犯罪者になったらコナンに遭遇してしまったのだが   作:だら子

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其の一: 「転生した復讐者の目覚め」

——森の奥深くにある旅館に泊まったら、コナン御一行様がいた件について。

 

もしも私の手元に携帯かパソコンがあるなら、そんなスレッドを某大型掲示板で投稿していたはずだ。残念ながらネットに接続できる機器類は全て部屋の中だが。

 

震える手を口元へ持っていく。嘔吐しそうなくらい気持ちが悪い。グッと眉間に力を入れた。

地面に座り込みながら、前に視線を向ける。

 

そこには首吊り自殺をした男の死体があった。

 

死体の周りには毛利小五郎、江戸川コナンといった面々が険しい顔をして死体を検証している。彼らの横には鈴木園子や毛利蘭が怯えた表情で死体を見ていた。

私はそれを尻目に内心で全力で叫ぶ。

 

(まさかのコナン世界に転生してた!!)

 

ふざけないで欲しい。コナン世界に転生していたと知っていたならば、絶対に旅館になど泊まりにこなかった。森の中にある旅館なんてフラグ立ちまくりじゃねーか。

用事があったから仕方がないんだけど。でも、コナンがいると分かったのなら、即帰ったのに!

 

更に救えないことに自分が「コナン世界に転生している」と気がついたのは、つい先程。

死体の周りにコナン御一行様が集まってきた瞬間、唐突に思い出したのだ。所謂、フラッシュバックというやつだったのだろう。

死体とコナン御一行様との遭遇がキーとなり、脳内に眠っていた前世の記憶が解禁されたらしい。ババババーンッと脳内に突然膨大な情報を叩きつけられたのだ。

 

痛みで悶え死ぬかと思った…。そのせいで私は今、立ち上がれないぐらい気分が悪い。頭がぐるぐると回る。吐きそうだ…。

全く、運がない。前世も、今世も。

一緒に旅館に泊まりにきていた友人が、そんな私の背中を心配そうにさすってくれている。

それを有り難く思いながら、目を閉じた。

 

(ああ、本当に運がない。こんな時にコナン達がいるなんて)

 

(本当に、本当に、運がない)

 

(——復讐の最中に遭遇してしまうなんて)

 

コナン御一行様が検証している首吊り自殺の男——あれは私が殺した。

あははは。私がコナン御一行様に遭遇したことに嘆いているのは、殺される恐怖からだと思った?

違うね。真実を暴かれるかもしれない恐怖に怯えているんだ。

強めに唇を噛む。ぷつりと唇の皮が切れて、血が滲んだ。口の中に血特有の気持ちの悪い味が広がる。

 

今世では色々あり、殺したいくらいに憎んでいる人間が何人かいる。拷問に拷問を重ねて、死の絶望を味わって欲しいくらいの人間がいるのだ。

今、私の目の前にいる死体も私が憎んだ相手。自殺に見せかけるため、首吊りに態々してやった。 女の私が男を殺すのは苦労したものだ。

私は復讐のために人生の全てを賭ける勢いで臨んでいる。警察ですら、あの男の死を自殺と判定するだろう。それくらい綿密な計画を練り、実行。上手くやれると思ったのだが——。

 

(無理だよなあああああああああああ!! だってコナン様だよ? 迷宮入りの難事件を解決しまくってる主人公様だよ? 無理ゲーじゃねーか!)

 

くっそー! ふざけんなよ! コナン様の目を欺ける自信がねえ!! 逮捕フラグしか見えない!!

例え、もしも、本当にもしも、コナン様を騙せたとしても、捕まる未来以外想像できないんだけど…。

この世界には警察よりも賢い探偵達がわんさかいる。服部平次、降谷零、白馬探、赤井秀一。今、考えられるだけでも4名くらいはいるのだ。この内2名は警察官も兼業しているが。

何故私は探偵が蔓延る世界で犯罪を犯しちゃったの…。辛すぎる…。

 

(でも、復讐したかったんだもん…! くっそ、確実に捕まる…! 私もここで終わりか…)

 

一人殺せただけでも良しとするか…? いや、でも、一番殺したいやつを殺せていない。まだ捕まるわけにはいかない…!

モラルに反するような考えを巡らせる。人を殺した時点で道徳的にアウトだけどな!

