俺の部下の異世界無双   作:十六夜やと

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主人公の最大の敵って味方なのではなかろうか( ゜Д゜)


第六話 俺と部下と今後の話

 どうしようかねぇ。

 狂信者連中に言葉で聞かせるのは不可能だということを前世の記憶で知ってはいたものの、ノリと勢いで騎士団みたいな連中を皆殺しにしてしまった。少なくともヴァレンティーナさんはこの村に居ることはできないだろうし、かと言って俺達の同類(化物)たる彼女を見殺しにする選択肢はなかった。

 黙って村人のところまで着いて来る二人と、捕虜、そして抱えてるヴァレンティーナさんをよそに、俺は脳内で今後の策を練る。

 

 村人は騎士団のせいで一ヶ所にまとめられており、彼らを監視していた騎士達は彼らの足元で屍となっていた。

 俺達が起こした騒動に便乗したのだろう。それにしても、この村のじじばば強ぇな。

 

 

「どうぞ、村長さん」

 

「……なんて……ことを」

 

 

 銀髪の青年――ゼクスが無造作に放った無能指揮官を前に、村長さんは絶望的な真っ青な顔で俺達を見ていた。他の村人達も顔色が良くない上に、捕虜の白いローブを着た男は憎しみの瞳を俺達に向ける。

 この周囲に散らばっている騎士達を皆殺しにしたのが理由か、後ろで返り血を拭こうともせずに佇んでいる二人のお供に怯えているのか、本来ならば渡しちゃいけない『姫様』とやらを俺が担いでいるのが原因なのか。ともかく顔色が優れない。

 神父だっけ、司祭だっけ? そんな服装をした男は吠えた。

 

 

「貴様等ぁ……! このような仕打ち、我々教会を敵に回して――なっ!? 勇者様!?」

 

 

 どのように村人に説明するか、この無能からどうやって情報を搾り取るか。そんなことを考えていた矢先、突然俺のデバフを言い当てる無能。

 村長の時も疑問に思ったけど、どこから個人情報が漏れるのか。俺は抱えていたヴァレンティーナさんを下ろしながら彼女に尋ねてみる。村人からは『お姫様』と呼ばれているはずの金髪の美少女は、俺を支えにしながら立ち上がり、質問に律儀に答えてくれた。

 

 

「なぁ、どゆこと?」

 

「えっと……とあるクラスのスキルに『看破』というものがありまして、自分のレベルよりも低い相手のステータスを閲覧することができるんです。魔道具にも同じような効果があるものも聞き及んでありますが……」

 

「あー……あー……レベル、上げないとなぁ」

 

 

 つまり俺がLv1な限り、相手にステータスを簡単に見られるというわけか。

 今すぐにどうにかなる問題ではないので一旦置いておくとして、ステータスを守るためにもレベル上げを決意する弱小勇者。

 ヴァレンティーナのことをアイリスに任せた俺は、無能指揮官の前にしゃがんでニコニコと笑みを浮かべながら自己紹介をする。これから死ぬ人間に名乗る必要がないけれど、これは傍観している村人達にも向けた説明を含んでいたから実行する。

 

 

「俺の名前は櫻木桜華。……いや、アジア圏とか以外だと姓名逆になるとか良くあることだし、『オウカ・サクラギ』とでも名乗ったほうがいいのか? まぁ、いっか。えーと……ごめん、名前知らんから『モブ太郎』でいい? 知るつもりもないし。アンタが看破した通り『勇者』のクラスを持つ異世界人だ。んで、コイツ等が――」

 

「……アイリス・ミネルヴァ」

 

 

 アイリスは安定の仏頂面で淡々と名前だけ述べた。

 そしてヴァレンティーナさんに向かって「サンドイッチを所望」と彼女を困らせていた。相変わらず空気を読まないし、読もうとも思いすらしない天下の女神様だ。桜華さんは変わらず我が道を行くアイリスさんに泣きそうだよ。

 村人も捕虜もポカーンとしていた。

 

 一方の会話が比較的通じる方の部下である銀髪の青年は、胸に片手を当てながら四十五度の綺麗なお辞儀をしつつ、自分の名前を始めとする自己紹介を行う。

 美形の声は美しい。それを体現したかのような、すらすらと聞き取れる美声だ。なぜ『美形の声は美しい』かというと、声の美しさには骨格も関係しており、美形は骨格が美しいからだと俺の部下である長老は言っていた。

 

 

「初めまして、人類の皆さん。私はゼクス・レイヴィランツフォードと申します。吸血鬼(ヴァンパイア)一族の『最古の十氏族』の末席に名を連ね、第一部隊では副参謀をしております。爵位は公爵。以後お見知り置きを」

 

 

 仏頂面な女神とは正反対で、与えなくてもいい情報をわざわざ与える吸血鬼の青年。

 そう、このイケメンは社交的な笑みを浮かべてはいるが、人間の血を糧として生きる、東欧を起源とした『血を吸う怪物』なのだ。現代では民謡や伝承なのでしか見られない架空の生き物として扱われているが、前世では街でも力を持つ種族の一つとして畏怖されていた存在。

