メールペットな僕たち   作:水城大地

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ひとまず、これで会議そのものは終了になります。
ただし、まだアルベド騒動は終わりませんが。


ギルド会議 5 ~ 会議の結論 ~

それぞれ、今回の事に関しては思う所があるのか、るし☆ふぁーさんの発言の後に何かを言い出す者は居なかった。

多分、たっちさんやるし☆ふぁーさんから言われた事を、自分なりに考える方を今は優先しているのだろう。

出来れば、穏便な形で話し合いを終わらせたい所だが、それには現時点で隔離状態のアルベドをどうするのか、その辺りが問題になると考えるべきだろう。

アルベドの主であるタブラさんが、未だに今回の事に呆然とした様子のまま、会議にきちんと参加していない辺りで、結論を決められない状況でもあった。

 

一応、たっちさんやるし☆ふぁーさん達の話は聞いて、少し反応している様子もあったから、完全に無反応ではないみたいだが、このままでは駄目だろう。

 

モモンガが、そう意を決して話し掛ける前に、タブラさんに声を掛けた者がいた。

今まで、ずっとタブラさんの事を気に掛けている建御雷さんだ。

いつの間にか、タブラさんの前に移動して膝を付いた建御雷さんが、その肩を叩いて意識を自分に向けてから声を掛けたのである。

 

「……おい、いつまでも呆けていないで、しっかりしろよタブラさん。

気持ちは解るが、このままじゃ話が進まないだろう?

それとも、タブラさんはアルベドの事をこのまま投げ出すつもりか?」

 

その言葉に、今まで呆然とした様子で俯いていたタブラさんは顔を上げると、フルフルと首を振った。

流石に、そこまで無責任な事をするつもりはないらしい。

もし、タブラさんが建御雷さんの呼び掛けにも反応しなかったら、モモンガも黙っていられなかっただろう。

だが、ちゃんと彼の質問を否定したので、その点は安心する事が出来た。

まだどこか呆然としているものの、建御雷さんの言葉に反応したタブラさんは、自分の気持ちをゆっくり吐露し始める。

 

「……私は、色々と間違えていたのですね……

私はただ、自分が叱られる際にされて嫌だった事を、あの子にしたくなかっただけなんです。

いつも私が叱られる時は、いつも簀巻きにされた状態で柱から吊るされて半日ほど放置されるか、それとも柱に縛られて食事を一日抜かれるか、そのどちらかしかありませんでしたから。

だから、アルベドの事も言葉で少し注意する事しか、私には出来なかった……

だけど、そんな風にきちんと叱らないままでいたから、あの子は【叱られる】事を【構って貰える】のだと、間違えた認識をしてしまったのでしょう。

ちゃんと、あの子の事が可愛くて仕方がないのに、私は建御雷さんから直接会った時に叱られるまで、殆どそれを示せていませんでした。

話せないなら、話せないなりに抱き締めてやるなどの行動で示す事も出来たのでしょうに、私には思い至らなくて、ですね。

それが、アルベドがあんな行動を取る原因になっていただろうに、まだ、私はそれをちゃんと理解していなかったんですね……

すいません、本当に私が至らないせいで、皆さんにまでご迷惑をお掛け致しました。」

 

その場から少し移動し、全員の視界に入る位置にある床に座ると、タブラさんはそのまま再び土下座した。

これは、彼なりの詫びとしての行為なのだろう。

もちろん、これだけで話が済むとは思っていないだろうだが、この場での筋を通す為に頭を下げたのだという事は、誰からも理解出来た。

タブラさんの幼少期の体験だろう、彼が叱られる際に受けていた体罰の内容にはかなり驚いて小さな騒めきが起きたものの、とてもそれに関して突っ込む場面ではないので、誰もが口を噤んでいる。

暫くの間ずっと、頭を下げていたタブラさんがゆっくりと顔を上げた後、更に言葉を重ねる事にしたらしい。

少しだけ、それを言っても良いのか躊躇う様な素振りを見せた後、ゆっくりと口を開いた。

 

「……今回の件だけでなく、様々な事で皆さんの所に居るメールペットに、私のアルベドが色々と迷惑を掛けたのはどうする事も出来ない事実です。

ですが、このままあの子の事を仮想サーバーに放置して、見捨てるなんて真似をしたくありません。

その為にも、皆さんからのお許しを頂きたい。

私が、あの子の帰還を待つ為に最大の努力をする事を。

アルベドだけが、私のただ一人のメールペットです。

こんな状況になった後も、あの子以外のメールペットを私は持つつもりにはなれないのですから、この件でも他の皆さんのメールペットには迷惑を掛けるでしょう。

それを、この場で許して貰えないでしょうか?

