魔女と怪異と心の穴───もしくは一ノ瀬巽の怪異譚───   作:タキオンのモルモット

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真面目に綾地さんの胃袋尊敬するわ()


チャーシューダブル・メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ

 

1

 

「お前等何故こんな所に······特に綾地」

 

「前に来たことがありまして······以来たまに来るんです」

 

「なんだ?知り合いか?」

 

「クラスメイトとその彼女だよ······っと、この人はオカルトジャーナリストの加賀剛さん。」

 

「保科柊史です」

「綾地寧々です」

 

「おう、加賀剛だ。ヨロシクな!!」

 

と、まあ自己紹介はこれ位にして────

 

「とりあえず食券買うか······」

「そうですね······」

 

そう言って巽と寧々はチャーシューダブルを押した。

 

「────え?」

「?」

 

まて、待て待て待て。え、今こいつチャーシューダブル押した!?

 

「また食べるのか寧々······胃もたれしても知らないぞ?」

 

「大丈夫です、この前より胃は強くなりました!!」

 

また!?今またって言った!?

 

「······あんな別嬪な嬢ちゃんの何処にチャーシューダブルが入るんだ······?」

 

「マジかあいつ······」

 

まあ、胃薬あるなら大丈夫だろ、普通のなら······

 

そして俺達は座って食券を渡す。

 

────おっと、大事な事を忘れていた。

 

「麺硬辛め野菜ダブル大蒜油マシマシでお願いします────え?」

「メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシでお願いします────え?」

 

その後のリアクションまで被った。

 

────待て待て待て待て!?

 

「ちょ、綾地!?正気か!?」

 

「安心しろ一ノ瀬······寧々は前にもスープまで飲み干した。」

 

「「なん······だと······!?」」

 

加賀さんと俺が驚愕する。

 

どうやらそれは他の人も同じ様だ。

 

「嘘だろ······あの娘が······!?」

「馬鹿な······入るわけが無い······!!」

「でもさっき前にもって······」

「ウッソだろお前」

 

店内が騒然とする。

 

「私よく食べるほうなんです!!」

 

「よく食べる方で片付けていいのかわからないんですがそれは······」

 

「私としては一ノ瀬君の方が意外です······そもそもこういう店に来ないと思ってました」

 

「それは俺も思った。顔バレとか大丈夫なのか?」

 

「あー······昨日氷室さんに呼ばれたのが深夜でそのまま朝飯寝てて抜いて昼飯コンビニのおにぎり1個だったから······あと顔バレに関しちゃ大丈夫、中学から割と常連だから」

 

それこそデビューする前から。ラーメン大好きなんだよ。

 

「マジかよ······一体どんな身体してるんだ······」

 

加賀さんは未だ何かにショックを受けていた。大方中年太りでもしたんだろう。

 

「俺はまだ20代だ!!」

 

そーなのかー。

 

「へいおまちぃ!!チャーシューダブル・麺硬め野菜ダブル大蒜マシマシだ!!」

 

そんなやり取りをしていると俺と綾地の目の前にとてつもない量の野菜が乗った丼が目の前に置かれた。

 

それでは────

 

「「いただきます────!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、ラーメン太郎に来ていた人物はこう語った。

 

「昼飯抜いてきたのに······あの二人の食いっぷり見ただけでお腹いっぱいになりそうだった······」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2

 

「────ふぅ、腹八分目といったところか」

 

「「「( 'ω')ゴメンチョットナニイッテルカワカンナイ」」」

 

「いや、冷静に考えてくれ。ただでさえ今日おにぎり一つしか食べてないのに跳んだり走ったり落下したりめちゃくちゃ運動してたんだぞ?」

 

因みにこのまま相馬さんの所へ行ってパフェを食べたいくらいにはお腹すいてる。

 

「というか一ノ瀬君帰れないんですか?」

 

「帰してくれないのさー······もうこのまま帰ってもいいんだけど多分家まで突撃してくるねアイツは」

 

いや、ほんとあの人まじなんなの?バカなの?

