特に何か大きな事が有るわけでもなく、校門に着く。
紅葉が学校につくと同時に他の男どもの喜びの目線が紅葉に、憎しみの目線は俺に流れ着く。最初こそびくびくしていたが、慣れた。うん。人間、慣れれば大抵の事は乗り越えられるんだよ…
遠い目をしながら感慨に耽る俺に、一人の男が俺に近づく。
「いよっすぅ!元気してたか!?蒼空坊!」
次いで、もう一人の男も。
「おっす!朝からサカッてるかぁ!?因みに俺は昨日四かぐぼぁ!?」
「女子の前でサカんな…!」
即座に鳩尾に肘鉄をいれる。あ、深く入った。
ぐぉぉぉぉ、と痛みに悶絶するぼろ雑巾のような男は
「はぁ、全く君たちは…変わらないね、雪哉も時雨さんも。」
心底呆れたように首をふるふると振る紅葉だが、微妙に笑っている。そのわずかな変化に調子に乗った大バカ(雪哉)とバカ(時雨)は
「「昔みたいに呼んでくれても…!」」
「あ、ごめんなさいそれは無理。」
「「アッハイ。」」
声の温度が氷点下を通りすぎて絶対零度まで低下した。
冷ややかな声音に萎縮する二人にざまぁ!と目線で馬鹿にする。キッと睨まれたので急いで目を逸らす。あの二人怖い。
「ほら、行くよ。」
そう言って生徒玄関へ向かう紅葉を三人で追う。途中、紅葉が他クラスの男子に捕まったがあの程度日常茶飯事である。因みに、紅葉への告白成功率はゼロパーセント。ソースは過去の同級生たち。そんで俺。
紅葉をスルーして各々の教室へ向かう。時雨は二年の教室へ向かうために渡り廊下へ。俺と雪哉はそのまま同じ教室へ。俺は自分の席に座り、雪哉は椅子を持ってきて向かいに座る。
「で、何でちょっと疲れた顔してんの?」
先ほどまでのにやついた表情を引っ込めた雪哉は、頬杖をつきながら問いかけてくる。ぴく、と一瞬表情が凍るが、シラを切る。
「何が?」
「なんとなく。」
あっけらかんと言う雪哉に、こいつに隠し事はできないな、とそう思った。
「ほれ、いまなら東雲居ないからよ。話してみ?」
観念した俺は、今朝の駅前の出来事を語る。
あからさまにうへぇ、と声を漏らした雪哉に思わず突っ込みを入れそうになるが、今は敢えてスルーしよう。
「お前が喧嘩したって、あれだろ?中学ん時の荒れてたときの。」
「荒れてたって…まぁ、そうか。荒れてたってことになるか、あんだけやってりゃ。」
俺は、部活の対外試合で一つ大きな怪我をして、それ以降リハビリと入院を繰り返していた。
それが原因で派手にスポーツが出来なくなり、大好きだった野球もやる機会は極端に減ってしまった。それで、たまたまひまだったからと言う理由でストレス解消を兼ねて中学校の野球のグラウンドに向かっていたときに、あいつらに絡まれたのだ。あいつらはどこかでかはわからないが、俺の家の事情や怪我の事をしって、面白そうだから、とからかいに来ていたらしかった。今となれば、なぜスルーしなかったのか、と言う感じだが、あのときはちょっと情緒不安定だったから仕方ないよな、うん。いや、家族のこと悪く言われたらキレるでしょ、普通。
結論言うと、あいつらを我を忘れて殴り倒しました。怪我はその時に悪化したし、あいつら二人から殴られた場所は骨にヒビ入ってたしな。
後に中傷したことを知った親が謝りに来たが、こちらも悪かったと形だけではあるが謝罪をして、高校のことも考えてこの事は公表しない、ということになった。
「ま、今となってはどーしよーもないし、いいんじゃねぇの?」
先ほどの真剣な顔とは打って変わって、くぁ、と欠伸をしながらのたまう雪哉。その言葉だけで結構救われるものだ。
「お前が友達でよかったよ。」
「照れんじゃねーよ、ばか。愚痴ったり愚痴られたり、そんぐらいならいくらでも聞いてやるからよ。こんな俺でよけりゃ。」
呟いた言葉に反応した雪哉は、どことなくクサい台詞をはいて自分の席に戻って行った。
因みに、紅葉が教室に戻ってきたのはそれから少しあとの話。