メールペットな僕たち   作:水城大地

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まずは、この人から。


ギルド会議の前哨戦 ~るし☆ふぁーの秘密~

 定例ギルド会議の場で、たっちさんから出た半引退表明から、そろそろ七か月が過ぎようとしていた。

 

 先月、予定通りに第二子となる男の子を奥さんが出産した事により、たっちさんは正式に半引退状態へと入ったのだが、それでもギルドの定例会議の日には顔を出してくれる。

 そのお陰なのか、ギルド内はもちろん他のギルドとの関係も割と安定した状況だと言っていいだろう。

 

 少なくとも、戦力ダウンの噂を聞き付け、ナザリックへと攻めてこようとするギルドは、今の所は出ていない。

 

 るし☆ふぁーは、これでもモモンガさんと同じく現在進行形で毎日ログインを続けている、数少ないギルメンの一人だ。

 もちろん、日によっては仕事の終業時間が最初の予定よりも大幅にずれ込んで、既にログインしていたギルドのみんなが狩りに行った後にログインする事になり、お留守番組とちょっとだけ話してログアウトする事も多かったけど、それでもユグドラシルへのログインだけは欠かしていなかったりする。

 ログインを欠かさない理由は幾つかあるが、一番の理由はここが……アインズ・ウール・ゴウンの仲間の事が、るし☆ふぁーは好きだからだ。

 だから、彼にとってギルメンが全員揃うこの定例会議はいつも楽しみで仕方がなく、絶対に決められた時間までに仕事を終わらせる様にしていた。

 

 そう……そろそろ彼らの事を飼い始めて三年になるというのに、いまだに十日に一度と言う最初の約束のまま続けられている、ギルドの定例会議と言う名のメールペットの報告会の日は。

 

 正直、最近では様々な事情でみんなのログイン率が色々な理由で落ちている中で、このギルド会議だけは今まで通り誰一人掛ける事無くログインしているのは凄い話だと、るし☆ふぁーだってちゃんと判っていた。

 それもこれも、ギルドの誰もがメールペットに向ける強い情熱と、少しでもギルドの中で出来た友人たちとの時間を捻出しようとしているだろう、そんな彼らの気持ちが滲み出ているから、この結果に結びついているのだと言っていいかもしれない。

 とにかく、この十日に一度必ずやって来るお楽しみがあるからこそ、るし☆ふぁーは自分の周りに最近見えてきた面倒事も乗り切れていると言って良かった。

 

 そう……るし☆ふぁーのリアルでは、かなり身近な所で本当に面倒な話が出始めているのだ。

 

 正直、出来れば関わりたくないと、るし☆ふぁー自身が本気で考えている面倒事の発端は、自分の名前だけに等しいだろう父親に自分以外の子供が生まれていない事だった。

 そう、そろそろ三十年近くも続いているという、父親と父親が散々溺愛して母親と自分を家から追い出した原因とも言うべき愛人の間には、子供は一人も産まれていない。

 少なくとも、母はるし☆ふぁーの事を産んでいるし、父に種が無い訳じゃない。

 愚かにも、あの父親は自分の愛人を家に入れるために、母が産んだ子は自分の種ではなく「母が浮気したから出来た」と、恥も外聞もなく言い出して追い出そうとしたそうだ。

 

 母が浮気し、他人の子供を産んだという事になれば、あらゆる点で自分がより優位な立場で話を進められるだろうと、愚か過ぎる頭で本気でそう考えていたらしい。

 

 だが、そんなに簡単にあの父親のくだらない思惑通りになるなら、富裕層間での上下関係など存在しない訳で。

 そんな主張をされ、立場的に黙っていられない母が、サクッと母方の祖父(父よりも上の地位に居る人)に頼んでDNA鑑定して貰った結果、間違いなく父の子だと証明されてしまったのである。

 この時点で、割と父親が愛人の為になら常軌を逸した行動をする事が、既に周囲に認識されてしまっていたのだが、本人はそれを理解していないらしい。

 まだ、これで子供がきちんと愛人との間に出来ていれば、それこそ周囲に対して「下の子の方が優秀だから」とでも言って、上手く跡を継がせられたんだろうが、残念な事に愛人との間には子供は居ない。

 死産や流産などだったとしても、愛人が子供を妊娠した経験があればよかったのだろうが、それすら存在していないのである。

 