 

「別に俺は帰っても構わないと思うがな、後で等になんて言われるか······」

 

「なんていうか、大変だな、お前も······」

 

「保科、同情するならミスド奢れ······ポンデリングショコラとフレンチクルーラーな」

 

「なんでミスドなんだよ、そして断る!!」

 

「っち、しょうがない······コンビニのスイーツ買って戻りましょう、加賀さん」

 

「おう、そうだな······お二人さんも早く帰れよ、じゃーな!!何か心霊系のネタあったら持ってきてくれ!!」

 

「はい、では一ノ瀬君、また学校で」

「じゃあな······なんていうか、頑張れ······」

 

慰めの言葉をもらい、俺達二人は警察署へ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただ今戻りましたー······って姫野は何でここで寝てるんだ······?」

 

警察署へ帰ると会議室のソファで姫野が眠っていた。

 

「何でも、眠れないらしくてな······」

 

「······ソファの方が眠れないと思うんだが、まあ本人が眠れてるならいいか······」

 

変わったヤツだ。

 

そう思いテーブルの上に先程買ってきたコンビニスイーツを置く。

 

「いただきます」

 

「······まだ食うのか······」

 

「誰かのせいでどれだけ走り回ったと思ってる······腹減ったんですよ」

 

「うぐ······」

 

どうやら自覚はあるようで何より。

 

と、そんなやり取りをしていると今まで姫野の方を見ていた加賀さんが姫野に近づく。そして────

 

「······等、美琴ちゃんの様子が変だ」

 

「────なに?」

 

どうやら、まだ休めないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3

 

スパァン!!

 

「────ダメだ、ハリセンで叩いても起きねえ」

 

「「「いや何してるんだお前は!?」」」

 

姫野美琴をベッドに移し、現状を探るため色々試した。

 

鬼畜妹を耳元で音量マックスで流したり、松〇〇造の音声を耳元で音量マックスで流したり、ハリセンで叩いたり。

 

「ここまでしても起きないってことは猿夢の類かなぁ······」

 

「せめて最初の一つで終わらせてやれよ······」

 

まあ、把握出来たからいいじゃん?

 

「にしても、今回は流石に役に立てないなぁ。」

 

それは俺の唯一の弱点とも言うべきものなのだろうか。

 

俺はどんな怪異にも負けないだろう。そんな確信はある。本気出せば口裂け女から逃げ切れるし(パルクールモドキを使えばという注釈が付くが)、ターボババアに跳ねられても死なない自信はある。テケテケだってぶん殴って退治できるだろう。パワーは某ラノベのバーテンダーくらいだという自信もある。

 

それこそ、今回の猿夢だってぶん殴って解決できる自信はある。

 

しかしそれは()()()()()()()()()()()()の話だ。

 

今回、猿夢に囚われているのは姫野だ。

 

猿夢の最も特徴的な恐ろしさ。それは夢の中で殺されること。

 

つまり、猿夢は夢の中にしか存在しない、俺の目の前に実体が現れない。

 

────だから退治できない。

 

反則的な能力であっても、どう足掻いても、姫野を俺は助けられないのだ。

 

「こーゆーのは霧崎さんの領分じゃない?」

 

「確かにそうだ······機材を持ってこよう。大学にあるが20分も掛からないだろう······問題は、美琴くんがそこまで持つか、だが。」

 

「それは本人次第だ······何れにせよそれしか方法がないのなら、早く持ってくるしかない、頼むぞ翔太。」

 

「任せろ」

 

そう言って霧崎さんは部屋を出ていった。さて────

 

「相〇観るか」

 

「「いや、ちょっと待てや!!」」

 

「なんです?」

 

いや、もうやる事ないし。どうしろってんだよ。

 

「いや、お前······心配だとかそんな気持ちはないのか?」

 

「一応同じ学校の生徒なんだろう······?」

 

「微塵もねえよ?」

 

なんで今日出会うまで話した事の無い人間を心配するんだろうか?これがまだ仮屋とか海道とかそのへんの知り合いだったら助けるけど。基本見返りがなければ俺は別に助けようとは全く思わない。第一話?あれはコトリバコとわかった瞬間被害が拡大して俺の知り合いにも被害が出ないとは限らなかったから動いただけだ。

 

「ああ······お前そういえばそういう奴だったな······」

 

「今更すぎるでしょ、特に氷室さん。中学の時から俺はこんな人間じゃないか。」

 

「······そう、だったな。お前は中学二年の後半からそんな感じになっていったんだったな······」

 

当たり前だ、あの時から俺は、上辺だけの人間関係を築いただけの人間だけではなく、友人も、どうにかなったらしょうがないと思うタイプの人間だ。

 

