俺の部下の異世界無双   作:十六夜やと

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ちなみにモブの名前は適当に決めてます。


第五話 俺の部下と『怠惰の魔術師』

 78.4%。

 

 

 かつて俺が率いていた部隊。俺が隊長格を務める前まで致死率はこの数値を叩きだしていた。

 テロや鎮圧の後手に回るために最前線に送られてきた結果としては妥当だとは思うが、年に十人中二人しか生き残らない組織は、さぞかし統率の取りにくかったことだろう。そりゃ何の準備もなしに敵に突っ込んでいけば、ぽこぽこ味方側の死人が増えるのは当然だ。

 だから第一部隊は『死の棺桶』なんて言われていた時期もあったそうだ。

 

 

「アイリス、処刑台の上にいるヴァレンティーナさん以外を瞬殺できるか?」

 

「是非もなし」

 

「OK、その後あそこの家に立てこもって殲滅戦を行う。前線はお前、後方支援は俺が担当する。お前の負担が大きいかもしれんが……いけるか?」

 

「有象無象程度に遅れはとらない」

 

 

 故に――第一部隊に配属される連中は、何らかの理由で種族から捨てられた者達の集まりだった。

 出来損ないの廃棄所。それが致死率78.4%の使い捨て部隊であり、忌み嫌われ蔑まれてきた奴等の巣窟として扱われてきた。

 だから俺が部隊長になった時、俺は連中に言った。

 

 『とりあえず頑張ろう。ダメなら逃げよう。たかだか一つの任務を達成するのに、わざわざ俺達が死ぬ必要はないだろう?』

 

 んな暗闇のしょーもない理由で死ぬ必要はない。

 こちとら命が惜しかったから、突撃の言葉しか知らなかった訳ありの連中に『敵前逃亡』の選択肢を与えた。最初から戦略的に負けた状態から始まるのだ。わざわざ敵の有利な状況から殺し合うのは不公平じゃないか?

 

 

「私は……どうして生まれてきたんだろう……?」

 

「んな難しく考えんなよ。答え出る疑問じゃねぇぞ」

 

「――えっ」

 

 

 もちろん仕事を蔑ろにするわけにはいかない。

 しかし、勝てない戦をするほど俺は浪費家じゃないから、逃げることを繰り返して勝機を見定め、確実な勝利を捥ぎ取っていく。

 そんな戦い方をしてきたため、第一部隊の致死率は10%を下回ると同時に、俺は街の連中から『怠惰の魔術師』と呼ばれるようになった。

 

 

「つわけで失礼、っと」

 

「っ!?」

 

 

 『怠惰の魔術師』

 曰く、第一部隊を率いる部隊長の二つ名。あらゆる戦から逃げることを推奨し、自分の与えられた任務に消極的な行動を取る、『怠惰』にふさわしい行いをする問題児。しかし――彼の部隊は負けたことが一度(・・)としてなく、負けない戦を展開することに長けた、戦術の天才である、と。

 戦略の重要性を誰よりも理解し、万全を以て敵を叩き潰す歴戦の殺戮集団。

 その中核を担う――まるで『魔術師』のように未来を見据えた戦い方を指揮する者。

 

 

「アイリスお前肉盾役な! あと鎧着てる馬鹿共を一人も逃がすんじゃねぇぞ!? とにかく目の前に居る僧兵を狩ることを第一に考えろ!」

 

「肉盾は酷い」

 

「お前のステなら剣刺さってもドットダメージも受けないだろ」

 

 

 そんな噂が流れた時期もあった。

 確かに負けない戦をするように心がけてきた。

 だが、俺はそんな称号欲しさにやってたわけじゃない。

 

 

「ダメ……です……! オウカ……様がっ、殺されちゃう……!」

 

「あんな連中如きに死ぬくらい記憶が鈍ってなきゃいいけど、ねぇ!」

 

 

 俺が死にたくなかったから。

 何より――俺の部下(仲間)を死なせたくなかったから。

 そんな簡単な理由のためだけに、俺は『不敗』の二文字を頑なに守り続けた。

 

