「あー、疲れた…しぬ…もう帰りてぇ…」
放課後のSHRが終わった直後に、そんな言葉が口からでる。何が楽しくて俺が入学記念旅行の実行委員会やらなきゃいけないのん?嫌でござる。絶対に働きたくないでござる。
「うーす!部活見学行こうぜぇ!」
ぐでーっとしている俺の背中を平手でぶっ叩く雪哉。軽く、とは言えない威力で軽く噎せた。喉いてぇ。
「雪乃谷にしては名案だね、さあいこうか蒼空。」
背後に立ってそう言う紅葉が、拒否権はないと言わんばかりに俺の肩を掴む。渋々了承して、
「ごめん、委員長。明日から手伝うから!」
「いいよぉ、それじゃあねー!」
快く了解してくれた委員長には今度飲み物を奢ろう、そうしよう。さて、そいじゃあ…
「しゅっぱつしんこー!」
ぴょこっと紅葉の影から飛び出した人影が、手を翳しながら言う。
「「誰だお前!?」」
俺と雪哉の声が綺麗にハモった。
「えへへー、こんにちは!私、
両手でブイサインをつくってアピールする彼女。黒髪の紅葉とは対照的な明るめの茶髪で、身長は紅葉より5,6センチ 程高い。スタイルは良く、平均より少し大きいであろうバストに細すぎないウエスト、そしてきゅっと締まったヒップ。世の男どもの理想をそのまま写し出したかのような風貌だった。完璧なボディバランスとでもいうべきなのであろうか、雪哉はにやつき顔を隠せていない。その顔やめろし。
「私もついていくねー!」
と、その一言で部活見学の面子は決まった。どちらにしろ今週中に見学に行くつもりだったから良いと言えば良いのだが…パラパラとパンフレットに目を通しながら校内を廻る。
「で、どこ行くよ?バレー?バスケ?やっぱりバレー?」
「バレーかバスケしか頭にないのか。ま、行くだけありかな。」
雪哉は志織と紅葉のある部分を見て鼻の下を伸ばしている。でろんでろんに。にやつくな、俺まで白い目で見られてるから。
「ま、楽しみかな。」
「シッ!」
俺の脇腹に肘鉄がめり込む。
不純な動機で言ったわけではないのに…理不尽だろ、紅葉…!
「変な顔してニヤニヤしてた。絶対にエッチなこと考えてた。そんなのだめ。」
ふん、とそっぽを向く紅葉。
(もっと、僕を見てよ。)
紅葉の呟きは、風にのって遠くに運ばれていった。
「おぉーっ!」
体育館について、志織が発した第一声…声と呼べるのか、これ?
は、感嘆の声だった。決して部活が強いわけではないこの高校だが、比較的新設校と言うこともあって設備が整っていた。年甲斐もなくワクワクしてきた俺は、バスケの体験コーナーへ足を進める。雪哉は割りと本気な目で女子の査定をしているし、志織が紅葉を誘ってバレーに行っているので、実質的な単独行動だ。紅葉がこちら側にいる人たちを恨めしそうな目で見ていたことは間違いだと信じたい。
だむ、だむ、だむ。
ボールが弾む音がひたすらに体育館に木霊する。
軽いルール説明を受けた俺含む体験入部者(男子四名と女子二名)は男子二人、女子一人でチームを組んで、ミニゲームをしている。と言っても、初心者のみなのでそれほど厳しいルールはないので、のほほんと楽しみながらやる。
「蒼空くん、シュート!」
「おうっ!」
取り敢えず、先輩たちの見よう見まねでジャンプ。ジャンプの最高点でボールを放ち、ボールは緩やかに宙を舞う。バックボードに当たってすとん、と網の中を潜り抜けたボールが、二点追加した事実を物語っていた。
「おおっ!蒼空くんナイス!いぇーい!」
興奮気味にハイタッチを求めてくる女子生徒。それに応えてぱしん、と小気味良い音を立てて手を合わせる。男子生徒も人懐っこそうな笑みを浮かべてハイタッチをする。その後は女子生徒と男子生徒もシュートを決め、試合は俺たちの勝ちで決まった。
部長の挨拶で俺はバスケコートを後にする。鞄を取りに行く際に女子生徒…名は田村由良と言った。
に連絡先を渡された。
「暇なとき遊ぼーよ!」
とのことらしい。取り敢えず了承して、彼女に自分の連絡先を教えたところで俺と彼女は別れた。
体育館の外には、明らかにむすっ、とした顔をした紅葉と、それを宥めようとする志織、未だに女子生徒を査定している雪哉がいた。
「遅かったね。」
ふいっ、と顔をそらしながら紅葉が言う。悪い悪い、と軽く謝罪をして、前に向き直る。帰ろうと生徒玄関に足を進めようとすると、紅葉がキョトンとしてこちらを見ていた。
「野球、良いの?」
「おお!野球!いいねいいね!行こうよ!ね、蒼空くん!」
「え、あ、良いけど…」
「よし、しゅっぱつしんこー!」
どこかデジャヴを感じつつ、野球部の練習しているグラウンドへ向かった。