メールペットな僕たち   作:水城大地

22 / 51
今回は、この二人の話です。


やまいこと戦闘メイドのお姉さんの割と忙しいなりにマイペースな毎日

 やまいこの起床時間は、ギルメンの中でもそれなりに早い。

 彼女が早起きする理由は、教師として教鞭を執る様になって数か月後から三年半前まで、出来るだけ早めに出勤して色々とやらなければいけない事が、それこそ山の様にあったからだ。

 そんな理由があって、三年半前まで朝は戦争と言っていい位に慌ただしく仕事に行く準備に時間を取られていた事から、彼女が毎日最初にメールサーバーを開くのは、実は出勤してからだった。

 

 下手に、出勤する前に無理をしてメールサーバーを起動させるより、学校に出勤してやるべき事を片付けてからメールサーバーを開く方が、時間的にも精神的にも余裕を持ってメールを読む事が出来るからである。

 

 普通に考えれば、教職についている彼女が学校に出勤した後にそんな時間が取れるのかと思うかもしれないが、彼女の場合は教師としての長年の経験から出勤後の方が割と上手く時間をやりくりする手段があるので、周囲が思っているよりも時間が取れるのだ。

 もちろん、それには幾つか理由があるのだが、彼女が教師として教鞭を執る学校の近くに住んでいると言うのも、それなりに他の教師よりも授業前の朝の時間にゆとりが取れる理由の一つだろう。

 それなら、「わざわざ無理に早く学校に行かず、家でゆっくりした方が良いのではないか?」と、彼女の生活を知れば仲間から言われるかもしれないが、今までずっと学校にサクサク出勤して空いた時間を他の教員が来るまでゆったりと過ごす方だったので、習い性でそのままにしていたりする。

 

 今更、体に染みついている習慣を変更する方が、余程面倒だからだ。

 

 学校に来て、自分のあてがわれた教科準備室である程度その日に行う授業の順備が済めば、そこから朝の職員への通達の時間までやまいこの自由に行動する事が出来た。

 なので、その開いた時間をメールサーバーの中に居るユリとの朝の時間として、上手く利用しているのだ。

 やまいこは、学枚の門が開いてすぐという早朝に出勤している事もあり、ユリの為に朝食を用意するのもこの時間だった。

 この朝の時間は、やまいこの中で楽しみの一つになっていると言っていいだろう。

 

 ユリが彼女の手元に来るまでは、習慣的に早朝に学校に来て授業の準備をした後、諸事情から何もする事なくぽっかりと出来たゆったりした時間の使い道は殆どなく、ぼんやりと流行の雑誌を眺める位しかやまいこにする事はなかった。

 

 自分の受け持ちの生徒の為に、少しでも何か自分に出来る事を考える時間にするよりも、ぼんやり雑誌を読む様になったのは三年半前からだが、どうしてそうなってしまったのかと言う理由に関しては彼女自身もよく覚えていなかった。

 誤解が無い様言うが、生徒たちが可愛く思えなくなった訳じゃない。

 けれど、自分だけが生徒の事を考えて一人で頑張って何かをしようとしても、他の教師や生徒の親から「人気取りの行為だ」と言われ続け、徐々に細かな部分までやる気が減退してしまったのだ。

 そして、彼女が覚えていない様な些細なきっかけで、その手間を掛けるのを辞めてしまったのである。

 だからこそ出来たのが、この時間帯だった。

 もちろん、だからと言っていい加減な授業や生徒への対応をするつもりは、やまいこ自体にはない。

 ただ、これ以上自分が一人だけで何かしていても「出る杭は打たれる」だけで生徒の為には何もならないと、やまいこは漸く悟ったのである。

 

 そんな風に、仕事に情熱を燃やし続けるのが難しい状況いなり掛けた彼女の元へ、ギルドの仲間と一緒に飼おうと届いたのが、今側にいるメールペットのユリだった。

 

 彼女にとって、ユリの存在はとても大きなものだと言っていいだろう。

 家族から独立して一人暮らしている彼女にとって、ユリはそれこそ娘の様な可愛い存在であり、大切な家族の様な存在なのだから当然の話である。

 多分、今のやまいこは生徒の為に使っていた時間を全部ユリの為に注ぎ込んでも足りない位、彼女の事がとても可愛くて仕方がなかった。 

 

