メールペットな僕たち   作:水城大地

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大変長らくお待たせいたしました。
前回の話の続きになります。


ギルド会議 ~会議は踊る~ その2

 建御雷さんが告げた内容に対して、騒めく面々に向けて不思議そうに首を傾げて見せたのは、先程から色々と口を挟んでいる関係者側のるし☆ふぁーさんだった。

 

「……あのさぁ、なんでそんなに騒ぐ必要があるのかなぁ?

 タブラさんが貧困層出身なら、あの時、ウルベルトさんを抱え込もうとしていた時点で止めなければ、結果的に似たような結果になっていたと、俺は思うけど。

 そうやって考えたら、別にそこまで驚く話じゃないと思うんだよね。

 あの時、富裕層の中でもそれなりの立ち位置に居る人間しか、ウルベルトさんを助ける事が出来なかった。

 俺も、タブラさんの様に〖責任を取る〗って支援を申し出なければ、二人みたいに〖仕事を斡旋します〗とも言わなかったし。

 だって、俺にはそんな事を言い出す名目が無かったからね。」

 

 それこそ、何でもない事の様にさらりと言うるし☆ふぁーさんに、思わずモモンガはドキリとしながら視線を向けた。

 まるで、それでは本当は彼にもあの時のウルベルトさんを助けられる力があったのに、助けようとしなかったと言っているようなものかないか。

 同じ様な答えに至ったらしい仲間達が、思わずるし☆ふぁーさんへと顔を向けると、彼はちょっとだけ困ったといわんばかりの様子で軽く首を竦めてみせる。

 

「別に、俺はウルベルトさんの事を見捨てるつもりだったから、自分から何も言わなかった訳じゃないよ?

 あの時、たっちさんは自分なりに明確な理由があったから、あの場であんな風に話を切り出せた訳だし、建御雷さんの場合もそう。

 ほら、そんな風にちゃんとした理由があった二人と違って、あの頃の俺はそれなりに親しいだけの仲間の一人でしかないから、きっちりと本人を納得させて支援を受けさせるだけの理由が無いでしょ?

 例え仲間でも、何の理由もなく施しを受け取れるような性格じゃないもんね、ウルベルトさんって。

 まぁ……もし、あの時、当人がどちらの手も取らなかったら、その場は一先ず自殺とかそういう方向に考えない様に説得だけして、出来るだけ早く新しい優良な仕事先としてデミウルゴスが見付けられるように、俺の母方の爺様にネットで人材募集をして貰うつもりだったけどね。

 うちの爺様、本当に凄く合理的な思考の持ち主で、さ。

 使えない人間なら、例え富裕層出身でも容赦なく閑職に回して首にする方向に持って行くし、俺の紹介が有ろうが無かろうが関係なく、仕込めばちゃんと使える人間なら貧困層出身とか気にせず雇ってくれる人だから、ウルベルトさんみたいに頑張れる人ならそれで何とかなったと思う。

 まぁ、その件は今更だから良いとして、だ。

 それで、結局どうするのさ?

 皆は、今回のタブラさんの件に協力してくれるの、してくれないの?」

 それこそ、「素材を狩りに協力して?」程度の気軽さで、サラッとその場にいる全員に向け笑顔のアイコンを出しながら問い掛けてくるるし☆ふぁーさんの言葉に、誰もが思わず息を飲んだ。

 まさか、このタイミングでこんな風に彼が結論を聞いてくるなんて、誰も思っても居なかったからだ。

 

 そう、自分達がこの件に協力するかどうかの最終確認は、建御雷さんがするものだと思っていたと言っていい。

 

 だからこそ、そんな風にるし☆ふぁーさんから急にどうするつもりなのか結論を問われて、咄嗟に反応出来ずに息を飲んでしまったのだ。

 それは、別にモモンガだけではない。

 既に関係者側の面々以外は、誰もみんな似たような反応をしていたから、やはり予想外の相手から問われたと言っていいのだろう。

 

 だが、そんなどこか戸惑いを感じさせる仲間の反応が、るし☆ふぁーさんには気に入らなかったらしい。 

 

「あのさぁ……最初にこの話をウルベルトさんがしてから結構経つのに、今更〖いきなり、そんな事を尋ねられても答えなんて出ない〗なんて事、言い出さないでくれるよね?