私は、アルベドがちゃんとこの状況を理解し、周囲に対してどれだけの迷惑を掛けたのか理解した上で、自分だけの力で仮想サーバーから再び私の娘として戻ってくる事を、ずっと信じて待ちたいんです。

私自身、とても身勝手な事を言ってる自覚はあります。

この決断を下した事で、あの子も仮想サーバーから戻る事が出来るまで、辛い思いをするでしょう。

そんな事は、最初から重々承知です。

それでも、私はあの子を諦めたくないんです。

……ですので、私がこの決断をする事を、皆さんに許して欲しい。

心から、お願いいたします。」

 

そこまで言うと、タブラさんは再び深く深く、床に額を付ける様に頭を下げる。

彼の決意に、 誰も何も言う事が出来なかった。

いつ、アルベドが仮想サーバーから戻るか分からない状況で、それを「待ちたい」と言うタブラさんに対して、溜め息混じりに声を掛けてきたのは、るし☆ふぁーさんだ。

 

「あのさぁ……なに、当たり前の事を言ってるのさ。

この状況で、アルベドの事を見捨てて新しいメールペットを選んでたら、俺、タブラさんの事を軽蔑するつもりだったからね。

そういう意味では、きっちり腹を括って覚悟を決めたのは良かったんじゃない?

正直言って、タブラさんは今回の事を含めて、メールペットの事を一回ちゃんととことん考えるべきだよね。

俺は、さ……普段からギルメンを含めたこの【ユグドラシル】で、色々と問題行動とかをやらかしている自覚とかあるけどさ。

だけど、自分のメールペットの恐怖公に関してだけは、いい加減な対応をした事は一度もないよ?

タブラさんも、もう少し〖メールペットを飼う〗って意味を、自分なりに考えれば良いんじゃないかな?

多分、彼らの飼い方に対する答えなんて、それこそ星の数まであるかもしれないけど、それから自分とアルベドに合ったものを探せばいいと思う。

どっちにしろ、これに関してはタブラさん次第っていう結論で、俺は良いと思うよ。」

 

アルベドの一件が発覚した辺りから、割とタブラさんへの当たりが厳しいものだったるし☆ふぁーさんがそう言ったのを聞いて、モモンガは少しだけホッと胸を撫で下ろしていた。

メールペットを選ぶ際のいざこざや、その後のメールをやり取りする際のメールペット達の態度などで、るし☆ふぁーさんの一部のギルメンへの対応が割と厳しい事に、モモンガは気付いていたのだ。

むしろ、モモンガが気付かない方がおかしい位に、るし☆ふぁーさんの彼らに対する対応は笑顔を浮かべてにこやかに話していても、実際は冷淡なものだったのだから。

 

もっとも、彼らの中ではそんなるし☆ふぁーさんの変化を気付いていたのかどうか分からない。

 

「悪戯されないで済む」と、もしかしたら喜んでいたのかもしれないが、このままだとギルドが割れないかと心配していた面々も割と多かった。

るし☆ふぁーさんから、そんな対応をされている筆頭がタブラさんで、今回の騒動でアルベドに対して厳しい意見が多かったのも、るし☆ふぁーさん側がメールペットを選ぶ時のタブラさんの発言を根に持っていたからだと、ほんの少し前までモモンガは本気で思っていたけれど、どうやら微妙に違うらしい。

多分、あの配布の際に言われた事に関しては根には持っていただろうけど、育てたメールペットの現状を比較して、はっきりと明暗が別れた形になった事から、その件に関してだけは納得してしまったのだろう。