 それはさておき。

 やまいこは、ユリの為の朝食を準備して彼女に出すと、仲の良い友人たちから届いているメールに目を通して返事を手短に書く。

 それこそ、友人たちのメールへの返事の内容は、周囲が思っているよりも短く簡潔なものだ。

 ほぼ、毎日やり取りしている友達同士のメールなので、そこまで細かく書く内容が思い付かないからである。

 むしろ、短いメールでも十分な位にメールのやり取りをした上で、夜には「ユグドラシル」の中で会うのだから、そこまで細かな内容が必要だとはとても思えなかった。

 

 どちらかと言うと、こんな風にメールが短いものの方が、毎日メールをやり取りする事が出来る分、ユリも仲の良いメールペットのアウラやマーレと遊べるだろう。

 

 そんな事を考えつつ、やまいこがさくさくメールを書き上げていくと、食事とその日の身支度が終わったユリが側に控えて待っていたりする。

 ここで声を掛けないのは、うっかり声を掛けてやまいこがメールの宛先を間違えない様にと言う、ユリなりの気遣いだった。

 ユリが着る服に関しては、前日に選んだものを用意しておいてあげてあるので、朝食が終わったユリは素早く寝間着から着替える事で、まずは普通にそれを着た状態を見せてくれる。

 そこから、その日の気分に合わせて彼女に似合う髪飾りやチョーカーなどの小物などを用意するのが、やまいこにとって朝の一番の楽しみだった。

 自分の可愛い娘を、人様の所にお使いに出す前にもっと可愛くしてあげたいと思うのは、娘を持つ親として当然の話だろう。

 特に、彼女がこれからメールを持って行く所は、ギルメンの中で三人しかいない女性メンバーである友人のぶくぶく茶釜さんとの餡ころもっちもちさんの所なのだ。

 

 やまいこが、ユリはこんな風に可愛いと思った衣装を着せてお使いに出す様に、彼女達のメールペットも可愛い姿をして待ち構えているだろう。

 

 茶釜さんの所アウラとマーレは、【双子】と言うコンセプトを生かした毎回可愛らしい衣装を着ているし、餡ころもっちもちさんのメールペットのエクレアは、イワトビペンギンと言う種族的にユリたちの様な可愛い衣装とかをきている事などはないものの、それでも彼の魅力を引き立てる格好はしている筈。

 むしろ、服が着れない分毛並みを滑らかかつ艶やかなものにする方向で、毎日色々と工夫しているのだと餡ころさん本人から聞かされている。

 実際、昼休みに見るエクレアの姿は撫で回したくなる位なので、そのコンセプトで間違いないのだろう。

 こんな風に言っていると、まるでただ可愛がるだけで叱らないと思われがちだが、もちろんそんなつもりはやまいこたちにはない。

 メールペットを飼い始めて数か月後に起きた、あの【アルベド騒動】を教訓にして、やまいこは今までのユリに対する自分の行動や言動を思い返した瞬間、思わず蒼白になった。

 

 自分が、いつの間にか子供の自主性を奪いかねない様な、何かに付けて学校に怒鳴り込んでくるろくでもない親と一緒の言動をしていると、そう気付いたからだ。

 

 その事に気付いた途端、自分が教師でありながら自分の子供とも言うべきユリの言葉に、本当の意味で耳を傾けていなかった事にも気が付いた。

 もっと、ちゃんとユリが自分に向けて話す言葉に耳を傾けてあげていたら、やまいこは多分気付けた筈なのだ。

 アルベドの行動が、本当はただの我儘だけじゃなかった事に。

 自分の受け持つ生徒たちの中にも、アルベドの様に極端で酷いものでなかったとしても、似た様な行動をする子供が居なかった訳じゃない。

 

 まだ未成熟な精神だからこそ、自分の中にわだかまる感情や思いを相手に向けてどう発して良いのか、それが自分では良く判らないまま、親から教えられた方法(アルベドの場合はNPCとして与えられた設定部分)に頼ってしまっただけ。

 

