メールペットな僕たち   作:水城大地

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タイトル通りの話。


ギルド会議 ~一部を除くギルメンが「リア充爆発しろ」と叫んだ日~

 それは、ギルド【アインズ・ウール・ゴウン】結成四周年のパーティを開いてから十日後、いつもの様にメールペットたちに関する報告会と言う名の定例会議が行われる日に起きた、一つの事件である。

 

 たまたま、その日は誰もが割と早く仕事が終わったのか、円卓の間にギルメンたちが全員集まるのも早く、少しだけ早めに議会に移ろうかという話の流れになり掛けていた事も、その事件を誘発する事になったのだろう。

 そんな、絶妙なタイミングを狙った様に、それまで仲の良い仲間内で集まっていたギルメンたちが、自分の席へと移動し始めた頃合いを見て、スッと軽く手を挙げた人物がいた。

 

 そう……その人物こそたっちさんであり、彼は少しだけ迷った後「少しだけ時間をいただけませんか?」と言い出したのである。

 

 たっちさんが、そんな風に行動を起こした瞬間、今までとは打って変わったかの様にピリリと気配が硬くなった人物がいた。

 二年前に、リアルで色々とたっちさんに助けて貰った事から、最近は割とたっちさんに対する当たりが弱くなっていた筈のウルベルトさんだ。

 どちらかと言うと、かなりイライラとした気配を漂わせているのが良く判って、両隣に座っているギルメンたちがどこか落ち着かない雰囲気を漂わせている。

 たっちさんが行動を起こした途端、ウルベルトさんの気配がこんな風に変化した事から考えても、その原因がたっちさんにあるのは間違いないのだろう。

 

〘 ……多分、ウルベルトさんがこんな風にイライラしているのは、たっちさんがこれから言い出す事を知っているからなんだろうな…… 〙 

 

 あくまでも予想でしかないが、何となくモモンガはその予想が外れていない気がした。

 そして、多分同じ事をこの場に居る仲間たち全員が考えているんじゃないだろうか?

 正直言って、それ位ウルベルトさんの反応は判り易いものだった。

 だが、当事者である筈のたっちさんは、そんなウルベルトさんの反応に気付いていないのか、それとも既にリアルで直接一戦やらかした後なのか、綺麗に無視して自分の用件を話すべく口を開く。  

 

「あー……その、大変申し訳ない話なんですが、本日を持ちましてこのギルド【アインズ・ウール・ゴウン】から半引退状態にさせていただきたくて、ですね。

 完全にギルドもユグドラシルも引退するつもりはないんですが、それでもある程度の長期間ほとんどログイン出来なくなる可能性が高いので、その理由等を説明する為に皆さんのお時間をいただけないかと思いまして」

 

 サクッと、ほぼ冒頭から本題から切り出したたっちさんの言葉に、思わずギルメンが騒めき出す。

 それと同時に、なるほどこの内容ではウルベルトさんが苛立ちを隠せない訳だと、誰もがその理由に納得してしまった。

 ウルベルトさんは、たっちさんがこんな事をいきなり言い出した理由を、確実に知っているのは間違いないのだ。

 むしろ、リアルでたっちさんと毎日顔を合わせる機会があるウルベルトさんが、今回の事情を知らない筈がない。

 

「そこのバカの言い訳なんて、真面目に聞く必要はないですからね、皆さん。」

 

 一旦たっちさんが言葉を切った途端、ウルベルトさんはジットリとたっちさんを睨み付ける様な仕種をした。

 そして、迷う様子を欠片も見せずに、そうきっぱりと切り捨てる様に言い捨てたのだから、今回のたっちさんが半ば引退状態になる事に関して、腹に据えかねていたんだろう。

 最近、特に大きな意見の食い違いによる言い争いなどせず、二人が割と落ち着いていた事もあって、「久しぶりの一触即発状態」な空気にギルメンたちも警戒を強めているのだが、本人たちは一切気にしていない様子だった。 