 

「あぁ、もう! なんでこんな面倒なことに巻き込まれなきゃいけなかったんだろうなぁ!? どーして俺は剣と魔法の世界で二百人相手にハンドガン持って銃撃戦しようとしてんのかねぇ!? わっかんねぇわ、俺の人生!」

 

「桜華、指示を」

 

 

 これも十七年前の話だ。

 だから、だろうか。

 仲間から忌避され俺の部隊に流れてきた嘗ての部下達。それと彼女の状況が重なって見えて――

 

 

「こっち来る人間は皆殺し、それ以上に指示いるか!? さぁ――宗教戦争とやらを始めようぜ!」

 

 

 ――俺は彼女を守ろうと思ったのは。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「何なんだ……何なんだ貴様等はっ!? 我々教会の騎士団を敵に回すことを理解――」

 

 

 しているのか!?、とでも言いたかったのだろう。

 けれども、そう叫んだ騎士の顔は真一文字に切り裂かれ、人間の頭を構成する臓器を撒き散らしながら地面へと沈む。こうも簡単に人がよく分からない理由で死ぬとなると、後方で控えていた奴等も怯んで足を止めてしまう。

 こっちから赴けば問題ないけどね。

 

 前線で目まぐるしく大鎌を振り回して活躍するアイリスに苦笑しながら、俺はハンドガン片手に家へ近づいて来ようとする騎士を射殺していった。剣などじゃ明らかにリーチが短く、なら遠距離で魔法を撃とうとすると率先してアイリスが斬り殺しに来る。

 現段階で教会の騎士団とやらは不審者二名に翻弄されていた。

 アイリスのレベルが頭のおかしい数値なのも理由の一つだろうし、拳銃という異世界のオーパーツの御蔭でもある。だが、一番の理由は――

 

 

「子供相手に何を手間取っている!? 神に逆らう大罪人を殺せ! あの異端者に与し愚か者共に死の鉄槌を下すのだ!」

 

 

 あの無能指揮官のせいじゃねーかな。

 よく相手の能力も理解せず、引き際を見極めようとせず、悪戯に自分の兵をすり減らしていく。いやー、混乱してるのは同情してやるけど、突撃しか指示しないとか脳ミソ入ってんのかね?

 

 俺は肩をすくめながら弾倉を取り換えて――自分達が隠れている家の窓に銃を発砲する。

 小さく悲鳴を上げたヴァレンティーナさんを配慮しない形となるが、銃弾は窓の外にいた騎士の脳天をぶち抜いた。そろそろ裏側から回り込む危険性も考えた上で後ろを見たわけだが、見事に的中したわけだ。

 それにしても手首と肩が痛い。

 銃の扱い方は記憶として知ってはいたものの、いざ実際に使ってみると身体が軽い悲鳴を上げている。この身体が銃を撃つ経験は初めてなので、慣れないことをしたツケが節々に来るな。反動が割と大きい銃を使っているのも要因の一つだ。

 

 

「明日は筋肉痛確定だわ。後でアイリスにマッサージでも頼もうかねぇ」

 

「だ、大丈夫なのですか、オウカ様」

 

「さぁ、どうだろ? とりあえず騎士団皆殺しにするまでもたせてみせるさ」

 

 

 ん? なんか無能指揮官が叫んでるな。

 

 

「くっ……! あれも異能者……化物の仲間とでも言うのか!?」

 

 

 俺にとっては「はいはい、そうっすねー」程度の発言なので、お構いなしに狙いやすい騎士を撃ち殺して屍を築くのだが、この発言に過剰に反応したものが近くにいた。金髪の美少女は無能の言葉にびくりと肩を震わせて、弱弱しい声で俺に語り掛けてくる。

 

 

「申し訳ございません、オウカ様。私のせいでオウカ様方にも迷惑をかけてしまい……あまつさえ化物扱いをさせてしまって――」

 