 小さな子供が、自分の感情に振り回されて癇癪を起しているのと、それほど変わらない事だったのに。

 良く思い返してみれば、あれだけ他のメールペットから嫌われる可能性が高かった筈のアルベドの事を、ユリは「ちゃんとマナーなどきちんとしていれば、周囲が言う程問題発言は少ない方ですよ?」と評していた。

 タブラさんと、それなりにメールのやり取りをしていた時だって、メールを持って来たアルベドがやまいこに対して迷惑になる様な行動も、ユリに対しての嫌がらせもしなかった事を思い出せば、彼女の事をいつの間にか友人たちから伝え聞いた話を元に、色眼鏡で見ていた事も間違いなくて。

 

 あの一件は、そう言う問題点を浮き彫りにするという意味でいい教訓になったのだと、やまいこは本当に思っている。

 

 これに関しては、茶釜さんや餡ころさんも同じ考えに至ったらしく、三人でアルベドが戻って来るまでに色々と反省しつつ今後の事を見直したものだ。

 自分のメールペットは、今だって自分の子供だと思える位にとても可愛い。

 だけど、ただ可愛がって甘やかすだけじゃ駄目なのだ。

 本当に自分の子供と同じだと思っているなら、甘やかすだけじゃなく悪い部分は叱ったり良い事をしたら褒めたり……それこそ、子供を育てるのと同じだと思って接しないと、また同じ間違いをしてしまうだろう。

 

 そう考えてから、やまいこは出来るだけ親としてユリの事をちゃんと細かな所まで様子を見て、彼女と色々な話をする様にしていた。

 

 まぁ、そんな考え方をする様になったあの一件から、自分はただユリの事を猫可愛がりするだけじゃなくなったと思う。

 ユリは、元々プレアデスの長女と言う立場もあって、ちゃんと話してみると僕によく似ている所も多いから、ちゃんと注意してみていてあげないと。

 

 そんな風に思いつつ、準備の出来たユリにメールを渡して配達へと送り出すと、やまいこはそれまでのリラックスモードから教員モードへ意識をきっちりと切り替えた。

 ここからは、人様の子供を預かる教育者の立場として、きちんと責任ある事を忘れちゃいけないからね。

 そう言う意味でも、メリハリを付けた意識の切り替えは重要だと思いつつ、自分の受け持ちのクラスの授業の為にこの時間帯に持って行く物を準備を始めていた。

 

******

 

 次に、やまいこがのんびりとメールサーバーを開く事が出来るのは、昼休みの三十分程だ。

 お昼休みは、お昼を食べる時間まで含めれば全部で一時間半あるのだけれど、最初の一時間は職員専用の食堂でお昼を食べるのに時間を取られる為、自由になるのは三十分程なのである。

 お昼も持参して、自分の教科準備室で食べれば良いと言われそうだが、そうは簡単な話じゃない。

 食事する間に、同じ学年を担当する職員同士で授業内容について話し合う事もあるから、勝手に一人だけ準備室で食事をするのはマナー違反なのだ。

 特に話す事がない時は、手早く食べて準備室に戻れるものの、話す内容がある時はもっと少ない時間しかないので、出来るだけ早めに話が終わる様に水を向けつつ、終わったら速攻で自分の準備室に戻る様にしていた。

 その理由の一つは、ユリのお昼ご飯と彼女に頼んだメール配達に対して「いつもありがとう」と、ちゃんと伝えたいからだ。

 

 もちろん、一日くらい言わない日があっても彼女は気にしないだろうが、自分の方がちゃんと言わないと気が済まないと言う理由もあった。

 

 可愛い娘との、大切なスキンシップの時間を優先するなら、ちょっとの時間でも無駄にしたくないと思うのは、親として当然の話だろう。

 これが、授業中にそんな真似をしているのだと言うのなら問題かもしれないが、昼休みと言う長い休憩時間なのだから、少し位自分の好きに使ったとしても文句を言われる筋合いはない。

 これで、自分が受け持つクラスの授業に差し障りがあるなら別だろうが、やまいこは先に授業の準備をしてから食事に行くので、その点も問題なかった。

 メールサーバーを立ち上げると、既にサーバーの中へ帰宅したユリが出迎えてくれるので、ちょっとだけその事を嬉しく思いつつ、まずは彼女の話を聞きつつお昼の支度をする。

 ユリからは、朝食を作る時点で昼食も作りおきしてくれて構わないと言われているが、やまいこの方が出来るだけ毎回その時間が来た時に彼女に食事をきちんと作ってやりたいので、これに関しては聞いてあげられない案件だった。

