犯罪者になったらコナンに遭遇してしまったのだが   作:だら子

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其の十四:「森谷帝二はシンメトリーがお好き」

(頭が、痛い)

 

それはそうだろう。なんたって今、私は幾世あやめに頭部を足で踏みつけられているのだから。しかも、ピンヒールで、だ。これがアブナイ趣味の方々なら喜んだのだろうが、残念ながら自分にはそういった趣味はない。ただ屈辱や苦痛といったものしか感じなかった。

 

何故こうなっているのか? 理由は簡単だ。

――――私、森谷帝二は先程、幾世あやめを殺そうとしていたからだ。

 

幾世あやめがウキウキと江戸川コナンとジャック・ザ・リッパーの対面を見ている時に私はゆっくりと彼女に近づいた。殺してやろうと、幾世あやめを絶対に殺すと、そう思っていたのである。しかし、拳銃の引き金を引こうとした瞬間、その目論見は全て無に帰してしまった。

 

(殺せると思った。幾世あやめを殺せると確信した。なのに何故だ…何故なのだ)

 

何故、私は地べたに這いつくばっている?

 

純粋な疑問だった。幾世あやめは凡庸で、凡人で、取るに足りない人物だ。常に彼女と共にいた私だからこそ分かる。幾世あやめは取り立ててこれといった能力はなく、普通の人間であると。

 

――――しかし、今、私が彼女に頭を踏みつけられている現実が()()()()()()()()()()()という事実を壊していた。

 

矛盾だ。これはどうしようもなく矛盾している。美しくない。シンメトリーではない。認められない。認められるものか。このような平凡な顔立ちで、周りがあっと驚く頭脳もなく、才能のかけらもない、幾世あやめなんぞに。私、森谷帝二がこうべを垂れるなど。もしもこれが工藤新一のような才能に溢れた人物ならまだ分かる。だが、どうして私は凡庸なはずの幾世あやめにいつも敗北するというのだ?

 

(幾世あやめはいつだって矛盾に満ちている)

 

どう考えても、どう見ても彼女は凡人の域をでない。ベルモットから訓練を受けていた時に何度か彼女に手本を見せてもらったことがあるが、どの技術に関しても平均より少し上程度でしかなかった。そんな人物が犯罪を犯せば、簡単に捕まると思うだろう。しかし、既に幾世あやめは2桁に及ぶ人間の殺害に成功していた。しかも、誰にも気がつかれずに。

 

(理解できない。幾世あやめという女が理解できない…)

 

いつからだろう。幾世あやめが恐ろしいと感じたのは。初対面の時は何も思わなかったというのに。いや、『何も思わない』という感情すら抱かなかったかもしれない。彼女と出会った当初は、あまりにもどうでもよ過ぎて、名前や顔も覚えていなかったのだから。一応、自分のパトロンとしては認識していたが。つまるところ、あの時の森谷帝二にとって彼女はいてもいなくても良い存在だったのだ。

 

その認識が変わったのはいつなのだろう。

 

ああ、それは多分、あの時だ。幾世あやめへ『借り』を返すため、彼女に協力する事になった時。あの時、私は幾世あやめが犯罪者として活動している理由と、復讐対象を伝えられた。彼女が復讐を志した理由は陳腐で、ありきたり。そもそも幾世あやめに興味のかけらもなかった私は『ふうん、そうか』程度にしか思わなかったものである。しかし、一点だけ、私の興味を引いたものがあった。

 

復讐対象者の多さだ。

 

死にかけの老人から十に満たないような子供まで、殺害対象としてリストに載っていたのだから。いつもの私なら何も言わずにそのままにしていただろう。だが、その時の私は何故か彼女へ質問していた。「どうしてこうも人数が多いのか」と。それを聞いた幾世あやめはキョトンとした間抜け顔をする。彼女は幾つかバツマークが既についたリストに視線を戻した後、静かに口を開いた。

 

「全部殺さなきゃ意味がないだろう?」

「全部?」

「そう、()()だよ、()()殺すんだ。本人だけじゃなく、そいつの子供、伴侶、親、兄弟、孫、祖父母、叔父や叔母などに至るまで――――具体的には…そうだな、三親等内の人間は全て殺すんだ」