 いきなり、不機嫌な様子でそんな風にウルベルトさんが口を挟んだ事に気を悪くしたのか、たっちさん側も少しずつ機嫌を悪くしながらウルベルトさんの事を睨み付ける。

 

「……いきなりなんですか、失礼ですね。

 私だって、色々と考えた上で皆さんにきちんと話をしようとしているんです。

 それを、横から口を挟まないでいただけませんか、ウルベルトさん。」

 

 どう聞いても、はっきりと「口出し無用」宣言しているたっちさんに対して、ウルベルトさんはまるでそんな事は関係ないと言わんばかりに鼻で笑った。

 そして、フンっと鼻を鳴らしながら、ドンッとテーブルに肩肘を付いた姿勢でたっちさんを見る。

 正直言って、今まで以上に挑発的な態度を取った所でウルベルトさんは、おもむろに口を開いた。

 

「……ぶっちゃけ、たっちさんがそう言い出した理由を簡単に纏めるとしたら、はっきり言って〖リア充爆発しろ〗としか言われない内容ですよ。

 そもそも、俺はちゃんとメールペットを飼い始める時に反対意見だったたっちさんが、娘のみぃちゃんを彼らに……セバスに関わらせたいと言った時に、ちゃんと聞きましたよね?

 〖それは、セバスの事を娘に押し付けて、自分は世話をしないと言う事じゃないんだな?〗って。

 たっちさん、あなたはその時になんて俺に答えたか覚えていますか?」

 

 ウルベルトさんの問い掛けた言葉に、ヘロヘロたちその事に関わった面々がその時の事を思い出す。

 ギルド長として、その場に立ち合ったモモンガも、当時の事はまだきちんと覚えていた。

 流石に、たっちさんの娘さんとは言えギルメンの間で飼うメールペットを、自分達以外に関わらせて良いものかモモンガ自身もひどく迷った案件だからだ。

 だが、あの時は他のギルメンからはそれ程反対意見も出なかった事もあり、たっちさんがどんな意図でこの事を希望しているのか確認してからと言う話になって。

 その見届け役として、メールペットのプロトタイプとも言うべきデミウルゴスの主であるウルベルトさんが、その話し合いの場に関わったのも覚えている。

 むしろ、あの一件からたっちさんとウルベルトさんの関係が改善され始めたと言っていいだろう。

 

「……それは……もちろん、覚えていますけど……」

 

 当時の事を引き合いに出された途端、たっちさんの言葉の歯切れがちょっと悪くなる。

 多分、ウルベルトさんがこんな風に切り出したと言う事は、その時のたっちさんの言葉がどこか守られていない部分があるのだろう。

 たっちさんが、どこか誤魔化す様な微妙な物言いをした事に反応して、ウルベルトさんは苛立ちを更に募らせながらテーブルを軽く指で叩き始めた。

 

「……本当に、あの時の言葉を覚えているとはとても思えませんね。

 あなたは俺に対して、〖娘はセバスの姉の立場としてか関わらせますが、私は彼らの親として二人に接するつもりです〗と、ヘロヘロさん達の前で言った筈です。

 ですが……現在の状況はどうなってるか、分かっています?

 今では、すっかりセバスの事での約束を忘れるどころかみぃちゃんの事も家庭教師の俺に任せきり。

 両親揃って、〖半年後に生まれてくる弟に取られた〗と言ってもいい状態の彼女が、今、どんな状態になっているのか、たっちさんはちゃんと把握していないでしょう?

 あの子は、全く甘えられなくなったあなたたちの代わりに、俺相手に赤ちゃん返りを起こす位に精神的に不安定な状態になってきています。

 ですが……そんな風に親に甘えられない寂しさから俺に依存し掛けている娘の精神状態すら、まともに把握していませんよね、たっちさん。

 セバスの事は、一応まだメールのやり取り関係でそれなりに構っているみたいですが、ほとんど会話の内容は半年後に産まれてくる子供の事ばかりで、本当の意味でセバスを思いやる言葉は最近ほとんど出ないそうですね?