 ここまで説明する間に、自分がどうするか判断出来るだけの時間と内容の説明はあったでしょ?

 さっきのペロロンチーノさんじゃないけど、話を聞きながら自分の身の振り方をどうするのか位、考える事なんて出来たと思うけど。

 まぁ、今の時点でまだ答えが出ないって言うなら、これから五分待つからその間に結論出してくれるかな。

 あんまりこっちで時間取ると、定例会議の方が出来なくなっちゃうもんね?」

 

 サクサクと、この場を仕切る様にそんな事を言うるし☆ふぁーさんの行動に対して、この一件を本来取り仕切るべき建御雷さん達は特に止める様子は見られなかった。

 この様子だと、こんな風に仲間に対して結論を促す役割は、最初の段階で彼に任せてあったのかもしれない。

 それに、彼らだって私用で元々予定されていた定例会議に割り込んでいる事を、どこか申し訳ないと思っている部分があるから、出来るだけ早くこの件に関する話を終えたいと思っているんじゃないだろうか?

 だから、まずはるし☆ふぁーさんが切り出したように、先にどちらを選択するか決めて貰って、必要な案件は後で協力者たちが集まった時点で話し合おうと考えているのかも知れなかった。

 それに対して、唯一反論に近い意見を出したのは、同じ協力者側のたっちさんである。

 

「あー……それは、流石に拙いでしょう?

 明日も平日ですし、普通に仕事がある方ばかりなのですから。

 普段の状況を考えると、こちらの都合でこの会議の後まで残って貰った場合、かなり時間が遅くなってしまいますからね。

 実際に、明日の早朝出勤の方々がどれだけいるか分からない状況下ですし、これから色々と協力を願う状況でそれは逆に問題だと私は思います。

 大変申し訳ないとは思いますが、最近の定例会議の内容は早急に対応が必要な大きな問題もなく、メールペットとの日常を話すだけ感じになって来ていますし、今日の定例会議はこの議題を優先するという意味で譲っていただくというのはどうでしょうか?

 それなら、協力していただくのは難しい方々にはこの場から退場いただいて、そのまま自由行動をとっていただけますし。

 逆に、残った者たちだけでこの議題について話を続ければ、遅くまで時間を取られて明日の仕事に影響が出ると言う状況も避けられます。

 今回の件は、内容が内容だけに出来るだけ早急な話し合いが必要な事を考えれば、それが一番いい方法ではないでしょうか?

 どちらにせよ、私自身が明日は早朝から出張の予定が入っていますので、この件について詳しく話す時間を持つのが定例会議終了後、協力者だけこの場に残ってと言う事なら、その話し合いに参加出来ませんので。」

 

 たっちさんが、リアルの事情を挙げて時間的な問題を提案してきた事によって、誰もが普段の定例会議の長さを思い出したのだろう。

 その意見に対して、特に反対する者はいなさそうだった。

 多分……実際に普段の会議終了時間もかなり遅い事を考えて、それよりも更に遅くなるのは流石に困る者が多いからだろう。

 現に、モモンガも含めた早朝出勤が割と当たり前な面々は、明日の出勤時間も始発に間に合うように朝四時には起きなくてはいけない状態である。

 

 そんな風に、リアルで多忙な状況を抱える仲間の予定を考えるなら、たっちさんの主張は正しい。

 

 普段なら、真っ先に何か反論して来そうなウルベルトさんが何も言わないのは、数年前の自分が同じ状況だった事をちゃんと覚えているからだろう。

 正直に言えば、この件に関して自分に出来る事がどれだけあるのか、モモンガ自身にも皆目見当が付かない。

 だが、判らないなりにもし自分に協力する手立てがあるなら、それを惜しむつもりもなかった。

 つまり、モモンガの中では既に『何らかの形で協力する』と言う結論が出ていて、この話を断るという選択肢は最初から存在していなかったのである。

 なので、他の仲間たちには申し訳ないがとは思うものの、モモンガ自身もこのままこの場で話し合いをするという意見に賛成なのだ。

 

