三人目のヒロインですね(すっとぼけ)。
第八話 俺の部下と新たな街
人間の支配する領土の北西部。魔族との境界線に位置する、人族でも二番目に大きな国――ミクトラン王国。
歴史は他の人族国家と比較すると、起源は古く千三百年前に遡ると言われている。かつて魔王を討ち滅ぼした人族の勇者――ミクトラン一世によって建国され、現代でも人族の盾として、魔族の侵攻から人々を守り続けた伝統ある君主制国家らしい。
ミクトラン王国は大まかに七つの州に分かれており、それぞれが有力な貴族の幾ばくかの支配権によって治められている。
治める人間によって、その州の特色が分かれるという話を耳にしたが、現在俺達の居るミクトラン国王領ワルラス州は『冒険者ギルド』を各地に有した地域なのだとか。
『冒険者ギルド』の支部を街に置くことにより、支部にある程度の権限を与えることで、自治をスムーズに行うのが目的の一つらしいな。
「……なぜに追放された国の膝元に隠れ里なんて作ったんかねぇ。どうぞバレて下さいませって言ってるようなもんじゃん」
「だからこそ王国領に隠れたのでは? 誰しも国外逃亡をしたと思うでしょうし、自分達の庭である自国ならば身を隠す場所を見つけるのは容易いでしょう。他国と比べたら」
「なーるほーどねー」
村を離れた俺達は、近くにあった街を大きく避けて隣の州に足を運んでいた。隠れ里のあった州――テイカー州で、村人達が各々の故郷に帰るために村を出ていったのを確認した化物御一行は、新たな仲間を有してワルラス州の街を目指していた。
村長のボーワドンさんに土下座までされてティナのことを頼まれたけれど、仲間になった時点で『見捨てる』って選択肢はないんだよなぁ。
舗装された道を突き進む俺達。
実はワルラス州に出現するモンスターは厄介なものが多く、冒険者ギルドが点々としている理由の一つでもある。
街道ですら俺の数十倍は強いモンスターが蔓延っているため、武器を持たずに雑談をする余裕などないのだ。周囲をくまなく警戒するのが常識であり、それを知識として知っていたティナは、最初は物凄くビクビクしながら俺の服の裾を掴みながら歩いていた。
「――周囲のモンスターを一掃してきた」
「ご苦労様です」
んなモンスターも女神の手によれば案山子同然だが。
「ほら、見てくれよティナ。ここの経験値の欄」
「ぜ、ゼロですね……」
本来ならば無闇に明かすのはタブーとされているステータスを、何の躊躇もなく他者に見せる異世界の勇者様。そのステータスの凄惨さに新たな仲間は返す言葉が見つからず、困ったように冷や汗をかいているのであった。
こんなゴミみたいなステータス、一桁と何もないスキル欄しかねぇよ。仲間に見せるのを躊躇う必要性が感じられない。
補足だがティナのステータスを見せてもらったのだが、クラス『
つか俺の五十一倍強いってだけで十分なのだが。
あと、この世界で分かったことが幾つか。
まず同族を殺しても経験値は入らないということだ。
村の防衛戦で数十人の騎士をヘッドショットしたのだが、ご覧の通り経験値が1も入っていない。魔族や獣人ならば経験値が入手できるのだが、悲しいことにこれが現実なんだよね。
そして『銃』の攻撃は銃そのものの攻撃に依存するらしい。
分かりやすく説明すると、剣や魔法みたいに扱う者のステータスに依存するわけではなく、銃は使う人間のステータスに依存せずに、相手にダメージを与えることが可能だ。だから低レベルの俺が騎士を殺せたわけだし、一定以上の防御力を持った敵には銃弾が効かない。
「というわけでLv上げたいです!」
「ダメ」
神は無慈悲だった。
いつもの仏頂面のまま、俺の願いを一言で切り捨てる金髪の女神様。心なしか不満そうだ。
「桜華は私が守る。だからレベルなんていらない」
「下手に雑魚戦で死なれては元も子もありませんしね」
銀髪の青年はこちらに苦笑いを浮かべながら、同情の眼差しを以てアイリスの気持ちを代弁した。彼女にとって俺の死はトラウマに近いものだから、細心の注意を払うのは当たり前だ、と。
分からんでもない。分からんでもないが……これじゃ剣と魔法の世界で、俺のメインウェポンが拳銃になってしまうのだが。
ファンタジーもクソもない。
「俺TUEEEEEしたかったなぁ……魔法で無双したかったなぁ……剣でドラゴンとかと戦いたかったなぁ……」
「そもそも桜華は
「それじゃ意味ねーよ」
本当に実行しそうなアイリスに釘を打ちつつ、俺は周囲を横目で観察した。モンスターがポンコツ女神によって殲滅されたのはいいとして、目の届く範囲に冒険者らしい姿は見えなかった。
そして前方に新しい街が目視できる。
俺は立ち止まって背伸びをしながら、昼間の太陽の下なのに平然と涼しい顔で歩く吸血鬼に声をかけた。
「ゼクス、例のアレを」
「既に用意してあります」
ゼクスが虚空に手を伸ばして引き出したのは、茶色い布で作られた外套だった。物語で旅人が着ていそうな、ギリギリ足元まで隠せそうな作りをしている。
受け取った俺は慣れた仕草で外套をはためかせながら着用した。若干汚れている印象を受けるボロさだが、ちゃんと毎回洗っているらしく、衛生面にも配慮されている。首の辺りで余裕が出るように紐で結びながら、仲間が外套を着たかどうかを確認した。
