完璧幼馴染と冴えない俺と。   作:白藜

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登校時間

じりりりりり、じりりりりり。

 

 

 

独特の耳をつんざく音、カーテンの隙間から溢れる木漏れ日。

 

視覚と聴覚を刺激されたことで、微睡みの時間が終わりを告げる。のっそりと体を起こしてカーテンを開ける。いっそう強くなった陽光が視覚に大きな刺激を与え、ぼんやりしていた意識を急速に覚醒させた。

 

「眩しい…」

 

時刻を見ると、時計の針は5時半を指していて、朝食の時間が近いことを空腹が訴えていた。いつもならもうちょっと寝るのだが、今日の当番は昨日じゃんけんで負けた私なのです、はい。

 

寝癖を直して、寝ている間に汗をかいた衣服を着替える。清潔な下着とシャツを来て、長袖のカッターシャツとブレザーに袖を通す。ズボンも穿いて、調理用に紅葉に押し付けられたエプロンを片手に紅葉の家に向かう。

 

おばさんに渡されていた合鍵を使って中に入り、靴を脱いで揃える。玄関に靴が一足だけだったので、こいつも今日は一人だったのだろう。

 

すくっ、と腰をあげて勝手知ったる調理場に立つ。すちゃっ、とエプロンを装着し、料理を作り始めた。

 

 

冷蔵庫から卵を適当に取りだし、塩と砂糖を用意する。

ボウルに卵を割り入れ、菜箸でかき混ぜて砂糖と塩を適量いれる。玉にならない程度に回したら熱したフライパンにバターを溶かしたあとに流し込んで、さらにかき混ぜる。固まったところで再び卵を流し入れ、形をほぐしながら火を通していく。生でもカチカチに焼けたわけでもない辺りの状態で火を止め、皿に盛り付けた。

 

そして、卵を炒ったフライパンにベーコンを数枚入れ、柔らかく火を通す。十分に火が通った辺りでコショウをふりかけ、卵の横に。あとは冷蔵庫の野菜を盛り付ければ完成ということでいいだろう。

 

今時あまり見かけないようなトースターでパンを二枚焼く。三分もあれば焼けるので、今のうちに紅葉を呼びに行く。

 

 

たんたんたん、と足取り軽く階段を上り、ドアに手をかける。かちゃりと扉を開けると、パジャマ姿の紅葉が目を擦りながら伸びをしているのが視界に入る。起こしに来た意味、ないな、と思いつつ紅葉に声をかける。

 

「おはよ。朝ごはん出来てるから、早く着替えて降りてきてね。」

 

そうだけ言って部屋をあとに。あ、いま新婚夫婦っぽかった、と下らぬことを考えながら一階へ。

丁度焼け上がったのか、ほくほくとした湯気をあげるトーストを皿に移し、プチトマトとレタスを添えた自作のモーニングプレートを二人分運び、エプロンを脱ぐ。

 

それとほぼ同時に紅葉が制服を着て降りてくる。

そして少し不機嫌そうな顔になる。

 

「また、忘れてる。牛乳。」

 

そう言って台所へ向かって二人の牛乳を注ぐ紅葉。なんだかんだ言って素直なところはあるのだ。

 

 

「ほら、食べよ?」

 

いつの間にか席についていた紅葉は既に食べる準備をしていた。行動の早い幼馴染に軽く苦笑を浮かべつつ、自身も席に着く。

「いただきます。」

 

「召し上がれ。」

 

微笑みながら紅葉に声をかける。寝起きだからかいつも以上に淡白かった頬に赤みがさした気がしたが、顔を背けられてしまったので結局分からなかった。

 

それから15分くらいかけて食事を終えると、紅葉がお皿を持って席をたった。それにならって自分も席をたち、流しに皿を置く。皿を洗おうと腕をまくったところで、紅葉が言った。

 

「僕がやるから良いよ。エプロンとか仕舞ってきて、玄関で待ってて。すぐ行くから。」

 

厚意に素直に甘えて、自分の家に戻った。鞄と定期券をもって紅葉の家の玄関前に戻り、扉に手をかけて開く。

そこには制服にローファーを履き終えた紅葉がいて、こちらに特に何も表情を変えずに。

 

 

「ほら、行くよ。」

 

 

そう言って俺と扉の間をすり抜けて歩いていく。

無愛想に感じるが、これがデフォルトで、因みに登校時間が一緒なのはオプションなのだよ。

俺みたいな黒髪黒目の顔面偏差値平均ちょい上でパーツが整っているとは言え、紅葉の横にいたら見劣りするのだ。それなのに、紅葉曰く

 

「君みたいな一般人のことなんて誰も覚えないよ、自分のステータスを理解して欲しいね。それに、気心知れているから僕は遠慮しないよ。それに、男がいるってだけで不審者は余りよってこなくなるからね。わかったら僕の護衛として来い来るんだ他の女子たちと登校なんて許さないからな」

 

とのことであっさりと押しきられてしまった。

個人的に、紅葉と一緒の時間が増えるのは嬉しいからいいんだけど、紅葉に好意を抱いている(確信)の生徒たちの目線がこれ以上なくうざったいのだ。まあそれでも、最近は慣れたことなのだが。そこ、悲しい慣れだなとか言わない。