「それはそれは随分と…」

「過激だと? だが、先にそうしたのはあいつらの方なのだから」

 

そう話す幾世あやめからはこれっぽちも脅威を感じなかった。

一片たりとも、微塵たりとも、感じなかったのだ。

 

彼女はこれ以上なく過激で、道徳に反する言葉を口にしている。しかも、幾世あやめはそこそこの量の人間を既に殺しまくっていたのだ。

 

それなのに。

それなのにも関わらず、幾世あやめの口から零れ落ちる言葉は恐ろしいとは感じなかった。

 

普通の殺人者ならば、必ず何かしらの違和感や恐ろしさがあるはずだ。まあ、殺人者に普通もクソもないだろうが――――これだけは言える。人を殺したものとそうでない者の言葉の重みは違うはずなのだ。幾世あやめのようにここまで計画的に殺人を犯す犯罪者が、先程、彼女が口にしたような言葉を話せばどんな人間だって震え上がるに違いない。だが、幾世あやめは平和ボケした一般人にしか見えなかった。

 

(今まで出会ったことのないタイプの人間だ)

 

私は「ふむ」と頷きつつ、目を細める。自分の視界に凡庸な顔立ちの幾世あやめがスゥと自然に入ってきた。私は彼女に対して「全員殺すとなれば骨が折れますね」と簡潔に述べてみせる。すると幾世あやめは小さく笑った。「確かにその通りだ」と言いながら。彼女の紫がかった黒い瞳が印象的だと思ったものだ。

 

この時、ようやく私は『幾世あやめ』の顔と名前を覚えた。平凡で、だが、少し風変わりな彼女を1人の人間として認識するようになったのである。

 

こうして彼女という存在を認めてから、私は幾世あやめの歪さを少しづつ感じるようになっていった。一番歪さを感じた一つは、『幾世あやめが知り得ないはずの情報を知っている』ことである。

 

例えば、キッドの正体。ティータイム中に突然、幾世あやめが「キッドの正体は黒羽快斗だ。よろしく頼む」と言い出した時は何を言っているのだろうと思ったものだ。不審に思いながらも調べてみると、キッドと黒羽快斗の身体情報が全て一致。キッド=黒羽快斗を認めざるを得ない事態となった。

 

例えば、とある大型国際犯罪シンジケートの幹部構成員の全貌。通称『黒の組織』と呼ばれるその組織。そこで諜報活動しているNOCやら、幹部達の容姿の詳細やらを幾世あやめは世間話の中で伝えてきたのである。流石にこれは冗談だろうと考えたが、調査の結果、それは本当だと確信した。しかも、あの『先生』がその組織の幹部、ベルモットだったのである。幾世あやめの紹介で知り合い、犯罪のいろはを教えてもらったあの『先生』が。これには私も頭が痛くなる思いをしたものだ。

 

(あの女、一体何者だ)

 

知れば知るほど、幾世あやめの矛盾が浮かびあがってくる。先程も述べたように、彼女は凡人だ。凡庸な女性だ。例え、復讐を志し、人を殺していようとも、驚くくらいに普通だった。能力も、雰囲気も、幾世あやめを構成する全てが。だからこそ、『気持ち悪い』と思ったのだ。彼女が本来ならば入手できないような情報を知っていることが。また、秀でた能力もないのにここまで犯罪を犯せていることも気持ち悪いと思う要因の一つだった。彼女は今の今まで自分という存在を誰にも気が付かれずに完全犯罪を成功させている。普通の、どこにでもいるような女性が! これが気持ち悪いと言わずに何と言うというのだ。その上、幾世あやめとくれば、トリックの詳細を聞いても、「偶然こうなった」としか言わないのだ。こんな偶然あってたまるか! 余計に気味が悪く、気持ち悪い。

 

どうあがいても、どうやっても、あの『幾世あやめ』にできるはずがない。

 

できるはずがないのに、できてしまっているという『矛盾』。

 

(美しくない。シンメトリーじゃない。矛盾している人間など)

 