少しの不安と社会に対する罪悪感が湧いた。

グッと手に力を入れる。

 

(私も堕ちたものだ…)

 

私が憎っくき男を殺した時、胸に込み上げてきた感情は『歓喜』だった。

ようやく、ようやく、無念が晴らせるのだ、そう思ったのだ。スッと心の枷が一つ外れた気分だった。

だが、人を殺して心が軽くなるなんて笑い事ではない。例え、それがどんなに憎い相手だとしても。

私があの時抱くべき感情は、罪悪感と怒りのはずだった。殺しによって喜びを抱くなど快楽殺人鬼と同じだ。

一般人の方にとっては人を殺したのだからどちらも一緒と思うかもしれない。けれど、ここは変えてはいけない領分だ。あくまで私は復讐者なのだから。

 

(復讐者が快楽殺人鬼になっては本末転倒。私はここで裁かれるべき、か。だからこそコナン御一行と今、ここで遭遇したのかもしれない)

 

自首、しよう。

 

それがいい。そもそも私には人殺しなんて向いていなかったのかもしれない。最後の最後まで私は迷っていたのだから。

吐き気を根性で抑え、立ち上がる。手が微かに震えた。

ずっと私の側にいてくれていた友人にお礼を言った後、歩き出す。毛利小五郎や江戸川コナンに、「私が犯人だ」とこっそり言うために。

彼らの背後に立ち、声をかけようとした瞬間だった。

 

「もっ、毛利さん! 毛利さん…!」

「女将さん?! どうしましたか?!」

「ひっ、」

「ひ?」

「人がまた死んでるんです…!」

 

旅館の女将の言葉に空気が凍った。

ついでに私の表情も凍った。

 

女将の顔は真っ青で今にも倒れそうだ。自分の旅館で二件も殺人事件が起きている挙句、死体を見たのだから当たり前だ。

そんな女将を毛利小五郎が慌てた様子で抱きしめ、詳細を聞く。

女将曰く、「ここで見つかった男性死体と一緒に旅行に来ていた女性が、部屋で首吊り自殺をしていた」と言うのだ。

 

(えっ…?? 自殺…?!)

 

私が殺した男と一緒に来ていた女は既にリサーチ済み。確か男の愛人だったはずだ。

もしかして男が死んだショックで自殺したのか…? いや、あの愛人はかなり性格が悪く、男を利用するために近づいた女だ。まずそれはない。他殺の方が可能性の方が高いように思えた。

 

(いや、それよりも自首しなくては…!)

 

予測不可能なことが起きて、テンパりながらもコナンを捕まえる。先程の女将からの報告を聞いて、必死に推理していたのだろう。それを邪魔されたからか、一瞬だけ鬱陶しそうな顔をした。直ぐに可愛いコナン君に戻ったが。

ご…ごめんって。捜査の邪魔をして…。

 

「あの…コナン君」

「どうしたの?」

 

不思議そうな顔をするコナン。それを見て、ちょっと待てよ? という気持ちになった。

私はコナンが工藤新一だと知っている。だからこそ、私は有能な探偵たる彼に自首しようと考えた。

だが、本来ならそれは知るはずのない情報だ。ただの子供のコナンに唐突に自首する犯人がいるだろうか? …いるわけねーよ! いたら逆に怖いわ!

あっぶねー…自ら違うフラグを立たせるところだった。流石に黒の組織フラグはいらない。

私はなんとか誤魔化そうと咄嗟に口を開いた。

 

「私が犯——いや、何でもない。子供がこんなところにいるべきじゃないよ。部屋に戻ろう?」

「あ、あははー! 大丈夫だよ! 直ぐに戻るから」

 

コナンの顔が、「やっべー痛いところ突っ込まれた。でも、俺は子供じゃねえんだよな」みたいになってた。

ごめん! 捜査の邪魔をするつもりはなかったんだけど! 咄嗟にそんな言葉しか出なかった。

申し訳ない気持ちで一杯になっていると、またもやドタドタと激しい足音が聞こえて来る。ガラッと障子を開けたのは大学生くらいの若い青年だった。

 

「毛利さん…!!」

「今度はなんだ?!」

「人が! 人が…! 風呂で首を吊って死んでいるんです…!」

「はあ?!?!」

 

怒涛の首吊り死体ラッシュである。

どうなってんだ。一日に三人も人が死ぬって…。しかも、同じ場所で。 打ち合わせでもしてんのか?! コナン世界怖すぎだろ…!

