清澄麻雀部控室。初戦を危なげなく勝ち上がった我らが清澄高校は準々決勝にまで駒を進めていた。それは良いのだ。全国制覇という念願に一歩近づいた。部員にとっては非常に喜ばしいことである。
深刻な問題は別の所で起こっていた。麻雀は5人1チームの四校で戦うため自校以外の選手は控え抜きで15名いる訳だが、長野県大会決勝はこの15名の内実に10名が京太郎の友人だった。
全員ではないぞと言い訳もしたのだがチームメイトからは『それでも多い』という言葉が返ってきた。友人というのは普通同性を指すんだよ! やら男女間の友情は本質的には成立しないんです! とか色々言われて理解したのは対戦相手に友人が多ければ多い程肩身が狭い思いをするということだった。
今回の準々決勝の友人は10人。長野の時と人数は同じ――控室にいるだろう永水の中学生組と宮守の監督は大会に出場する選手ではないので勝手にノーカンとしている――なのであの時以上にエキサイトはするまいと勝手に思っていたのだが予想はすっかり外れた。
あれが『シロサン』と『カスミネーサン』かと選手整列の時に直接顔を合わせた面々は控室に戻ってきてからずっと闘志を燃やしていた。気持ちが攻撃的になっている女性に関わるとロクなことにならないと身にしみて理解している京太郎はせめて被害を抑えようと最初から小道具を用意していた。
幸い永水も宮守も先鋒の二人が各々の学校のリーダー格である。あの二人を味方に付ければ残りの八人は多分、おそらく、きっとそこまで攻撃的な振る舞いはしなかったら良いなと思わないでもない。話を聞いてくれるかは半々だったが、やれることはやった。後は結果を待つだけなのだが……。
京太郎の視線の先、対局室に一番乗りをしたのは小蒔だった。次いで白望がのそのそ歩いて入ってくる。小蒔とすれ違う時、白望が何かを言った。すると、弾かれたように小蒔が白望に歩み寄る。画面越しにも険悪な雰囲気になっているのがひしひしと伝わってきた。ぎりぎりと胃が痛む。
(優希、早く何とかしてくれ……)
ちっちゃい親友に全てを託した京太郎は、祈るような心地でモニタを見続けた。
「清澄の人!」
意気揚々と対局室の前まで行くと対局相手の一人である姫松の――片岡優希は名前を憶えていなかった!――おでこの人がただ事ではない様子で駆け寄ってくる。やっぱりなという気持ちでそっと対局室を覗くとそこには地獄が広がっていた。
神代小蒔と小瀬川白望。京太郎の話ではとても穏やかな性格をしているはずのその二人は今、人でも殺しそうな気配を醸し出してにらみ合っていた。対局室の外からでは聞き取れないが何やらぶつぶつとやり取りしている。親睦を深めているようにはお世辞にも見えない。まさに一触即発という気配に優希は京太郎の懸念が正しかったことを理解した。
「何か京太郎? とかいう人のことでいがみあってるみたいで……」
「うちの京太郎がご迷惑をおかけしておりますだじぇ」
「……え、修羅場? 三角関係?」
「三角で済んでたら良かったなーというのが親友としての感想だじょ」
えー、とどん引いているおでこの人を他所に優希はスタスタと対局室に入っていく。いがみ合いお互いのことしか見えていない二人は優希の方に視線を向けもしない。
心中でそっとため息を吐く。少ない優希の人生経験では恋の炎というのはぼーぼー燃えてぐいぐい行くものだと思っていた。咲や和がそのイメージに近いだろう。他校では鶴賀の桃子とか話に聞く限りでは大星某もその系統に思える。