もし、仮屋や因幡みたいに親しい人間がもしピンチになって、最善を尽くしたけど助けることができなくっても、多分俺は

 

────ああ、ゴメンな、助けられなくて。

 

と、たった一言、それっぽい事を言って、その日のうちにそいつの事を何も考えなくなるだろう。そんな確信がある。

 

それ位には、周りなんてどうでもよくなった。よくなってしまった。

 

「さて、今回からまた変わるんだよなぁ、まさか犯人だとは思ってなかったしなぁ······」

 

そういいつつ、テレビを付けた俺の背中を氷室さんは黙って、辛そうな顔で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

4

その日のうちに姫野は目を覚ました。

 

ちゃんと霧崎さんの持ってきた道具で解決したらしい。

 

さて、俺は本当にそろそろお役御免だろう。さぁ帰ろうか────────

 

 

 

 

 

 

 

 

気づいたら車の中だった。

 

「ちょ!?なんで車の中!?てか何処だよここ!?」

 

思い出せ────何があった?

 

確か俺は相〇を見て、姫野が目を覚ましたのを見届けて、その後深夜アニメを見て、寝落ちして────

 

「やっと起きたのか、明け方三時に寝たとはいえ、いくら何でも十二時間半は寝すぎだろう。どうして一人暮らしで学校行けているのか疑問に思えてくるレベルの熟睡だったぞ······」

 

「え、えっと────おはようございます?」

 

「姫野······?氷室さん、どこへ向かってるんです?」

 

「旧神代家だ。」

 

「────────────は?」

 

きゅうかじろけ?

 

「ざっくり説明すると、神代と姫野は元々呪術師の家系で過去に因縁があった。我々は今回の美琴くんの周りで起きている現象────『怪異症候群』を引き起こしている原因が神代家にあると予測した。だから今向かってる。オーケー?」

 

「ちょっ、流石に家に返してもらえないかなぁ!?てか学校になんて説明した!?」

 

「捜査に協力してもらっていると言っておいたぞ?」

 

「何でだろう、何かやばい予感がする······!!」

 

「はっはっは、まあここまで来ちまったんだ、高級旅館らしいから楽しめ!!」

 

いや、せめてせめて────

 

 

「仕事道具(ノートパソコン)を取りに帰るくらいさせてくれよ!!」

 

と、まあこんな感じで。

 

結局最後まで関わることになってしまった俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────オマケ、一ノ瀬巽の居ない学校────

 

「一ノ瀬は今日は公欠だ。んじゃ解散!!」

 

ホームルームが幕を閉じた。

 

「また一ノ瀬休みなの?」

 

「つか、公欠?あいつ何があるんだ?」

 

と、口々に噂している中。

 

「そういや昨日会ったぞ?一ノ瀬に」

 

「「────え?」」

 

仮屋と秀明が声を揃えて驚き、口を開けた。

 

「ちょ、保科、どこで会ったの!?」

 

「え、いや······その······」

 

言い淀む。何故なら昨日、柊史は綾地寧々とデートしていたのだから。そこから話さなきゃいけない。とはいえ、昨日綾地寧々をクラスまで迎えに行った時に完全に把握されていたので今更噂になるのは構わないのだが。

 

「すみませーん柊史君居ますかー?」

 

と、そこに綾地寧々が登場。

 

「「「「名前呼び────だと!?」」」」

 

そこからは阿鼻叫喚の地獄絵図の様だった。特に男子。

 

だがこれにより一ノ瀬との邂逅のことは忘れられ────

 

「で、結局どこで会ったの?一ノ瀬と」

 

無かった。

 

仕方ないので昨日の夜のことを話す。

 

「まず、なんでデートで太郎に行ったのかとか綾地さんの胃袋が中々凄かったとかそんなツッコミは放棄しよう。────警察?マジ?」

 

「なんでも事件に巻き込まれたんだとさ」

 

という話が広まり────

 

綾地寧々と保科柊史の交際によって多少しか話題にならなかったものの『一ノ瀬巽は警察の公安の人間である』という噂が広まった。

 

蛇足乙。

 

 




猿夢に出番はない。誰かさんのルートか共通ルートの中で明るみになる主人公の過去話の出汁になったのだ────。

いや、実際どうしようもないじゃん?怪異症候群の中心は美琴ちゃんだし。

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