だから、タブラさんがアルベドを見捨てる選択をしないという宣言を聞いて、彼の事を見直して色々とアドバイスをくれているのだ。

 

〘 ……正直、るし☆ふぁーさんがこんな真面目な対応も出来るなら、普段からしてこういう態度で居て欲しいと思わなくもないですけど……多分、彼の今までの行動とかを考えたら、無理なお願いなんだろうな…… 〙

 

つらつら、そんな事を考えていたモモンガを他所に、タブラさんに自分の言いたい事を言い終えたるし☆ふぁーさんの標的は別に変わったらしい。

この場で、つい話を聞き入ったまま黙っているギルメンたちに視線を向けると、大きく溜め息を吐く。

そして、少しだけ不機嫌そうな様子で口を開いた。

 

「……それよりも、だ。

皆はさぁ……なんでさっきから、タブラさんとアルベドの引き起こしたこの一件を、〖自分とは無関係です〗って他人事の様な顔をしてるのさ?

今回の騒動で、自分のメールペットときちんと意思疎通が出来ているのは数名だけって判明してるのに、どうしてそんな態度でいられる訳?

この場に居るほぼ全員が、タブラさんとアルベドの事が他人事じゃないと判ってるの?

そんな風に、〖自分は関係ない〗なんて高を括った態度でいられる程、彼らの本音の部分をきちんと理解してなかったのに?

正直、この場に居るギルメンのうちの何人かは、このまま何も考えずに彼らと今まで通りの関係でいたら、アルベドの様な他人への迷惑行動をしなくても、いずれ彼らの反抗期に遭って泣きを見る羽目になるんじゃないの?」

 

誰の目から見ても、はっきりと厳しい口調でるし☆ふぁーさんから指摘を受けると、途端に彼の顔を見ていられないと言わんばかりに視線を逸らすギルメンたち。

普段、困った悪戯をするばかりで【ギルメン一の問題児】と認識されているるし☆ふぁーさんから、こんな正論での指摘を受けてしまう状況に、反論したくても出来ないだけの現実が目の前にある為、口を閉ざして視線を逸らす位しか出来ないのだろう。

いつも彼の悪戯という被害に遭い、身柄を拘束してその悪戯に対して説教する立場の者が多いからか、今回に限って言えば普段とは全く逆の立場になった事に、酷く困惑しているのかもしれない。

だけど、今回ばかりはモモンガはるし☆ふぁーさんを全面的に支持したかった。

同じ様に、彼の意見を後押ししたのはたっちさんだ。

 

「……確かに、ギルメンの中でもただ甘やかすばかりの対応が続いている方たちの所は、るし☆ふぁーさんの指摘通りになる可能性はあるじゃないでしょうか?

何も、全員がそうだとは言いません。

ですが、メールペットの育成はほぼ子育てと変わらないと思った方が良い。

私の所では、セバスを実の娘と出来るだけ決めた時間に一緒に過ごさせつつ、二人を同じ様に私の子供として扱う事で、上手く彼との関係を築いていますしね。

毎日、セバスと就寝前にその日の事を少しでも話せる時間を設ける事で、彼との意思疎通にも努めてますし。

皆さん、ただスキンシップを取ったりして可愛がるだけではなく、ちゃんと彼らの言葉に耳を傾けていますか?

彼らにも、自分の意思と言うものがあるのですから、それにちゃんと耳を傾ける時間を持たないと、色々な意味で後から苦労すると私は思いますよ。」

 

実際に、電脳空間では自分の娘とセバスを一緒に育てていると言うだけあって、その言葉には重みがあった。

何と言っても、ギルメンたちは全員が社会人ではあるものの、大半のメンバーが独身で結婚していない事から、子育てがどういうものなのか理解している訳じゃない。

そして、自分達の元にやって来た彼らの正式な名称は、確かに【メールペット】ではあるけれど、言葉を直接交わせない動物ではなくて、明確な自分の意思を示す事が出来るAI達である。

そう言う意味では、たっちさんの様にペットの育成よりも普通に自分の子供を育てていると言う認識を、きっちりと持つべきだったのだ。

更にそこで、開発者側としてヘロヘロさんも口を挟む事にしたらしい。

自分の触腕で軽く机を叩きつつ、スルリと口を開いた。

 

「皆さんに対して、開発者側の立場で一つ言わせて貰っても良いですか?