「え!? 何聞こえない!?」

 

 

 弱弱し過ぎて発砲音にかき消されたんだが。

 今度は俺にも聞こえるような声で復唱したヴァレンティーナさんに、俺は内心大笑いしながら肩を竦める。彼女のことを笑ったわけではなく、『化物』扱いされることに、だ。

 撃ち尽くした弾倉を慣れた手つきで取り替え、俺は周囲を警戒しながら微笑みを異端の少女に向ける。

 

 

「確かに普通の人間から見れば、君には何かしらの特異な力があるんだろうよ。そんな『不思議』を人間は恐れるものだし、化物と言う気持ちも分からなくもない。けどさ、君が化物なら……俺達は何なんだろうな?」

 

「どういう、意味ですか?」

 

「んなの見りゃ分かる。あれとか」

 

 

 入り口から頭だけを出して、俺が顎で示した方向を確認する金髪の少女。そこには何かしらの神を信仰する連中にとっては地獄絵図、前世の記憶を持つ俺にとっては懐かしくも日常茶飯事だった光景が、背丈よりも倍以上ある大鎌を軽々と振り回す死神のような少女の手によって作り出されていた。

 示してから「あ、やっべ」と軽く後悔する。村育ちの『普通の』少女にとって刺激の強すぎる絵だったかもしれない、と。

 案の定、顔を青ざめるヴァレンティーナさん。

 

 鎌を振り回す度に消え逝く命。

 アイリスに向かって剣を突き立てる猛者も少なからず存在したが、刃は柔らかそうな皮膚を傷つけることさえ叶わず、また火球や閃光なども魔法ですら彼女の足を止める理由にすらならない。

 矢など放ったならば、それを空中で掴んで相手に投げ返す始末。弾丸よりも早い音速を越えた矢は、放った騎士の額を貫通させる。鉄の鎧は彼女の攻撃を防ぐには脆すぎるのだ。

 

 

「剣も魔法も通用しない。とにかく敵を殺すことだけを忠実に実行するアレこそ化物だぜ? そんなんに比べたらヴァレンティーナさんなんて可愛いもんだよ」

 

「………」

 

「まぁ、この世界じゃ君も化物なんだろう? つっても俺達にとっては『化物』なんざ聞き飽きた単語じゃあるけどね」

 

「……オウカ様は、寂しくないんですか?」

 

 

 何が?と近くに来た騎士を撃ち殺しながら尋ねる。

 少女は小さい悲鳴を上げながらも、俺を上目遣いで見上げながら問う。

 

 

「化物は皆から嫌われる存在です。誰も助けてくれず、ただ退治されるだけの存在……そんな風に意味嫌われて、オウカ様は寂しくないんですか? 私は、寂しい……です」

 

「俺は化物なんて言われたことは………………いや、まぁ、あるっちゃあるけど、アイリスや俺の知ってる奴等は『化物』なんて腐るほど言われたもんだよ。存在自体が歪なもんだから反論しようがない」

 

 

 でも、と言葉を続ける。

 

 

「だから俺達……他にも化物仲間がいるんだけどさ、ソイツ等は一緒にいる。行き場のない連中の寄せ集めだけど、全員が忌み嫌われた経験があるからこそ、俺達は寂しくないし『化物』と言われようが気にしない」

 

 

 もちろん例外も少なからず居たが、俺達――第一部隊は寄せ集めながら、他のどの種族よりも結束が堅かった。身体に流れる血ではなく、流した血によって繋がる戦闘集団。

 故に寂しいなんて思ったことはなかった。

 思うわけがない。俺達は――仲間なのだから。

 

 

「確かに化物とか言われたらショックを受けるのも無理はないよ? でも、それでいいじゃねぇか。言う奴は言わせておけばいい。認めてくれる奴は少なからず存在するんだからさ」

 

「そう、そして仲間は見捨てない、それが私達の掟」

 

「おう、終わったんか?」

 

「桜華が話してるうちに終わった。指揮官は適当に捕まえているから、判断は桜華が決めればいい」

 