 つまり、愛人が子供を産めないのは父親ではなく愛人側の問題があるのは間違いなく、立場的に後継者が必要なあの男は他の親族から「子供の産めない愛人との縁を切って奥方と和解し復縁するか、今の地位をそのまま他の親族へ譲るか、どちらかを選べ」と言う内容を突き付けられ、一月以内に選択する事を要求されているらしかった。

 

 一見、前者の場合だと、あの父親と母が和解するだけならるし☆ふぁーには無関係で済みそうな内容だと、そう勘違いしてしまいそうになるだろうが、実はこの場合、るし☆ふぁーがほぼ後継者として確定すると言っていい案件だった。

 流石に、母もそろそろ子供を産んで育てるのは辛い年頃に掛かっている為、両者の血を確実に引いている子供は、るし☆ふぁーしかいない事になるからだ。

 後者の場合でも、一族の中には正式に父親の血を引く自分を後継者として引っ張り出そうと、画策している面々もいるらしい事から、決して無関係で済ませられる可能性はかなり低かった。

 

 更に言うと、そんな周囲の動きを察した父親が、溺愛している愛人は手放さずに子を得る方法として、花街でも特に若く美しいと有名な太夫を〖身請け〗しようとしているという噂もあって、今のるし☆ふぁーの周りは実に面倒な状態なのだ。

 

〘 と言うか、あの男も面倒な事しようとするよね。

 そんなに愛人が可愛いなら、さっさと今の地位降りた方が一緒に居られる時間が増えるのに、なんでそんなに抵抗してるんだろうねぇ。

 まぁ……仕事と自分の愛人を可愛がる事以外には、特に趣味と言える趣味も持ってないとか母さんが言ってたし、仕方がないのかも?

 それにしても……普通、三十以上も年の離れた自分の子供よりも若い相手を、わざわざ子供を産ませる為だけに身請けしようとしてるなんて、ホント馬鹿じゃねぇの?

 確かに、あの【白雪太夫】は透き通る様な美人だと思うけど、さぁ。

 前に、一度だけお座敷接待に付き合って顔を見た事あるからどんな容姿なのかも知ってるけど……どうも、見た目が色違いのアルベドの若くした感じにしか見えなくて、ちょっと遠慮したいって言うか……うん、正直言ってもしそう言う接待受ける側になったとしても、何となく男として役に立たないんじゃないかなって思うよ、俺。〙 

 

 しかも、その身請けをする為に支払う金額が軽く億を超えると言う話を聞いて、あの名ばかりの父親の個人財産はそれだけのものがあったのだろうかと、思わず首を傾げたくなる。 

 もしかしたら、裏で横領など色々とやらかしていているからこそ、父親は正式な後継者がいない事を名目に今の地位を引き下ろされそうになっていて、更に悪足掻きしているのだろうか?

 だとしたら、このままだと確実に自分も巻き込まれる可能性を察し、るし☆ふぁー頭が痛くなった。

 実は、母方の祖父のお陰である程度アーコロジー内で顔が広いるし☆ふぁーは、たっちさんは自身の実家はそこまででもなかったが、奥さんの実家は自分の家よりも格上だった事を知っている。

  

〘 あー……面倒事になる前に、たっちさんに相談してみようかなぁ……

 今日の会議には、たっちさんも来るだろうし。

 もし来なかったとしても、恐怖公にメールを持たせて相談すればいいか。 〙 

 

 そう思いつつ、ちょっとだけ早めにログインした円卓の間でのんびり寛いでいると、テーブルの反対側を急ぎ足で移動している建御雷さんの姿が見えた。

 どっしりと構えている普段とは違い、その動きだけでかなり焦っている様子が伺える。

 彼が向かった先に居たのはウルベルトさんで、彼の方も建御雷さんが自分の元へ来ると判っていたのか、片手を挙げて出迎えていた。

 

 そんな二人の様子を見て、何となく……そう、るし☆ふぁーの勘が何となくおかしいと、そう告げていた。

 

 あの二人は、何だかんだ言って一緒にクエストに出る事も多ければ、メールペット同士もかなり仲が良いと言う事もあって、普段からギルド内で色々と一緒に居る事も多い事から、別にあんな風に待ち合わせをしていてもおかしくない。

