俺の部下の異世界無双   作:十六夜やと

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そろそろ戦闘描写入れたいな……と思う第三話。
次回は別の人の視点かな?
あと次回予告も入れてみます(`・ω・´)ゞ


第三話 俺と部下と訳あり少女

 なんというか……うん。

 

 

「殺されなかっただけマシなのかねぇ」

 

 

 清々しい朝を迎えられるとは思ってはいなかったが、俺が最初に目を開いて視界に映ったのは、農機具などを保管しているらしい倉庫じみた場所だった。手足は見事に縄で縛られており、隣には俺より厳重に縛られたアイリスが気持ち良さそうに寝ている。

 格子状の窓から倉庫唯一の光源である日の光が差し込み、俺とアイリスは地面に敷かれた藁に放り込まれたことだけは理解できた。

 

 言葉にしてはみたが本当に殺されるなんて思っちゃいない。

 もしそうだったのなら寝ていても他者の殺気にアイリスが気づくはずだし、今頃地面に這い蹲っているのは村の連中だっただろう。肉片が残ってりゃいいけど。

 本音を言わせてもらえば、この村にアイリス以上の強者は存在しない。アイリスの強さはステータス込みで前世の記憶と大差なく、もし村の連中がアイリスより強かった日にゃあ、俺は全力で暗闇探し出してぶっ殺す。一般人がこれ(アイリス)以上の化物の世界とか、RPGさせないのと同義である。

 無双ゲーだよ、無双ゲー。

 

 この状態だと何もできないので、優雅に二度寝を決め込もうと瞼を閉じようとしたとき、倉庫の扉が開かれる音がした。

 昨日の人の良い笑みを浮かべていた記憶とは程遠い、厳しめの表情で俺を睨む村長。他には第一村人として話しかけた昨日の中年のオッサンと、新顔のオッサン。来た時から思ってたけど、ここ村人の平均年齢高くない?

 

 

「おはようございます、村長さん。とっても清々しい朝ですね」

 

「……起きたか」

 

 

 開幕初っ端から皮肉を込めて挨拶してみたが反応なし。

 昨日とは声のトーンが低く、後方に控えているオッサン二人は親の仇でも見るように険しい。

 

 

「私達が何か粗相でもしたのでしょうか?」

 

「白々しい。……貴様、『勇者』であろう」

 

 

 クラス『勇者』ってデバフか何なん?

 スキルもロクに持ってないし、出会い頭にオッサンから警戒されて、ましてや問答無用で監禁かよ。もしかして過去に『勇者』って人類敵に回すような何かでも犯したのだろうか?

 そんな考察を頭の中で重ねていく俺を見下ろしながら、とりあえず生存確認の為に来たのだろう村長は、去り際に意味深げな発言を残して立ち去る。

 

 

「――姫様は渡さん」

 

 

 物凄く意味深げだったから一瞬「は?」となった。

 この発言で脳裏に浮かんだのは、好奇心旺盛な昨日の少女。確かに『姫様』と呼ばれても違和感がないほど洗練された育ちの良さを披露する美少女ではあったが……もしかして、どこぞのお姫様なのか?

 村長の奥さんだったら腹抱えて笑ってやる。

 

 彼等の足音が消えたことを確認した俺は、隣で寝たふり(・・)を続けているアイリスを足蹴りにしながら起こす――つもりだったが、両足が縛られているので二本の足で背中にド突く。

 ついでにジャラリと鉄製の手枷が擦れる音が聞こえた。

 

 

「桜華、痛い」

 

「そりゃ昨日の俺の台詞だ。教えてくれるのは全然構わないんだけどさ、もうちょっと力加減ってのを覚えてくれないかなー? こう見えてもLv1の紙装甲勇者なんだぜ?」

 

 

 昨日アイリスに足蹴りされていた俺だが、コイツも何の理由もなく蹴っていたわけではない……と思いたい。村長さんや奥さん、ヴァレンティーナさんには気づかれないよう、アイリスは一定のリズムを刻みながら俺の足を蹴ったり踏んだりしていた。

 これは前世の俺が決めた暗号のようなもので、口を使わずに様々な手法で情報を伝えるための動作。他にも指で何かを叩く方法もあり、アイリスはこれを奇跡的に覚えていたようだ。

 ちなみにコイツは『スープの中に睡眠薬あり』や『家の外に八人の気配確認』、『村長の生え際が世紀末』などの言葉を送ってきた。最後の要らなくね?