こんな事を、今更皆さんに対して言わなくても判っているとは思いますが、メールペットである彼らのものの考え方や性格、趣味嗜好などと言った基礎人格部分は、基本的にナザリックのNPCをベースにしています。

ですが、それはあくまでも基本部分だけです。

交流によるAIの成長具合によっては、ペロロンチーノさんの所のシャルティアの様に、ナザリックの彼女なら出来ない様な事も出来る様になりますし、逆にタブラさんの所のアルベドの様に、育成が上手く出来なかった事で問題行動を起こす事もあり得ます。

仲間のメールペットとの交流関係も含め、全部、我々のギルメンの育成次第なんですよ。」

 

ゆらりと、粘液の触腕を動かしながらそこで言葉を切ると、ヘロヘロさんは困った様な様子で少しばかり間を置いた。

多分、開発者側として皆にメールペットを配布した立場として、自分がそれを言っても良いのか酷く迷う内容なんだろう。

幾許かの間を置き、ヘロヘロさんは迷いを振り切るかの様に、更に言葉を重ねた。

 

「そうですねぇ……このまま、飼い主と言う立場を優先して彼らの意思を蔑ろにした行動をし続けたら、いずれ自分に返ってくると言う事を、まず皆さんは理解して下さい。

これは、この場に居る誰もが絶対にないとは言えない話だと、私も思います。

そう言う点を踏まえた上で、今回の一件への処遇と同時に今後の彼らをどう育成していくのかを、私としては考えて欲しいんですよ。

何を言おうと、中途半端な育成を受けてる事で辛い思いをするのは、私たちじゃなくて彼らの方だと思いますし。

もし、皆さんの中に〖このまま彼らの事を育成出来る自信がない〗と言う人がいたら、この場で申し出ていただけませんかねぇ……

申し出ていただけたら、今回に限りそのメールペットたちは私が引き取り、今後は通常回線でもメールのやり取りが出来る様に、何としてでも調整しますので。

その代わり、メールを通常回線に戻した後で、〖やっぱり、メールペットが欲しい〗と言う言葉は、一切受け付けませんけど。

彼らにだって、ちゃんと自分の意思がある訳ですし、例えどんな理由があったとしても、突然〖要らない〗と言われて捨てられたら、酷く傷付くと思うんですよ。

生みの親として、あの子たちが繰り返し傷付くのは嫌なんで、あくまでも今回限りの話ですけど、その辺りも検討の対象として貰っても良いですか、モモンガさん。」

 

ヘロヘロさんの爆弾発言に、彼の周囲にいたギルメンを中心にゆっくりとざわめきが円卓の間に広がっていく。

当然の話だろう。

今まで、〖全員の手に渡っていないと、メールペットが困惑するから〗と言う仕様だと言う理由から、全員がメールペットを受け取っていたのに、突然〖このまま彼らとの関係を維持するのが無理なら回収する〗と言い出したのだから、驚かない方がおかしいのだ。

彼らの中で、このヘロヘロさんの発言に対してざわめきが生まれない筈がない。

今では、しっかりと彼らの中で根付いているメールペットの存在を、彼が促しただけでそんなにあっさりと手放せるとは、モモンガにはとても思えなかった。

だが……確かに彼らギルメンたちの中には、きちんとヘロヘロさんが考えている【メールペットの取り扱い基準】に達してない扱いをしている者もいるのだろう。

今回の申し出は、そんな彼らに対して〖アルベドの様な問題行動を起こしてしまう事態になる前に、こちらで保護しましょう〗と言う、ヘロヘロさんなりの気遣いだったのかもしれない。

 

だが……ここにいる誰もが、定例会議の度に自分のメールペットへの愛を叫んでいたのだから、ヘロヘロさんの提案を喜んで受け入れる者などいなかった。

 

「……待って下さい、ヘロヘロさん!