 おかげで、どちらかと言うと馬が合わない感じのうちのデミウルゴスを相手に、この間とうとう我慢出来なくなったのか、セバスが肩に縋り付いて泣き出す場面をつい目撃してしまった、俺とみぃちゃんの心境がどんなものだったか判りますか?」

 

 つらつらつらつら、それこそ止め処なく溢れ出る言葉にはそこかしこに棘が含まれていて、そこからウルベルトさんがどれだけに怒っているのか伝わってくる気がした。

 たっちさんも、予想していた以上にウルベルトさんが怒っている事や、みぃちゃんやセバスの現在の状況を正確に把握していなかったらしく、目を白黒させている

 と言うか、いきなりたっちさんが半引退状態とか言い出したから、何か大変な事でも起きたのかと思えば……流石に今の話に絡む事が理由だとしたら、ウルベルトさんが怒るのも無理はないと思う。

 

 と言うか、幾らウルベルトさんがたっちさんの家の住み込みの専属家庭教師とは言え、たっちさんは彼に自分の娘のみぃちゃんの事を任せ過ぎじゃないだろうか?

 

 多分、他のギルメンたちも同じ様な考えに至ったのか、たっちさんに向ける視線はかなり冷たい。

 どちらかと言うと、ウルベルトさんの言っている事に賛成なギルメンたちは、たっちさんに呆れを含んだ視線を向けながら、まだ言い足りない様子のウルベルトさんに続き促した。

 その視線を受けたウルベルトさんは、更に口を開く。

 

「何故、みぃちゃんもセバスも親のたっちさんに言わず、俺に言うと思ってます?

 あの二人にとって、素直に悩みを打ち明けたり甘えたりして良い相手はあなたじゃなく、俺だと思われているからですよ。

 特に、みぃちゃんは普段から多忙な様子のあなたよりも、一緒にいる事が多くて色々と相談に乗ってくれる家庭教師の俺を、本当に心から頼りにしているんです。

 セバスは、立場的に俺にも頼る事が出来なくで、何とも言えない自分の気持ちと、つい頭の中に浮んだ〖自分は捨てられるのではないのか?〗と言う考えに恐れ慄き、本当に悩んで苦しんでましたよ。

 ……見ていて、可哀想な位でしたね。

 それこそ、余りに憔悴した様子を見かねたデミウルゴスが、〖本当に大丈夫なのかい?〗と声を掛けた途端、堰を切った様にその肩に泣き縋る程だった事を考えれば、どこまで切羽詰まった精神状態だったのか判るでしょう?

 その辺りの事も、全部ちゃんと状況を把握した上で、この話を切り出しているんですよね、たっちさん。」

 

 ジトリと、強く睨み付ける様にウルベルトさんに対して、たっちさんはらしくない位に視線をさ迷わせている姿を見る限り、彼から指摘された事はどれもほとんど知らなかったんじゃないだろうか?

 だとしたら、やっぱりたっちさんには悪いけど、今回ばかりはみぃちゃんやセバスの為にもウルベルトさんの方に味方したくなる。

 とは言え、まだたっちさん自身からきちんと今回の話を聞いていないのも間違いなくて。

 片方だけの主張を聞いて、一方的に結論を決める訳にもいかないだろう。

 そう判断して、モモンガは改めてたっちさんに話を振った。

 

「それで、ウルベルトさんがみぃちゃんやセバスの事でここまで怒っている、たっちさんが半引退を切り出した理由は何なんですか?」

 

 モモンガから話を振られた途端、たっちさんはハッとなった様にこちらを見る。

 どうやら、ウルベルトさんから出てくるどれも厳しい言葉に意識を向けていた事から、すっかり自分の用件を忘れてしまっていたらしい。

 コホンと軽く咳払いをした後、改めて自分がどうしてそんな事を言い出したのか、その理由をゆっくりと話し始めた。

 

「私が、この場でこんな事を言い出した理由ですが……ウルベルトさんが言う通り、実は妻が二人目の子供を妊娠中でして。

 それで、今回こそは子育てに協力してくれと妻から言われてしまったんです。

 みぃが生まれた時は、まだリアルの仕事なども忙しかった事もあり、赤ん坊の頃から育児には関わる事が出来ませんでしたし、その事への罪滅ぼしの意味も兼ねて、今回は妻の希望に答えるべきだろうと思いまして。

