俺、津田正治。たぶん、どこにでもいる高校生。
俺、津田正治。たぶん、どこにもいない地球人。俺を取り巻く環境は、世界中どこを探してもいないと思う。
なぜか、自分は魔王だと名乗る不愉快生物を、かーちゃんの強権でもって許婚にされ――ひょっとして俺のかーちゃんを洗脳してんじゃねぇか?――その不愉快生物は、ただいま俺の部屋を物色中なわけだ。いや、そもそも許婚なんて受け入れてないわけだが。
つーか、こいつほんとに生物か?
「ふむ、六畳の畳敷き。パソコンが乗った勉強机、ベッドが並んで本棚と。愛しのまいすぃーとが住まうにはずいぶん狭い部屋だの」
「……ほっとけ」
「拡張の必要があるようだの。具体的には倍の十二畳程度」
などといいながら、俺のベッドにダイビンするのやめれ。
「まっていろよ、我が君。ものの一秒でこの部屋を十二畳の部屋」
いいたいことを言い終わらないうちに、俺はためらいなくジャンピングエルボーをヤツの脊髄めがけて敢行する。
「☆~ヾ^」
囁き声で悲鳴を上げる。
老婆のようなロリ声といい、お前はほんとに器用なヤツだな。
「なにをするか我が君! 我のその……をそんな風にするなんて、積極的ではないか」
「いや、なにが積極的なのかわからんが、痛くないのか」
俺は、怪奇物体が頬を染めて――どんな色に染めたかは聞くな――身悶えたので、あわてて離れて椅子に腰掛けた
「痛いのがいいではないか。最低の愛憎表現だ」
「愛憎って愛情の誤植じゃないのか?」
「ああ、そうであったな。愛情だ愛情」
「後、最低ではなく最高。どこのデーモン閣下だよ」
「どうにもまだ人間の言葉に不慣れでな。我が君の訓告処分」
「忠告」
「忠告には感謝する」
言いながら俺の枕をなめるな。唾液で汚すな。
殴ってやろうかと思ったが、また下手に喜び? そうなのでやめておいた。
あと、俺のかーちゃんとは普通に話してたのに、どうしてそんなに間違えるんだ。
ひょっとして照れてるのか?
「大体だな。部屋の空間を改変して広くするつもりだったのだぞ。別に部屋そのものを三次元的に広げるといったわけではない。ここを四次元的にたたんだ空間にして、結果として三次元を広くするつもりだったのだ。勘違いするでない」
「見た目六畳間なのに中に入ったら十二畳とか、気持ち悪いからマジやめろ。建築基準法とかややこしいことになるし。ってか、広いと動き回らなきゃならんからだめだ。狭いのがいいんだ」
そう、狭くないとあちこち歩き回らなきゃならんし、冷暖房もコストがかかる。必要以上に広いのはよろしくないのだ。
狭いぐらいがちょうどいい。
「しかし、このようなサイクラノーシュの猫の額より狭そうな部屋で同衾」「誰と誰が同衾するだって?」
俺はとりあえず、同衾という不穏当な言葉がでたところでヤツの言葉をさえぎった。
「誰が、誰と同衾だって? 俺とお前か?」
「うむ。われと我が君」「お前家あるだろ。引っ越してきたんだろ。なんで同衾する必要があるんだよ! わけわかんねぇよ!」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「おお!」
よだれでぐちゃぐちゃになった枕から顔をあげて、ぽん、と腹を叩いた。手を叩くんじゃないのかよ。
あと、枕新しいの買って来い。
「忘れてたのかよ!」
「うむ」
「忘れんなよ!」