 

 アイリスは俺よりも村長――この村が『黒』、又は『俺達に敵対行動を取る』ことを察知して、その情報を聞いた俺は『殺気がなければ放置。様子見を続行せよ』ち返した。

 ……蹴る威力が高すぎて、まだ足が痛いけど。

 

 

「……何か桜華とヴァレンティーナ?が話しているのを見てたら、イライラした」

 

「どういう意味だよ……まぁ、その話は置いておこう。しっかし、どうしようかねぇ。こうも監禁されるほどに『勇者』がデバフ扱いになってるとなると、他の村や街でも同じような扱いをされるんじゃね? こりゃ他の奴等の情報聞くまで隠居でも――」

 

「桜華、何か来る」

 

 

 何か=人の気配だと即座に脳内変換する。

 誰か食事でも持って来てくれたのか、なんて都合の良い淡い期待を冗談半分に抱いてみたのだが、倉庫の扉を開けたのは金髪の美少女――ヴァレンティーナさんだった。

 開けた瞬間に俺とアイリスが待ち構えるように扉の方向を見ていたことに一瞬驚く。そして、どこか申し訳なさそうに倉庫に入って内側からゆっくりと扉を閉めた彼女は、片手にハンカチを被せたバスケットを持参していた。

 

 

「オウカ様とアイリス様、お怪我はありませんか?」

 

「寝心地が非常に悪いことを除けば、特に不便なところは見当たりませんね。おはようございます、清々しい朝ですね」

 

「もうお昼なのですよ?」

 

 

 なんと、もう昼だったか。

 村人とは違って俺達に敵対心を全く持っていない彼女は、寝転がっている俺の前で行儀よく座ると、バスケットからハムをパンで挟んだ食料を取りだす。俺たちの世界では俗に『サンドイッチ』と呼ばれるお手軽料理だな。

 それを見た俺は起き上がろうとして失敗する。

 

 

「みんなの目を盗んで作ったものなので、物凄く適当に作ってしまったのですが……」

 

「それを口まで運んでくれると泣いて喜びます」

 

「早く」

 

 

 雛鳥みたいに俺達が彼女の手に持つ料理を求め、ヴァレンティーナさんは手を添えながらサンドイッチを食べさせてくれた。この娘は人間の形をした天使なっじゃないかと、アイリスにも同じように食べさせる彼女を眺めながら思ったが、ぶっちゃけ俺の知ってる天使よりも心優しいという結論に至る。

 大天使や、大天使。

 爪の垢を煎じてソイツと暗闇に飲ませたいわ。

 

 細やかながら素晴らしい食事を頂いた俺達は余韻に浸っている中、ヴァレンティーナさんは微笑みを俺たちに向けながら、加えて若干の寂寥を浮かべていた。

 彼女はやや寂しそうに呟く。

 

 

「その……オウカ様は、『勇者』なのですね」

 

「紙装甲勇者」

 

「おい、アイリス。変なこと言うんじゃねぇよ。……失礼しました、貴女はこの『勇者』というクラスについてご存知なのでしょうか? どうも村人の方々に敬遠されているようでして」

 

「そちらが本来のオウカ様の口調ならば、敬語を使わなくても構いません。えっと――」

 

 

 無知な俺達に彼女は語る。

 

 

「クラス『勇者』というのは、ボーワドンさんから聞いたことなのですが、『異なる世界から召喚された人類』であり、『人知を超える能力を持ち、魔王や獣王とも渡り合える力を持つ神の使徒』と呼ばれる存在のことです」

 

 

 人類が未曾有の危機に晒されたときに、人間の国に代々伝わる転移魔法陣から、神の手によって選ばれた者達を召喚することがある。その召喚に応じた者が持つ特殊クラスが『勇者』であり、神から授かった唯一無二の能力を所有しているのが特徴。

