少年時代を主に年上の女性に遊んでもらって過ごした京太郎にとって、そのご家族と対面する機会というのはとても多いものだった。年齢一桁の頃でも女と遊ぶなんて……と同級生の男子にはからかわれたものだが、小学校も高学年になってくると今度は相手のご家族の反応も変わってくる。
年頃というには聊か若いかもしれないが、それでも女の子が男の子を家にまで連れてくるというのは特別なものであるようで、お父さんもお母さんも生暖かい目を向けてくるようになった。
中には大星家の男性陣のように苦虫を1カートン噛み潰したような顔をしていることもあるが、大星家に限ってはお母さんが男性陣を京太郎の視界に入れないようにしているため、あまり歓迎されていないという事実を淡から伝え聞いているだけで、実は一度も顔を見たことがない。
聞いた話によれば皆細マッチョであるらしく、剣道柔道空手合わせて十五段のお父さんを始め少し年の離れた兄三人も皆腕っぷしが自慢であるらしい。
そんな大星家の男性陣を除けば、女の子の男親たちからの京太郎に対する評価は概ね好評だったのだが、世の男親からすれば、娘に近づく男性など面白いはずがないというのは十分に理解できるものだった。
なので今までのことはどうあれ、初めて会う女の子の男親というのは緊張するものなのだが、原村さんちのお父さんはまた、今まで出会ったお父さんたちの中でも別格の緊張感を持っていた。
日本人男性の平均身長が約170センチである中、高校一年にして京太郎の身長は180センチを超えている。女子にしても小柄な優希などと比べるとまさに大人と子供くらいの身長差があるのだが、男性にしてもそこそこ高い身長を誇る京太郎をしても、原村さんちのお父さんは少し見上げる程に大きい。
この上背をして仏頂面であり、少し聞いただけだが声も中々に渋い。そんなおじさまと逃げることの許されない車の中、二人きりなのだ。同級生のお父さんというバックボーンがなくても緊張するというものだろう。何しろ会話がない。和からお父さんのことはちらほら聞いてはいたが、彼に関して知っている情報というのは、弁護士であるということ、堅物であるということ、それから麻雀をやっていることに関してあまり良い顔をしていないということだ。
趣味嗜好の解らない状態で、この縛りプレイはキツ過ぎる。せめて何かとっかかりがあれば良いのだが、コミュ力の高い京太郎をしても攻め手に欠ける状態だった。このまま何も会話せずにゲーム終了というのでも別に困らないのだが、この状況が和の仕込みの可能性が高い以上、これがある種のテストであることは想像に難くない。同級生の美少女に父親から、あいつはつまらない男だと言われるのは高校生男子としてはキツいものがあった。
せめて会話の一つも弾ませてから帰りたい所である。同年代にしても機転が利く京太郎の頭脳は、会話のとっかかりを探してフル回転していたのだが、そんな努力も空しく、先に会話を切り出してきたのは原村さんちのお父さんの方だった。
「少し話に付き合ってもらえるかね」
会話の種を探していた京太郎には是非もない話である。こくこく頷くと、原村さんちのお父さんは視線を前に向けたまま語り始めた。
「私は昔から勉強が得意でね。中学高校と一度も他人に一番を譲ったことがなかった。そんなものだから本当に増長したいけすかない男で自分が世界で一番賢い人間だと本気で信じていたよ。だから大学にも当然主席で入学するものだと思っていたのだが、結果は次席だった。人生初めての敗北だな。新しい生活の門出ともなる入学式の日、私は自分を負かした人間がどんな奴なのか怒りと口惜しさで一杯になりながら待っていた訳だが……現れたその人物を見て、私はこの世の真理と己の本質を知った」
このおっさん大丈夫かな、というのが京太郎の正直な感想だった。自分語りが好きな大人には出会ったことがあるが、そういうお仕事でもないのに宗教じみた発想をするのは危険なサインである。どうやって無難に切り抜けようかと考えている京太郎に、お父さんのスマホが差し出される。