 『不死者』『生と死の狭間の生物』の異名を持つ吸血鬼の中でも、頭のおかしいくらい実力を持った集団。その一翼を担う奴がコイツなのだ。

 

 さてさて、己を『吸血鬼』名乗った青年。

 どうやら前世でも恐怖の対象として扱われていた彼は、この世界でも健在らしい。現地人の方々は青ざめて肩を震わせる。

 

 

「きゅ、吸血鬼……上級魔族だと……!? なぜこのような辺境の地に!? いや、なぜ勇者様が忌まわしき魔族の化物と一緒に行動しているのですか!?」

 

「えぇ、化物です。それが何か?」

 

「答える義理はなし。というか自分の立場分かってる? さて、俺からの質問だ。彼女――ヴァレンティーナを狙って村に来たってことは把握してんだけど、どうして?」

 

 

 口割ってくれるまで何して脅そうかなぁと考えていたけれど、白い司祭風の男は案外すんなりと話してくれる。

 勇者には逆らえない……とか、そういう掟でもあるのか?

 

 

「へぇ……ミクトラン王国っつーところの第三王女、ヴァレンティーナ・フォン・ミクトランねぇ。その王国がどこにあって、どの程度の規模なのかは知らんけど、やっぱり良いところのお姫様だったんだな。あ、王族だし媚経面って跪かないと失礼か?」

 

「今更でしょう? そもそも下手に出る利点がありません」

 

「それもそっか」

 

 

 同胞と仲間以外にはメリットがなければ敬意すら払わないゼクスが鼻を鳴らし、アイリスは我関せずのスタンスを崩すことなく、仏頂面で指揮官を見下ろす。

 どうやら厄介な人物を助けてしまったようだ。

 あんまり政には関わりたくないんだよなぁ。前世の書類祭り、サービス残業、毎日睡眠時間一時間未満を思い出す。

 

 そして彼は語る。

 彼等は人間側が信仰する『神光教』が保有する騎士団であり、近くの街の教会に支部を置いているらしい。この騎士団は境界線付近に現れる魔族の殲滅を主としており、双方の勢力が拮抗している状態のため、砦を建てようにも互いが邪魔をして、付近の街に在中しているのだとか。

 『神光教』の教義は簡単に言うと『魔族と獣人は人類の敵。みんなぶっ殺そうぜ』。そしてステータスに表示されない能力を持つ人間は、魔族の血が流れているとされてサーチ&デスの対象らしい。怖いね。『神の恩恵(スキル)以外の能力は認めず、それは魔族の種族特有の能力に似ているからである』とか理不尽すぎるやろ。

 

 彼女の異能『盗人の瞳』は教会で特に取り締まりが厳しいらしく、なぜなのかは彼自身も知らないらしい。それが神光教のルールなのだから疑問にも思わないのだろう。狂信者の特徴だ。

 彼女と同様の異能持ちが過去に何かをやらかしたのか、彼等側には盗まれると不利益を被る術式や魔法があるのか――それとも『盗人の瞳』そのものに何らかの秘密があるのか。ひとまず彼女は何も悪くないことが嫌と言うほど理解できた。

 

 捕まえた彼の言葉を聞く間、俺は微笑を崩すことなく手元の銃を弄くっていた。撃ち尽くした弾倉を取り替え、安全装置を外したり着けたりを適当に繰り返しながら、神光教とやらの教義の言い分とやらに耳を傾けていた。

 危ないことなのは重々承知してはいるものの、久しぶりに心底下らない思考を見たものだ。これが人間の崇める一神教か。笑わせる。

 そして最後の彼の言葉が俺の行動を決定付けた。

 

 

「……下腹部に焼き鏝をするのは、その印が人間の間で有名な『異端の印』であり、異能者が子を孕ますことを防ぐためのもの、と。確かに隠しにくい場所ではあるし、魔法による隠蔽不可の呪いも含まれているとなると、異能者を減らすには有効か」

 

 

 防ぐ以前に、お前等その場で殺すじゃん。

 そう思うのは俺だけだろうか? 見せしめ目的も理由に含まれそうだ。

 

 

「アンタ等の考えも理解できない訳じゃあない。自分達と異なる不気味な力を持つ同族なんざ、怖いに決まってる。排除したいと考えるのは人間として当然の反応だと思うよ」

 

 

 初めて肯定的な意見を口にする俺。

 その言葉に俯いていた神父もどきは笑顔で顔を上げて――目に写る光景に表情を強張らせた。そりゃ額に拳銃を構えられたら、先程まで自分の配下を殺していた武器を持っていたら、そうなるわな。

 

 

 

 

 

「まぁ……俺には関係ない話だけどな」

 

 

 

 

 

 安全装置を外した拳銃のトリガーに迷わず指をかけた俺は、何の迷いもなく目前の男を撃ち殺した。ゼロ距離から放たれた弾丸は男の頭蓋骨を貫通して風穴を開ける。物理法則に則って身体を支える力を失った死骸は崩れ落ち、その様子を見ることなく俺は立ち上がって二人の配下に目を向ける。

 女神は興味もなく元王女様を支え、吸血鬼は笑顔で「もう血は十分です」と聞く前から男の処理を断ってきた。反対に元王女様は青ざめて今にも吐きそうだ。

 

 生かすメリット云々の問題以前に、生かしておく理由が俺の中になかった。こうなると神光教と完全に敵対する形になるけれど、こんなん味方になっても困るし。

 彼等の思想は俺達とは相容れない。その時点で避けられない結末だと思うのは俺だけか?

