完璧幼馴染と冴えない俺と。   作:白藜

12 / 18
失いたくなかった人

 

 

「もう、終わりにしよう。」

 

彼を部屋に入れると、すぐにそんなことを言い出した。

 

 

 

「ずっと、楽しかった。仲良くしてくれて、助けてくれて、一緒にいてくれるだけで、嬉しかったんだ。こんな時間が続けば、もう何もいらないって、そんなこと思ってた。でも、もうダメなんだ。全部、全部。俺からの一方通行だった。ずっと、好きだった。だけど、もう、やめるよ。もともと、分かってたんだ。俺と紅葉じゃ釣り合う訳無いって事くらい。…だから、今日でおしまい。」

 

「……っ」

 

なんで、と問おうとした。でも、出来なかった。彼の悲しそうな声が、辛そうな顔が、そして何より、震える拳が、ボクの心を激しく揺さぶった。嫌だ。なんで、そんな事を言うんだ。ずっと、一緒にいたのに。ずっと、仲良しでいようねって、ずっと言っていたのに。

 

声がでなくて、もどかしくて、どうしようもなかった。彼は震える唇で、こう言った。

 

「だから、さよならだ。…今まで―――」

 

 

それから先を言うな。そう強く思った。

君は何も悪いことはしていないんだから。悪いのはボクなんだから。だから、自分を責めないでよ…

 

 

「ごめん。」

 

曖昧に微笑んでいた彼は、踵を返して外へ向かう。からだが重くて思うように動かなくて、体を引きずりながら階段を降りていく。もう彼の姿は家の中に無く、母が渡していた合鍵が丁寧に返されていた。それが、彼からの本気の拒絶だと思って、ボクは膝から崩れ落ちた。隙間風に揺られた写真たては靴棚から落ちる。パリンとガラスが割れた音がして、顔をあげた。目の前に写真たてと、ガラスの欠片が落ちていて、慌てて拾い上げても、もう遅い。

 

亀裂の入ったガラス面は、繋がれた幼い手を引き裂くように一直線に入っていた。

 

 

 

 

ふわふわと、まどろみの中に揺蕩う。

キラキラと光る思い出の泡沫が、指先に触れて弾けた。

言葉が、流れてきた。

 

 

 

 

「助けてくれて、ありがとう。」

 

「くれはちゃんって言うんだ…蒼空です、よろしくね。」

 

 

「チョコ、好きなの?はい。はんぶんこ、だよ!」

 

 

「大丈夫だから、泣かないで?」

 

「約束するよ、ずっと、君が嫌って言うまで、ぼくはずっと、君のとなりにいるよ。」

 

 

忘れるはずの無い、彼との記憶。紡いだ時間。

 

 

「一緒に帰ろ、紅葉。」

 

「あ、この卵焼き美味しい。え!?紅葉が作ったの!?」

 

「紅葉がスカート穿くってのも新鮮だけど…うん、制服、よく似合ってるよ。」

 

「どうだった、カッコ良かっただろ?え、三振ばっかしてた?…そうかもだけどさ…ピッチングの方は良かっただろ?」

 

 

「っ、やっぱ照れるな…ほら、素直に誉められるとこう、さ。」

 

記憶の中で彼はいつも微笑んでいた。

 

なのに。

 

 

 

 

「今日でおしまい。」

 

 

彼がそう言った時の、あの悲しそうな微笑み。それの原因が自分であることにほとほと嫌気が差した。

 

 

ずっと、自分で分かっていたはずなのに。

好きだった。彼の優しい笑顔が。落ち着いた雰囲気が。

キッチンに一緒に立っていたときの、横顔も。好物を食べるときに綻ぶ顔も。拗ねた、ちょっと不機嫌そうな顔も、朝起こしに行った時の眠そうな顔も、ぴょこん、と弾ける癖っ毛も、すべてが愛しくて。

 

でも、隣にはもう彼はいない。そして、今さら気づく。

隣にいることが当たり前ではない、と。

 

「嫌だよ、そんなの…ずっと、一緒だって…約束、したのに…」

 

こんなことになるのなら、もっと優しくしておけば良かった。もっと素直になっておけば良かった。もっとたくさん遊びにいって、彼に気持ちを伝えればよかった、そうだよ、ボクは…

 

「キミを、失いたくなかった。だって、こんなにも…」

 

じわり、と目元が熱くなっていく。視界が歪んで、景色がぼやけていく。

 

 

「好きなのに。」

 

涙と同時に溢れたその言葉は、ふわふわと、漂って消えていった。

 

 




はい、お疲れさまです。

いつも見てくださる方々、ありがとう!
他の小説も少しずつ書き進めてますので、お楽しみください!

また、作者は感想、評価をいただくとアホみたいに喜びますので、よろしければ評価を、感想をお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。