見ろということなのだろう。正直全く気は進まないが、ここで見ないという訳にもいかない。恐る恐る画面をのぞき込んだ京太郎は――この世の真理と自分の本質を悟った。
同時に、目の前の男性が自分に何を言いたいのかも理解する。信号で車を止めた彼は、京太郎に視線を向けていた。この男性に出会ったのは間違いなく今日が初めてのはずだが、自分を見つめるその視線にはある種の信頼が宿っているようにみえた。それは本質が共通するものに対する、本能的な信頼である。思わず京太郎の口を突いて出た言葉は、
「同志!」
「恵で良い。私も若い仲間に出会えて嬉しい」
差し出された手をがっちりと握り返した。久しぶりに男の友情というものを実感した瞬間である。巨乳美少女のお父さんが自分と同じ趣味というのも危ない気はしたが、それは原村さんちの問題なので気にしないことにした。
何よりこの写真だ。手元のスマホで視線を落とした京太郎は、思わず唾を飲み込んだ。
「この写真の人は奥さんですか?」
「大学生の時の私と家内だ。四年の夏休みに時間を無理やり作って、二人で旅行に行った時の写真だな」
男女二人の自撮写真である。映っているのは今よりも大分若い恵と、美人を見慣れている京太郎でも思わず息を飲む程のおもち美人だった。淡い色合いの赤毛は肩まで伸ばしてあり、童顔だがその瞳には知性の色が感じられた。何より目を引くのはそのおもちである。和のおもちも十分暴力だがこの女性はそれ以上だ。
大学四年ということは21、2歳。和も六年したらこうなるのかと思うと色々熱くなる。童顔というのは和と共通している。たまに彼女に感じる凛々しさは同志の遺伝かと思っていたが、全体的な雰囲気はお母さんの方が良く似ている。
この顔でこのおもちで女子大生だ。相当モテただろうことは想像に難くない。それ故にこのむっつり同志がおもちを射止めたというのはにわかには信じがたい話だった。同士はどう見ても社交的で明るいタイプではない。写真の印象を見るに、和のお母さんとは正反対のイメージだ。にも拘わらず今は夫婦なのだから、未だ彼女のできたことのない京太郎は、その手腕に男として興味が尽きない。
「大学に入ってから知り合ったんですよね?」
「それまで勉学にしか打ち込んでこなかったからな。彼女の気を引くために何でもやったよ。最初は家内も話の合わない野暮ったい男だと思っていたそうだが……一年過ぎたら友人になり、二年過ぎたら親友になり、三年過ぎた頃にはお互い将来を意識していた」
それは何とも幸運なことである。一歩間違えばストーカーだが、話を聞くにそういう扱いをされたことはないようだ。むっつり同志が認識している程、後の奥さんの評価は悪いものではなかったのだろう。社交的であろうとなかろうと、興味がない異性に対する女性の対応はつれないものだ。
「その旅行に出かけた頃には、卒業したら何処に住むかを話し合ってた。できるだけ都会が良いと言った私とできるだけ田舎が良いと言った彼女で早速意見が分かれてな。行きの車ではずっとディベートをしていた」
昔を語る恵の顔は、本当に楽しそうだった。今でも奥さんを心の底から愛しているのが見てとれる。自分の両親も大概バカップルであるが、年齢を重ねても愛情が色あせていないカップルというのは、年若い身からすると心温まるものだ。
「実はな。和には東京で暮らさないかと話を持ち掛けている」
だからこそ、気持ちの暖かくなっていた所に切り出された話は、京太郎にとって寝耳に水だった。京太郎が顔を向けると、恵の視線はまっすぐ前を向いていた。その横顔は気さくな同士ではなく、既に父親の顔に戻っている。
「当然転校するということになるだろう。それに和は反対のようで、全国で優勝したら考えなおしてくれと言ってきた。私はとりあえずその条件を飲んでいる訳だが……」