 

 制服の一部を赤い液体で染めたアイリスが、大鎌を消しながら歩いてくる。実体を持たない闇を凝縮させて作った獲物だから、アイリスの意志によって出現させたり消したりできるとか。

 詳しくは知らん。

 

 敵はいないことを確認した俺は、ヴァレンティーナさんを立たせようと手を伸ばす。彼女は俺の手をとって立とうと足に力を入れたが、ふと腹部を押さえて俺に寄りかかる。

 俺のクラスメイトよりも二回りくらい育った胸が、俺の身体に押し当てられる。ふむ、85……いや86か? しかも成長期真っ只中と推測するからして、まだ育つ余地があるとか末恐ろしいな。

 これが異世界人か。

 

 

「っ! す、すみません……」

 

「いやいや、焼き印のところが痛かったんだろ? つっても、その変な印ってなんだろうな? 無能指揮官の好みとかだったら、何か情報吐く前に殺すわ」

 

 

 純真無垢な女の子の肌に焼き鏝押し当てて、焼き印を刻むとか、この世界の聖職者とやらは随分マニアックな趣味をしている変態なんだろう。もう協会とかいう組織滅ぼしてやろうか?

 とりあえず俺のジャケットで露になった下腹部を隠しているが、もうちょっとマトモな服を着させてあげたい。

 でも、俺とアイリスは持ってないからなぁ。

 

 

「あとで考えるか。あ、そういやアイリス。その協会とやらの騎士の中で逃がした奴はいる?」

 

「何人か。桜華を守ることで精一杯だった」

 

「うーん、ならしゃーねーか。できれば口封じ目的で皆殺しにしたかったが……」

 

「――ご心配には及びませんよ」

 

 

 ボロボロになった家の前で会話していた俺達に、美しいテノールの声が介入してきた。いまだに胸に寄りかかるヴァレンティーナさんは聞きなれない声に肩を震わせていたが、俺とアイリスは聞き覚えのある声に、それぞれの反応で返す。

 まさかアイリスの次に会うとは思わなかった。

 あと会話が通じる奴で良かった。

 

 

「おう、ゼクス。十七年振りだな。元気してたか?」

 

「お久しぶりです、隊長殿」

 

 

 振り返ると、第一部隊所属を示すジャケットをきっちり着こなし、胸に手を当てて四十五度の綺麗な御辞儀をする美青年の姿があった。白銀に近い短髪を揺らし、少々青白い肌をした執事のような青年。

 どっかのクラス一のイケメンなど比べ物にならないほど整った顔立ちの男――ゼクスは、微笑みながら佇む。

 ……まぁ、足元に落ちている騎士の頭(・・・・)がなければ、ただのイケメンで通るんだけどなー。しかも二個落ちている頭部は共通して、干からびて血がないように思われる。

 

 

「ここに来る途中に遭遇した人間、この二名は処分させて頂きました。食事として活用したことは事後報告となりますが、よろしかったでしょうか?」

 

「被害者が嫌と言わなければな」

 

「なら大丈夫ですね」

 

 

 死体は喋らん。つまりはそういうことだ。

 俺は一息ついた後、歩けなさそうなヴァレンティーナさんを抱き上げる――簡単に言うと『お姫様抱っこ』をして、村人と協会から派遣された連中の生き残りの元へ歩みを進める。

 それにアイリスとゼクスは追従する形でついて来る。

 

 

「ちょっくら情報貰いに行こうか」

 

「了解」

 

「お供します」

 

 

 俺は歩きながら村人や捕虜に何を尋ねるかを頭の中で纏めていた。

 だから――彼女の決意に気づかなかった。

 

 

「オウカ様、私は――」

 

 

 

 




【次回予告】

「ごめん、名前知らんから『モブ太郎』でいい?」
「えぇ、化物です。それが何か?」
「サンドイッチを所望」
「初めまして、人類の皆さん」

「まぁ……俺には関係ない話だけどな」
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