完璧幼馴染と冴えない俺と。   作:白藜

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春の終わり

あのあと、気がついたら自室のベッドで眠っていた。どうやって帰ってきたのかすら分からないし、自身が食事をとっていたのかすらわからなかった。でも、確実に覚えていることはある。夕暮れの帰り道、弾かれた手。走っていく紅葉の背中。

 

「はぁ…」

 

ため息をついて、体を起こす。陰鬱な雰囲気になってしまったが、幸い今日は土曜。予定も無いに等しいのだから、それこそ無計画に散歩でもしてみようか、そんな下らないことを考えながら着替えていると、携帯の呼び出し音が鳴る。着信元は…紅葉の母だった。出ようか出まいか数瞬躊躇った後に、電話に出る。もしもし、とこちらが言おうとしたその前に。

 

「あー!もしもし蒼空ちゃん?悪いんだけど、今日って家に来れるかな?家の子が風邪引いちゃったらしいんだけど、旦那も私も今日に限って大事な会議があるのよ!でも、一人にするのも心配だし、あの子ちょっと抜けてる所あるし…蒼空ちゃんしか頼れないの!お願い!あ、私もう会社行かなきゃ!よろしくね!」

 

 

プツン、と音がして、ツー、ツー、と電子音が響く。

 

「あの人は…」

 

電光石火のように用件だけ言って切りやがった。こちらには昨日の事もある。ただでさえ気まずいのに、それに拍車をかけるようなこのタイミングで…

 

はぁ、とため息をついて、でも頼まれた(拒否権など無かったが)のだから、やらなければいけないだろう。今日計画した無計画な予定は、後日に延期しなければならないようだ。…どちらにしろ予定なかったな、うん。それに、このままじゃいけないと言うこともわかっていた。だから、きっと丁度いいタイミングでだったのだろう。

 

 

そんなことを考えながら、一先ずは自分の食事を取るために階下へ向かった。

 

 

 

 

砂糖をいれたちょっと甘めの玉子焼きは、端の部分が焦げて、少しばかり苦かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あらかじめ…と言うか、昔から渡されていた合鍵を使って、施錠されていた東雲宅の鍵を空け、玄関へと入る。我が家よりも少し大きめの玄関には紅葉の靴と、写真立てがたっている。

昔からずっと立ててあるその写真立ては、いつもは埃などはついていなかったが、今日は若干埃が被っていて、それがどこか寂しいように感じた。

 

靴を揃えて脱いで、玄関を上がった。丁寧に掃除機がかけられたリビングには埃なんて落ちていなくて、それはキッチンも同様だった。

 

「久しぶり、だな…。」

 

最後に入ったのはいつだっけ…と、最近のことなのに遠い思い出のように感じられていた。

 

(それこそ昔は二人で一緒にご飯を作っていたっけ…)

 

卵粥を作りながら、過去の事を思い出していく。幸せだった。一緒に遊んで、他愛の無い話で笑いあって、暇なときはベランダ越しに話していたっけ。

 

まるで、今のこの仲違いが夢であるような感じがして、早く覚めてほしいと、切に願っている。その時、ちくっとした痛みが左手の指先に走る。

 

「いって…」

 

一筋、朱が走る。確かな痛みが、流れ出る血液が、これが現実であることを告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

かちゃかちゃ、と、階下から音がする。母は仕事でいないし、単身赴任中の父はまだ帰ってこないはずなのに、と考えていると、携帯に母からのメッセージが入っていることに気づく。

 

【蒼空ちゃんに看病頼んでおいたからね。】

 

簡潔に締め括られたメッセージに僅かに気まずさを覚える。これまでのことは母には話していないし、無論昨日の事もある。だから、少年と会うのが怖いというのが本音だ。会いたくない。それだけは、今のところの本音だった。

 

―――寝たフリでも、していようか。

 

そう考えて、布団に手を伸ばしたその瞬間に、かちゃ、と扉が開く。

 

「やは、お粥持ってきたから、食べて。」

 

口調こそ軽いが、どこか決意をしたような顔で、彼は扉のすぐ前に立っていた。だからだろうか、僕は。

 

 

―――彼を、部屋に引き入れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かちゃ、かちゃ、とスプーンでお粥を掬って食べる音が、しんと静まり返った部屋に規則的に鳴り続けている。三口、四口と食べ進めていく少女は、やはりこちらを見ていない。どこか辛そうな顔をしていて、申し訳ない気持ちにさせられた。

 

「食べながらでいいから、聞いてくれるか。」

 

「なに?」

 

声をかけると、スプーンの音は響かなくなっていた。こちらを見ないまま、紅葉は続きを促してきた。

 

 

 

 

―――言うんだ、今。今日来たのは、その為でもあるんだから。

 

 

「大事な話なんだ。俺が前に進むためにも、きっと、紅葉のためにも。」

 

びくっ、と紅葉が肩を震わせた。

 

 

「もう、終わりにしよう。」

 

 

その言葉は、するりと口から溢れ出た。

うつむき加減で口にした言葉は、確かに部屋に響いた。

 

 

「ずっと、楽しかった。仲良くしてくれて、助けてくれて、一緒にいてくれるだけで、嬉しかったんだ。こんな時間が続けば、もう何もいらないって、そんなこと思ってた。でも、もうダメなんだ。全部、全部。俺からの一方通行だった。ずっと、好きだった。だけど、もう、やめるよ。もともと、分かってたんだ。俺と紅葉じゃ釣り合う訳無いって事くらい。…だから、今日でおしまい。」

 

 

 

「……」

 

 

「だから、さよならだ。…今まで、ごめん」

 

 

曖昧に微笑む。紅葉を見ないように、すぐに背を背けた。逃げるように扉を開け、玄関へと駆け出す。靴を履き、家を飛び出した。勿論、合鍵は靴棚の上に返してある。数十メートル走ったところで、ちらりと後ろを振り返った。でも、当然そこに彼女の姿はなくて、もう五月に差し掛かると言うのに冷たい風が吹いた。

今まで二人で歩いた桜並木を、今は一人で歩く。

風に揺られながら散る桜は、春がもう終わることを告げていて、少し泣きそうになる。遅咲きだった今シーズンの桜は、ここ数日の天気のせいもあってか、どの木も殆どが花びらを散らしていた。

 

「あ。」

 

 

思わず、声が零れる。この町一番の、「とあるジンクス」を持っている、桜の大樹。その枝についていた花弁の最後の一枚は、はらりと散る。風にのって、ふわふわと漂いながら、此方の方へと流れてきた。手のひらを広げると、ふわり、と手のひらに落ちる。

皮肉なことに、俺の十数年の片想いは、桜の花びらと共に呆気なく散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこかで、ガラスの割れる音が小さく響いた。




遅くなりました!
はじめましてのかたははじめまして、他作品を閲覧してくれているかたはお久しぶりです、雨宮です。
レポートや課題が溜まりまくっていて、それの消化に終われているので、投稿が遅くなりました。暇な時間で少しずつ書いていくので、許してください。

また、アドバイスや感想頂けると幸いです
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