俺、津田正治。どこにでもいない高校生だと自覚しつつある高校生。
きっと、これから自分の人生は、この魔王の落とし仔とか自称するわけのわからない人型怪奇異物に侵食され続けるのだろうと、絶望を感じつつある高校生だ。
結局、下校してからも、アストーザとか抜かすアレは俺の家にもぐりこんできた。
題名は斜向かいの魔王さんだというのに、どうして俺の家に入り浸ろうとするのか。同居人の魔王さんに変更……してしまってどうする!
俺は、帰宅すると、さも当たり前のように俺の後ろに立ちながら前を歩くあいつの襟首を引っつかんだのだった。
いや、何を言っているのかわからないと思うが、本当に俺の前を歩いているが後ろに立っているんだ。俺もよくわからない仕組みだが、そうなのだから仕方ない。
なんでそうなってしまっているのかは問うな。
理解したくない。
誰も理解したくないし、理解したら人じゃなくなる。
「む、我が君はナニをするつもりなのかな。答えよ我が君」
「たぶん貴様のあるんだかないんだかわからん脳みそのようなソレの中では、タグにR18をつけなければならないような妄想が繰り広げられているんだろうが、それは違う、違うぞ」
俺は、ほんのり形容しがたい色に瞳を染めているあいつに言ってやった。
「いいか、この小話の題名はなんだ」
「なんだ我が君。きょうは随分メタいの」
「いいから答えろこの薄らとんかち」
「斜向かいの魔王さん。絶賛赴任期不定期執筆中」「不人気。あと、作者はわりと人気だと思ってるから不人気いうの禁止」「いちいち注文が煩いの。絶賛人気不定期執筆中の、われと我が君のラブコメディだ」「ラブクラフトコメディな。この前誤解されて色々言われたらしいからな」「ラブクラフトコメディだ」「よくできた。で、その魔王たる貴様はどこに住もうとしている」
「我が君のベッドだ」
俺は、襟首をつかんだまま外にでると、そのままの姿勢でおもいっきりケツを蹴り上げた。
人間なら、その衝撃で鼻の穴から痛みが飛び出すような感覚になるはずだ。
激しい衝撃と痛みが同時に襲ったら、そうなるのだ。
「¨ヽко!!」
誰にも聞こえないような超音波の悲鳴をあげながら――あ、飛んでたカラスが爆発した――胸を押さえて転がりまわる。
「わかったらとっとと自分の家に帰れ。あと、俺の家を顔で包むな」
先手を打って禁止事項を言っておかないと、こいつは何するかわかったもんじゃないからな。
なぜかこいつは、一度俺がやめろといったことは、素直に従っているのだ。
もちろん、禁止していない事項に関しては平気でなにかしでかすので気が気ではないのだが。
「まったく優しいのぅ。その優しさがまたわれの好奇心を煽るのだ」
「いやもう、わけわかんないから」
俺は、こめかみをひくひくさせながら、ぐっとのどまで出掛かった言葉を飲み込んで、穏やかに言った。
突っ込まないぞ、きっと被虐心とかそう言おうとしたんだろうがもう突っ込まないぞ。
いちいち突っ込んでたらきりがない。
俺と魔王のボケと突っ込みだけで相当の文字数がかかってしまうじゃないか。
「まぁ、一緒の学校に通うことになってしまったのは仕方ない。教室が同じなのも我慢しよう。しかし、だ」
俺は、蹴飛ばした臀部ではなく、あごをさすっている魔王に言い聞かせる。「許婚なんて認めないし、一つ屋根の下で狂気と動乱に満ちたボケとツッコミの生活を送るつもりはない。まぁ、別に晩飯くいにくるとかそういうのはかまわんが、とにかくいったん自宅に帰れ。帰って制服を着替えてかばんを置いて来い」
「うぅ……まぁ、仕方あるまい。ここは我が君の言うとおりにしよう」
そういって、魔王は素直に斜向かいにある自分の家にもどっていく。
万が一、あいつが気が変わって俺の家に突進してこないように、玄関先からじっと警戒している。
魔王は、寂しそうにスキップしながら自宅の玄関をすり抜けて帰宅した。
しかし、斜向かいは以前、芸能人が立てたかなりの豪邸で、今までずっと買い手がつかなかった物件だ。 宇宙の法則独り占めなあの魔王だから別にああいう豪邸ひとつ買い取るのも、日本で水を飲むかのようにたいしたことはないんだろうが、はたしてあの豪邸に一人で住んでて寂しくないのかね。
などといらぬ心配をしながら家の中に戻ると、突然呼び鈴がなった。
「はーい」
のぞき穴から外を見ると、そこには透明な長い髪の毛の――透明? でも地肌とか見えないぞ。どうなってんだ――いかにもお姉さん然とした女性が立っていた。
ああ――またか。
俺は、うんざりしながら玄関のドアをあけるのだった。