私、森谷帝二はシンメトリーが好きだ。シンメトリーこそが私の美学。それ故、シンメトリー以外は認められない。左右対称でなければ、それは『美』ではないのだ。だからこそ、幾世あやめは『美しくない』。悪ならば、純粋な悪であるべきだ。誰も知りえないような情報を知っている人間は、天才であるべきだ。怪物じみた犯罪を犯す者は、本物の怪物であるべきだ。なんて、なんて、『幾世あやめ』は不気味で、薄気味悪く、美しくないのだろう。

 

初めて幾世あやめに抱いた強い感情は『嫌悪』だった。

 

それからというもの、私は幾世あやめを注意深く観察するようになったのである。幾世あやめの本質を知るために、私ができることなら何だってやってみせた。彼女が私を『モリアーティ教授』と呼び、その役を演じろと言うならば、演じてみせた。幾世あやめが『弱者を集め、駒にする組織』を作った時だって、組織の顔役になってやった。全ては、彼女を油断させ、あの女の中身をさらけ出すために。

 

(それなのにまだ私は彼女の本質を理解できていない)

 

それどころか、幾世あやめが何故、私を『モリアーティ教授』と扱うのかも未だに理解できていなかった。彼女を探るために不必要に幾世あやめを持ち上げて、「私はモリアーティ教授には向いていない。貴方こそがモリアーティだ」などと言ったこともあるが、これといった反応を得ることはできなかったのである。まあ、その程度で分かってしまうのなら、おもしろくはないのだが。

 

「このままでは駄目だ。幾世あやめの本質を知るためには、もっと別の方法が必要…」

 

だからこそ、私はあの時、幾世あやめを危機的状況に陥らせた。あの時――――幾世あやめが目の前にいる場面で、ベルモットに拳銃を突きつけてやったのだ。

まあ、実を言うと、別の方法で幾世あやめを追い詰めようとしていたのだが、偶然にも彼女はベルモットが取引場所として選んだ公衆便所へ入ってくれたのである。この好機を逃がしてはならないと思った。結果、私は幾世あやめに気を取られているベルモットへ拳銃を突きつけることに成功した。

 

(さあ、どうする? 幾世あやめ)

 

私がベルモットに拳銃を突きつけたとなれば、『先生』は必ず幾世あやめを排除しようとするだろう。なんせ、私と幾世あやめは常に一緒にいるおかげでベルモットからは同一グループとして扱われている。それ故に私、森谷帝二がベルモットへ拳銃を突きつけることは『幾世あやめはベルモットに敵対している』と言っているのも同然になるのだ。まあ、一応、『ベルモットと交渉しにきた』という体をとってはいるが、ベルモットも交渉などとは思っていないだろう。

 

私がベルモットに拳銃を向けた時、幾世あやめは目を見開く。慌てて否定しようとする彼女を遮り、後に引けなくなるよう私はベルモットに対して『交渉にしきたんですよ』と言った。それを聞いた幾世あやめは何度か口を開き、そして次の瞬間、

 

――――『笑った』。

 

いつも通りの凡庸で、普通で、平凡な笑みで。日常の中で友人に無茶振りをされた時に浮かべる、困ったような笑みだったのだ。その笑みを見て、何故だか分からないが自分の手が震えた。

 

(なん、なんだ、こいつは、この、女は、)

 

幾世あやめがベルモットと交渉する声が遠くに聞こえる。急速に身体が冷えていった。その感覚に戸惑いながら、私は一つだけ自覚せざるを得なかった。

 

私は今、幾世あやめに恐怖したのだということを。

 

あり得ない。あり得るはずがない。この私が、日本有数の名門大学の教授まで務めた私が、あの平凡な『幾世あやめ』なんぞを恐れたことなど。なんの取り柄もなく、技術も凡庸である、彼女などに。

だが、私の拳銃を持っていない方の手が小刻みに揺れてしまっている。なんとか震えを止めようとするが、全く止まらなかった。それが『森谷帝二は幾世あやめを恐れている』という幻想を現実にしてしまう。ベルモットと幾世あやめには分からないよう、私は小さく唇を噛みしめた。

 

(……私は、森谷帝二は、幾世あやめという凡人が怖いのか)

 