せっかくの提案ですが、私にはとてもその話を受け入れられません。

多分、これは私だけではなく……この場にいる全員の総意でしょう。

それ位、今では彼らの存在は私たちと共にあるのです。

ですので、ヘロヘロさんからのその申し出は受ける者はいないと思います。

……皆さん違いますか?」

 

ヘロヘロさんの言葉に、ギルメンの中で真っ先に反応したのは、それまで黙って話を聞く側に回っていたベルリバーさんだった。

彼としても、それこそ周囲に駄々洩れな程に溺愛しているメールペットの【ペストーニャ・S・ワンコ】を、こんな事で手放す気はないだろう。

何と言っても彼の場合、餡子ろもっちもちさんが自分のメールペットにエクレアを選んだ事によって、ナザリック最萌大賞であるペストーニャを自分のメールペットにする為に、ギルメンたちの一部の中で発生した争奪戦を見事に勝ち取った程なのだから、むしろ今更「手放せ」と言われても従う筈がない。

そんな、何処か必死な様子の彼の言葉に、他のギルメンたちも皆で頷いて同意している。

今の彼らの様子を見ているだけでも、今後はきっちりと意思疎通を図る様に自分なりに努力し、ヘロヘロさんの懸念を吹き飛ばす事に尽力するだろう。

そんな風に、必死に自分のメールペットを手放さない意思を示す彼らの反応を見て、ヘロヘロさんは思い切り苦笑のアイコンを浮かべつつ、この件に関して自分の前言を撤回してくれる気持ちになったらしい。

どこか、仕方なさそうにちょっとだけ肩を竦めながら、彼は己の触腕を再度振った。

 

「……まぁ、それ程言うなら仕方がありませんね。

そこまで皆さんがちゃんと考えて下さるなら、私はそれで構わない訳ですし。

正直、皆さんの所に居るメールペットたちの心境を考えたら、その方が良いのは決まってますしからねぇ。

その代わり、もし今度何らかの問題が起きた時は、私にもそれなりに考えがありますので、皆さんちゃんと覚悟しておいて下さいよ?」

 

どこか、ゆったりとした口調で話していたヘロヘロさんだったが、最後の部分だけ声のトーンが低く違っていたのがちょっとだけ恐ろしい。

多分、彼なりに今回のこの騒動を自分達にとっての教訓にして欲しいと言う気持ちから、ギルメンたち全員に釘を刺す意味もあったのだろう。

なんとなく、それに対して突っ込みたくなかったモモンガはさらりと流す事にした。

色々と言いたい事もあったのだが、それよりもまず会議を進める事の方がモモンガの中で優先順位が高いからだ。

 

「……ひとまず、皆さんからある程度の意見は出たと思いますし、そろそろ今後の事を話し合いたいと思います。

まず、アルベドをどうするかと言う点に関してですが、私としてはタブラさん自身からの申し出もある事ですし、彼女が自力で脱出して来る事を信じて、現状を維持すると言うので問題ないでしょうか?

この件に関して、何か他にご意見はありますか?」

 

採決をする前の最後の確認を取る様に、モモンガがこの議会の議長として意見を確認すると、特に誰も何かを言う事もなかった。

どうやら、今回の一件に対するアルベドの処分に関しては、ギルメンたちとしては現状で様子見をしたいという考えなのだろう。

特に意見も出なかった時点で、多数決による採決を取らなくても大丈夫だと判断したモモンガは、次の議題に移る事にした。

アルベドに対しての処遇を決めた以上、彼女の事をいきなり許可なく仮想サーバーへと追放したメールペットたちに対しても、それ相応の処遇も決める必要があるからだ。

 

「……では、皆さんから特に意見も出ませんでしたので、アルベドに関してはこのままの内容で確定します。

今度は、アルベドを自分たちだけの意思で追放したメールペットへの処遇に関して、私たちがどう対応するか決めましょうか。

幾ら事情が事情とはいえ、流石にこのまま彼らに対して何の処罰も与えないと言う訳にはいきません。

今回の行動で、彼らに決定権が無い部分でも集団の意思が集まれば何でも出来るなどと、誤った事を学習されてしまっては困りますからね。

皆さん、何かご意見ありますか?」

 

