完璧幼馴染と冴えない俺と。   作:白藜

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一日目、自由行動

「それじゃあ、今から班別の自由行動時間とします!たくさん話して、たくさん遊んで、親睦を深めてくださいね!」

 

東根が皆へと指示を出した。目的地に着いてすぐに自由行動と言うのもなんだが、親睦を深めるならそれもありなのかもしれない。クラスメートたちがそれぞれに会話したり、戯れているのをみると、そんな気持ちが溢れてくる。

 

しかし。

 

「じゃ、じゃあ…何処、行こっか?」

 

俺たちの班の空気は、周囲の仲睦まじい様子から考えれば、異質であった。出発からここに至るまでに、会話が殆ど無い。正確には、俺との会話であるが。

 

「ん…」

 

「何処にって、ねぇ…」

 

わずかな会話の中にも、どこか重苦しさというか、よそよそしさを感じて、若干居心地が悪い。ムードメーカーの志織が遠慮をするくらいだから、きっと端から見たら、もっと声をかけづらい物なのだろうか。

 

皆が出す話題に触れることなく、くるりと周囲を見渡した。早速班行動を崩して違う班に潜り込んでいる人間もいるし、班ごとがくっついている集団もある。これで、俺が個別で動いても非難される謂れは無い。

 

何食わぬ顔で方向転換して、一人木陰の方へと向かう。青々と茂った若葉たちが陽の光を遮断して、心地のよい風を運んでくる。さわさわ、さわさわ、と、爽やかな風に吹かれながら、空に揺蕩う雲を眺めている。

 

どれだけ景色を俯瞰していたのだろうか。座りっぱなしで固くなった首の筋肉を解していると、後ろからじっと見つめられているような、そんな落ち着かないような感じがして、後ろを振り向く。

 

 

「やっと気づいたの?」

 

透き通って、ハキハキとした声。そこには、紅葉たちと一緒にいる筈の志織が立っていた。

 

「単独行動は駄目だよ、あーくん。」

 

拗ねたように頬を膨らませ、じとっとした視線が突き刺さる。いかにも不機嫌MAX、と言うか、窘めに来たのではなく叱りに来た、そんな雰囲気だった。

 

「他のやつらもしてるし、問題ないだろ。もともと一人が好きなんだよ。それに、俺がいたらやりづらいだろ、相川が。」

 

敢えて顔を見ることはせず、視線を空に戻しながら会話を続ける。

 

「みんなで仲良くする為なんだから、問題ないわけないよ。君がいなきゃ意味ないの!ほら、行くよ!?」

 

座り続ける俺の手首をつかんで、無理矢理に立ち上がらせようとする相川。

 

「優しいんだな、相川は。」

 

ぽつり、呟いて、ゆっくりと立ち上がる。

 

「あ、戻る気になったの?」

 

ふふん、と得意げになる相川。だが、俺は戻るつもりなど微塵もない。

 

「わざわざ空気を悪くするわけないでしょうが。さっきみたいな雰囲気になるくらいなら絶対行かないね。」

 

「頑固だなぁ…まったくもう!」

 

「はいはい、俺は頑固ですよっと。」

 

掴まれていた手を軽く振りほどいて、一人で他の木陰へと向かう。

 

「あとからうらやましがっても遅いからね!」

 

「それは絶対に無いから安心しろ。ま、楽しんでな。」

 

ひらひらと手を振って、その場から遠ざかっていく。別れ際の志織の目が、心底悲しそうだったのはきっと幻覚なのだろう。紅葉の友人であって、俺と彼女は友人の友人と言うだけなのだから。だから、関係無い。相川達なら、俺が居ないなら居ないで話題を膨らませられるだろうし、そもそもあの空間に俺は居ない方がいいだろう。クラスメイトからの無駄な顰蹙を被るのはもう懲り懲りである。俺も、きっと、紅葉も。

 

 

だから、これで丁度良い。

 

そんな自己満足に浸ってでも良いから、自分の行いを正当化しておきたい。そうでもして、自分に、言い聞かせておかないといけない。でないと、自分の行いを後悔してしまいそうになる。そうでもしないと、またあの心地よい空間に依存してしまいそうになるのだ。

 

 

「部屋、行くか。」

 

 

誰に言うでもなく呟いて、俺は早めに宿へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今までに、喧嘩をしたことがなかったなかった訳じゃない。キツい言い方をして彼を怒らせたこともあったし、出先での意見が食い違って、そのまま口を利かなくなったあった。正直に言えば、嬉しかったものとそれこそ同じくらい喧嘩を繰り返してきた。もう絶交だ。そんな事も言ったときもある。でも、そんなことを言ったとしても、やっぱりどちらかが寂しくなって、翌日の登校中に仲直りした。時間が解決してくれるときも多かった。

喧嘩をしてもちゃんと仲直りができる。それは、彼と僕の間に絆と言うものが確かに存在していたから。

 

 

 

 

でも、今。彼はここにはいなくて、とても、絆というものを感じられない程に、遠く、遠くに行ってしまっているような気がした。

会話は必要最低限で、此方から話しかけない限りは、彼も話しかけてこない。バスの中で、隣の部屋で、登校中に感じる、ほんの些細な距離。今まで触れられた場所に、彼は居ない。その事がとても寂しく感じられた。

 

 

 

 

「あーくんもどっか行っちゃったし、私たちも少し動こうか!ここからだと近いのは…」

 

 

「自然公園がいい…」

 

何処に行くか思案していた志織の言葉に、無意識的に返事をする。

 

「自然公園?えっと、現在地がここだから、自然公園は…?」

 

ブレザーのポケットから手早くスマホを取り出した志織が、尋常ではない速度でスマホの画面をスライドしていく。

 

「えーっと、この辺か。」

 

しゅばばばば、という擬音が聞こえてきそうな速度でスライドされていた指が止まる。よし、と小さく呟いた志織が、にぱーっと笑った。

 

「宿から近いし、ここ行こっか!美味しいスイーツもあるって!」

 

 

 

先ほどまでとはうって変わってはにゃー、と破顔した志織が僕の手を握って走り出す。

 

「ちょっ、待てよ相川!」

 

置いていかれていた雪乃谷が慌てて走り出す。物足りないことには変わりがないが、彼らとの空間は楽しい。

でも、いつも通りにはほど遠い。

 

神様、どうか、どうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔みたいに、彼と――――

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