アイリスは言わずもがな、すっぽりとフードまで被って完璧。
持ち主のゼクスも特に違和感のある点はなく、いち早く外套を身に纏った銀髪の青年は、使用人の如く相手に配慮しながら、茶色いそれを初めて着るであろうティナに纏わせる。
首元の紐の結び方も丁寧に教える辺りに、まるで兄妹のような微笑ましさを感じた。
「……こちらのリボンも結んでみましょうか。髪が少し短いかもしれませんが、小さなテールを後頭部に作ってみるのもありかと。あ、私の伊達眼鏡も掛けてみますか? 眼鏡の有無で印象は変わります。……おや、髪はちゃんと整えておりますか? せっかく素材が上質なのですから、綺麗に魅せる努力を怠っては駄目ですよ。折角ですから化粧でも少々……いや、肌荒れの元になりかねませんし――」
最初は元王女の身元を隠すために『どうやってティナの外見を誤魔化すか』というゼクスの配慮だったのだが、途中から女子力アップのための準備へと変化していった。
コイツこうなると止められないからな。
服の時だって小一時間悩んでたし、ゼクスの持ってる衣装の九割って個人的に着るコスプレのやつだし。
「コスプレも程ほどになー」
「変装とコスプレは違うものですよ……!」
変装とコスプレを間違われたのが心外だったのだろう。そのせいか、反論した吸血鬼の顔は迫真に満ちていた。
♦♦♦
特に問題もなく街に入ることができた。
ちと街の防衛機能に多大なる不安を覚えたのは言うまでもないが、そのお陰で俺達が難なく侵入できたのだから良しとしよう。下手に関所や門番があって面倒事になるだけだしな。
やけに緊張していたティナが俺の腕にしがみつき、柔らかな感触を覚えたのは役得だったと思っておこう。
さて、異世界で初の街並み。
高校の世界史で学んだ中世から近代の町並みに非常に酷似しており、加えて生で見ることによる百聞と一見の差を痛感し、騒がしくも賑やかな人々の往来に年甲斐もなく目を輝かせてしまう。
俺達が入ったのが正門だったのだろう。大通りには様々な出で立ちをした人間が、各々の目的を持って行動していた。
食べ物や装飾品などを売る露天、道端に座っていた音楽を奏でる吟遊詩人、パフォーマンスで人々を楽しませる大道芸人、剣や斧を携えてガチャガチャと鎧を鳴らす近接職の冒険者、粗末なローブに樫の杖を握りしめる魔法使い。現代日本や前世の街ですら見たことのないファンタジー世界に、心踊るなと言う方が難しいだろう。
足の踏み場もないほど人が多い……というわけでもないが、それなりに人が行き交うなかで、俺はことある事に感嘆の声を漏らしながら、周囲をキョロキョロと見渡していた。
もちろん皆とはぐれる愚行は犯さない程度だが。
俺の腕を抱き締める王女様に配慮しながらも、俺は興奮する内心を抑えられなかった。
「さっすがファンタジー! この光景だけでもあの自称神に吹っ飛ばされた甲斐があるってもんだ! ティナ、楽しんでるかぁ!?」
「は、はい! 私は大丈夫です!」
まぁ、それよりもやることがあるので、ゼクスを先頭にして目的地まで行くことになった。
大通りに沿って邪魔にならない程度に歩くのだが、大道芸の中には魔法らしき仕組みで客を楽しませる見世物もあった。それに対して歩きながら、アイリスはティナに芸を指差しながら問う。
「あれ(『盗人の瞳』で)使える?」
「えっと……はい、(私の異能なら複写して)使えます」
もちろん括弧の部分は声に出さない。
女神は納得したような仏頂面で大道芸を眺め、興味を失ったかのように前を見ながら呟く。
「何でも使える……ティナには治癒の術も覚えてもらわないと。私達の生命力も回復できるような強力なの」
「それMP足りないパターンじゃない?」
ちなみに回復魔法を使えると言ったティナがアイリスやゼクスのステータスを見たのだが、常識と言う常識を覆されたためか、卒倒してしまった。
村長には代表してアイリスのを公開してやったが、『どうやってダメージを与えればよいのだ……?』と頭を悩ませていた。彼曰くアイリスの防御力を越えられる生命体は理論上存在せず、唯一可能な『防御無視』とか言われる攻撃を以てしても、今度は気が遠くなる数値の生命力を減らす手段が見当たらないとか。
無論、他の連中にアイリスのステータスは公開していない。
そんな連中の会話だ。
街行く人々には理解できない次元の話だし、ただの戯れ言と聞き流す者が大半だろう。
「そういやゼクスって自動回復とかどうなってんの?」
「……えーとですね、一定時間に生命力の二割を回復するスキルが備わっているようです。吸血鬼としてのパッシブスキルなんでしょう。与えたダメージ分の回復ができるスキルもあるので意味があるとは思えませんが」
「私にはHP回復の手段が少ない。『与えたダメージの三割を一定範囲に拡散させる』とか攻撃系のスキルなら多いのに。防御面が不安」
「防御が不安と俺の前で宣うか。その天文学的な数字の防御力とHPに何が不安なんだよ」
大通りのとある建物の間に続く路地を歩きながら会話する俺達だが、ふと俺にくっついているティナが俯いているのに気づいた。気にしながら歩いているつもりではあったが、何か不都合なことでも起きたのだろうか?