だが京太郎に出会って数か月。モテやがる彼の周辺を見て炎の燃え方も一種類ではないのだと理解した。例えば清澄麻雀部の部長である久は何というか、炎そのものは見えないのだ。まこがそれを『勢いよく燻っている』と表現していたのを聞いて爆笑してしまったが、自分で燃えて熱さで相手に気づいてもらおうとしている咲や和に対して、燃えているという認識は与えつつも炎の熱さではなく煙と音で気を引こうとしている――と続いた表現を『めんどくさい』の一言で結んだまこにやっぱり爆笑した。
それも味なのだじぇと他人事だから笑えるが、それに関わることになったらやっぱり面倒くさいという気持ちが先に立つ。トラブることを察知していた京太郎に火消を頼まれてここにいる訳だが、懸念は全国のお姉さんたちが皆部長タイプだったらどうしようということだった。
いがみ合う二人のぱっと見の印象はどちらも咲タイプである。ほっと一安心したのもつかの間、だからと言って自分の手間がそう変わる訳ではないのだということに遅まきながら気づいてしまった高一の夏。
お姉さんたちの雰囲気にお前いつか刺されるじょ……とここにいない親友に心中で毒づいた優希は頑張って他所行きの笑顔を浮かべる。疲れるが仕方ない。京太郎のためだ。
「『仲良くしなくても良いけど喧嘩はしないでくれ』京太郎から伝言だじぇ!」
対局室に響く大声に二人は漸く視線を優希の方に向けた。そこで透かさずバッグからあるモノを取り出す。京太郎特製の一口タコスだ。対局者人数分それぞれ四色の箱に入っていて箱ごとに味付けが異なっている。渡す色は間違えないようになと念を押された通り、宮守の白い人には白い箱を、永水の人には赤い箱を渡す。
「京太郎からの差し入れだじょ。お姉さんたち好みの味付けになってるらしいから、タコス初心者でも安心だじぇ!」
淀んだ雰囲気のまま二人は箱を開けタコスを口に放り込む。女性でも一口で行けるサイズで作られたそれをもそもそ咀嚼していると、段々と二人の雰囲気も和らいでくる。飲み込む時にはうっすらと笑みまで浮かんでいた。タコスが世界に平和をもたらした光景に優希の胸も熱くなった。やはりタコスは偉大なのだじぇ……
「落ち着いた所で姫松の人もどうじょ」
「う、ウチもええんですか?」
「こっちの黒い箱の奴は辛いのが苦手な人でも行ける味付けと聞いている」
「ほんならいただきます!」
このちっこい娘は多分ウチの名前を知らんのやろなと薄々感じ取りながら、予定外の緊張で小腹は空いてしまった姫松の人――漫は黒い箱から取り出した一口タコスを戴いた。
「うまっ、なんやこれ!」
率直な感想が思わず口を突いて出る。それくらいにタコスの味は衝撃的だった。確かに辛いのだがすっと胃の中にまで落ちてくると言うか、辛いを味わえるという絶妙な味付け。苦手でも行けると豪語するだけのことはある。万人受けを狙ったために聊かパンチに欠けるが、未知の料理の入門編としてこれ以上のものはそうないだろう。これを手作りで女の子でもさっと食べられるように一口サイズで作るとは、清澄の京太郎というのは相当な料理上手と見た。
麻雀に青春を捧げている身としては異性に現を抜かす時間など存在しないのだが、それでも年頃ではあるからお付き合いするならこんな男の子がーと考え何だったら同級生の絹恵と意見交換をしたこともある。
ぼんやりとした好みの中でも『料理が得意』というのは上重漫の異性の条件の中で割と上位に来るものだ。ちなみに絹恵は元スポーツ少女らしく『背が高い』と姫松大エース愛宕洋榎の妹らしく『面白い』の二つが外せないらしい。料理も合わせて3つ全部揃ったら最強やんなと二人で笑い、そんな男の子がおったら二人で道頓堀ダイブしてもええと言いあったのが東京に来る前の晩のことなのだがそれはともかく。
タコスによって雰囲気の柔らかくなった二人はさっきまで人殺しの気配で言いあっていたことなどなかったように、和気藹々と言葉を交わしていた。
