俺の部下の異世界無双   作:十六夜やと

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 メインヒロイン現れるところまでは書きたいなぁ。
 そんな第一話。


第一話 俺の部下は女神様

 心地よい風が頬を撫でる。

ざわざわと草木の擦れ合う音がする。

 

 

「……ん?」

 

 

 目を開けて最初に映ったのは異様なまでに澄んだ青い空。気候的に春辺りの気温が肌を温め、適度な風が暑さを感じさせない。このまま日向ぼっこでもして寝てしまおうかとも考えたが、ふと自分がどのような状況に置かれているかを再認識して起き上がる。

 周囲を見渡しても、だだっ広い草原が広がるばかり。

 自分から見て左側には大きな木々が少数だが確認でき、どこからか水の流れる音が聞こえる。近くに小川でもあるのだろう。

 

 暗闇が飛ばしたにしては、非常にのどかな場所だ。

 しかし、隠れる場所がないにも関わらず、クラスメイトの姿が見当たらない。

 

 

「俺だけ特別コースかよ、ったく……」

 

 

 せめてチート能力持ちが近くに居るのなら楽が出来たのだが。

 快楽主義のあのアホは許してくれなかったらしい。

 

 とりあえず初っ端からサバイバル設定なのは明白だ。俺は現在の持ち物を確認する。

 ズボンの左右ポケットには圏外で使い物にならないスマートフォンと、異世界じゃ使い道の見当たらない家のスペアキー。ブレザーの胸ポケットに身分証明となるはずの学生証。ブレザー左右ポケットには唯一使えそうなハンドタオルと、めっちゃ使えねぇ消しゴム。尻ポケットに財布。

 学生服から察するべきだが、本当に必要最低限のものしか持っていないわけだ。

 縛りプレイでもないのに、随分と自然を舐め腐った装備だよ。

 

 これで暗闇曰く『チート過ぎる』だぜ?

 アイツの目はビー玉以下だな。クソが。

 

 

「まぁ、とにかく街か村でも探さないと野宿になっちまう。どこか獣道以外の舗装された道路でも見つかれば万々歳なんだけど……」

 

 

 そう今居た場所から動こうとして、後ろから犬の鳴く声がした。

 振り返ると額に角の生えた子犬くらいの動物が、こちらに対して警戒するように吠えている。現代日本で見たことのない種だ。

 なんて考えた矢先、動物の頭上に矢印のアイコンと名前が浮かび上がる。

 そこには『ヘルドッグ Lv2』と、物騒な名前とLvが映し出されていた。目を擦っても消えることはなく、まるでロールプレイングゲームのモンスターと対峙したような感覚を覚える。

 

 

「……あー、これがRPG風、ねぇ」

 

 

 たぶん自分のステータスを確認する方法もあるのだろうが、こういうモンスターを倒して経験値を得て、着実と成長することで強くなるのだろう。

 VRで冒険しているみたいだ。こういうRPG系ゲームは日本にいた時にやったが、あれは実に面白いシステムだったと思う。クラスメイトの能天気さに呆れもしたけれど、こう言うのを期待していたのなら俺も心が躍るものだ。

 武器も何もないので拳を握りしめて構える。

 

 暗闇からは何をしてもよいと言われた。

 チート能力を貰えなかったならば――手っ取り早くレベルを上げて、自分の安全を確保し、現代日本とは違う平和な日常を享受するしかないだろう。

 俺TUEEEEは諦めるが、まだ平穏を諦めちゃいない!

 

 

「オラッ! かかってこいや犬っころ!」

 

 

 さぁ、俺の冒険とやらを始めよ――

 

 

 ズドォォォォォオオオオオンッッッッッッ!!!!!