名前を呼んでみると、バッと顔をあげる少女。
そして誤魔化すように笑いながら顔を赤らめるのだった。
「そ、その、すみません! 皆さんの話を聞いていたら、自分が異能で悩んでたことがアホらしくなってきましたので……」
「あー、大丈夫大丈夫。こんなん序の口だから」
「……覚悟しておきます」
恐らく他の仲間の中に混ざる機会があるのなら、三日くらいで感覚が麻痺するだろう。いや、天変地異が日常となるくらい強かに育ちそうな気がする、この子。異能なんて考えている暇があったなら、この先どう生き残るか考えろ!って思考回路になったら完璧だ。
でも、純粋無垢な彼女のままでいて欲しいという気持ちもある。第一部隊には癒し要素が不足しているのだから。
なんて悶々と考えながら吸血鬼の青年の後ろをついて行き、網目状になった裏道を歩くこと数分。人通りの少なく何の変鉄もない通路、その一角にあった一軒家の木製の扉を叩くゼクス。
一定のリズムで叩く仕草に首を傾げるティナ。そして叩き終わると、扉から『ガチャッ』と鍵の開く音が耳に入った。
何の違和感もなく扉を潜り抜ける面々を余所に、俺はポカーンと口を開けていた元王女様に簡単な説明を行う。
「そういう魔法みたいなもんさ。一見木製の扉に見えるけど、設定された回数、速度で叩かないと開かない仕組みになってるんだ。例え強行突破しようにも、今のコレってアイリスにも壊せないんじゃねぇの?」
「そ、そんな魔法普通の家の扉に使うんですか……」
「自分のプリンに食べた者を即死させる
そのプリンを食べては死んで食べては死んでを繰り返して、呪いを乗り切った別のアホもウチの部隊に所属しているが。
怯えながら俺の後ろに隠れるティナを伴って、一番レベルが低いはずの俺は悠々と家の中を突き進んでいく。
セキュリティの難易度に相反する形で、こじんまりとした内装を醸し出す内部構造。木製の床をコツコツと鳴らしながら歩き、そこまで値の張るものではないであろう家具を通り過ぎ、半開きになっていた奥の部屋へ通ずる扉を潜り抜ける。
そこにいたのは、立っているアイリスとゼクス、そしてティナにとっては見慣れない、椅子に座って編み物を嗜んでいる一人の老婆。新しく入ってきた俺達を、鋭い眼光で一瞥する。
外見年齢は、五十代後半から六十代半ば。しわくちゃな肌をしているものの、手の動きは洗練されており、とても還暦前後には見えない。それは引き締まった顔にも表れており、眼鏡越しに伺える琥珀色の瞳の鋭さには、さすがの俺も苦笑いして肩を竦める始末。
彼女は鼻を鳴らして、老齢の声色を響かせる。
「――姿形は変わっても、相変わらず腹の内に何考えてるのか分からない面をしてるもんだ。最初は暗闇の悪戯かと思ったけれど、随分と腑抜けたんじゃないかい?」
「そりゃ平和な世界で休暇を過ごしてたもんでね」
老婆の皮肉に気にすることなく、近くにあった椅子を二つ引き寄せて座り、立ち尽くしていた後ろのティナにも座るよう促す。
そして、不敵に笑っているであろう俺の口から、自然と笑いを含んだ言葉が紡がれた。
「元気そうで何より。くたばってないか心配したぜ」
「そう易々と永眠する予定はないさね」
整った白髪を揺らしながら、豪快に笑う老婆。
「久しぶりだねぇ、坊主」
「おう、久しぶり。
【次回予告】
「何考えてるんかねぇ……」
「あたしはその子を仲間とは認めないよ」
「俺はそのガキとやら以下のレベルなんだが」
「レベル上げ」「絶対ダメ」
「馬鹿言うんじゃないよ。アイツは――」