「――京太郎が神境に来た時から『シロサン』のことは何度も聞いてました!」
「ん。『トキ』と同じくらい?」
「残念ながら『トキ』の方が多いですね。でもどっちも一日一回は聞いてましたよ。仲良しですね!」
ふむ、と何でもないことのように白望は視線を逸らす。付き合いの長い面々でないと気づかないくらい僅かに口の端が上がっている。他の場所で出会った女子の話を聞くのは忌々しいと思っていたものだが、他の場所で自分の話をしている、という事実を当の女子から聞くのは中々気分が良い。穏やかな心で気持ちに余裕を持って話してみると小蒔もとても良い娘だった。お世話され系年上は自分一人で良いと攻撃的になっていたのが遠い昔のことのようである。
「あ、白望ちゃんとか呼んで構いませんか?」
「皆私をシロと呼ぶからシロでも良いけど」
「でもせっかくなので白望ちゃんで! 良い名前ですから!」
「ありがと。でも私は短く行こうかな。コマちゃんとか呼んでいい?」
「コマちゃん!」
白望としてはかわいく名前で呼んでちょっとからかってやるぜくらいのつもりだったのだが小蒔の反応は劇的だった。感動しました! と全身で物語る小蒔に白望は若干引いていた。
「そんなに喜んでくれるとは思わなかった。え、普段なんて呼ばれてんの?」
「一番多いのは姫様ですね」
「……決めた。絶対コマちゃんにする。コマちゃんしか勝たん」
「白望ちゃん!」
ひしと抱き合う。控室は混乱しきりだろう。なんだったら清澄でさえも。喧嘩をしないが最上であったのならこの状況はきっと想定外だ。よくできた、自分にはもったいないくらいにデキた少年だけども、たまにはストレートに一泡吹かせてやりたい時も女にはあるのだ。
俯瞰で撮影しているカメラを見上げて、ふと微笑む。私たちに、貸し一つだからね。察しの良い京太郎のことだ。言いたいことは伝わっただろう。
今から貸しを取り立てるのが、楽しみだ。
好悪の天秤が基本的に好の方に傾いている小蒔にとって子供の頃から度々京太郎との会話に出てくる『シロさん』というのは嫉妬の対象だった。京太郎に一緒に何かをしてもらっても大抵前にシロさんとやったことがあると聞かされてきた。
私がお姉ちゃんなのにと日々不満は募り今日ようやく対戦するということで一言言ってやろうと思っていたのだ。意気揚々と対局室に足を踏み入れ待つことしばし。『シロサン』こと小瀬川白望の姿を見た時、小蒔の嫉妬の感情は更に募った。
真っ白い肌に儚げな雰囲気。身にまとう気だるげなオーラは日々姫様と持ち上げられる小蒔でさえお世話をしてあげなくてはという気にさせられる。神境でもダメ女製造機とお姉さま方に好評だった京太郎ならば、こんなお世話し甲斐のある美少女は放っておかないだろう。京太郎の気持ちを独占して……勢いで口を開こうとした小蒔はしかし、白望に機先を制された。
『うちの京太郎がお世話になってます』
無感情なその言葉に、小蒔は生まれて初めて感情に任せてキレ散らかした。
何を話したのかはほとんど覚えていない。私が一番、京太郎は私の、という話をお互いに言葉を変えて言い合い続けていたように思える。生まれてから一番熱くなったという自信もある。感情を制御できないようでは上に立つ者として相応しくないと家族からは常々言われ続け、それを肝に銘じている小蒔にしてはらしくない行動だった。
中継でこれを見ているチームメイトも故郷の皆も驚いていることだろう。戻ればお説教確定なのは言い合いをしながらも頭を過っていたけれども、そんな悪い雰囲気を美味しいタコスが吹き飛ばしてくれた。
