完璧幼馴染と冴えない俺と。   作:白藜

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入学記念旅行、出発

「旅行、と言う名目ではありますが、あなた達は我が学園の生徒です。高校生らしい態度、言葉づかい、身だしなみで臨むこと。まぁ、多少はっちゃけることは許可しますので、メリハリをしっかりつける事さえ気をつけていただければよろしいです。それでは、各自班に別れて各々のバスへ移動してください。」

 

長くも短くもない学年主任の話を終えると、実行委員の東根が手を上げた。

 

「私たちのクラスは2号車を使うよー!朝、配った紙に班員表が書いてあるから、各自別れてねー!」

 

思いの外ハイテンションな東根の声に、男子達はうぇーい、と反応する。女子たちも班毎に集まりつつあって、後は俺と東根が班に合流するだけなのだが…

 

 

「よりによって…かぁ…」

 

小さくため息をつく。なぜか?班員に原因はある。俺の班構成は、雪哉、志織、紅葉で、俺を含めて四人。今までだったら喜んでいたと思うが、生憎と今の状況を考えると色々とつらい。主に俺が。

 

「それじゃ、点呼とります。班員全員いる班の代表者…誰でも良いんで手上げてください」

 

俺がそう言うと、大体の班が手を上げた。

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ、むぅ、なな、やぁ、この、とお。ん、全部の班が揃ったみたいだね!それじゃ、皆!バスに乗ってぇー!」

 

相も変わらぬハイテンションで東根が進行していく。俺仕事してないどころか忘れられてない?さすが俺マジぼっち。

 

 

全員がバスに乗り込んで、発進前に俺の方から軽く説明をしていく。

 

 

「それじゃあ、前の車両が発車するまでに軽く説明をしておきます。ここから山梨までは約三時間かかるから、休憩の際にトイレ、必要な場合、飲食物の購入はその時間のみとします。お土産は宿、または帰り道で購入出きるから、行き道では買わない方が良いと思う。行き道はスケジュールギチギチだけど、帰りはゆっくりだから。あと、一度めの休憩の後にオリエンテーションをします。全員強制参加だから、寝ないでくれよー?」

 

そこまで説明をしたところで、前のバスが動き出す。

 

「ついたあとの説明は各自しおりを参照して。んじゃ、運転手の人に挨拶をします!」

 

 

「よろしくお願いします」

 

「「「よろしくお願いします!」」」

 

 

俺と東根が席に座ると、バスが走り出す。周りが楽しそうに談笑を始めるなか、俺の班だけは異様なほどに静かだった。志織が頻りに紅葉に話しかけても、返ってくるのは生返事ばかりで、会話はほとんど続いていない。雪哉も雪哉で、志織とは話すものの、俺と紅葉には触れようとすらしない。気を利かせているつもりなのか、それとも明確な悪意があってこうしているのか。そんなことは正直どうでもよくて、やることもなくて、俺は鞄から音楽プレイヤーとノイズキャンセル機能が高いイヤホンを着ける。ピタリと雑音が止んだ。やはり、このイヤホンは使い勝手が良い。一人になりたいときには特に、だ。

 

シャッフルで設定して、一曲めを流していく。

外を眺めている内に、いつの間にか眠りの世界へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深い、深い。

 

ここは、どこだ?

 

暗い、暗い、暗い―――

 

知らない間に夜になったかのような、そんな暗闇。

辺りを見渡しても、人はいない。

 

―――気味が悪い―――

 

 

寒気がして、そこから駆け出していこうとする。しかし、どこまで走っても光源はおろか、地面さえ見えないほどに暗い。

 

 

―――待て―――

 

まず、俺は、<どこを走っているんだ>?

 

そう考えたとたんに、あったはずの足場が崩れ落ちた。

 

―――なっ!?―――

 

 

一瞬の浮遊感。刹那の内に湖のなかで溺れた時の感覚に襲われる。いつの間にか深い海の底に居るような孤独感に苛まれて、きゅうっ、と胸の奥が痛くなる。もう、ダメだ。そう思った瞬間。

 

「まだ、だよ。」

 

後ろから声がした。

 

「諦めちゃ、だめ。」

 

今度は、さっきよりも少しだけ高い声。

 

「彼女が、君を嫌いになるはず無いよ。」

 

誰だ。いったい、誰だ?

 

「思い出して。あの日、キミ達は約束したはずだよ。」

 

暗闇の中からの声は絶えることがない。

 

「ずっと、一緒に居ようって。」

 

「ずっと、仲良しでいようって。」

 

確実に声は近付いている。本当に少し後ろに居るのでは無いのか、と思うほどに至近距離で響く言の葉に、心が震えているような気がして、胸が締め付けられる。

 

「だから、諦めないで。」

 

「いつかで、良いから。キミの気持ちを、届けてあげて。」

 

目の前に、柔らかな光が現れる。暖かくて、柔らかい光。その中に、融けていく…。

 

ふと、後ろを見た。そこには、二人の子供の影。でも、優しく微笑んでいることは何となく予想できた。

 

「「頑張って、お兄ちゃん。」」

 

 

手を繋いだ二人の子供は、元気に手を振っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開け、軽く伸びをする。バスの中を見渡すと中にいる人はまばらで、バスの外では食事をとっている生徒が数名いた。スマホを確認すると、時刻は11時30分。皆、少し早めの昼食をとっているのだろうか。さて、俺も…と立ち上がろうとすると、膝にビニール袋と、メモが置いてあることに気づく。

 

[買いすぎちゃったので、あげます。食べてください。]

 

綺麗に整った小さな文字が並んでいて、見覚えのある筆跡に、少しだけ悲しくなる。前までは、そんなことは無かったのになぁ、と思いながら、ビニール袋を広げた。

塩バタークロワッサンに、チョリソーを挟んだホットドッグ。微糖のアイスティー。全部が俺の好物だった。

ホットドッグの袋をあけて、一口頬張る。パリッと皮が弾けて、ほどよい辛味が溢れだしてくる。でも、余り美味しいとは思えなかった。やはり、一人で食事をするのは味気がない。

 

「ダメだな、畜生。」

 

チョリソーを食べきって、メモ帳の裏にメッセージを残す。これでよしっ、と。気分転換のために、外にでも出るか。

 

幸い、出発までは十分程度はある。気分転換には、きっと充分だろう。

 

 

そんなことを考えながら、外へ向かう。五月の空気は柔らかくて、吹く風は木々の香りを孕んでいた。

山梨県まで、あと1時間と10分ほど。

 

今の事は忘れて、楽しめるようにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

そう心に決めて、俺はもうひとつ伸びをした。

 

 

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