魔女と怪異と心の穴───もしくは一ノ瀬巽の怪異譚─── 作:タキオンのモルモット
1
「······で、先生。何故俺は呼び出されたのでしょうか?」
とある日の放課後、俺は担任の久島佳苗(ひさしまかなえ)に呼び出されていた。仮屋の持ってきた事件から約二週間が経過している。因みにあの後店長さんはラビリンスを閉めて別の県でカフェをやっているらしい。仮屋は別の喫茶店に移ったようだ。この間綾地に相談を持ちかけていた。
「いや、まあ色々あるんだがな。まずは一つ。お前この間賞とったろ?」
「────ああ、取りましたね。どうかしたんですか?全校集会か何かで表彰とか?」
「まあ、その通りだ。三日後の全校集会で表彰されるぞ、部活動が一通り終わった後に。今回はお前一人の功績だしな。」
「そりゃそうだ······で二つ目は?」
「······この進路希望調査だよ。大学には行かないのか?」
「······んー、行ってまで学ぶ事無いんですよね。もうほぼほぼ学び終えたと言いますか······イザとなったら独学でどうにでもなりますので······」
「······いやまあ良いんだけどさぁ······私の仕事も一つ減るわけだし······ぶっちゃけ何もしなくてもお前ならどこでもいけるだろ。······ただなぁ、もう少しお前は人と関わった方がいいと思うんだが······」
「冗談じゃねえ、ただでさえ怪異絡みで人と関わって厄介な思いしてるってのに······」
事実、未だに特務課は俺のことスカウトしようとしているしな。本当に碌なことが無い。特に最近。心霊相談が殺人事件になったりとかな。
「······?まあいい、お前もあまり人とは関わらないタイプの人間だからな······」
「そりゃ俺に近づいてくるやつなんて俺のネームバリュー利用して他の有名人のサインを頼んでくるやつか金目当てのどちらかですからね。」
唯一違うのは柊史とその周りだろうか。
本当に人と関わるのは嫌になる。
「有名人も大変だな······まあ一応今の所大学進学は考えてないってことでいいんだな?」
「ええ、それでお願いします。」
そうして軽い二者面談は終わった。
2
オカルト研究部部室前に着くと髪の明るい女の子が立ち止まっていた。
「······何してんのお前」
「うわひゃあっ!?」
めちゃくちゃ驚かれた。
「な、なんですかいき······な······い、一ノ瀬センパイ!?」
「ん?俺のこと知ってるのか?」
「忘れられてる!?」
はて、何のことやら?少なくともこんなオレンジ色みたいな髪色の知人は居なかった筈だが······
「思い出してくださいよぉ!!私です私!!因幡めぐるですよ!!」
「────────────誰?」
「本当に忘れてる!?嘘でしょ!?信じられない!!」
ンがー!!と奇声を上げながら怒鳴る後輩。
はて、本当に知らんのだが。
「あ、あの······どうかしましたか?」
「ああ、悪いな綾地。なんでか知らんが1年に因縁つけられてな·····」
「センパイが薄情にも私を忘れたんでしょうが!!」
「えー······人違いじゃね?」
「本当に忘れたんですか!?あの桜事件の時の因幡めぐるですよー!!」
桜事件────ああ、
「あの時の地味な三つ編み眼鏡?」
「覚え方が酷すぎませんか!?」
いや、流石に変わりすぎだろう。
そう思った俺は悪くないはずだ。
「えっ、お二人は知り合いだったのですか?」
「ああ、中三の時にコイツが桜の木の下に埋まってた赤ん坊に呪われてな。その時に知り合った。」
「ひょっとして彼処の中学か?そういや1回だけテレビに出てたな······死体遺棄がどうとかって」
「それそれ、その事件。あれな、地面に埋まってた赤ん坊が怪異化して大変だったんだぜ?」
ギャーギャー喚いていた因幡を落ち着かせオカ研の中に引きずり込ませ、オカ研部室内で柊史と綾地に因幡との関係を説明した。
「しっかし変わったなお前······前は地味子を王道で行くような奴だったのに······」
「さっきから女子に失礼すぎませんかね!?デリカシーってものが無いんですか!?」
「事実を言って何が悪いのさ······」
「すっかり忘れてた······この人素でこういうこと平気で言うんだった······!!」
それを見ていた柊史が
「お前······やけに因幡さんにあたり強いけど何かあったのか?」
と質問する。その答えは────
「うん、ちょっとめんどくさいから説明は省くけどコイツのせいで学校そのものに呪いかかって学校がデストラップ塗れになった。」
そりゃ何かあったんですよ。ええ。俺基本的には女子に優しいもん。何かない限りは。
「あれだけ忠告したのに······絶対に赤ん坊に耳を傾けるなと言ったのに······」
「うぐ······!!」
図星当てられた因幡はうめき声を上げ黙る。罪悪感はあるらしい。
「······一体何をしたんですか······?」
「んー······一から説明すると番外編という形でまた連載小説が増えるほど濃かったから省くけど······わかりやすく言うなら『ほのぼのアニメの世界にコ〇ン君連れてきて、そのせいで事件が起きた』みたいな?」
「「うわぁ······」」
「お二人までっ!?」
いや、ほんとにその規模で酷かった。死人が出なかったのが不思議だ。
まあ出たっちゃ出たんだけども。あれは死んだというのだろうか?