 なのに、今回は何故か普段とどこか様子が違うと、るし☆ふぁーの直感が告げているのだ。

 困った事に、こういう時の勘が外れた事は一度もないるし☆ふぁーは、どう行動するべきなのか少し考え。

 

 次の瞬間、下手に自分だけでその理由を勝手に考えるのではなく、彼らに直接話を聞く事を選択していた。

 

 多分、今の建御雷さんがあんな風に焦った様子を見せるとしたら、ほぼ確実にリアル絡みだ。

 現在のユグドラシルは、最近始まった幾つかの新作VRMMOにかなり人気を押され気味で、全体的に斜陽期に入り始めていると言っても良いだろう。

 うちのギルドの様に、ギルメンの間を上手く繋ぐメールペットの様な存在がいない多くのギルドが、次々に空中分解したりギルドの規模を縮小したりし始めているのは、より新しく自分にとって刺激的なゲームを求めてユグドラシルから去って行く事が原因だと、るし☆ふぁーにも良く判っていた。

 そう考えると、建御雷さんがギルド同士の争いなど面倒事に巻き込まれたと考えるのは難しいだろう。

 

 ウルベルトさんの一件の時に、「花街関連での仕事をしている」と言っていた筈だから、もしかしたら建御雷さんがあんな風に焦っている原因が、あの迷惑な父親が絡んでいる可能性が高いと思い立った途端、放置などとても出来なかったという理由もあった。

 

 何故そんな答えになったのかと言うと、少しだけ冷静になってるし☆ふぁーの立場になって考えれば、すぐに答えが出る事だと言っていいだろう。

 今のるし☆ふぁーは、確かにギリギリアーコロジーに住むレベルの富裕層に留まっている状態だ。

 むしろ、下手に地位を上げようとする方が、父親絡みで面倒な事になるのは判っていたので、現状維持以上に動いていないと言っていいだろう。

 るし☆ふぁーにとって、そんな煩わしい存在とも言うべき中途半端な力を持つ名ばかりの父親が、自分の大切な友人たちに迷惑を掛けている可能性があると察知して、そのままそれを知らん顔で放置出来る訳がない。

 元々、五歳も年下の愛人に入れ上げて本妻と自分の息子のるし☆ふぁーの事を追い出して自宅に愛人を迎え入れている時点で、最悪だと言っていい男なのである。

 

 その癖、祖父との繋がりそのものは消す訳にはいかない事から、母と離婚すらしない卑怯な男と言う点から考えても、立場を利用して結構強引な事しかしていないんじゃないだろうか?

 

「ウルベルトさん、建御雷さん、ばんわー!

 それで……さっきからそんなに慌てて、どったの?

 なんか、厄介事でも起きた?」

 

 出来るだけ、いつもの様子を装ってさり気なく声を掛ければ、ビクンッと大きく肩を震わせる二人。

 どうやら、るし☆ふぁーにはあまり聞かれたくないと考えていたのかもしれない。

 そんな風に思っていたら、ウルベルトさんが何やら考える様な素振りを見せた。

 どこか、こちらの様子を探る様な視線を向けて来たかと思うと、ゆっくりと口を開く。

 

「……なぁ、るし☆ふぁーさんって……富裕層出身か?

 リアルの話をこっちから聞くのは、本来タブーなんだろうけど……ちょっと、タブラさんが拙い事になっててさ。

 出来るだけ、富裕層出身の協力者を集めたいんだよ。」

 

 一応、誰が拙い事になっているのかと言う事以外は言わなかったのだが、それだけでるし☆ふぁーは十分な情報だった。

 何故なら、他のギルメンとは違ってるし☆ふぁーは他のギルメンより、実際の花街関連の情報を持っている事やつい最近発生した父親絡みの面倒事などから、何となく事情を察してしまえたからだ。

 

〘 ……なんだよ、やっぱり俺が白雪太夫に対して抱いた感覚は正しかったんじゃん! 〙

 

 そんな風に、思わず頭の中で思い切り叫び声を上げつつ、どこか困った様に頭を掻きながら二人の顔を見る。

 同時に、周囲に誰も居ない事を素早く確認した。

 まだ、時間的にログインしてきている面々も少なく、ログインしている面々もそれぞれ別の場所で楽しく会話に花を咲かせている。

 これなら問題ないだろうと判断した所で、るし☆ふぁーは小さく溜息を吐くと二人に向き直った。

 

「あー……うん、一応富裕層出身。

 と言うか、タブラさんが拙い事になったって二人が頭を悩ませる原因、十中八九俺の名ばかりの父親かも……

 タブラさんってさ、あの有名な白雪太夫だよね?