神境の料理は総じて味が薄いので京太郎が小蒔に作ってくれる料理は味が濃い目なことが多く洋風な食材を使うことが多い。京太郎の作ってくれたタコスは辛さはそのままに他の味を濃くした、言ってしまえば若干タコスっぽくはない代物だったのだが、いかにも小蒔仕様というテイストが小蒔を癒し、心に余裕を持たせた。
話してみれば白望もとても良い娘だったので、大満足な雰囲気で試合前の一幕を終えることができた。気持ちもお腹も満足していたのがいけなかったのだろう。小蒔が意識を取り戻したのは二半荘目の南場に入ってからだった。
まさか何者かの攻撃を受けたのでは……などと現実逃避をしてみたりもするがそんなはずは断じてないと即座に否定する。仮にも神代の姫である自分にこのような攻撃を仕掛けられる術者がそう在野にいるとも思えない。
せめて少しでもお説教の時間を短くするため活躍しなければと気持ちを切り替えた小蒔は、改めて対戦相手の観察を始めた。
清澄。タコスをくれた優しい娘だ。麻雀をする上での話ではあるが三人の中ではこの娘が一番力を使いこなしている。東場で風が吹くというシンプルな上に強力なオカルトは本人の感性とも相性が良いようだ。今は最大出力を出すことに集中しているようだが、これが速度と両立できるようになれば手がつけられなくなっていたことだろう。彼女が自分よりも若くまだ一年であることは小蒔にとってとても幸運なことだった。
宮守。神境の外で久しぶりにできたお友達だ。こちらは自分の力に対して明確な理解がある訳ではないようだがそういうものとして自然に受け入れている風である。清澄に比べれば自在感と破壊力では見劣りするものの、神境の巫女の目から見ても力が魂に馴染んでいる。ここまでくると麻雀以外でも存分に効果を発揮するはずだ。
姫松。正直力の使い方は今ひとつだ。どういう方向性の力かは理解しているようだが、どうすればそれを使えるようになるのか理解が追い付いていない。この二半荘では残念ながら不発だった。確実に使いこなせるようになれば十二分に脅威となったはずだが
それにしてもと『それ』は思う。やはり人の世は空気が淀んでいる。神境の清浄な空気とは雲泥の差だ。むしろそこが良いと『それ』は思うのだが、仲間の間では少数派である。
しかし空気が淀んだ半面、人間の習俗は良くない方に変化したように思う。当代の姫巫女は開祖に並ぶほどに傑出した存在であるがこの身体この年で子がいないどころか未通女なのだ。
襲い掛かっては胤を貪り簀巻きにして連れ去る。千年前には当たり前のように行われていたというのに今では交合一つをとってもいくつも手順を踏むのが普通であるという。嘆かわしいことである。
そんな中、うすぼんやりと目覚めた『それ』は当代の姫巫女だけでなくその供回りも懸想しているあの男の気配を近くに感じとった。あれの胤ならば良い巫女が生まれるという確信が昔から『それ』にはあった。あの男の気を引くならば力を貸してやらぬこともない。それが当世の流儀であるならばそれに従おうではないか。
麻雀というこの絵札あわせが大層好きであった男だ。これが強いとなれば気も許そう。その上で篭絡し襲い掛かり胤でもねだってやれば良いのだ。勝者は何より偉大であり、全てを得る。実に単純なこの世界の法則である。
さて、と『それ』は姫巫女の視線でさる少女を見た。犠牲になってもらうとしたらこの女だろう。あの男と強力な縁で繋がっている上に信頼も寄せられている。それが打ち破られれば気も移ろう。『それ』の意思に従い、運気が凄まじい勢いで偏り始める。
あの男の視線を感じた『それ』は、天井にあるカメラを見て口の端を上げて笑った。
この世で最も良い女がどこの誰か。そろそろ思い知るが良いのだ――。
麻雀をした! という満足感が漫を満たしていた。アレは不発だった上に結果は伴わなかったけれどもタコスは美味しかったし対局した皆とも仲良くなれた大満足の対局だった。