幾世あやめは未知の人間だ。どれほど彼女を観察しようとも、彼女の本質が理解できない。彼女が掴んでいる情報の出所が分からない。幾世あやめがどうやって世間をだし抜けているのか分からない。未知は恐怖だ。理解できないというのは恐ろしい。理解できないというのは怖い。幾世あやめはまるで実態の掴めない幽霊のようだ。恐ろしい。怖ろしい。おそろしい。私、森谷帝二という男は数多に存在する人間の中でも賢い部類に入ると自覚している。その私が幾世あやめを一片たりとも理解できないその事実がどうしようもなく恐ろしかった。

 

(兎にも角にも、震えを抑えなくては)

 

私はベルモットと幾世あやめに気が付かれないようにグッと手に力をいれる。そうやって、どうにかして手の震えを抑え込んだ頃、彼女たちの対談は終わりを見せ始めていた。どうにも幾世あやめがベルモットを傘下に収めることに成功したらしい。凡庸な幾世あやめならできないはずのその光景に、私の顔がひきつってしまったものだ。なんとか私はその場を取り繕い、逃げるようにしてその場を後にした。

 

――――ここで私に転機が訪れる。

慌てて自宅に戻った時、あることが思い浮かんだのだ。

 

「幾世あやめを殺そう」

 

私が誰かに後れを取るなどあってはならない。幾世あやめを殺せば、私が恐怖心を抱く人間は工藤新一以外にいなくなる。勿論、工藤新一も殺す算段だが、幾世あやめを早めに処理した方がいいだろう。理由は簡単だ。幾世あやめが凡人だからだ。私が凡人なんぞに負けているなんて、できるだけ他の人間に知られたくない。

 

だから。

だから、私はジャック・ザ・リッパーに依頼したのだ。

まだ幾世あやめが出会ったことすらない切り裂きジャックに対して『工藤新一を追い詰めろ』と言ったのである。

 

幾世あやめは工藤新一にやけに執着している。基本的に復讐相手にしか興味を抱かない彼女が、だ。いや、執着というよりも殺意に近いか。彼女は工藤新一を『ホームズ』と呼び、常々彼を殺したがっていた。優しげな瞳を細め、「邪魔だなあ」と言っていたのだ。

 

幾世あやめが復讐とは違う殺意を向ける工藤新一。その彼が危機的状況に陥れば? きっと彼女はウキウキとその場面を見守るだろう。まるで子供がオモチャに夢中になるように。なんなら幾世あやめはその隙を突き、自らの手で工藤新一を殺そうとするかもしれない。

 

そこを狙えばいい。

人が一番無防備になる瞬間とは、獲物を狩る瞬間なのだから。

 

(それなのに、)

 

逆に、私が狩られてしまった。

結果、私は幾世あやめに頭を踏みつけられる事態に陥っている。

 

(一体どうやって?)

 

確実に幾世あやめを殺せると思った。私が幾世あやめに拳銃を突きつけた瞬間、勝利を確信した。なのに何故、私は幾世あやめに敗北している? これでは私はただの道化ではないか。舞台上で幾世あやめに操られるだけのドールではないか! 一体、いつ、どこで気がつかれたというのだ? 屈辱でギリっと歯を噛み締めた瞬間、ハッと気がつく。

 

(――――まさか、初めから?)

 

嫌な妄想だった。

もしかしたら、もしかしたら、幾世あやめは初めから私の行動を予測していたのではないか。私が工藤新一に敗北し、幾世あやめの手駒となり、私がジャック・ザ・リッパーに彼女を殺すように依頼した――――この一連の流れが全て幾世あやめによるものだったとしたら?

 

(ありえない!)

 

凡庸な幾世あやめにできるわけがない。彼女と今の今までに共にいた私だ。だからこそ、彼女の凡庸さを理解している。知っている。幾世あやめに私をだし抜けるはずがない。もしそんなことができれば、そんなことができるというのならば、幾世あやめは、凡人なんてものじゃない。ましてや、天才でもない。

 

 

怪物だ。

 

 

その事実を否定するためにチラリと視線を幾世あやめに動かす。幾世あやめはいつも通りの笑みを浮かべていた。平凡で、優しげで、虫一つ殺したことのないような顔。私、森谷帝二をだし抜けるような雰囲気など、一片たりともまとってはいなかった。いつも通りのその笑顔が何故か工藤新一、いや、江戸川コナンの笑みとダブる。それに目を見開く。