そこで恵は京太郎の方を見た。納得がいかない、という考えはきっと顔に出ているはずである。家庭の問題だ。自分が首を突っ込むべきではないと心では解っていても、それを制御できなかった。付き合いは浅いが同じ部の仲間である。そして麻雀に真摯に打ち込んでいることは良く解っている。
麻雀に限らず、勝負は水物だ。努力が必ずしも実を結ぶ訳ではないということは、京太郎自身、良く理解している。和は努力している。実力も実績もある。だが、同様の努力を一年、二年余分にしている連中が相手の全国で、一年生が優勝するのはどう考えてもハードルが高い。
無謀な賭けであることは和だけでなく、恵も理解しているはずだ。それでも和がその勝負に乗っているのは、それだけ恵が本気であることを理解しているからだろう。さて、どういって説得したものか。判断に迷っている京太郎に、恵は苦笑を浮かべる。
「君だから単刀直入に言おう。私と家内は最終的に、和の判断に任せることにしている」
雲行きの怪しくなってきた話に、京太郎は困ったように眉根を寄せた。
「仮に全国優勝しなかったとしても、和がどうしても嫌だと言うのであればそれを尊重することにすると妻と話し合って決めている」
「でも、それを伝えておかないと」
「ああ。あの子は自分で言ったことは守るだろうからな。全国で優勝できなければ、内心はどうあれ東京に行くことを是とするだろう。それは私や家内にとっては好ましいことではあるが、本意ではない。そこで君には娘をたきつけてほしいのだ。全国優勝するならそれでよし。仮にできなかったとしても、共に戦うくらいのことを言ってやってほしいんだよ」
「……おとなしくその事情を伝えた方が良いのでは?」
律儀な性格な和は、そういう約束である以上、結果が伴わなければ約束を履行しようとするだろう。それはそれで人間として美徳であると思うが、和が意に反する行動をすることを友人としては看過しにくい。自由意志に任せるというのであれば、最初からそういう話を持ち出さなければよかったと思うのだが。視線で問うた京太郎に、恵は深い溜息で応える。
「東京で暮らしてほしいというのも私と家内の……というよりも私の本心だからな。その芽を潰すのには抵抗があるのだよ」
「詳しく聞かせてもらって良いですか?」
「元よりそのつもりだとも。和はもう高校生。おそらくは大学に進学するだろう。進路によって進学先は変わる訳だが、世にある大学の数を考えれば長野ではない可能性は大いにあるし、私や家内が住んでいる場所ではない可能性も同様だ。そして大学を卒業すれば就職する。勤め先についても進学先と同様だな。今の時代だ。日本を出ていくことも十分に考えられる」
薄々、言いたいことが理解できてきた京太郎に、恵は視線を向けた。先の京太郎の真似をするように、その眉根は困ったように僅かに寄せられている。
「つまりだ。娘が高校生でいる今の内が、家族三人で暮らすことのできる最後のチャンスかもしれないんだ。私はそれを棒に振りたくはない。所帯を持っていない君には解りにくいかもしれないが……」
「奥さんは何て?」
「女々しい男だと笑われもしたが、好きにしろと言ってくれたよ」
恵の言葉を聞いて、京太郎が感じるのは困惑だ。こんな話を聞いては、強く反対することもできない。友人である和の問題ではあるが、同時に原村さんちの家庭の問題でもある。絶対に家族は一緒に暮らすべきとは思わないが、一緒に暮らしたいという気持ちを否定するものでもない。仲良くできるなら仲良くするべきというのが、家族に限らず人間関係に対する京太郎のスタンスである。
その家族の中で主義主張がぶつかるのであれば、どちらを取るのか決めるか妥協点を探るより他はないが、今回の原村家の場合は、着地点が明確に定められている。転校するかしないか。結果はそのどちらかだ。
話の持っていきかた次第では一年くらいであれば先送りすることはできそうである。その場合、和にとって有利にはなるが、恵にとっては異なる。友人としては和の味方をしたくても、恵の話を聞いた後では手放しで同意することもできない。