 

 

 最初は何が起きたのか分からなかった。

 骨の髄まで響くような轟音と共に、いきなり俺は身体を後ろに引っ張られるよう放り出されて、俺は受け身を取りながら地面に打ち捨てられる。もし変な方向に身体を吹っ飛ばされていたら、場合によっては首を圧し折って即死していただろう。

 運が良かったとしか言いようがない。

 日本じゃ体験したことがないが、前世の俺は知っている。おそらく先ほどのモンスターを中心に正体不明の大爆発が起こった。

 

 身体をゆっくりと起こして状況確認。

 数メートル先にモンスターが立っていた場所は粉塵で確認できず、大きなクレーターが生まれていることから、上から質量のある何かが落ちてきた者だと推測できる。

 問題は地面を抉るような何が落ちてきたか、なのだが。これが異世界での日常茶飯事なのか?

 

 ある程度時間が経ち、粉塵が晴れた場所に近づいてみると、学生服のようなカッターシャツとスカート。皮のロングブーツを履き、サイズの合ってない大きな黒いコートを羽織った小柄な一人の少女らしき人物が佇んでいた。艶やかに輝く金髪をおさげのように後ろで束ね、紫紺の瞳をゆっくりとこちらに向ける。深窓の令嬢を彷彿させる綺麗に整った顔を台無しにするかのような仏頂面を全面に出し、クレーターの中から呆然とする俺をじっと見つめていたのだ。

 これだけなら美少女が目の前に現れただけの王道ラノベ展開。しかも中学生女子程度の身長に加えて、メロンを彷彿させる大きさの胸が、ぶかぶかの黒いコートから覗くのだ。ロリ巨乳だぜ? 普通の男達なら大歓喜間違いなし。

 しかし、一般人ならば地面に突き刺さる禍々しい黒色の大鎌(・・・・・)と、肉片を撒き散らせたモンスターの成れの果てに視線が誘導されてしまう。明らかに彼女が着地すると同時に、子犬型のモンスターを殺したようにしか見えない。

 

 俺は無言でクレーターの底まで降りていく。

 彼女は動くことなく俺を凝視し、手の触れられる距離まで迫った時、金髪の少女は口を開いた。

 

 

「×××、久しぶ――」

 

 

 んなのお構いなしに俺は拳骨を彼女の頭に叩き込んだ。

 一切の力加減をせず、ちょうど良い位置にある彼女の頭上めがけて、むしろ今の俺が持っている全ての力を込めてぶん殴った。

 ぶっちゃけ殴った手が痛い。

 

 

「……×××、痛い」

 

「痛いじゃねぇよ何晒しとんのじゃ貴様はぁぁぁぁああああ!!??」

 

 

 アホ毛を項垂らせながら仏頂面で抗議する少女に、俺は喉から震わせた本心を叩きつける。

 

 

「×××が襲われそうだったから助けた。それだけ」

 

「……あぁ、もう! クソがっ!」

 

 

 頭を抱えて天に叫ぶ。

 どうせ原因はアイツなのはすぐに分かったけれど、それでも受け入れられないのは仕方ないだろう。

 俺はキッと少女を睨みつけた。

 

 

「もう一度言う、何でお前がここにいる!? アイリス!」

 

 

 仏頂面の少女。

 それは――前世で俺が暗闇から任せられていた部下の一人だった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 前世の俺は街における自警団のようなものに所属していた。

 化物みたいな連中がごろごろといる街において、干渉しない暗闇に代わって、独自の法で重犯罪を犯す連中を殺害していくのが俺の仕事だった。

 独立治安維持部隊(ナンバーズ)第一部隊(アサルト)――『様子見隊』やら『使い捨て部隊』と揶揄される、致死率の非常に高い少数精鋭の連中。戦場の最前線で犯罪集団とドンパチ殺し合うのを生業とする戦闘集団。それの指揮をしていたのが俺だったのだ。

 だから俺は早死にして、暗闇に平和な世界への転生を願ったのだが。

 