 それで、ギルドの方を半引退状態にさせて貰って、本当に私の力が必要な大きなイベントとか、攻略の際は参加すると言う形にさせて貰えると助かるんですが……」

 

 そこで言葉を切ったたっちさんに、ギルメンから向けられる視線は更に冷たくなった。

 正直、モモンガも彼らの気持ちは良く判る。

 と言うよりも、たっちさんの立場など家庭環境や状況的な事を考えればあり得る話なのだろうが、それでもどこか納得がいかないのだ。

 まるで、この状況を最初から理解していたかの様に、たっちさんの言葉に先陣を切って真っ向から反対意見を口にしたのは、今までたっちさんに対して厳しい事を言っていたウルベルトさんである。

 

「本当に、たっちさんは自分の都合がいい事ばかりを言っていると、皆さんもそう思いませんか?

 もちろん、奥さん側の言いたい事は判ります。

 小学校に上がって、色々と成長していくみぃちゃんに加え、跡取りとも言うべき二人目の子供が出来た以上、今までの様に夫がゲームばかりして育児に大変な自分に協力してくれないのは困ると、そう言いたいんでしょう。

 ですがね、実際は最近のみぃちゃんの世話等なほぼ俺が請け負っていて、彼女は自分のお腹の子供の事ばかり優先している状態です。

 正直に言って、彼女にみぃちゃん関連の育児での負担は殆ど掛かっていないと、この場できっぱりと断言しても構わない位でしょう。

 それなのに、奥さん側からたっちさんに子供の事を優先する為に〖ゲームを出来るだけ止めてくれ〗と言い出すのは、現時点でママから半ば放置状態のみぃちゃんからすると、お腹の子供に大好きなパパまで取り上げられるのと同じ意味を持つ酷い話だと、俺は思いますよ?

 その辺りに関して、奥さんがどう認識しているのかも含めて、まずはきちんと家族できちんと話し合って決着をつけていませんよね?

 全部済ませた上で、漸くギルドに対して引退云々の話をしろと、俺は言いたい訳です。

 正直、本音を言えば二人目の子供を作っている時点で〖リア充爆発しろ!〗って叫びたい位ですが、あくまでも個人的な事なのでそれは横へ置くとして。

 半引退状態になるつもりなら、メールペットのセバスはどうするつもりなんです?

 あれだけ、俺やヘロヘロさん、モモンガさん達に対して啖呵を切っておいて、結局はリアルに息子が出来きたらお払い箱だというのなら……俺自身のリアルの立場は関係なく、あなたの事を心から軽蔑しますよたっちさん。」

 

 ザクザク、ザクザクとウルベルトさんが放つ言葉のナイフが、容赦なく確実にたっちさんの中にある心のHPを削り取っているのが伝わってくる。

 裏を返せば、それだけウルベルトさんがたっちさんに対して怒っていると言う事なのだろう。

 確かに、話を聞く限り色々とたっちさんの方に問題があるのは良く判るので、この場で直接口を挟むのは差し控える事にした。 

 多分、他にギルメンも今のウルベルトさんの言葉に下手に口を挟んで、自分にまでウルベルトさんの怒りが飛び火するのは避けたいだろう。

 当のたっちさんだって、ウルベルトさんの主張に対して割とタジタジなのは、きちんと家族の事を見ていなかった自分に非があるのを自覚しているからじゃないだろうか?

