「よろしくお願いします」
幾人もの挨拶が小さな体育館に響く。タイマーが時を刻む。十五点先取、十五分一試合の球技大会が今、始まった。
「東雲、一本!」
サーブ権はこちら。wsの雪哉が、叫んだ。笛が響き、刹那の内に空を舞うボールと、ひどく華奢な少女の肢体。ドっ、と、掌がボールを捉える音。コントロール重視の、しかし女子が打つには十分すぎるほどの威力のサーブ。打点から綺麗な放物線を描きながら、エンドラインに突き刺さる。言葉を失う相手チーム。感嘆の声を上げるチームメイト。そのまま、もう一本!そんな声援に、紅葉は無言で頷いた。再び、サーブは綺麗な放物線を描きながら、飛んでいく。しかし、そこにいた男子生徒がレシーブを上げた。長めのボール。少し下がった俺は、助走をつけて踏み切った。振り下ろした掌がボールを捉える。鋭角に撃ち込んだスパイクは、サーブレシーブ後の広がった穴へと吸い込まれた。二点目を告げる笛が響く。再び、感嘆の声が響いた。
「ナイス。」
小さく聞こえた、どこか冷めたような声に振り返ると、自分より少し小柄な生徒がネット越しにこちらを見ていた。相手のチームメイトの彼は自分の位置に戻ると小さくもう一度、と呟いた。
三度目の紅葉のサーブが 再び、打ち込まれる。先程より威力の上がったはずのサーブは、いとも簡単にレシーブされた。相手のWSが勢いよく走り込んできて、跳躍。正面の俺と近くの雪哉がブロックに飛んだが、二人の腕の間を縫うかのようにボールはすり抜けていく。
ぴっ、と笛が響いた。
いかにもバレー初心者のサーブを後ろにいた詩織がレシーブする。
「ごめん!少し短い!」
構わない。上がりさえすれば―――
後ろから走り込んでくる紅葉に合わせて、少し高めのトスを上げる。掌に吸い込まれたボールは相手ブロックを大きく弾き、見事なブロックアウトを決めた。
上がりさえすれば、どうとでもできる。
会話らしき会話はここ一月、一度もない。かつてのように関係が円満で潤滑にコミュニケーションを取れているわけではない。
関係は悪化した。
たった一言で、彼らの関係は破綻したはずで、それは既知の事実で、彼は、彼女は、互いの絆がもう届かぬ彼方へと消えたこともきっと知っていて、だからこそこの事に理解が追い付かなかった。ちぐはぐだ。ちぐはぐだ。想いと、言葉と、動作の全てが、食い違っていた。
かつての経験が、かつての練習量が、かつて共に過ごしたあの時間が、無意識的に働いている。蒼空も、紅葉も、そんなことは分からなかった。だからこそ、胸中に薄暗い靄がかかる。
大差をつけて勝利したにもかかわらず、二人の不安は晴れない。その事に、二人は焦りにも、苛立ちにも似た感情が蠢いていた。
自分がどうしたいのか。どうするべきなのか。わからない。分からないからこそ、いまの自分が理解できなかった。