 

 もちろん、ユリがお昼を食べられなくなる事態は避けたいから、朝の時点でそこまで時間がないと判っている時は、その朝食を作る時点で一緒にお弁当を作るけどね。

 

 お弁当は、自分が食べたい時に食べるから美味しいのだと思うので、ユリから「お昼はお弁当が食べたいです」と言われれば、作ってあげる様にはしていた。

 やはり、食事に関しては本人が希望する形で、出来るだけ用意してあげたい。

 その代わり、嫌いだからと言って偏食を赦すつもりはなかった。

 

 もっとも、ユリはそんな事を言い出す様な子じゃなかったけど。

 

 彼女の話を聞きながら、出来るだけ手早くでも手を抜かずに用意したお昼を出して、それを食べている彼女の様子を見ながら自分がいない間に友人たちのメールペットが届けてくれただろうメールに素早く目を通す。

 みんな、自分と同じ様に仕事の合間に簡単に書いただろう短い返信だったが、元々目的はこうしてメールをやり取りする事によってユリたちの交流を深める為だから、特に文句はなかった。

 さくさくメールを読み終えると、こちらもそれに対しする短めの返事を書いてユリに持たせる準備をしておく。

 お昼休みが終わると同時に、またユリにメールを配達して貰う為だ。

 基本的には、メールを持ってきてくれているのは茶釜さんの所のアウラとマーレ、餡ころさんの所のエクレアが多いのだけど、昼の休憩時間だとそこにタブラさんの所のアルベドが混じる事もある。

 他の二人からは、ほぼ毎日メールが届くのに対して、アルベドがメールを持ってくるのは数日に一回といった所だろうか?

 どうも、アルベドがユリと過ごす事を好んでくれている事もあって、彼女の為に交流場所を増やす為なのか、タブラさんも短めだけど丁寧なメールをくれるのだ。

 と言うか、タブラさんから貰うメールの内容は、メールペットに普段出しているおやつの事とか食事の事とか、とにかくアルベドに関わる事ばかりなので、昔に比べると随分親バカになった様に思えて仕方がない。

 

 やまいこ自身、そんな親バカなタブラさんも悪くないと思うからこそ、こうして短いメールのやり取りを定期的に続けているのだが。

 

 とにかく、全員に返信を書いてユリを送り出すころには昼休みが終わってしまうので、ユリに返事を託した後は急いで教室へと向かう。

 ただし、自分の行動をどこで子供たちが見ているか判らないので、絶対に走らない様にだけは注意していた。

 普段、彼らに対して「廊下を走るな」と注意している側の私が、自分が授業に遅れそうになって走る訳にはいかないからだ。

 

 午後の授業を終えた放課後、やまいこが向かうのは自分に与えられた準備室ではなく、職員たちが集まる職員室だ。

 その日の授業が終わってから、学校に居る職員同士の本格的な打ち合わせや会議をする必要があるからである。

 基本的には、こんな風に授業が終わった後に職員会議はあるのだが、早急に対応が必要な緊急連絡がった場合は朝の段階で職員室に集まる事もない訳じゃない。

 その場合、ユリと会えるのは昼休みまでお預けになる事もあるので、出来れば朝の会議が開かれるような事態は遠慮したいと思っている。

 

 万が一、朝の緊急会議が開かれる場合、ユリの朝ご飯は念のために部屋に用意してあるシリアルだけになってしまうし、可愛い娘との朝のスキンシップも取れない状況は、やまいこの方が辛いからだ。

 

 それはさておき。

 放課後、その日のうちにしなければならない教師同士の打ち合わせや会議、翌日の授業の準備や生徒から受け取った宿題の添削など、教師としてしなければならない沢山の仕事を済ませていたら、大体夕方から夜の時間帯になる。

 ここ数年、やまいこが受け持つ生徒は、前年に受け持った低学年クラスの持ち上がりになるか、もう一度低学年になるかのどちらかになる事が多いので、それこそ数年おきのローテーションの様な授業になる事も多く、ある程度慣れてしまえば翌日の授業の準備自体には、それ程時間は掛からなかった。