 

数メートル離れたところでこちらを見ている紅葉。早く、と急かされているような感じがして急ぎ足で紅葉についていく。お互いに無言だが、この時に流れる静かな空気が嫌いじゃない。

 

 

でも、いつも静寂は唐突に破られる。

 

 

「ねぇ、君!一年生?」

 

明るく脱色した、派手目な茶髪の、如何にもチャラついた男たちが声をかけてくる。さらりと俺を押し退けながら紅葉を挟み込む男。こちらを見てくすりと笑い、紅葉の肩に手をかけた。

 

「やめてください…」

 

抗議の声を漏らすが、一向に取り合ってもらえない。それどころか体はより近くに寄って、顔の距離が本格的に近くなった。

 

これ以上は危ない…、そう思った俺は手早く携帯を取りだし、カメラモードに。男たちの顔がしっかり写り、かつ紅葉の顔は不鮮明になるように写真を撮った。そして…

 

 

「おい。そろそろやめとけよ」

 

 

「あ?何だよクソガキ。」

 

苛ついた様に声を荒げる男二人。所詮は小物だな、と呆れつつ携帯の画面を見せる。

 

「今の写真は撮っておいた。これ以上続けるつもりなら警察につき出すけど?」

 

あえて挑発して、相手の出方をうかがう。

どうやらおつむが足りない底辺の連中のようで、すぐに暴力に訴えてきた。

 

鳩尾を狙って振り下ろされた拳を払い、喉元に拳を突き付ける。近くでまじまじと見た男の顔には見覚えがあった。同地区の中学の不良生徒で、関わるとろくなことにならないという噂が絶えない二人組だった。因みに、過去に一度だけ殴り倒した奴等だった。相手の顔が曇ったため、恐らく相手も気づいただろう。

 

「あれ、久しぶりだな…?またボコってやっても良いんだよ?」

 

にやり、と意地の悪い笑みを浮かべて左の拳を握り締める。するとそいつはばつが悪そうに俺から離れ、連れのもう一人を連れて帰っていった。どうやら足の震えは隠せたらしい。

 

 

一人呆然とする紅葉の頭を小突いて急かす。いつの間にか電車の出発時刻の直前だった。

 

「あ、ありがと…」

 

うつむき加減で呟く紅葉の頭をぽん、と叩く。口の形だけで『気にするな』、と伝えて歩いてホームへ向かう。駅員に定期を見せ、後ろに紅葉がついてきていることを確認してから乗り場へと歩いていった。

 

 

 

朝の混む時間帯。だが、僕たちの車両には誰もいなかった。いや、違うよ?禁止車両だとか、過疎化してるから殆ど人がいないとかではなくてね?えと、詳しい説明しようか。

 

 

僕たちが暮らしているのは千葉の外れの町。正直な話、ここに住む人が多い、と言う訳ではない。

しかし、過疎化が進みすぎているわけでもないのである程度人間はいるし、むしろ学生の数は相当なものだ。しかし、すぐ近くに東京があるために、その付近の学校に進学する生徒が多い。無論、先ほど絡んできた男たちのようなチャラついた人が行く可能性のが高いので、僕たちの行く方面の電車は人の数が減るのだ。それに、本格的に混むのはここから二駅先からだし。ともかく、そのお陰もあって、僕は蒼空との快適電車通学を楽しめているのだからありがたい。言動には出さないけどね?恥ずかしいし。

 

 

 

 

11人乗りのシートに腰掛け、それに倣うように紅葉もとなりに座る。その直後に、電車のアナウンスが流れた。

 

「まもなく、下り方面行き、発車いたします。扉が閉まります、お手を挟まぬようにご注意下さい。」

 

独特のイントネーションのアナウンスが流れ、すぐに電車は走り出す。彼はいつの間にかイヤホンを装着して、音楽を聴いていた。閉じられた目は柔らかく弛緩しており、くぅ、と定期的に響く寝息は僕にひどく安堵感をもたらすメロディだった。彼のイヤホンをこっそりはずして、自分の左耳に着ける。伸びやかな柔らかいメロディは懐かしい感じがして、否応なしに眠気を誘う。ふぁ、と小さく欠伸をしたあとに目をつむり、彼の肩に頭を預ける。とたんに睡魔は強くなり、深い微睡みの世界に沈み込んだ。

 

 

 

 

 

 

不意に、左肩に感じる柔らかさと重みに気づいて目が覚めた。というか、殆ど起きていた。いつからって?、うん。イヤホンはずされたときにはもう起きてましたよ、ええ、はい。いや、いまの子の状況、すごい役得。

可愛すぎてもう俺もフリーズ。その後はひたすらに

 

[時よ止まれ!]

と祈っていた。ま、無理でしたけどね。

俺は、目的の駅への到着アナウンスを今日ほどに恨んだ日は無い。

 

 

 

 

 

 

時の流れは無情だぁ…

 

心のなかで呟くと、寝起きの紅葉に睨まれた。ぐすん。

 

 

 

 

 

 

今日も、平凡な日常が始まる。

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