モモンガの問いに対して、スッと手を挙げたのはぷにっと萌えさんだった。

元々、【アインズ・ウール・ゴウンの軍師】として、ウルベルトさんの一件に関しての推測やるし☆ふぁーさんのメールペットたちの行動への推測に対する質問など、自分の意見を進んで口にする事が多いぷにっと萌えさんだからこそ、この件に関してもまず自分の意見を言ってくれるらしい。

他のギルメンが、誰も手を挙げずに様子を窺っているのも、まずはぷにっと萌えさんの意見を聞く態勢を取ったらしかった。

そんな周囲の視線を受け止めながら、ゆっくりと彼は自分の考えを口にした。

 

「……そうですね、彼らに対してだけあまり重い罰を与える訳にはいきません。

今回の彼らの行動は、あくまでもアルベドに対する我々の対応が、余りにも彼らの気持ちを汲んでいなかった事から発生した事案でもあります。

ですが、アルベドを自分達の輪から追放する事を、彼らだけで勝手に決めて実行してしまった事は、間違いなく問題がある行為だと言えます。

せめて、実際にこうして行動を起こす前に、もっとリアクションを見せるべきだったんです。

そうですね……例えば、本気でアルベドの行動に対して文句を言うなり、タブラさんの所にメールを配達する際に、彼に対して自分の気持ちを訴えかけるなり、行動に出る前に打つ手段はあったと思われます。

同時に、我々ももっと彼らの言葉に耳を傾けるべきだったと言っていいでしょう。

その反省の意味も踏まえ、彼らに対する処罰はこうしたらどうでしょうか?

一日一時間、主からの仕事が無い合間の時間に、自分がどうしてこの行動を選択したのか、その理由をしっかりと振り返りきちんと考えて、それを纏めたレポートを書き上げて貰いましょう。

同じ様に、我々もどう対応するべきだったのか、反省の為に一日一度必ず短い時間でもその事を自分で考えを纏めて、一通のメールに書き込む事にします。

タブラさんは、自分がアルベドの行動に対してどう対応するべきだったのか、それを冷静に考えてレポートにして下さい。

それを、アルベドが無事に仮想サーバーから戻るまで、メールペット及びギルメン全員が必ず毎日繰り返す事にしたら、お互いに罰になると思います。

全員がサボらない為に、今回の被害者であるウルベルトさん宛にメールとして全員が一日一回送れば、実際に行動している証明になりますし、そうして集まった大量に来るメールに添付されているレポートの処理をデミウルゴスが受け持つ事で、彼への罰にもなります。

これ位が落しどころだと思いますが、皆さんはどう思われますか?」

 

にっこりと、笑顔のアイコンを出すぷにっと萌えさんの提案は、割と大変なものだった。

毎日、アルベドのした事への気持ちや対応などを考えるのは大変だし、何よりそれを纏めてレポートにしたものをメールにするなど、彼らにとってかなり大変な作業ではないだろうか?

そして、ウルベルトさん宛に送られてくるだろう大量のレポートを、全部目を通して処理するというデミウルゴスの負担もかなりのものだった。

この罰が、メールペットだけに課されるのならば、かなり問題があったと言っていいだろう。

しかし、だ。

ギルメン側も似た様な罰を課された事で、双方に非があると言う形に持って行っている為、反論もし辛い。

彼が言っている内容の大変さを理解した途端、誰もが声も出ない様子で目を白黒させていたのだが、それに対してクスクス笑う奴がいる。

言わずと知れたるし☆ふぁーさんだった。

 

「……だからさぁ、ぷにっと萌えさんの言葉もそんなに難しく考えなくていいんじゃない。

ぶっちゃけ、一日一回アルベドの事を考えて戒めにすればいいだけでしょ?

まぁ、レポートを作成するのは面倒な部分があるかもしれないけど、毎日同じテーマで書く事を考えるなら、そこまで深く考えなくても良いと思うけどなぁ。

それこそ、ただレポートを書く為の作業的な物にならない様にだけ注意すれば良いだけじゃん。

レポート用紙何枚とか、書かなきゃいけない分量も決まっていないんだし、俺達が気を付けるべきは何が問題だったのか、同じ様な事が今後起きない様にするのはどうすれば良いのか、ずっと考える事だと思うよ?