 だからと言って、全く同じ内容の授業で済むかと問われると微妙に違う。

 毎年、受け持った生徒の学習レベルが微妙に違っている事が多いので、合わせて調整する必要はあるからだ。

 それが終わると、その日のうちに済ませる事はほぼ終わりなので、やまいこは急いで帰宅する。

 

 早めに家に帰って、ユリとゆっくりと話しながら夕食にする為だ。

 

 夕食は、学校で取る昼食に比べるとかなり落ちるものの、出来るだけ自炊する様にはしている。

 もちろん、天然素材の食料なんて高価なものは手に入らないが、それでも女として「料理が出来ない」と言われるのはちょっと嫌なので、やまいこなりに努力している事だと言っていいだろう。

 正直言えば、夕食くらいはちょっとだけ簡単に済ませてしまっても良いんじゃないかと思わなくはない。

 思わなくもないのだが、きちんと自炊をしない訳にはいかない理由が、やまいこにはあった。

 

 少なくとも、毎食を外食や簡易食糧で済ませる様な真似だけは絶対にしないと、一人暮らしを決めた時点で妹と約束させられたからである。

 

 それはさておき。

 夕食が済めば、そこから暫くはユリから今日の出来事を聞く時間だ。

 実を言うと、やまいこは他の友人たちの様にユリが仲の良いメールペットと、楽しく過ごしている様子を見る機会はあまり多くない。

 仕事柄、日中は短い昼休みの時間以外にメールサーバーを立ち上げる余裕がなく、友人からのメールを持ってくるだろうメールペットたちとほとんど顔を合わせる事が無いからだ。

 それでも、ユリから聞く話を総合して考えるなら、彼女と仲が良いのは茶釜さんの所のアウラとマーレ、餡ころさんの所のエクレア以外だと、先程話の出ていたタブラさんの所のアルベドとか、ヘロヘロさんの所のソリュシャン、ウルベルトさんの所のデミウルゴス、ベルリバーさんの所のペストーニャと言った感じらしい。

 アウラやマーレ、エクレアに関して言えば、自分達主側が仲良くしているので自然と仲良くなったと言った感じだろうし、アルベドは問題行動がなくなった後は淑女へと確実に成長している事もあって、ユリとは話が合うのだろう。

 元々、ソリュシャンとは「プレアデス」として姉妹設定もあるので気安く対応し易い点から仲が良いらしく、デミウルゴスは仲間に対して気遣いが出来る立派な紳士なので、それなりに良い関係を続けているらしい。

 

 そんなユリが苦手にしているのが、実はモモンガさんの所のパンドラズ・アクターだった。

 

 誤解がない様に言うが、別にパンドラズ・アクターがユリに対して何かしている訳じゃない。

 単純に、彼のどちらかと言うと大袈裟な言動が、どうもユリは苦手らしいのだ。

 教師として、色々な生徒と接する事が多いやまいことしては、あのパンドラズ・アクターの言動や行動を見ても「あの子の個性」だと思って流してしまえる程度なのだが、どうやらユリは彼が普段から見せている大仰な物言いが引っ掛かるらしい。

 元々、パンドラズ・アクターは「役者」と言う位置付けもされている事から、言動や身振りが普通よりも大袈裟な所はあるのは、やまいこだってよく知っている。

 その部分を差っ引いてみれば、性格などはモモンガさんに似て優しい気遣いが出来る良い子なのに、とやまいことしては思わなくもない。

 

 とはいえ、それはやまいこから見てユリもパンドラズ・アクターも三頭身の小さな子供にしか見えないと言う、立ち位置による視点の差があるので、彼女達から見たらやっぱり女性的には受け入れ難い、駄目な部分があるのかもしれないが。

 

 更に申し訳ないと思えるのが、パンドラズ・アクターもユリが自分を苦手に思っている事に、既に気付いているらしい事だ。

 普段から、メールを持ってきても出来るだけユリに対して気を使っているらしく、出来るだけ抑え目のトーンで最低限の挨拶だけでメールを置いて帰っていくらしい。

 もっとも、彼がモモンガさんのメールを持ってやまいこの元を訪れるのは、大概何らかギルドでの連絡事項がある時が殆どなので、ギルメン全員の元へメール配達をする状況が多く、一つの配達先でそれ程長く留まっている余裕もないらしいのだが。