 

 

「さて、お待たせしました」

 

「………」

 

 

 俺は取り繕った笑顔で村の方々に向き直る。

 村長を始めとする一部は、俺に恨めしそうな視線を向ける。その他はというと、こちらの手の内にあるヴァレンティーナさんを取り返そうと、騎士団から奪った武具を構える者もいた。構えるだけで一人として勇猛果敢に襲ってくる奴はいないけど。

 そりゃ騎士団壊滅させた化物に挑むとか、勇敢を通り越して蛮勇とも言える行為だろう。加えて彼らの行動は、俺の推測が真実と成り得るであろう手懸かりの一つとなる。

 

 

「勢いとノリで自然と彼等を皆殺しにする結末とはなりましたが、こうやって彼女が無事であることは幸いでした」

 

「……戯言を」

 

「ん? でも貴殿方にとって彼女……ヴァレンティーナ・フォン・ミクトラン元王女殿下を死なせるわけにはいかないでしょう? ――先王に仕える者としては」

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

 

 男女問わず村の人々は息を飲む。

 ……これは図星と捉えて大丈夫かな。割りと根拠が弱かったけど。

 村長さんだけが目を細めて俺を睨み、厳かに理由を問う。ゼクスだけが「え? これどういう状況ですか?」と首をかしげ、アイリスが位置から説明する。

 が、後で俺が詳しく教えとこう。あのポンコツ女神が詳しく説明できるはずがない。

 

 

「彼女のことを『姫様』と口にした、神光教と明確に敵対する行為をしていた、先王によって彼女が村に移り住んだ、この村の平均年齢が異様に高い……などの適当な理由から推測しただけです」

 

 

 ぶっちゃけ外れていても俺に害はないし。

 神光教の『先王が孫娘を隠した』という言い分が正しいと仮定して、そもそも俺なら国王としての義務を蔑ろにしてでも、大事な孫娘を預けるというのならば、何かしらの信頼を寄せる面々に任せるのは当然のことだろう。

 隙を見計らって騎士団を迅速に制圧する手際の良さ、村に住む彼等の平均年齢の高さから、排他的な村の空気から、俺は『彼等は先王に仕えていた者達だったのでは?』と考えたのだ。

 最初は興味なかったから証拠が少ないが、村を探せば見つかるだろう。

 

 

「……流石は勇者、とでも言うべきか」

 

「レベル1の雑魚だけどな。俺が言いたいのは彼等を皆殺しにしたことにより、アンタ等の逃げる時間は稼げたってことだ。いつかは神光教に知れ渡るとこだが、ないよりはマシだろう?」

 

「もう手遅れだ。我々は先王の遺言を守れなかった」

 

 

 もう敬語を使う必要はないと判断した俺の発言に、ボーワドンと呼ばれていた老人は膝をつく。

 

 

「『殿下に普通の生活を享受させ、人並みの幸せを与え、王族という立場に縛られない恋をさせたい』……先王陛下の願いを守り抜くことができなかった。もはや印を刻まれた殿下は人類の敵として認定され、楽園へ赴くことすら許されぬ」

 

「儂等は……老いすぎた。このままでは殿下に平穏を与えるどころか、その身を守ることさえ叶わない。それにこの村のような隠れ里を見つけられるとは思えん」

 

「なぜだ……! なぜ姫様がこのような仕打ちを受けねば!?」

 

 

 もう、この人達は詰んでいるのだろう。

 王女様を守るための村が神光教に把握され、次なる場所を見つけるには彼等は歳を取りすぎたのだ。このままでは彼女は間違いなく見つかって、神光教にとっては害悪認定された『盗人の瞳』を持つ少女は今度こそ殺される。

 なまじ上手く隠れられたとしても、宗教に洗脳された人類では、異端の印を刻まれた少女の相手となる男性を見つけるのは難しいことなのだろう。彼等は少女よりも先に死ぬことは明白であり、これでは彼女を守る人間がいなくなる。

 

 絶望的な彼等の言葉に俺は立ち尽くし、彼女もアイリスにしがみつきながら真っ青になる。

 俺には関係のない話。

 何とかしてやりたいという気持ちもなくはないが、複雑な案件だけに俺には手の施し用のない問題だ。俺はゼクスに目を配らせ、この後どうするか話し合おうとしたところで――

 

 

「私に、考えがある」

 

 

 やっべぇ女神が動く。

 

 

 




【次回予告】

「捨てる神あれば拾う神あり」
「え、ちょっと待って。それ聞いてない」
「貴女に悪魔と相乗りする勇気がありますか?」
「非人道的? 何を今さら」

「えぇ、地獄の底まで」
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