あまりの恐怖に震える。

 

そんな中、毛利小五郎は一先ず女将の方の死体を見に行くことにしたらしい。彼は女将の後をついていった。

余談だが、警察がこの場にいないのは、旅館に唯一通じている道で土砂崩れが起きてしまったからだ。コナン世界のテンプレ乙。

 

(やばいやばいやばい。自首できる雰囲気じゃなくなってきた! よく分からない事件が起こって来やがってる!)

 

このままじゃあ解決編でコナンにトリック全てを暴かれ、懺悔モードに入ってしまう…!

こんな大勢のところで懺悔はするつもりはない。私の復讐のきっかけは誰にも話すつもりはないのだから。

 

又、もしも私がこの場で自首すれば、三件同時首吊り事件が私が全てやったことになるかもしれない。それにより、肝心の殺人犯を逃がす可能性がある。そんな輩を逃すわけにはいかないのだ。

自分が人を殺しておいて何をほざくかと思うかもしれない。だが、その犯人が私と違って快楽殺人鬼だったとしたらどうする? 罪のないものまで死ぬかもしれない。それは絶対に嫌だ。

 

(そっ…そうだ! コナン君にそれとなく、「私が犯人ですよ。でも、他にも犯人がいるかもしれませんよ〜」的な雰囲気を流して、秘密裏に私と他の犯人を捕まえて貰おう)

 

じっと考え込むコナンの隣にいた私は、更に少しだけ彼に近づく。

雰囲気を出す為に目を伏せる。自分に言い聞かせるように独り言を呟いた。

 

「アザミの花は一体誰が持つんだろう。白いアネモネを見失わず、静かにしろ」

「へ?」

「ああ、ごめん、何でもないよ。少し気分が悪いから部屋に戻るね。コナン君も早く戻りなよ?」

 

私が小さく呟いた言葉が聞こえたのだろう。コナンはきょとんとした顔になった。

私はそれに対して、「あっ、いっけなーい☆」みたいな表情を一瞬だけ見せる。直ぐに取り繕い、優しく微笑んだ。

非常事態のみ無駄に演技が上手くなる…。火事場の馬鹿力というやつなんだろうか…。

 

(一応、遠回しに私が犯人であることと、他にも犯罪者がいることを伝えてみたが…分かるだろうか)

 

アザミの花言葉は「復讐」。

白いアネモネの花言葉は「真実」。

 

私が言いたいのは、「復讐心を持つのは一体誰なんだろうか。真実を見失ってはいけないな…」ということである。

復讐心を持つのは私。つまり、犯人は私ということを暗示。

しかし、私だけが犯人と思われないように、「真実を見失わず〜」と呟いたのだ。私を捕まえて全てが終了となっては困る。何の為に無駄な暗号を考えたと思っているんだ。

ついでに、最後、「静かにしろ」を付け加えたのは、「頼むから誰もいないところで裁いてくれよ?!」という懇願である。これが一番大切だ。

 

簡易の暗号としては上々ではないだろうか。この場で花言葉が咄嗟に分かる奴はコナンくらいである。もしくはコナンへの情報提供役とか。たとえ今の時点で分からなくても、きっとコナンなら推理してくれるだろう。我らがヒーロー、天下無敵のコナン様なのだから。

 

満足げに内心で頷く。しかし、外面は弱々しく微笑んでみせた。

何か言いたげなコナンをガン無視して歩き出す。

死体を見ながら立ち竦む友人を連れて直ぐに部屋へ帰宅した。さっさと部屋の敷布団に倒れこむ。

 

(あー…疲れた…)

 

今後、もっと辛い事案に巻き込まれるとはいざ知らず、私は呑気に背伸びをしていた。

 

 

 

 

(この事件はどこかおかしい…)

 

三件同時に起きた首吊り自殺事件。

 

最初は金持ち男の首吊り死体の発見から始まった。次に女将さんがその男の愛人の首吊り死体を部屋で発見。最後にスタッフの青年が風呂場で若い男の首吊り死体を見つけたのだ。