諸々の事情を理解させた京太郎に、恵は和の味方になってくれと言っている。それなら堅物のお父さんでいてほしかったと思わないでもない。どちらにも情が沸いてしまったら、どちらの側にも立ちにくい。それでも、娘の味方になってくれと言えるこの人に、京太郎は好感を持っていた。
元より和の味方をするつもりではあったが、ご両親の後押しがあるなら少なくとも、行動の上では迷うことはない。
「……優勝も焚き付けるのも、結構難しい課題だと思いますけど」
「若い内には買ってでも苦労しておくものだよ」
ははは、という短い恵の笑い声と共に、短い道程は終わった。自分の家の前に止められた車から一礼して降りる京太郎を、恵が呼び止めた。
「私の連絡先だ。和のことについて協力できることがあると思う。連絡は密にとれるようにしておきたい」
「了解です。今晩のうちに俺の方からも連絡を入れます」
「任せた、というのは聊か無責任ではあるが……娘のことをよろしく頼む」
「お任せください、というのは無責任ですが、とにかく全力を尽くします」
「話の解る男で助かった。娘のことで何か困ったことがあったら遠慮なく言うと良い。いつでも力になろう」
見た目と相まって頼もしい言葉である。走り去っていく車を見送りながらスマホを操作する京太郎は、他人の目から見ても浮かれているように見えた。男性の連絡先が増えたのは実に半年ぶりのこと。クラスメイトよりも先に同級生の父親の連絡先を入手するのも、自分らしいなと思った京太郎は苦笑を浮かべて門を潜った。
その翌日の清澄麻雀部部室。卓を囲む四人の仲間を、残りの二人が分担して配譜を取るといういつもの部活をしていると、ポケットの中のスマホが震える。ちょうど和がトップを取って1半荘終了したところだ。お茶を入れると立ち上がった京太郎はスマホを確認し、
「和ー、今日の夕飯はカレーだってさ」
「そうですか。ありがとうございます」
何でもないことのように返事をする和だったが、何でもなかったのは数秒のことだ。京太郎の言葉が頭に染み入ってくると、違和感が首を擡げた。
「どうして京太郎くんがうちの夕飯のメニューを?」
「さっき恵さんからメールが来てさ。知り合いからおいしいカレーを貰ったんだと」
「恵さん!?」
椅子から勢いよく立ち上がった和を見て、優希が小さく溜息を吐いた。基本的には感情の起伏の少ない親友であるが、だからこそたまに爆発した時の頑固さは目を見張るものがある。どうやら同級生の少年に父親の名前を出されることは彼女の琴線に触れたようで、感想戦も放り出して京太郎の方に駆けていってしまった。
「ちょっと待ってください。どうして京太郎くんが父と連絡を取り合ってるんですか!?」
「送ってもらった時に意気投合してさ。いや、中々愉快で面白い人だな恵さん」
「愉快!? おもしろい!?」
「和のお父さんってそんなに面白い人なの?」
「堅物を絵に描いたようなお人だじょ……」
何度かおうちに遊びにいったことあるし、顔を合わせたことも少ないが会話をしたこともある。優希の印象は言葉の通りのもので、優希としてはあまり関わり合いになりたくない怖そうな男性だった。根が明るく社交的な京太郎とは全くタイプが違う様に思えるが、それを言ったら自分と和も大分タイプが異なる。
性質の違いは友情を結ぶのに大した妨げにはならないのだな、と一人で納得した優希は、エキサイトする和を見ながら京太郎の作ってくれたタコスを頬張った。
「おかしいですよね!? どうして私と親しくなるよりも先に父と親しくなってるんですか!?」
「いやほら、男同士の方が話しやすいこともあるというか……そうだ、今度うちの親父も一緒にとんかつ食いに行くことになったんだ」
ショックを受けた和の身体がぐらりと傾く。父親が自分の想像以上に同級生と仲良しになっていたことは、和にとってかなりのショックだった。昨晩京太郎を送った後、帰宅した父に聞いた京太郎の印象は、中々感じの良い青年だったという当たり障りのないものだった。