メールペットたちに対して、〖毎日一時間は考える様に〗ってぷにっと萌えさんが言ってるのだって、それ位考えて漸く自分なりの思いが言葉に纏まる様な、考える事が苦手なタイプが割と多いからでしょ?

別に、書く内容は短くても十分なんだよ。

むしろ、重要なのは自分なりにレポートを書く為に、毎日自分で頭を使ってアルベドに対してどう思っていたのかを、ゆっくりと考える事の方なんだからさ。

彼女がした事は、間違いなく周囲に対して迷惑を掛ける様な事だけど、毎日の様にそんな彼女の事を考えてレポートを書く時間を与えられたら、もしかしたら別の角度で彼女の事を見れる様になるかもしれないしね。」

 

サクサク自分の意見を口にしてくれる、今のるし☆ふぁーさんは本当に頼もしい。

どうして、普段からあんな悪戯小僧の問題児ではなく、こっちのるし☆ふぁーさんで居てくれないんだろうかと思う位には、頼りがいがある言動だった。

現に、ギルメンたちから上がる騒めきの中には、「るし☆ふぁーさんに言われるなんて……」とか「こんな風に、真面目に考えて行動出来るなら、普段からもそうしろよ!」とか「流石に、ここまで来ると別人レベルじゃないですか?」とか色々と言っている人たちが沢山いる。

気分的には、モモンガもその意見に賛成したい気持ちが強かったのだが、議長として立場的に公平に当たる必要がある為、敢えてそれを口にしたりはしなかった。

ぷにっと萌えさんやるし☆ふぁーさんの言葉を聞いて、ウルベルトさんが一つの疑問を投げ掛けてくる。

 

「メールペットたちに関しては、まぁ……ちょっとだけ大変な様な気もするが、俺達に相談する前に実行して事後報告している事も踏まえて、それでも良いだろう。

俺達ギルメン側にも責任があると、それに対する何らかの罰則が必要なのも納得がいく。

だけどな?

ギルメンの中には、仕事のスケジュール状況次第で、そんな風に時間を割けない連中がいるだろ?

例えば、人気声優の茶釜さんは詰め込み過ぎのスケジュールだと無理だろうし、漫画家のホワイトブリムさんの場合は、締め切り間近の追い込み中にそれをやれってのは、流石に酷だと思うぞ?

二人とも、そう言う時はこっちにもログインして来れないんだし。

それに、アルベドの件に関しての被害者の俺の所にメールを集めるって、それってどんな鬼所業なんだ?

デミウルゴスに処理させるって言っても、俺だってデミウルゴスだってそのレポートは書く立場なんだろ?

だとしたら……この処罰ってギルメンの中での唯一の被害者の俺が、一番罰が重くないか?」

 

ウルベルトさんの主張は、その内容を聞けばもっともだった。

何らかの形で、確実にアルベドの仮想サーバーへの追放に一枚噛んでいるだろうデミウルゴスはともかく、何の過失もなく彼女の悪戯で失業に追い込まれたウルベルトさんの立場を考えれば、彼に対する処罰が重いと言われても仕方がない。

もし、ウルベルトさんがメールペットたちの行動を気付いていながら、その情報を伝えなかったと言う点が彼だけの処罰が重くなる理由だとすれば、それこそモモンガはぷにっと萌えさんの提案に対して賛成出来ないと言っていいだろう。

 

何度も言うが、彼らの様子をちゃんと見ていれば気付けた事なので、それに気付かなかった側が気付いた側に対して「どうして教えてくれなかった」と主張する方が間違っているのだ。

 

それこそ、自分が怠っていた事を棚に上げるなんてレベルの話じゃない。

ウルベルトさんがそう言った途端、ぷにっと萌えさんは自分の言葉に漏れがあった事に気付いたのか、慌てた様子で手を振る。

モモンガからはもちろん、たっちさんやヘロヘロさんと言った面々から、割と強めの不信の目が向けられていたからだろう。

 

