完璧幼馴染と冴えない俺と。   作:白藜

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鈍感な彼。 気づいてくれるかな。

あのあと、二人だけでの食事を済ませ、他愛のない会話をしてから、彼女の家を去った。昔話や現在の話で、昔を思い出して懐かしんだり、失敗したことを掘り返してみたり、誰も知らないはずの自分の黒歴史を暴露されたり、体力的にも精神的にも疲れた1日だった。

結局、帰って来たのは夜の八時だった。

なので、本来ならお布団にぼすんと倒れ込むのだが、今回ばかりはそうはいかない。

 

 

「やりますかぁ…」

 

目下の最大重要課題を、片付けねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かりかり、かりかり、とシャーペンが削れる時の独特の音。この音は大嫌いなのだが、そんなことを気にしている余裕はない。

 

ひたすらに作業を続ける。ひたすらに考えて、解いて。二時間が経過した頃に、数学の課題は終了。

 

―――そう、数学の課題―――だ。

 

次いで化学の課題に取り掛かる。イオン式や電子式、化学反応式を四苦八苦しながらも解く。そして、最後の一門まで解いたところで手が止まった。

 

高分子ポリマー?なんじゃそりゃ。

 

 

元々理系が苦手なこともあり、尚且つ化学の授業を数回バックレ…げふんげふん、諸事情で休んでいた俺は、何のことを言っているのかすっかり分からなかった。

 

 

 

悩むこと五分。 わかるはずもない。

 

悩むこと十分。 それでもわからない。

 

悩むこと二十分。 分かることを諦めたくなってきた

 

悩むこと三十分。もういいや、と諦めかけたその時。

 

 

コンコンココン、と独特なリズムで窓がノックされる。

 

「蒼空、入るよー。」

 

柔らかい声色で、目を擦りながら紅葉は窓に手をかけるが、閉めてあるので開かない。

 

「蒼空、開けて。」

 

若干刺の入った声色で文句をいう紅葉。窓に鍵をかけるのは普通なんですが…という反論すらできない。

 

「はいはい、悪かったって。」

 

平謝りをしながら紅葉を窓を開け、紅葉を中に引き入れる。風呂上がりなのかふんわりとした甘いシャンプーの香りと紅葉自信の香りが部屋を満たした。

 

湯上がりの紅葉に多少ドキドキしつつも努めて平静に話しかける。

 

「で、何の用?」

 

「用がなきゃ来ちゃダメなの」

 

じと目で返され、まごついてしまう。

きれいな顔が不機嫌そうに歪むが、それも一種の美しさを感じさせる。

そんな紅葉の不機嫌さを感じて取り敢えず話をそらそうとするが紅葉がこちらに向かって袋を差し出したのに気付く。

 

「はい、これ。勉強頑張ってたみたいだから、あげる。」

 

不機嫌な態度とは裏腹の心優しい気遣いを嬉しく思ったが、袋の中にはスイーツが一つ…チーズケーキバーしか入っていなかった。

 

「一本しかないけど…」

 

紅葉の分がないことを言うと、紅葉はいつもの堂々とした態度とは少し違う、まごついた様子で、若干上目遣いでこちらを向いていた。

 

 

大人びた仕草や雰囲気を持つ彼女の、年相応な姿に一瞬どきりとした。強気できりっとした目尻に、煌めく液体をため、さらさらの髪の毛から柔らかい甘い香りを漂わせ、さらに甘えた声色で。

 

「あの、さ。はんぶんこ、しない、かな?」

 

 

可愛すぎてフリーズする俺を横目にダメ出しだと言わんばかりに紅葉が近づく。そして、俺の服の裾をくいっ、と引っ張って。

 

 

「だめ、かな?」

 

 

顔面がにやけそうになるのを必死に堪えて、努めて平静に返事をする。

堪えてるだけで、表情に出ているとは思うが。

 

 

「ほら、先に食べていいよ。」

 

そう言ってチーズケーキバーを袋から取りだし、紅葉の口に近づける。そこで、ちょっとした悪戯心が芽生えた。紅葉が控えめに口を開けて、チーズケーキバーを口に含もうとする。その瞬間に。ひょい、とチーズケーキを抜き取った。かちっ、と音をたてて紅葉の口が閉じられている。

 

「へぇ?」

 

よくもやってくれたな、といわんばかりの目でこちらを睨み付ける紅葉。そしてじりじりとこちらに近寄り…

 

「よこせっ!」

 

俺の手首をつかんだ紅葉は大きく口を開けてチーズケーキバーを刈り取る。もぐもぐもぐ、と頬を膨らませてチーズケーキを頬張る姿は、それはもう可愛かった。

 

 

「君の分はそれだけだよ。」

ふん、とも、むすっ、とも効果音がつけられるほどに不機嫌そうな顔をして、紅葉はこちらを見る。

 

ちらり、とこちらを一瞥し、「食べれば。温くなっちゃうし。」

 

と言うことらしいので、一口ですべて頬張る。もきゅ、もきゅ、と咀嚼して、飲み込んで、そこで初めて気付く。これって、間接キスなんじゃないか、と。

 

 

 

 

 

「こここ、これっ、間接キス…」

 

 

顔を真っ赤にしながらしどろもどろになっている俺とは対照的に、澄ました顔をしていた気がした。

 

「今更、そんなこと気にしないでしょ。まぁ、課題は頑張りなよ。それじゃ。」

 

そう言って颯爽と窓から去っていく紅葉。

呆然と見つめていた彼女の髪の隙間から覗いた耳や頬が真っ赤だったのは、きっと幻だ。

 

 

 

そっと、唇をなめる。チーズの欠片が口に入ったが、味はよくわからないままだった。

 

 

紅葉の行動はよくわからないが、そうだったら良いな、と思う。いつか、伝えないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今更、そんなこと気にしないでしょ。まぁ、課題は頑張りなよ。それじゃ。」

 

 

 

努めて平静に、彼の部屋をあとにする。真っ赤になった顔を見られないよう、彼の方は振り向かない。

 

 

だって、見せられないじゃないか。

 

 

 

こんな、林檎みたいに真っ赤な顔なんて。

 

 

 

でも、いつも冷たくしちゃう分、こういうとこでポイント稼がないとね!うん!

 

いつか、気づいてくれるかな。ねぇ、蒼空。

 

 

 

「大好き。」

 

 

そう呟いて、布団にダイブ。大好きな人に向かって、見えないと分かっているからこそ、素直に言葉にする。

 

「お休みなさい。」

 

 

 

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