 少なくとも、普段のたっちさんだったらすぐに言い返す所を、反論もせず黙って大人しく聞いている時点で、この件に関してどちらの主張が正しいのかなんて、言わずと知れたものだと言っていいだろう。

 つい、この状況に誰もが口を挟めずに固唾を飲んで見守る中、漸く自分の中で意見を纏めたのか、たっちさんが口を開いた。

 

「……ウルベルトさんの言いたい事は判りました。

 確かに、私自身が考え無しだった部分が幾つもある事に関しては認めましょう。

 妻が、自分の体調とお腹の子供の事ばかり優先した上、みぃの事をウルベルトさんに任せて全く相手していないとすら思っていませんでしたからね。

 みぃやセバスとは、今回の事に関してきちんと話し合っていなかった事も事実です。

 ですが、それは決して私自身があの子たちの事を蔑ろにしていつもりはありません。

 もちろん、それがあの子たちに伝わっていなければ、意味がないとウルベルトさんならおっしゃるでしょうが……そこはまだ、これからきちんと腹を割って話し合う事で挽回が可能ですよね?

 それと、今回の事を理由にセバスの事を手放すつもりなんて、最初から考えてません。 

 育児の為に半引退状態になる分、皆さんとの連絡はセバスが運ぶメールだよりになりますし、息子が生まれてもうちの長男として扱うつもりでしたので、ウルベルトさんから軽蔑される筋合いはないと思いますよ。」

 

 出来るだけ、感情的にならない様に冷静さを心掛けて自分の意見を口にするたっちさんに、再度鼻を鳴らすウルベルトさん。

 多分、実際に子供たちの事を見ていたウルベルトさん的には、今の発言は信用ならない部分が大きいのだろうが、流石にたっちさん側の事情を考えると一方的に責める事も出来ないだろう。

 前にも一度、ギルド武器を作る時に奥さんと喧嘩してまで素材集めの為に来てくれていた訳だし、たっちさん自身も完全に引退するとは言っていないのだから、もう少し詳しく話し合ってから折り合いがつく所で条件を決めれば問題ないんじゃないかと思わなくもない。

 

 それに、ウルベルトさんが一番の問題点だと挙げていた、娘さんのみぃちゃんの事やセバスの事もきちんと考えて対応すると言っているんだし、これ以上は人様の家庭の事に口を出すのは流石にどうかと思うのだ。

 

 なので、これ以上二人がヒートアップする前に割り込む覚悟を決めると、モモンガが口を開こうとして……たっちの割とすぐ側の席から声が上がった。

 そこに座っているのは、今いるメールペットの生みの親とも言うべきヘロヘロさんだった。

 どことなく、たっちさんに対して怒りと言うのか敵意に近いものを感じるのは、気のせいだろうか?

 

「……全く、これだからリア充は困るんですよねぇ。

 自分で約束した事位、きちんと守りましょうねたっちさん。

 まぁ、本人的には約束を破る所だったという自覚がない所が、たっちさんの罪深い所というべきなんでしょうけど……

 とにかく、ちゃんとセバスへのフォローはしてあげて下さいね?

 後で、うちにメールを持って来た時にカウンセリングをして確認しますから、フォローが万全じゃなかった時は覚悟しておいて下さい。

 みぃちゃんに関しては、ウルベルトさんも側に付いてますし、ご家庭の事なので口を挟みませんが。

 それはさておき、たっちさんが半引退状態になるのはいつ位からを考えてます?

 流石に、いきなり今日言って明日止めますとか言いませんよねー?」

 

 あ、あんな風に最初にヘロヘロさんが毒吐くなんて珍しい。

 メールペットたちの生みの親として、たっちさんがセバスの事をいい加減に扱うのは許し難かったからだろう。

 うん……そういう事にしておくとして、だ。

 確かに、ヘロヘロさんが質問した様にその辺りの事は明確にして貰わないと、流石にこちらとしても困る案件だった。

 

 たっちさんは、うちのギルドの最強の一角を担う立場なんだから、いきなりその場での引退を言い出しても通用しない事位は、社会人としても理解しているだろう。

 

 ヘロヘロさんに問われたたっちさんは、まさか彼からそんな辛辣な事を最初に言われるとは思っていなかったのか、開口一声に言われた言葉に動転してしまったらしい。

 思わず、軽く胸を押さえてその場で軽くよろめいた後、何とか気を取り直してから口を開いた。

 

「……もちろん、私だってそこまで無責任な事をするつもりはありません。

 妻が出産する予定の半年後までは、出来るだけ普通にログインするつもりです。

 出来れば、その前に皆さんと大きなレイドを一つ熟しておきたい所ですが……今の所、それと言って大型イベントはありませんし、無理にとは言いませんが。」

 