 そして目の前に居る仏頂面の少女は、前世で俺が率いていた第一部隊で面倒を見ていた奴の一人だ。こんなちっこい姿だが、もちろん人間じゃない。

 彼女の名はアイリス。

 その正体は――ギリシャ神話における知恵と戦争を司る女神・アテナ神本人である。武闘派女神故に部隊の中じゃ単純な力押しで彼女に勝る実力者は少なく、常に最前線で猛威を振るった歴戦の部下。

 

 

「よし、とりあえず暗闇に言われて来たのは分かった。だから帰れ」

 

「嫌」

 

 

 加えて人の話を聞いてくれない。

 

 

「あのなぁ、俺はもうお前の上司じゃねぇんだよ。暗闇に言われて来たのは重々理解してるが、お前にだって仕事はあるだろ? 俺のことは放っておいてくれ」

 

「嫌」

 

 

 若干の不機嫌オーラを滲ませながら、仏頂面のアイリスは俺の願いを漢字一文字で斬り捨てた。断固として離れるものか、という鉄の意思を感じる。

 前々からコイツは俺のこととなると自分の意思を曲げない。

 そして今の俺には強硬手段に訴える力はないので、溜息交じりに首を振るしかなかった。

 

 一方のアイリスは仏頂面まま俺に何かを差しだしてきた。それは三つ折りに畳まれた二枚の紙で、受け取って中身を確認してみると、レポートのように綺麗にまとめられたプリント。

 内容は……『この世界についての知識』が大まかに記されている。

 

 

「暗闇に渡された。×××に、って」

 

「こんな綺麗にまとめられんなら、どうして学校でのスピーチがああなったんだ……? まぁ、いいや。えっと……が……だから――」

 

 

 要約するとステータス確認の方法と記載された言葉の意味。加えて、この世界における大雑把な情勢の説明だった。そういや暗闇ってRPG系ゲーム大好きで、攻略サイトとか自分で開設してる奴だったことを今さらながらに思い出す。

 好きな分野を自由にまとめられるのだ。そりゃ力も入る。

 今回はそれがいい方向に行ったのだから良しとしよう。

 

 

「ステータス画面が出てくる感覚で念じると出てくる、か」

 

 

 実際に試してみると本当にステータス画面が目前に現れる。

 こういうSFアニメを見たことがあるな。

 

 肝心の俺のステータスの話だが……見事に『Lv1』の表記と、凄惨なまでの一桁を誇る各ステータスが、大きな溜め息を生み出す。あの子犬より低いじゃん。

 適当に弄ってみると職種やスキルも記されていたが、暗闇がまとめてくれた各スキルの説明を台無しにするかのような、『ジョブ・勇者』と何も書かれていないスキル画面。こんなん只の『勇ましいだけの人』じゃないか。

 つまり俺はクソ弱い『勇者』ってわけだ。

 ……どーすんだよ。

 

 仏頂面で微動だにしていないアイリスを尻目に、プリントを読み進める。

 

 この大陸には大まかに三つの勢力が存在している。

 知能と高度な文明によって発達した『人間』が治める地域と、膨大な魔力と血統を重んじる実力至上主義の『魔族』が治める地域、そして鋭い第六感と繁殖力の強さを持つ『獣人』が治める地域。各々がまた個別に国などを作っているらしいが、これらの三勢力が互いに睨み合って均衡を保っているとか。

 他にも現世に不干渉を貫く『竜族』や、空に勢力を伸ばす『天族』なども居るらしいが、ここで生きるなら最初の三種族だけ覚えとけば別にいいや。

 それにしても……冷戦状態か。こりゃ俺が生きてる間に面倒なことにならなきゃいいけど、あの暗闇が送ったんだから一騒動起こりそうだ。注意しなければ。

 最後に『というわけで桜華にチート能力を授けなかったけど、代わりに桜華が前世で率いていた部隊の過半数をそちらに送るよ。自由に使って――

 

 

「ふっざけんなぁぁぁぁああああ!!!!!」

 

 

 思わずプリントを地面に叩きつけた。

 あの化物集団送るとかチート云々の話じゃねぇぞ!? その力を持て余すような戦闘殺戮集団送ってあのアホは何を望んでやがるんだ!?