 

まるで打ち合わせしたかのように起こる怒涛の事件。

いや、恐らく本当に打ち合わせをしたのかもしれない。三件同時に首吊り死体が発見されるなんて、滅多に起こらないだろう。

小五郎のおっちゃんは、「偶然にも首吊り自殺が同じ時に起こった」と嘯いてはいるが…。

 

俺はこの事件は自殺などではなく、他殺であると睨んでいた。

確かにどの死体も自殺に見える。特に一番初めに発見された死体なんて、最初は自殺だと思ってしまった程だ。

だが、こんなにも連続して死体が見つかるのは明らかにおかしい。

それに——俺の探偵の勘が「自殺ではない」といっていた。

 

(それと、幾世さんが言ったあの言葉が気になるな…)

 

——幾世あやめ。

 

この旅館に友人と共に泊まりに来ている二十代後半の女性だ。大人しい風貌で、控えめな笑顔が印象的な女性である。

そんな彼女の友人が、一番初めの首吊り死体の第1発見者だ。

幾世さんと話している時に、彼女の友人が大きな悲鳴を上げた時は驚いた。幾世さんと共に慌てながら彼女の友人の元へ向かうと、人が死んでいたのだ。

 

その時の幾世さんの動揺っぷりは見ていられなかった。

顔を真っ青にさせて、全身を震わせながら床に崩れ落ちたのだ。恐らく、初めて死体を見たのだろう。

そんな風に怯える幾世さんを見て、彼女の友人は硬直させていた身体をすぐに動かした。幾世さんがあまりに動揺していた為、自分がなんとかしなくてはと思ったのだろう。床に座り込む幾世さんの背中をひたすら撫でていた。

 

(そんな幾世さんの言葉——「アザミの花は一体誰が持つんだろう。白いアネモネを見失わず、静かにしろ」)

 

一体どういう意味だ? 幾世さんはこの事件に関与しているのか…?

暗号のような幾世さんの言葉に頭を回転させる。

 

アザミの花言葉は「復讐、独立、厳格、満足、触れないで、安心」。

白いアネモネの花言葉は、「真実、希望、期待」。

 

幾世さんの話した文章に合う花言葉を当てはめてみると、一つの文が出来上がる。「復讐心を持つのは一体誰なんだろうか。真実を見失ってはいけないな…」と。もしかしたら他の可能性もあるが、一番しっくりくるのはこれだった。

 

(幾世さんは何を知っている? この事件に彼女は関係があるのか?)

 

幾世さんがこの言葉を呟いているとき、瞳が曇った。闇を詰め込んだような、ゾッとする瞳になったのだ。

人を人だと思っていない表情をしていた。まるで熱をもたない人形みたいな顔。

それを見て俺は一瞬だけ幾世あやめという人物に恐怖を抱いた。この人にはどんな常識も通用しない化け物だと思ってしまったのだ。

 

直ぐに幾世さんは優しげな雰囲気に戻ったが…。何かあるようにしか見えない。

黒ずくめの男達と出会ったときのような、でも、種類の違う恐怖を幾世さんから感じたのだから。

 

(暴いてやるぜ、真実を!)

 

そう意気込みながら俺は情報収集をしていく。

 

————最終的には犯人が分かり、捕まえることが出来た。

犯人は実は二人いたのだ。一人は幾世さんの友人。もう一人が旅館の女将さん。

 

幾世さんの友人が一番初めに発見された男を殺し、次に男の愛人を同じ方法で殺害したらしい。理由は復讐。

二人に騙され、莫大な借金を作る羽目になったからだとか。そこまでなら警察に通報すればいい。

だが、男は議員で、警察や他方面にも沢山賄賂を握らせており、訴えることが出来なかった。それが理由で男と愛人を殺害。

 

女将さんの殺害理由は同じく、復讐。

復讐しようと思っていた時、先に二人の首吊り死体を偶然発見したらしい。「この二人を殺した誰かの犯行に見せかけて、その誰かに罪をなすりつけよう」と思い、同じ首吊り死体を作ったとか。

 

(幾世さんの「復讐心を持つのは一体誰なんだろうか。真実を見失ってはいけないな…」はこれだったのか)