基本、人間の評価が厳しい父親であるが、流石に娘の同級生には気を遣うのかと思ったのだが、まさかその裏で食事の約束までしているとは思ってもみなかった。
「原村さん、しょうがないよ。京ちゃんは京ちゃんだから」
「咲ー、フォローになってないぞー」
「目立たない所で人と仲良くなるの得意技でしょ?」
「得意ってほどでもないけどな……あぁ、さっきのとんかつだけど界さんも行くってさ」
「何でそういうことするの!?」
「別にお父さんが京太郎と仲良くなるのも悪いことではないんじゃない?」
「だってお父さん、話さなくても良いことまでべらべら喋るんですよ! 私がいつまでおねしょしてたとか、お姉ちゃんとプリンを取り合って大喧嘩したこととか……」
「かわいらしくて良いじゃない」
完全に他人事である久は、にやにや笑いながら一年生たちを眺めている。まこが加わるまでほとんど一人。加わってからもずっと二人だった久にとって、後輩とバカ話をするというのはそれだけで楽しいことなのだ。
「こ、こんなにみじめな思いをしたのは生まれて初めてです。まさか、自分よりも先に父が同級生と親睦を深めるなんて……」
「そんなにとんかつ食いたかったのか?」
「とんかつのことは忘れてください!!」
ふー、と大きく息を吐いた和は優希の方をじろりと見た。まさか自分にまでお鉢が回ってくるのかと身構えた少女は、タコスと共にまこの後ろに隠れた。そこで自分の後ろを選んでくれなかったことに、地味に久が傷ついていたのだがそれはそれとして。
「優希。これからしばらくは京太郎くんとお昼を一緒にしましょう。一年生で親睦を深めるんです」
「親睦って何というか、そういう風に深めるものじゃないと思うんだじぇ……」
「もはや一刻の猶予もありません。親密度で父に負けたままとあっては、母にも笑われてしまいます」
何とも良好な親子関係である。もう少し腰を落ち着けて話し合えば進学の問題も家族の問題も解決しそうに思えるのだが、こういうところまで含めて原村さんちの教育方針なのかもしれない。京太郎の目から見ても和は頭が良いし善良だ。少々堅物な所があるが、それも美点と思えばかわいいものである。
「別に良いぞ。じゃあ明日から俺たち四人で昼飯だな」
京太郎の返事は軽いものである。学校一の美少女と評判の和の他にも美少女二人。加えて男性は一人となればやっかみの一つや二つは受けそうなものだが、女子主体の交流をするのは昔から慣れたものだし、ほとんど常に一緒にいるというのは、中学の時に咲で通過済みだ。
その落ち着きっぷりがまた、和を苛立たせていた。
普段は全く気にしていないが、少なくとも平均よりも優れた容姿をしているという自覚のある美少女にとって、自分が関わった異性が無味乾燥というのは傷つく反応である。同級生との親密度で父親に遅れを取ったことで、気持ちが荒れていたというのも、あったのかもしれない。これでは足りないと思った和は、思いついたことを考えもせず、そのまま口にした。
「京太郎くんのお弁当は私が作りますから!」
「……それは悪くないか?」
「問題ありません。これは私と父の戦いなんです。京太郎くんは黙って、私のお弁当を食べてくれれば良いんです」
「それならごちそうになろうかな……」
流れで同意した京太郎の前で、和は小さくガッツポーズだ。そんなに恵に遅れをとったのが悔しかったのだろうか。想像したが、確かに自分の父親が咲や優希と仲良しだったら自分だって複雑な気持ちになる。娘としては自然な反応なのだろうと思い直し、皆にお茶を配る。
それで話は一度終わり、感想戦に繋がり普段の麻雀部の光景に戻った。これで自分の大勝利は疑いがない。和は内心で父に対する勝利宣言をしていたのだが、翌日、お返しにと作ってもらった京太郎作の女子用弁当のあまりのおいしさに改めて女子として完敗することになった和は、後に麻雀以外に一生涯の趣味になる料理に目覚めることになるのだが、それはまた別の話。