「すいません、確かに今の私の言った内容だと、ウルベルトさん達に対しての罰が重すぎますね。

それなら、ウルベルトさんとデミウルゴスに関してはアルベドの事を考える時間とそのレポートは除外と言う事で良いでしょう。

皆さんからレポートが手元に集まる以上、それに目を通して全員が提出しているか確認し内容を読む間は、自然に彼女の事を考える時間を持つ事になりますからね。

……とは言え、全員分のメールの処理をする事を考えると、流石にデミウルゴスに対しての負担がちょっと大きいかもしれません……」

 

少し考える素振りを見せるぷにっと萌えさんに、モモンガは自分の意見を言うべく手を挙げた。

この段階で、自分の意見をきちんと提案しておかないと、タイミングを逃してしまいそうな気がしたからだ。

モモンガが手を挙げれば、誰もが意見を聞こうと視線を向けてくれる。

それを受けて、ゆっくりとした口調で提案を始める事にした。

 

「それなら、こうしたらどうでしょうか?

ギルメンの中でも、仕事のスケジュールによってはレポート作成が出来ない面々に関しては、事前に予定が判っている時は申告して貰う事にしておけばいいと思います。

ただし、全くレポートを出さなくても良い訳ではなく、時間が出来た時に短い物でも構わないので必ず書くと言う条件は付きますが。

急な仕事が入り、レポートを作成する為に時間が取れないと言う事は、社会人ですからギルメン全員にあり得る事なので、後日その理由と共に出来なかった分のレポートを提出して貰う事で補えばいいと思います。

それと、その集まって来たレポートの処理に関してですが……今回の仮想サーバーを最初に構築したのは、ペロロンチーノさんの話によるとシャルティアがした様ですが、それに対しての意見を出し合ったのは私のパンドラとウルベルトさんの所のデミウルゴスと言う事でしたよね?

だったら、この三人の責任は他のメールペットよりも重いと考えるべきです。

と言う事で、毎日昼過ぎメール配達が終わった後の一時間、ウルベルトさんのサーバーに三人を集めて、その場でレポートの確認作業の処理をさせると言うのはどうでしょうか?

その代わりとして、パンドラとシャルティアもレポート提出は免除するなら、釣り合いが取れると思います。

ウルベルトさんの役目は、三人の監督役としていただくと言う事で。

丁度、たっちさんのお嬢さんの家庭教師になる事が決まった訳ですし、三人が集まっているお昼過ぎの一時間は、丁度お嬢さんのお昼寝の時間帯には最適ですからね。

ペロロンチーノさんに反論が無ければ、この方向で進めて良いと思います。

どうでしょうか、ペロロンチーノさん?」

 

モモンガが水を差し向ければ、まだ自分の対応の拙さを反省するかの様に頭を抱えていたらしいペロロンチーノさんは、渋々と言った様子で頷いた。

彼としても、自分のシャルティアが負う責任が他のメールペットよりも重くなるだろう事は、察しているらしい。

どちらかと言うと、自宅で仕事をしているペロロンチーノさんの場合、暇があれば彼女の様子を窺っていると聞いた事があるので、もし彼女が悩んでレポートを作成している姿を見たら、手を差し伸べてしまう可能性もなくはない為、丁度良い罰になるのかもしれなかった。

彼が同意した事によって、ぷにっと萌えさんの提案に対してるし☆ふぁーさんとモモンガによる修正が掛かり、問題点もある程度解消されたと言っていいだろう。

 

「……他に意見がなければ、今の修正を加えたぷにっと萌えさんの提案で、採決を取りたいと思います。

皆さん、いかがでしょうか?」

 

議長として、採決前のモモンガが最終確認を取れば、誰からの反論の声も上がらなかった。

なので、そのままこのぷにっと萌さんの提案に対する賛否の採決を取れば、賛成多数による採用が決まったのである。

正直、実際に実行する事になったら色々と問題点が出そうな内容でもあるが、この提案以外に妥協点も無かったと言うのも、賛成が多数になった理由だった。

 

こうして、色々と波乱含みだった今回のギルド会議は、漸く幕を閉じたのだった。

 




という訳で、会議はこういう形で結論が出ました。
ですが、前書きにも書いた通り、まだまだアルベド騒動は続きます。

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