「お蔭でゴールデンウィーク潰れるわ皆勤賞潰れるわ······地味に狙ってたのに······」
「いや、その、本当にごめんなさいいいいい!!」
────まあ、この辺で因幡イジリは終わりにしよう。
「で、お前オカ研前で何してたの?」
「っと、そうでした、綾地センパイに相談があるんです」
本来の目的を思い出した因幡はそう言うと、こう言い放った。
「────私を人気者にしてください!!」
思わず吹いた。
3
「くっ、ひひひひゃははははははははははアハハハハハハハハハハハは、、に、にんきものってひゃひゃひゃお腹痛いあはははははははははははははげっほごっほ!!」
「ちょ、おい一ノ瀬!?」
因幡さんの相談を聞いた瞬間、一ノ瀬は狂ったように笑い出した。
「一ノ瀬君、流石にそれは酷いですよ!!」
寧々も激怒している、がそれよりも。
因幡さんからの匂い────間違いない。呆れている。そんな匂いだ。
まるでこうなる事を予想してたかのように。
「はぁー────因幡、お前それ本気で言ってるの?」
そして、一ノ瀬から途切れ途切れに、しかし漂ってくるこの匂い────呆れ。そして、本気の心配。
「お前人気者になりたいって······要するにあれだろ?上辺だけでもいいから、取り敢えず喋れるような仲間が欲しいと?」
「······概ねその通りです。それが何か?」
「────お前中二の時あんな事あったのによくもまあそんなこと言えるな······何かあったのか?」
「······色々あったんですよ。」
「······ふうん······まあ、聞かないでおいてやるよ。上辺だけの関係が危ない事はお前が一番よく知ってる筈だしな。何か事情がある······ということにしよう。決意が硬いなら何も言わんよ、俺は。ただ気をつけろよ?」
「はい、わかってます。大丈夫······です」
そう言って一ノ瀬は椅子から立ち上がる。
「ま、怪異関係じゃないなら俺はもう帰るぜ、〆切もあるしな······」
そう言って一ノ瀬は部室を去った。
────って
「「帰ったあああああああああああ!?」」
4
「いらっしゃいませー······って一ノ瀬!?」
「ん?仮屋か······仮屋!?」
俺の行きつけの喫茶店Schwarze Katze。
そこは店主が一人でやっている小さな喫茶店だったはずなのだが────
「お前の新しいバイト先ってここだったのか······」
「うん、綾地さんに紹介してもらったんだ。」
まさかクラスメイトが居るとは思わなかった。
「あ、一ノ瀬、ここのバイトなんだけど────」
「安心しろ、言わねえよ。誰にもな。」
「うん、なら良かった······おっといけない、1名様ですね?こちらの席にどうぞ。」
「板についてるなー······流石飲食店バイト······」
「まあ、これ位なら前からだからねえ······っと、注文決まりましたら────」
「じゃあブレンドコーヒーとチョコレートパフェ」
「······常連だったんだ?かしこまりました。以上でよろしいですか?」
「うん、あ、それと仮屋。」
「?何?」
「その制服似合ってるぞ、マジで。」
「────ッ······あ、ありがと······お、オーナー、オーダー入ります!!」
ありゃ、逃げられたか。
そして仮屋と入れ違いでここの店主の相馬七緒(そうまななお)が入ってきた。
「おや、来ていたのか巽君······また随分と酷い顔をしているね」
「お久ー······って酷いですね?」
「なんて言えばいいかな······まるで老人の様だ。タダでさえ君心がぽっかり空いてるのにもっと広がりそうだよ?」
「あっはっは、もうそれすら諦めてる。正直どうでもいいさそんなもの。」
「ふうん、これも一つの壊れた境地、というヤツなのかな?お待たせ、ブレンドコーヒーだ。パフェはもう少し待っていてくれたまえ。」
相馬七緒は人間ではない。アルプという、どちらかと言えば怪異寄りの生物である。
詳しくはよく知らん、ただ彼女が猫又の一種ってのは知っている。だから、と言えばいいのか、ネットワークがやたらと広い。だからと言ってはなんだが、彼女は一応俺の協力者だったりする。
「そう言えば七緒さん、コトリバコの件で暗躍したと思われる警察官の男について何かわかったりしてない?」
猫ならばどこに居ても極論不思議じゃない。まあ渋谷とかコンクリートジャングル等なら話は別かもしれないが······少なくともこの辺はビル群のある町とは言えないからどこに居ても不思議ではない。
だから、コトリバコの時に暗躍した警察官を探してもらっている。アルプである彼女のネットワークなら怪異の匂いだとかで見つけそうなものだが────