 俺、半年前に白雪太夫の座敷を接待に使った事があるから、その時に白雪太夫の顔を見てるんだ。

 だから、彼女がどんな容姿をしているのか知っているんだよね。

 あれは、どう見ても今よりも数年若くしたアルベドだった……違う?」

 

 周囲に人は居ないのは確認済みとは言え、つい出来るだけ声を潜めながらそんな風に尋ねると、二人が息を飲む音が聞こえた。

 どうやら、るし☆ふぁーが口にした内容は合っていたらしい。

 ウルベルトさんの方が、建御雷さんよりも厳しい雰囲気を醸し出しているのは、るし☆ふぁーの名ばかりの父親が、富裕層の中でも特に彼が嫌うタイプだったからだろう。

 正直に言って、ウルベルトさんの気持ちはるし☆ふぁーにも良く判る事だった。

 

「先に言っておくけど、名ばかりの父親は俺が生まれた直後に〖浮気してできた子供じゃないか〗って疑惑を掛けてた揚げ句、DNA鑑定で実子と証明された途端〖義務は果たした〗って母親に平然と言い放った様な奴だから。

 その上、俺の母親と結婚前するから愛人作って入れ上げてて、さっきの言葉を言い放って別宅に俺達を押し込んで放置してくれたお陰で、生れてから殆どまともに顔を合した事ないからね?

 今回、あいつが白雪太夫を身請けすると言い出したのだって、その愛人が子供を産まないから後継者問題が発生したからなんだ。

 実は既に、親族から〖次の後継者〗として俺を担ぎ上げる方向で話が出始めてて、さ。

 その場合だと、確実にあの男は強引に隠居させられて、後は親族たち側の都合がいい状態にさせられるのが解ってるから、凄く焦ってたんだよ。

 で、あの男は〖自分に新しく後継者となる子供が出来ればいい〗って考えた訳だ。

 それなら、今までの愛人との生活も富裕層としての自分の地位も安泰だって。

 なぜ、その相手として白雪太夫に目を付けたのか、いまいち判んないけどね。

 だってさぁ、それと無く親戚から聞いたあの男の個人財産だけだと、どう考えても身請け額を支払ったらほぼ貯蓄がなくなる筈なんだよ。

 一体、どこからそれを捻出するつもりなのやら……」

   

 そこまで、つらつらと自分の事情を口にした所で、るし☆ふぁーは口を閉ざした。

 ふと、数日前久し振りに会いに行った母親の様子が、微妙に頭に引っ掛かったからである。

 前回顔を合わせた半年前まで、普通に病気をする事無く元気で快活な人だった母が、どこか痩せてやつれた雰囲気を醸し出していたのだ。

 それこそ、昔読んだ推理小説の殺害方法として出て来た、少量の毒を知らずに摂取して少しずつ身体を壊している被害者の様に。 

 

 少なくとも、父親に愛人がいても気にしなかった人が、今更あの男の事で何か気を落としたりするとは思えないし、本人自身も「風邪を引いていだけ」だと言っていたから、その時はそれ程気にしなかったのだが……もしかして、そう言う事なんだろうか?

 

「……なぁ、ウルベルトさん。

 今日って、たっちさんはログイン予定で間違いない?

 もし来ないなら、ウルベルトさんにお願いがある。

 ここからログアウトした時点で、速攻でたっちさんに連絡取って貰えないかな?

 まだ、疑惑半分の状態だけど……もしかしたら、あの男が白雪太夫の身請け金を捻り出す為に、俺の母親の事を毒殺しようとしてるかもしれない。

 もしかしたら、その対象は俺にも向くかも……

 俺と母親の個人資産、母親の実家の方があの男より格上だからそれなりに多くてさ、それがあれば余裕で払えると思うんだよ。」

 

 先程、現状で一番あり得る可能性を思い付いたままに二人に対して説明した所で、るし☆ふぁーは思わず大きくため息を吐いた。

 自分で言っておいて何だが、あの父親が相手ならこの予測は外れていない可能性が高い上、この場に居る面々に対してあまり救いがない結末しかもたらさない事に気付いてしまったからだ。