 

 メールペットの性格も十人十色、色々とあるのだから全員と仲良く出来なかったとしても、それはそれで仕方がないのだろう。

 

 ユリと、夕食とその後のちょっとしたおしゃべりの時間を楽しんだ後、やまいこはギルメンたちが待っているだろうユグドラシルの中のギルドへとログインする。

 彼女がログインする時間には、ある程度のギルメンが集まっている事が多いので、誰かに既に今日の予定が決まったのか確認したり、そのまま話に興じて時間を潰したりするなど、その日によってログイン後の行動がどうなるのかはその時次第だ。

 元々、仲が良い茶釜さんや餡ころさんが仕事の都合などでログイン出来ない場合などは、既に狩りに出かける予定の面々に声を掛けて混ぜて貰ったりしている。

 それでも都合が合わない時は、ナザリックのユリの様子を窺って彼女の為の装備のチェックをして、そのままログアウトする事もあった。

 

 予定が合わない時は、無理に残っているよりも家で待っているメールペットのユリとの時間をもっと増やしたかったからだ。

 

 やまいことしては、出来るだけ同じ時間帯にログインする様に心掛けてはいるが、やはりテストなどがあった時などは採点に時間を取られてログイン出来ない事も増えて来ていたから、そう言うケースが増えても仕方がないとは思っている。

 これは、やまいこ一人に限った話じゃない。

 たっちさんから、半引退の申し出があったあの会議から、実際に微妙にログイン率が下がったギルメンが増え始めたのだ。

 やまいこたち、【アインズ・ウール・ゴウン】のギルメン全員でメールペットを飼い始めてそろそろ三年目。

 このギルドが結成されてから、そろそろ四年目を迎えようとしている現時点で、ギルメンの中にはユグドラシルにログイン出来る時間が減ってきている者がいたとしても、別におかしくないのだろう。

 元々、ギルドへの参加条件が「社会人である」という縛りもあって、他のギルドよりもこのギルドの所属メンバーの年齢層は割と高めだと言っていい。

 年齢的に考えても、たっちさんの様に家庭を持っている面々も普通に出てきている事から考えれば、ギルメンのログインのタイミングが合わなくなっても仕方がない話だ。

 

 むしろ、もっと早くにギルドから去る人がいても、それこそおかしくない状況なのだから。

 

 事実、やまいこ自身にだって「そろそろ見合いをしないか」と言う話が、家族から出始めていた。

 これから先、定例会議以外でギルメン全員が揃ってログインしている日は、もっと減っていくだろう。

 そう考えると、こうして未だにギルメンが強固に繋がっている理由は、ユリたちメールペットだと言っていい。

 あの子たちがいるから、こうして自分達はその繋がりを維持出来ているのだろう。

 元々、様々な個性的な人たちが集まって出来たギルドなのだ。

 

 それこそ、他のギルドの様にいつ意見がぶつかり合って空中分解してしまってもおかしくなかった事を考えれば、とてもすごい話だと思う。

 

 ぼんやりとそんな事を頭の端で考えつつ、今日はタイミングよく会えた茶釜さん達と話をしながら、今日の狩りに行く予定を組み立てていく。

 そんな風に一通りユグドラシルで仲間と遊んだ後、ログアウトしてからは寝る前にその日にあった事を、今度はやまいこの方からユリに話す事にしていた。

 ユリだって、やまいこが話すユグドラシルでの出来事を楽しみにしているのだから、出来るだけ沢山の事を話す事でお互いのコミュニケーションを図っているのだ。

 少しでも、一緒にいる時間を増やす為に。

 そうして、一通り話し終えたら、お休みの挨拶を交わして二人は眠りへとつく。

 

 こんな風に、やまいこと戦闘メイドのお姉さんの割と忙しいなりにマイペースな毎日は過ぎていくのだった。

 

 




一先ず、たっちさんが半引退状態になってから半年くらいの、やまいこさんとユリの話になります。
この時点では、まだギルメンは全員ギルドに籍を置いてます、はい。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。