「いや、まだ見つからないね。この辺の交番は全て当たったから交番勤務から移動になった可能性もある。っと、ご注文のチョコレートパフェだよ。」
「どーも。そうかぁ、七緒さんでも見つけらんないか······困ったなぁ。被害が拡大しなきゃいいけど······」
とまあ、こんな具合で探してもらっているのだ。因みに対価は面白い話。人間を理解しようと努力している七緒さんは、人間の起こす出来事に非常に興味と関心を持っていてるのだ。どちらかと言うと面白いというより人間を理解するためにためになる話とかそんなのが多いが。
「さて、では何か面白い話はないかな?」
「今日あった出来事でいいなら、どうぞ?」
──── 一方のオカ研部室。
「と、それが原因です。」
綾地寧々、保科柊史の二人はあまりの前世と違いすぎる世界に戸惑っていた。
ただ、この学校でデビュー失敗した原因は変わっていないようだ。
「······あの、因幡さん······さっき一ノ瀬が言ってた······あんな事って?いや、言いたくないなら良いんだけど······」
「いえ、それならお話します······先程、怪異関連と聞いた時どうもある程度二人共知ってるみたいなので、話しても信じてもらえるでしょう。」
そして語られ始めたのは想像を絶する過去だった。
「そいつさぁ、中学二年生の時、つるんでいたグループも含め、赤子の霊に呪われて学校内に閉じ込められた時────最初怪異に襲われた時、いきなり盾にされたんだよ」
「そこを、たまたま通りかかった一ノ瀬センパイが助けてくれたんです。」
「その後も酷かった酷かった、男子生徒は早々に裏切ってそのままだったけど女子の方はね?こんな事を言ったんだよ、『男子でグループのリーダー格であるアイツに逆らう事は出来なかった。私達は裏切るつもりはなかった』ってさ!!」
「そして、私は────その言葉を信じたんです。でも······」
「結局、その女子生徒も裏切ったよ、因幡のことを。」
「······え、じゃあ······本当になんでこんな依頼を······?」
「······すいません、そこまでは話せないです。」
「······そう、ですか。」
オカ研の部室は沈黙に包まれた。
だがSchwarze Katzeの方ではまだ話は続く。
「そこまでボロカスに裏切られて、酷い目にあって、確実にトラウマものの体験をしたやつが集団に溶け込みたいときた。訳分からんだろう?」
「なるほど······人間というのはまだ理解できそうにないね······中々面白い人間もいるものだ。ドMというやつかい?」
「中三に何かあったかドMに目覚めたかのどっちかでしょ······と、そろそろお暇しますね。ご馳走様でした。」
「お、一ノ瀬帰るの?」
「ん?まあ仕事あるしなぁ。なんか面白そうな話思いつきそうなんだわ。」
「そっか······頑張れ!!お会計750円になります。」
「あいよ······と、丁度だ。」
「ありがとうこざいましたー!!」
「また何か聞かせてくれたまえ。そうでなくても歓迎するよ。」
こうして俺はSchwarze Katzeを後にした。
6
次の日。保科が学校に居なかった。
綾地も居なかった。
ので、昼休み────
「因幡ー、あの二人どこいったか知らねえ?」
「なんで教室きたんですか!?LI〇Eとか最悪Sky〇eでいいじゃないですか!?ていうか昨日あんな雰囲気出しておいてよく顔出せましたね!?別に私はいいですけど!!むしろ大歓迎ですけど!!」
「いやぁ、昨日お前が依頼持ち込んだからこっち居るのかなぁと······って、お前やっぱりドMに目覚めたの?」
おかしいな、昨日結構忠告込めて酷いこと言ったつもりだったのに歓迎されるなんて······。
「違いますよ!?······センパイが私の身を案じて言ってくれてるのはわかってますから······あ、後二人の件なんですが、今朝、私のケータイにこんなメールが届きました。」
「あ?メール?」
件名:今日の部活
本文:保科君とデートに行くので学校休みます。今日は一ノ瀬君に対応してもらってください。多分何だかんだ何かしら考えてくれると思います。一ノ瀬君にもそう伝えておきますね。
「────アイツら学校サボって何してんだ······」
「で、伝えられてないんですか?」
「昨日FGOとデレステの周回してたら寝落ちしててケータイ朝から充電しっぱなし。まあモン猟やるから別にいいけどさぁ······」
「あ、なら私もやります。まだ揃ってないんですよ。中々涙が落ちないんですよねー······」
「FGOのイベ礼装ドロップ並だもんなー······」
と、ぐちぐち言いながらやっていたところ────