 そんなるし☆ふぁーの反応に、ウルベルトさんと建御雷さんは、何とも言えない反応をみせる。 

 二人の反応は、ある意味納得がいくものだった。

 

 彼らからすれば、相談して協力を得ようとしたギルド仲間が、実は自分の身に危険が迫っている事に気付く切っ掛けになるなど、予想外だった筈なのだから。

 

 それでも、仕事柄こういう状況を目の当たりにする事にまだ慣れているのか、割と早く気を取り直したらしい建御雷さんが、どこか心配そうにこちらを見る。

 多分、〖流石にそんな状況になっているなら、自分たちに協力してくれ余裕などないかもしれない〗と、そう素直に思ってしまったのだろう。

 そんな建御雷さんに対して、るし☆ふぁーはちょっとだけ困った様に小さく肩をすくめると、口を開いた。

 

「……実はさ、今日の会議の後にでもたっちさんに話をして実家と関わらずに済む様に、手を貸して貰えないかと頼もうと思ってたんだ。

 正直言って、親戚の都合であんな奴との権力争いの御輿にされるのは、もの凄く嫌と言うか出来るだけ関わり合いにもなりたくない位、俺はアイツが嫌いだったし。

 だけど、もうそんな段階は過ぎちゃってたみたいだね。

 んー、俺としてはあのくそ親父の跡を継ぐなんて結構不本意なんだけど、向こうが既にこっちを殺しに掛かっているなら、本気で向こうを潰しに行かないとダメみたいだし。

 それもこれも、全部あのくそ親父のせいだし、仕方がないと思うしかないんだよね。

 はぁ……ひとまず、今回の白雪太夫の身請け先として名乗りを上げてるくそ親父に関しては、たっちさんとかの支援を受けられればこっちで潰せるとしても、今のままだと同じことの繰り返しになると、俺は思う訳だ。

 そこら辺は、どうするつもりなの?」

 

 何となく、どうするつもりなのかは想像が付いていたものの、確認しておかないとお互いに協力する事は出来ないだろう。

 一応、あのくそ親父は富裕層でもそれなりに上の方に位置している為、下手な動きをして失敗すると面倒になる事を、今までの長年の経験でるし☆ふぁーも良く知っていたからだ。

 それに対して、軽く首を竦めて答えをくれたのはウルベルトさんだった。

 

「それについては、一応算段は付いてはいるんだ。

 ただ、それを実行するには富裕層である程度の力を持つ相手の協力がどうしても必要不可欠だったから、今日の会議で相談しようと思ってたんだよ。

 困った事に、白雪太夫がいる廓の楼主が相手側の情報を伏せてしまっているせいで、実際にはどれ位の規模の協力が得られたら何とか出来るのか、いまいちよく判っていなかったんだが……それは、るし☆ふぁーさんのお陰で解決出来そうだな。」

 

 どうやら、既に今回の一件に対する対応策はきちんと考えていて、実行するだけの協力者を募るだけの段階になっているらしい。

 多分、その内容に関しては既にデミウルゴスに相談してある程度まで詰めていて、出来るだけ確実性を上げたものにしてるだろう事が、るし☆ふぁーにも簡単に予想出来た。 

 そこに、たっちさんや建御雷さんなどの富裕層側の意見が加われば、ほぼ成功率に関しては問題ないと考えて良いだろう。

 

「あー……さっきも言ったけど、俺の方の面倒事も手伝ってくれるつもりがあるなら、そっちの方に協力しても構わないかな。

 そもそも、白雪太夫の身請けを申し出ていたくそ親父に身請け金の支払い能力がなくなれば、その楼主だって今回は引き下がるだろうし。

 どれが一番いい状況になるのかは、他の協力者がどれだけ得られるか次第だから、詳しい内容は今日の定例会議の後で打ち合わせって事で、構わないかな?」

 

 そう切り出したるし☆ふぁーの言葉に、二人とも同意する様に頷いたのだった。

 




という訳で、色々と散りばめていた伏線の回収の一つ。
るし☆ふぁーさん側の裏事情と立場が、正式に今回の話でオープンになりました。
彼の立場は、富裕層の中でもかなり上の方の出身です。
これで、タブラさんを助けるための、二つ目の札が明らかになりました。

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