明るい足取りで控室に戻った漫は、敬愛する末原先輩がしかめっ面をしているのを見て自分が名門姫松の先鋒で、今日が全国大会の準々決勝で、自分は点数を減らして戻ってきたのだということを思い出した。
「漫ちゃぁん」
恭子の声がいつになくねっとりして聞こえる。きゅぽきゅぽと、黒でも赤でもなくドギツイ紫色の油性マジックの太い方の蓋を嵌めては外ししている辺り、怒りの深さが伺えた。笑顔のはずなのに全く笑ってない。笑顔は本来攻撃的な表情だというのを何かの漫画で見た気がするが、それは本当だったと心底実感している。
助けて絹ちゃん! と親友の方を見ても怒りを察知したらしい姉に引きずられ部屋の隅で今年のタイガースのペナントレースについて語ることで現実逃避していた。今年こそVやねんと妹がサッカーをやっていた割に麻雀以外では野球が好きな洋榎のタイガース愛は熱いのである。
「美味しそうやったなぁ……中継やと音声拾えんで何食べとったか解らんかったんやけども、黒い箱の中身は何やったん?」
「ひ、一口サイズのタコスでした。清澄の男の子が作ってくれたそうで。あ、その男の子永水と宮守の選手の昔馴染みみたいなんですが――」
「そないラブコメみたいな設定はどうでもええねん。それでまぁ試合が終わった後も? 何やら四人で仲良さそうにしとったやないか」
「あー、あのですね。せっかくここで戦ったのも何かの縁やし連絡先交換しようってことになってですね」
「それでいえー! な感じで四人で写真撮っとった訳やな?」
「はい、その通りです……」
対局室の隅でやっていたつもりだったのだがばっちり見られていたようである。怒ってるみたいやしなぁ、お説教かなぁ、と戦々恐々と恭子を見やると、彼女は深々とため息を吐き肩を落とした。助かった? と安堵したのもつかの間、
「貴様には! 名門姫松の! 選手やって自覚が! ないんかオラっ!!!」
それがただのタメだったことを理解した漫はただ謝るだけのマシーンと化した。
「まぁまぁ末原ちゃん。その辺にしといたり」
怪我をしないように配慮された痛くはないけれどやたら綺麗な音が出るハリセンで百度はぶっ叩かれた頃、そろそろ次鋒戦が始まるかなという段になってようやく郁乃が仲裁に入った。
恭子は怒り冷めやらぬという風だったが、一応監督である郁乃の顔を立てて今日はこのくらいにしといたるわと引き下がった。ハリセンでぶっ叩かれ過ぎて耳が痛い。とは言えこの雰囲気ならばデコの油性はうやむやになる……かもしれない。エキサイトし過ぎて恭子の手から零れ落ちた紫の油性マジックはソファの下までこっそり蹴飛ばしておいた。せめて黒か赤になってくれればと気配を消して恭子からなるべく離れた場所で観戦しようと移動した漫を、郁乃が先回りした。
「はい漫ちゃん」
差し出された冊子を反射的に受け取ってしまう。表紙を見ると広報誌――麻雀協会長野支部と記載があった。長野? と首を捻っていると、郁乃がふふんと笑みを漏らした。プロ時代に『女狐』とあだ名されただけあって、笑顔が中々邪悪であると姫松の選手の間で良くも悪くも評判である。
「学生時代に全国で戦った長野の友達が今麻雀協会の支部に務めてるんやけども、その友達がこういうの好きやろって送ってくれたんよ」
「はぁ、そうなんですかー」
「例の京太郎くん載っとんでー。23Pやー」
「ほんまですか!」
また怒られるのは嫌なので小声で応える。ぱらぱら。逸る気持ちを抑えてページをめくる。
「ちゃんと返してなー」
フェードアウトする郁乃を漫は気にもしなかった。紙面の中で、背筋を伸ばした少年が凄まじく真剣な表情で牌をツモっている。
その表情を、漫はただ同じくらいに真剣な顔で見つめていた。