 他の人間と違い、身体能力や知識の量が桁違いで、各国でも彼等は丁重に扱われる存在らしい。

 人間が信仰する神を祀る教会では、彼等のことを『救世主』とも呼ぶらしいが、聞いている感じだと『体の良い戦力』だと俺は思った。

 

 

「ほうほう、じゃあ俺達が監禁されることに何の関係があんの?」

 

「そ、それは……その……」

 

 

 彼女は俺達に続きをあまり言いたくないらしい。

 数分くらい俯いて黙っていた彼女だったが、とうとう決心がついたのか、顔を上げて真剣な表情で暴露する。

 

 

「私は――忌み子なんです」

 

「へー」

 

「……へ? あ、あの、私のことが気持ち悪くないんですか?」

 

 

 予想外の反応だったらしく、金髪の少女は慌てて尋ねる。

 いや、忌み子つったってねぇ?

 

 

「まず君が言う『忌み子』の意味が分からんし、そんな言葉俺とアイリスは腐るほど聞いたことがあるしなぁ。アイリス、今の聞いて正直な感想は?」

 

「サンドイッチの追加を希望」

 

「ほらな? まずコイツは話すら聞いてない」

 

 

 頭の中お花畑なアイリスは無視して、俺は安心させるように笑みを浮かべた。できれば俺は『忌み子』の詳細を希望している。

 

 

「『忌み子』は生まれつきスキルにすら記されていない能力を宿す者のことです。教会では彼等を『神に背く反逆者』『忌まわしき魔族の血を持つ者』として、身分関係なく処断する義務を持ちます。忌み子は神を冒涜する者、だとして」

 

「なるほどなー、勇者ってのは神の御使いみたいなもんだから、忌み子である君を村人は隠しており、『勇者』のクラスを持つ俺を警戒してたってことか。はー、納得したわー」

 

 

 神の代弁者である教会は忌み子の存在を否定。

 そして神の御使いたる『勇者』も例外ではなく、村人達は彼女を殺すために来たのではないかと勘違いして、『勇者』のデバフを持つ俺と仲間のアイリスを拘束した、と。

 俺は前世の記憶や転生後のニュースや学校で習った歴史を含め、転生する前と変わらぬ持論をヴァレンティーナさんに吐き捨てた。

 

 

「やっぱ宗教絡むと面倒だわ。神様なんてロクなもんじゃないね、ったく……」

 

「か、神様をそのように貶して大丈夫なのですか……!?」

 

「ここで信仰される神と一緒にしないで」

 

 

 忌み子として敬遠されていても信仰心を忘れないヴァレンティーナさんは慌て、神様ご本人のアイリスは仏頂面で俺を責める。神話の神々や暗闇に散々振り回されてきた俺なので、何も間違ったことは言ってないと断言できる。

 神を部下に持つ無神論者の俺は大きく溜息をついた。

 人間が考えるような神なんざ、この世に存在せん。

 

 

「つかヴァレンティーナさん、どうしてその話を俺に?」

 

 

 尋ねたのは俺からだけれども、どう考えても俺に話してはいけないタイプの真実だった。もし俺が神を敬愛する狂信者タイプの勇者だったならば、喜々として彼女の首を切り裂こうとしただろう。いくら手足を縛っていても、彼女の話は隠さなければならない秘密なのだから。

 

 俺の問いに彼女は真っ直ぐな視線で答える。

 そこに嘘偽りはなく、絶対的な自信が込められていた。

 

 

「貴方なら――オウカ様なら、私に危害を加えるようなことはしないと思いました。どうしてなのかは分かりませんが……このような勘は昔からよく当たるんです」

 

 

 ちょっと怖かったですけどね、と苦笑いを浮かべる少女。

 そりゃ光栄なこった、と肩をすくめる俺。

 サンドイッチ美味い、と仏頂面のアイリス。

 

 それぞれ別の世界の出身者達は笑い合った。

 ――その時だった。聞き覚えのある野太い悲鳴が倉庫にも響き渡ったのは。

 