 

俺は初め、犯人はてっきり一人だと思っていた。だが、色々と検証して、幾世さんの助言を思い出した結果、犯人が二人だと見抜けた。

最初から幾世さんはこれに気がついていたのだろうか? それとも自分の友人にどこか疑問を抱いていたのか? 分からない。

 

(それに——この事件、解決したといっても…なんだかモヤモヤする)

 

そう、何か見落としているような。誘導されているような。真実を覆い隠されているような。——そんな気がするのだ。

 

思考の海に沈む。そんな時に幾世さんが廊下の角から歩いてきた。つい先程まで考えていた人物に偶然会ったことに驚く。幾世さんは俺を見て、笑顔を浮かべていた。

 

(そうだ。この機会に聞いてみるか)

 

コナンらしい可愛い子供の声を意識して、「ねえ、幾世さん。聞きたいことがあるんだけど」と話しかける。幾世さんは首を傾げながら俺に視線を合わせるために身を低くした。

 

「どうしたの?」

「幾世さんは死体が見つかった時にどうして『アザミが〜アネモネが〜』とか言ってたの?」

「やだ。聞こえちゃってた?」

「なんで〜? 僕、蘭姉ちゃんからアザミの花言葉は『復讐』だって聞いたんだ! 幾世さんは犯人が分かってたの? ほら、幾世さんのお友達や女将さん動機が復讐だったからさ」

 

はぐらかされるのは嫌なので直球で聞いてみた。すると幾世さんはキョトンとした顔になる。

「お、これは何かあるか?」と目を鋭くさせると、幾世さんは小さく笑った。いつものような優しい笑顔で。

 

「実はね、私の友人が犯人じゃないかと思ってたんだ。あの子、ある日突然変わっちゃったから…。友人が犯人だと考えると、動揺しちゃって変なことを呟いてしまったや。ごめんね。」

「そうなんだ…。じゃあ、犯人が複数いることは? 何で分かったの?」

「友人があんな沢山の人数を殺すとは流石に思わなかったし…。勘だけど、他にも犯人がいるのかと思ったんだ」

 

普通の反応だ。普通で、凡人で、可愛らしい女の人の反応だ。

幾世さんは死体を見た時にかなり動揺していた。アレは演技で到底できるようなものではないだろう。本当に顔が真っ青になっていたしなぁ。

やはり俺の思い違いだったか…?? 彼女に恐怖を一瞬でも抱いたこと全て。

 

復讐や真実を咄嗟に花言葉に例えた幾世さん。恐らくは友人の為にボカして発言したのではないだろうか。

又、あの時幾世さんはかなり動揺していた。人によっては動揺を抑えるため、自分に言い聞かせるように独り言を呟く者もいる。

 

俺は笑顔を浮かべて、「そうなんだ。変なこと聞いちゃってゴメンね」と言った。幾世さんは「大丈夫だよ」と笑いながら俺の頭を撫でる。

その時、自分の後ろ側から「コナンく〜ん! 何処にいるの〜?!」という蘭の声が聞こえた。慌てて振り向き、蘭に返事をしようと思った刹那。

 

 

——ゾクッッッ

 

 

身の毛がよだつ。全身の汗腺から汗がブワッと出てくる。ツゥと背筋に冷や汗が流れた。思わず凄まじい勢いで振り返る。

だが、そこにいるのは穏やかな顔をした幾世さんだけ。急に振り返った俺を見て、幾世さんは不思議そうな顔をしていた。

 

(なん…だったんだ?)

 

気のせいで済ませないぐらいの恐怖を感じた。何だったんだ。でも、恐怖を感じた方面にいるのは幾世さんだけ。やはり…気のせいなのか…??

 

俺はそんな気持ちを振り切るように蘭の元へ走り出す。微かに手を震わせながら。

 

 

この時、俺は気がついていなかった。

俺が生涯を賭けてでも捕まえてやりたいと思う犯罪者と遭遇したことなど。

俺は見逃してしまっていた。数多の偶然か、それとも策略のせいか分からないが、真の犯人を見逃していたのだ。

 

 

 

江戸川コナンの物語は終わらない。




犯罪者視点はあまり見ないな〜と言うことで、息抜きで書きました。
よろしくお願いします。

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