 戦争か? 三勢力に喧嘩売れってか!?

 

 

「……で、お前が来たと」

 

「うん。他にもいろいろ来てる」

 

「その姿が見えないようだが?」

 

 

 もしや余計なことを……なんて最悪の事態を想像していると、何かを思い出すように目を泳がしながらアイリスが答える。

 

 

「たぶん、情報収集。その手紙だけじゃ判断しにくいだろうって、ゼクスが言ってたから、他の国とか街の情報を集めに行った。×××も『前段階で情報と数を揃えることが、戦に勝つ条件の一つ』って言ってた」

 

「あのゼクスなら大丈夫だと思うけど……あと俺のことは桜華と呼べ。そっちに慣れた。……ん? ちょっと待てアイリス。お前今『戦』がどうのこうのって言わなかったか?」

 

 

 聞き捨てならないセリフに、今度はアイリスが不思議そうに首を傾げて宣う。

 

 

「暗闇が『×××なら意図せずに大規模な戦争起こすだろうから、助けに行ってあげて!』って言ってた」

 

「んなわきゃねぇだろ!」

 

 

 異世界転移させられて初っ端から大戦争とか正気の沙汰じゃねぇだろうが! どんだけ俺が血に飢えた戦争屋だと思ってやがる!? そして暗闇のその言葉にアイツ等が何の疑問もなく行動を起こすって……俺ってそんなイメージなの?

 歩く災悪って思われてたんだ……物凄くショック。

 

 まさかの前世の部下の評価に打ちのめされていると、今度はアイリスが非常に申し訳なさそうな雰囲気をしているのが伝わってきた。一見いつもの仏頂面に見えなくもないが、長年の付き合いから細かい機微は察せるようになっている。

 それにしても……コイツがこんな顔をするとは珍しい。

 

 

「×××……桜華。ごめんなさい」

 

「どした、急に」

 

「だって、桜華が死んだのは私のせいだから」

 

 

 俺は大きく目を見開いた。

 今の人生で一番驚いた発言だろう。

 

 

「私がちゃんとしっかり桜華を守っていれば……桜華が死ぬことはなかった。みんなもずっと気がかりになってた。だから、その……上手く言葉にできないけど……その……ごめんなさい」

 

「……んな昔の話なんて気にすんな。どうせ終わったことだ」

 

 

 何も気にしていない風を装ってはいるものの、内心では非常に心掻き乱されていた。まさか第一部隊(あいつら)が俺の死について、そこまで気負わせていただなんて思っていなかったからだ。

 あの街にいる連中に共通のことなのだが、奴等は他人の死についてあまり興味がない。

 さぱっと簡単に死ぬような世界だったのも理由の一つだが、アイツ等にとって『命とはとても軽いもの』という認識が根強かったのが大きい。そんな背景も踏まえて、アイリスの反応は予想外を通り越していたのだった。

 

 それでも元気のないアイリスに背を向けながら声をかける。

 照れ隠しじゃないぞ?そっち行くからだ。

 

 

「そんなに気がかりなら、今の俺を守ってくれよ。このステータスじゃ道端の雑魚モンスターにも勝てるかどうかわからねぇしさ。頼りにしてるぜ、アイリス」

 

「……! 分かった」

 

 

 歩いてクレーターから遠ざかる俺の後ろに、アイリスがついて来る足音が聞こえる。

 どうせ言っても帰りはしないんだから、目に届くところで監視してやったほうが世界にも優しいだろう? つまりはそういうことだ。他意はない。

 

 さて、どこに向かおうか。

 俺の足取りは何故か、一人の時よりも軽かった。

 

 

「……桜華に仇成す存在は一族郎党皆殺し。うん、理解した」

 

「そこまでは言ってないが?」

 

 

 

 

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