応が遅れた。巴の言葉が『穏乃の気配をどうにかしてくれる』という意味なのだと理解すると、慌てて姿勢を正した。それを見て、巴は小さく何かを唱えると、京太郎の両肩を強めに一度叩いた。

 

 何か、変わったという気はしないが、巴がそうしたのを見て明星が声を挙げて近くに寄ってくる。そしてまた犬のように鼻を鳴らしているが、少ししつこいその様子に、京太郎は本当に明星が感じたと言った気配が消えたのだと理解した。

 

「消せるようなものだったんですね」

「お祓いは一応、私の専門だからね。はるるでもできると思うけど、あまり良い顔はしなかったかも。最初に相談してくれたのが私で良かった」

「本当に感謝します、巴さん」

「良いってことだよ。でも、取捨選択して消すなんて器用なことは流石にできなかったから、他の気配もまとめて消しちゃった。だから明星と、それからついでに湧、お願いできる?」

 

 いきなり水を向けられた二人は、やはり巴の言ったことが理解できなかったらしい。揃って自分を見返してくる二人に、巴は苦笑を浮かべて京太郎を差し、ごー、と指示を出した。

 

 ここまで来ると、二人も迷わない。子犬のように全力で飛びついてくる妹分二人を、京太郎は何とか受け止めた。軽い女子と言っても、二人分が、全力である。危うくバランスを崩しかけたが、京太郎も男である。ここで無様を見せたら男が廃ると、気合で踏みとどまって見せた。

 

 ふぅ、と小さく息を吐くと、巴が拍手をしているのが見えた。立っている位置が、微妙にズレている。京太郎がバランスを崩した時に、手を伸ばせば届くくらいの位置だった。湧の順突きを止めた時と言い、動きに無駄がないように見える。

 

 巫女が武道をやっているというのは、珍しいことではない。旧家のお嬢様でもある彼女らは、淑女のたしなみとして護身術程度の武術を学んでいることが多いと聞く。小蒔も六女仙の皆も合気道をやっているとは聞いた。加えて湧は空手もやっていると聞いているが、京太郎が知っている情報はそれだけで、誰が、どの程度まで学んでいるかは気にしたこともなかった。

 

 武道や運動をやっている人間は、手にそれが出るものである。空手をやっている湧の手は、女の子にしてはごつごつとしている。巴の手もそうなのだろうかと意識して見てみようと視線を動かすと、それに合わせたように、巴は手を後ろに隠した。

 

 眼鏡の奥の瞳と、視線が交錯する。

 

 追求しないで、と言いたげな巴の視線に、京太郎はあっさりと追及を諦めた。興味が湧いたから見てみようと思っただけの話だ。実は巴が古今無双の武術の使い手だと明るみになったとしても、自身の態度が変わる訳でもない。京太郎にとって狩宿巴というのは、優しいお姉ちゃんだ。それは今更どんな要素が加わった所で、変わるものでもない。

 

 京太郎が追求を諦めたと知ると、巴はそっと溜息を漏らした。はにかむような、微かな笑みが、年上なのに可愛らしい。

 

「ありがと。それじゃ、色々纏まったところで、皆で行こうか。はっちゃんとはるるが、客間で首をながーくして待ってるよ」

 

 

 




最後まで湧をボクっ娘にしようか迷いましたが、私になりました。
はじめちゃんかわいい。
出てくるだけな上まだ全員出てない進行の遅さですが、気長にお楽しみいただけると幸いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。