 

「っ!? ボーワドンさん!?」

 

「おい、ちょ――行っちゃったか」

 

 

 呼び止める間もなくヴァレンティーナさんは倉庫を飛び出し、俺は行き場のなくした呼び止めの声を飲み込んでアイリスを見る。

 尋常ならない自体が起こったのであろう悲鳴。

 イレギュラーな事件が発生したに違いない。

 

 

「……この村に新しく人の気配が増えてる。二百人くらい?」

 

「一瞬にしてここに来たわけじゃないだろ。どうして気づかなかった」

 

「サンドイッチが悪い」

 

 

 どうやら彼女のサンドイッチを気に入ったようだ。

 それはそうとして、俺達は監禁されている身。(いつでも村を強行突入できる手段があるけれども)村で起こった問題に、よそ者が関与するのはよろしくないだろう。倉庫にいる俺達に被害が及ぶ可能性は少ないし、ひとまず待機という結論を出した。

 俺は休憩がてらに瞳を閉じ、アイリスは暇なのか倉庫をゴロゴロしていた。

 

 時間を潰すこと数十分。

 今度は若い少女の悲鳴……否、絶叫が耳をつんざく。

 声帯を潰さんばかりに喉から絞り出すような絶叫に、俺は反射的に叫んだ。少し前まで話をしていた少女の声だと判断し、思わず声を出した俺自身に驚いた。

 

 

「アイリス!」

 

 

 突如として身体を襲う開放感。

 手足を縛っていた縄が細切れになったのを確認することもなく俺は立ち上がり、アイリスも手足の枷をそこら辺に放り投げる。

 

 倉庫の扉を前に耳を当てて周囲に人がいないことを確認し、脱出した俺達は家々の後ろに隠れながら、脱走したことを悟られないように警戒しながら走る。

 音を立てぬよう走る技術は体ではなく記憶が覚えており、女神様も俺をサポートする慣れたように俺の後ろをついて来る。言葉も交わさないのに動きがシンクロしている姿は、第三者から見れば洗練された無駄のない動きに見えるだろう。

 複数の人の声が聞こえるようになったのを確認して、やっと声を発する。

 

 

「服と武器になるようなモンくれ」

 

「うん」

 

 

 アイリスが最初に取りだしたのは黒いジャケット。

 彼女が羽織っているものと同じ外見をしており、俺にとって十数年ぶりに袖を通す服だ。サイズもぴったり合っており、動きに支障が出るようなこともない。

 ブレザーをアイリスに預けて動きを確かめていると、武器についての質問をされた。

 

 

「RPGと竹輪(ちくわ)とカスタネット……どれがいい?」

 

「お前マジで俺に自衛させる気あんの?」

 

 

 手に物騒な武器(ロケットランチャー)と穴の開いた棒、楽器を差し出しているポンコツ女神に、上司たる俺は真顔で毒を吐く。

 本当にコイツって余計なもんしか虚空に入れないよな。

 ロケットランチャーしか選択肢がないことに諦めの境地に達していると、

 

 

「……あ、ハンドガンもあった。弾倉も」

 

「女神様……!」

 

「うん、もっと私を褒め称えて」

 

 

 やっと誤爆しなさそうなマシとも呼べる武器を取りだしたアイリスに、涙が出そうになるほどの感謝の念を覚える。それを受け取って懐に仕舞った俺は、近くにあった木箱に乗って、屋根の上まで軽々と飛び乗る。それができるくらいの運動神経はある。

 アイリスは飛べるので、運動神経云々の問題はショートカットし、二人一緒に村の広場みたいな場所に群がる人々を眺める。

 

 

「「………」」

 

 

 俺の目に映ったのは――処刑台に立つヴァレンティーナだった。

 

 

 

 




【次回予告】

「異端者に死の鉄槌を!」
「平和に静かに暮らすことすら許されぬのか!?」
「私は……どうして生まれてきたんだろう……?」
「桜華、指示を」


「さぁ――宗教戦争とやらを始めようぜ」
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