「え、因幡モン猟やってるの!?」
「ランク幾つ?」
「えーっと······91くらい?」
なんかクラスメイトがやたら集まってきた。
「······依頼完了でいいのかね?これは······」
まあ、今はそんな事より────
「い、一ノ瀬センパイ······あ、あの······」
「折角だから四人プレイでやるか、因幡は銃だよな?そっちの2人は?」
「「両方槍です!!」」
「じゃあ俺も銃担いで行くか、そっちの二人メインアタッカーよろしく、因幡は基本回復で、俺は後方からひたすら麻痺弾撃ち続けるから」
この後、メチャクチャモン猟した。
7
えーっと、『モン猟やってたら依頼が解決してた。因幡のことはもう大丈夫である』送信っと······
「よし、これでいいのか?因幡。」
「はい、ちょっとだけ女子から反感は買いましたけど本当に一部ですし。」
放課後、オカ研の部室にて。
因幡の依頼が解決したのを綾地にLI〇Eで送り、これにて依頼は完了した。
「あ······センパイ······たまにここに遊びに来てもいいでしょうか?」
「どうせなら入部したら?別にここ何かやるわけじゃないし文化祭はほぼほぼ俺が全部やってるから楽だよ?まあ入部に関しちゃ綾地に一任してるから何とも言えねえけどな」
「じゃあ綾地センパイに明日聞いてみますね、じゃあゲームしましょう!!」
「結局昼休み落ちなかったもんな······にしてもまさかモン猟がこんなことに役に立つとは······」
彼女はグループに裏切られるという事にトラウマを抱いていた。だから一人仲のいいやつがいればいい、中学二年でそんな結論に至っていた。しかし中三に何かあったのか、また集団に溶け込みたいときた。
なら簡単な話だ。
グループに所属しなければいい。
テキトーにクラスでモン猟広げれば勝手に集まってくる。
その時だけ集団は形成され、終われば解散する。
そしてクラスの中で存在を作っていけば······休みの日に遊びに誘われることも多々あるだろう。目標は達成されたのだ。モン猟によって。
常にグループに所属しなくてもいいのだ。
冷静に考えたら、『グループに所属したい』とは言ってなかった。
「まさに盲点って感じだったなぁ、最初からグループを作らなければいいという考えがあるとは!!」
「モン猟万々歳ですね〜」
「······あれ、お前グループに所属することにはトラウマまだあるんだよね?」
「トラウマって程じゃないですけど······まあ」
「さっき提案した俺が言うのもなんだが、ここに所属するのはいいのかよ?」
一応、ここだって部活という一つのグループだ。そういうのは忌避すると思っていたのだが······
「別に綾地センパイも保科センパイもいい人そうですし────何より、何かあったら何だかんだ言って一ノ瀬センパイが助けてくれるでしょ?」
「······信じすぎるのもどうかと思うけど?」
「何だかんだ優しいですし。今回だって······センパイちょっと怖かったですけど······何だかんだこっちを心配して言ってくれてるのはわかるので、むしろ気分がいいです」
「やっぱドMに······?」
「目覚めてないです!!目覚めてないですよ!?······違うよね?」
「何でそこで自信なくしちゃうんだよ!?」
こうして、因幡の持ち込んだ相談は一応解決した。
────ああ、平和だなぁ。
8
翌日、学校が何故か全校集会のみで解散となったので昨日の依頼に関して聞きたいことがあった綾地寧々と保科柊史は因幡めぐるをデパートのフードコートへ呼び出し、昨日の事を聞いていた。
二人共過去と大体同じ結末になったことに安堵しているようだ。
「あのー、私もオカ研入部してもよろしいですかね?」
「はい、大歓迎ですよ。」
と、前の世界でもやったやり取りを済ませて────
「そういえば一ノ瀬センパイは?」
今日はオカ研全員を呼んだと言っていたのに一ノ瀬巽がいない事に違和感を覚えた因幡めぐるがそう質問する。
「そう言えばいないな······」
「一応呼んだのですが······まだ寝ているのでしょうか?」
と、そこまで話したところで寧々のケータイが鳴った。
「あ、一ノ瀬君ですね、えーっと······」
『助けて、怪異に巻き込まれて過労死しそう』
「「「────は?」」」
一体何が起きたんだろーなー(棒)
めぐるちゃんには酷いことをしてしまった······まあ簡単に流れをまとめると
元々集団の中に→怪異関連の事件で裏切られてメンタルボロボロ→主人公卒業後ちーちゃんと出会う→ちーちゃん原作通り失踪
······アカン()
もうこれヒロイン1人1人個別ルートって形で書いた方がいいな。うん。