 何も確認せず、さらっと奥さんの出産予定日を口にするたっちさんに、ギルメンの半数の空気が何となく殺気立った様な気がした。

 これは、モモンガ自身の気のせいかもしれないので、口に出してそれを確認したりはしない。

 正直に言えば、モモンガだってたっちさんの半引退理由を聞いた時からずっとかなり微妙な気持ちなのだから、他のギルメンが過剰反応したとしても当然の話だろう。

 予定を確認して、次に手をたっちさんに話しかけたのはぷにっと萌えさんだ。

 

「あー……きちんと奥さんの出産予定日を把握している訳ですね、リア充爆発しろ!

 まぁ、たっちさんが半引退状態になるまで半年と言う期間があるのでしたら、多分それまでに一つ位運営がイベントを発表すると思うので、その際に思い切り暴れて貰う事にしましょう。

 ある意味、たっちさんにとって最後の大型戦闘になるかもしれない訳ですから、運営からのイベント発表があり次第、それ相応のスケジュールを組む事にしましょう。

 もちろん、流石に奥さんに臨月に入った頃にイベントがあった場合は、奥さんの方を優先で構いません。

 流石に、そんな事で奥さんに恨まれたくありませんから。

 後、ウルベルトさんやヘロヘロさんが言った様に、セバスやみぃちゃんへの親としてのフォローは、ちゃんとして上げて下さいね。

 両親の仲が良いのは子供として嬉しいでしょうが、仲が良すぎて自分の事を見て貰えなかったり、両親揃って下の子供ばかり優先されると、歪んで育つ可能性もありますから。」

 

 最後の言葉を言う時、ぷにっと萌えさんがチラリと茶釜さんへ視線を向けた様な気がしたのも、多分モモンガの気のせいだろう。

 その後も、何人かが手を挙げて色々とたっちさんに質問していくのだが、その度に必ず「リア充爆発しろ!」と言われ続けたからか、たっちさんがかなり凹んでいる様だった。

 まぁ、流石にあそこまで質問した全員から同じ様に「リア充爆発しろ」と言われ続けたら、凹まないでいられる方がおかしい気もするので、これも仕方がない事なのだろう。

 

「それでは、皆さんたっちさんが半年後には半引退状態となり、普段は活動を休止して有事にのみ駆け付けると言う話を承認するという事で宜しいですね?」

 

 最後にモモンガが確認する様に問えば、誰もがそれで問題ないと了承したらしく、特に反対意見は上がらない。

 問題がない様だと言う事で、改めてたっちさんの顔を見ると、にっこりとした笑顔のエモーションを浮かべつつ、モモンガはそれを口にした。

 

「では、これでたっちさんの件の話は終了と言う事で……リア充爆発しろ?」

 

 何となく、モモンガ自身もこれをたっちさんに対して言った方が良い気がした為、そう口にした途端一気にその場にいたほぼ全員から〖リア充爆発しろ!〗の唱和が入る。

 まさか、モモンガからも言われた揚げ句ギルメンの大半から唱和されるとは思っていなかったのか、ズーンとその場で落ち込むたっちさんを他所に、ギルメンたちは本来の目的である定例報告会議を始めたのだった。 

 

 




という訳で、前回の話の通り衰退期に入ります。
そのトップバッターは、たっちさんと言う事で。
更に、前回引退の後に(?)を付けたのは、今回の話の通り半引退状態ではあっても引退そのものではないからです。
そして、たっちさんの半引退理由に関しては、実はハーメルンでメールペットを掲載し始めた時点で既に決まってました。
やー……アニメの十話にたっちさんとウルベルトさんの口論のシーンがあった事で、ざっくりとたっちさんに対してのウルベルトさんの口調がイメージ出来たお陰ですかね、もうサクサク話が進む事ったらありませんね。
実質、ハーメルン版に修正する前のpixiv版は、ほぼ一日で書き上げましたから。


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