どーも皆さんこんにちは。青葉です。
え?前回見てきたから知ってる?
まぁ、そうか、そうだな。
さて、馬鹿な自己完結も終わったし今日はこれで…
「早く答えて」
終われなさそうです。
取り敢えず、事情を説明せねば。
「じゃ、逆に聞こう。今日は何月何日だ?」
「はあ?4月16日でしょ。それで?」
「今は何時だ?」
「午前11時だけど?」
気づいていないのかそのまましらっとした態度を続ける紅葉に、少しだけ悲しくなる。胸がキリキリと痛み、辛さの速度は上がっていく。泣き出しそうになるのを堪えながら、立ち上がった。
「待って。僕の質問は終わってない!」
「いや、もういいよ。」
震えた声を隠すように、扉を閉める。努めて平静に階段を降り、玄関を後にする。後ろすら追い掛けてこない紅葉に、届かないように声をかける。
「さよなら。」
誰もいない、紅葉の靴しかない玄関が、異様に寂しく感じられた。
外に出て、何をするか考える。家に帰るのはやめだ。
嫌でも紅葉の部屋に目が行ってしまう。
幸い、財布は持ってきてあるから、何処か行って時間を潰そう。そう思って、踏み出した。
自販機で購入したほんのりと暖かいミルクティーを喉に流し込む。柔らかい甘味が口に広がる。喉は潤されないが、気休めにはちょうど良い飲み物だった。はぁ、と物憂げなため息をこぼし、先日の約束を思い出す。
あの時は、少なくとも。俺たち二人は笑っていたのに。
今や一人は傷つき、もう一人は忘れている。
確かに、どうでも良いと思えるかもしれない。でも、俺にとっては違うのだ。この日は、今の俺の基になった日なのだ。あの日。
丁度十二年前。
あの日俺は、彼女に出逢って、そして、変われた。
この思い出は、一生の宝だ。たとえ、この思いが届かないとしても、俺にとって輝き続ける思い出だった。
でも、今は違う。華やかな世界は靄が掛かったかのように見えなくなってしまった。
「畜生…」
ベンチに腰かけて、呟く。どんよりと暗い雲は、まるで俺の心の空模様を写し出したようだった。
ポケットに入っていた手紙を、グシャグシャにして、乱雑に投げ捨てた。
「おかしいな…」
蒼空がいなくなった後、30分が経過した。
最初こそ気にしていなかったが、流石に心配になってきた紅葉は、彼の家に入っていた。彼の両親から渡された合鍵を使い、彼の家をくまなく探す。
だが、見つからない。彼の両親は紅葉の両親と同じ様に両親が平日は会社の寮で暮らし、休日は地方へ出向する。だから、家に誰もいないのは不自然なことではない。
生活用品も彼の物以外無いし、探しそびれが在るとしたら彼の部屋だ。紅葉はゆっくりと階段を上り、ドアノブにてをかける。軽く深呼吸をしてドアを開いた。
そこには、昔と何ら変わらない、殺風景な部屋があった。ふと、壁にかけてあるカレンダーに目が行く。
男子っぽくないまるっこい文字で、<大切な日>と書かれているのを見て、頬をぶたれたような衝撃が走った気がした。彼の泣きそうな顔の理由がわかった。
(言い出したのは僕なのに…)
部屋から駆け出す。階段を駆け降り、靴を履く。
足をもつれさせながらも、走り出す。
きっと彼は、あの公園にいる。
何かに突き動かされるように、全力で走る。彼が移動しない内に行かなければ。
5分ほど走り、件の公園が見える。今となっては古びている、でも、思い出の公園。ちょうど、彼が出ていくところだった。届くかはわからない、でも、今とどけないと後悔する気がした。だから、無理矢理肺に空気をねじ込む。
「蒼空っ!」
思いっきり叫ぶ。届いたのかどうかは分からなかった。
でも、確かに。
彼の瞳は、僕を写していた。
公園から出た瞬間に、聞き慣れた声が聞こえた気がして、回りを見渡した。
声がした気がする方向に向き直る。すると、やはりというべきなのだろうか。
「紅葉…」
彼女がいた。
走ってきたのか肩で息をしていて、瞳には涙が溜まっていた。俺と目が合った途端に、スパートをかけてくる。
ふらつく足元を隠しきれていない彼女は、俺の数メートル前で足をもつれさせた。
「きゃっ!」
「危ない!」
勝手に体が動いて、彼女を抱き止めていた。
正面から抱き合うように見える体勢になったが、この際そんなことはどうでも良いのだ。
「怪我無いよな!」
必死で紅葉に問い掛ける。
紅葉はゆっくりとこっちに顔を向けた。僅かに上気した頬は一瞬で熟れた林檎のように色づいていて、そこから向けられる笑顔はとても可愛らしかった。
「ありがと。…ふふっ、あのときと一緒だ。また、助けてくれた。」
その言葉を聞いて、心の靄が晴れた気がした。
忘れていた訳じゃなかったのだ、と心のそこから嬉しくなった。
「当たり前だよ。紅葉に怪我されたら嫌だからな。」
「それって、僕が特別だから?」
特別。その言葉に一瞬言葉を詰まらせる。
きっと、彼女の特別とは、異性として好き、ではない。
昔から一緒にいる、幼馴染という意味での特別だった。
届くはずはないとしても、気づいてほしいから、
「そうだな。俺にとっては、一番大切で、特別だよ。」
柔らかく微笑みながら言う。
「そっか、ありがと。」
優しさの割合が増したような声。
少しでも伝わったら良いな。そんなことに期待しながら、家の方向を向く。
「よし、帰ろう。」
「そうだね。腕によりをかけて最高のごちそうをつくってあげよう。」
気合いを入れている紅葉の横で、あの日の事を思い出していた。あの日、紅葉に出会ったお陰で、こんなに仲良くなれた。こんなに好きになれた。
頑張れ、と言うようにそよ風が頬を撫でる。
今日は、俺と紅葉が出会った日だ。