 

「は、」

 

私は幾世あやめに二つの感情を抱いている。『嫌悪』と『恐怖』だ。私は矛盾している幾世あやめが気持ち悪いと思っている。凡庸なのに非凡なことをしでかしている彼女を嫌悪しているのだ。それと同時に、彼女の矛盾に恐怖も抱いている。私が幾世あやめに抱く感情はその二つしかなかった。なかったはずだ。

 

(なのに今、私は、)

 

()()()と。

 

幾世あやめを美しいと思った。

 

ブワッと視界が開ける。これはまるで、著名な建築家が手がけた建築物を見たときのような感覚。久方ぶりに味わったその感覚に胸が震えた。

 

――――私、森谷帝二はシンメトリーが好きだ。

 

シンメトリーこそ私の美学。シンメトリーこそ正義。シンメトリー以外は認められない。だから私は若い頃に手がけたアシンメトリーの建築物を爆破した。美しくないから。アシンメトリーは美しくないから。なのに、私は矛盾だらけの幾世あやめを! 今! 美しいと思ったのだ! その現実を理解して、口は歪み、身体が震えた。

 

「は、はは、はっ、キヒッ、ヒッヒッヒッ」

 

歪な笑い声が喉から零れ落ちる。キヒッキヒッと悪魔のような声が絶え間なく続いた。私は幾世あやめに頭を踏みつけられながら、胸を押さえる。溢れんばかりの感情を制御するかのように。ああ、何故ならば、おかしくておかしくて仕方がなかったのだ。今、零れ落ちた感情だけで、これまで培ってきた私の美学が全て壊れてしまったのだから。おそろしいことに、信じられないことに、私は幾世あやめを美しいと思ってしまった。そして、同時にこうも思ってしまったのだ。

 

アシンメトリーの可能性を見てみたいと。

私が感じたことのない未知の美を知りたいと、そう思ったのだ。

 

人としての探究心が恐怖をぶち壊し、私の前へ現実として形を成す。その感情の変化に私の頭がついていけなかった。だが、一つだけ私は幾世あやめに言える。震える唇を私は開いた。

 

「私は、」

「?」

「貴方の物語を、見たい」

口にした言葉が私の想いを確固たるものにする。何も考えずに発した言葉。それが自分の本心だと言うことに気がつくのは早かった。

 

(ああ、そうだ。私は彼女の舞台を見てみたい。アシンメトリーの可能性を知りたい)

 

だから、私は幾世あやめの駒になる。

彼女の手掛けるモリアーティ教授になるのだ。

 

役者はそろそろ揃うだろう。モリアーティ、ホームズ、ルパン、その他多数。大勢の役者を操り、彼女はどんな舞台を魅せてくれるのか。矛盾を抱えた幾世あやめの物語を見てみたい。彼女の『美』を。だから、私はモリアーティを演じ続ける。例え、私が()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(貴女が舞台に上がる、その日まで)

 

幾世あやめが舞台に登場する瞬間を想像して笑みを深める。ああ、どうしてこうも彼女は舞台が似合わないんだろう。死臭を引き連れ、人々の怨念をアクセサリーとして着飾っているというのに。想像上の幾世あやめも驚くくらい凡庸で平凡だったのだ。だが、私はこれでいいと思った。

 

これこそが、『幾世あやめ』なのだ。

死が全く似合わない、しかし、死に一番近い者こそ『幾世あやめ』であるのだから。

 

森谷帝二はにっこりと笑みを浮かべた。来るべき未来を想像して。

 

 

 




匿名質問者A「部下が理解できなくて困っています。先日、その気持ちが特に強くなったので、こちらに相談にきました。

ついこの間のことなのですが、部下が転倒してしまいました。その際、私も巻き込まれ、偶然にも部下を踏んでしまったんです。慌てて足を離そうとしたら、部下が突然笑いだしたんですよ。凄く嬉しそうに。私をフォローするためなどではなく、踏まれた事実に喜んでいるようでした。ゾッとしました。

常々部下とは価値観の差異があり、困っていたのですが、今回の件で更に理解不能になりました。とても深刻な悩みです。どうしたらいいでしょうか」


匿名回答者B「SMクラブを紹介してあげたらどうですか」

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