 普段行っている定例会議は、それこそいつでもしようと思えば出来るけれど、タブラさん達に迫っている問題は、今この時対処を考えなければ手遅れになる可能性だってあるのだから。

 

 ここまでの話の内容に対して、特に誰かが反対する様子を見せないのは、そんな状況が分かっているからだ。

 もし、ここで話し合う事を先延ばしにした事によって、本当にるし☆ふぁーさんが何らかの手段によってリアルで命を落とし、タブラさんが彼の父親に身請けされてしまうなんて状況になってしまった時、ざっくりとでも事情を聴いてしまったこの時点で後悔せずにいられる筈がない。

 むしろ、ただでさえログイン率が下がっているメンバーたちに対して、本当の意味で「止め」になって空中分解してしまう可能性だってあるのではないだろうか?

 

 どちらにせよ、彼らから最初に出された提案を踏まえて、一先ず協力するかどうか後残り数分以内に自分の意見を纏めると言う点は、確かに必要な事だろう。

 

「……そうですね、正直に自分の意見を言っても構わないのなら、今回のメールペットに関する定例会議は、後日に伸ばすべきだと私も思います。

 流石に、この場にリアルな案件を絡めるのはどうかと思いましたが、〖花街の遊女を身請けできるレベルの家〗が絡むこの件を放置すると、その余波が私達の方にまで来るような気がします。

 だからこそ、ウルベルトさん達は〖協力出来る相手を探す〗と言う名目で、この場での相談を選択したんじゃないですか?」

 

 静かな口調で、彼らに対してそう問い掛けたのは、こういう時あまり口を挟まず最後の結論を出るのを見守っている、死獣天朱雀さんだった。

 穏やかな口調で彼からそう尋ねられた途端、返事を待つまで黙っていた面々はそれぞれ軽く首を竦めながら頷いて、彼が言い出した言葉が間違いじゃない事を認める。

 関係者側が、彼の言った内容を素直に認めた事によって、その場に居た面々の間にざわざわと騒めきが大きく広がった。

 

「……まぁ、今回は色々と複雑な事情が絡んでいるから、単純なるし☆ふぁーさんの家のお家騒動で済む案件じゃなくなるのは確かだな。

 正直に言えば、今協力を表明している面々だけで何とか出来ないかと言われたら、実は不可能じゃない。

 しかし、だ。

 それを実行するとなると、結構強引な手段を取らざるを得ないから、余波で幾つか会社が潰れて失業者が出る可能性がない訳じゃなくてな。

 もしそうなった場合、その余波で潰れる会社の中に仲間自身の勤め先や、その身内の勤め先が含まれていたりしたら、流石に申し訳ないと思うからこそ、こうして被害を最小限に収められるように協力者を募ってるんだ。

 先に言っておくが、この件を実行するのは決定事項だぞ?

 むしろ何もせず、るし☆ふぁーさんの家のお家騒動を放置した方が、実際にそれら一連の事が発生してから半年後までの間に出る失業者数が、強引に事を起こした場合の数倍に跳ね上がる事は、デミウルゴスが作った試算データで確認済みだからな。」

 

 小さく溜息を吐きながら、ざっくりとした事情を説明してくれた建御雷さんに、一部を除いて周囲が大きく息を飲む。

 どうして、デミウルゴスが出したという試算データの結論が、そんな事態になるのか判らなかったからだろう。

 本気で困惑している彼らの反応を見て、首を竦めたのは当の本人であるるし☆ふぁーさんだった。

 

「普通に考えたら、解る事だと思うけどなー?

 アイツが、自分勝手な理由でタブラさんの事を身請けする為に、俺と俺の母親を殺してその資産を手に入れようとしている事が解っている状況で、なんで俺が何も自衛しないままでいると思う訳?

 まず真っ先に、俺と俺の母親が死んだ場合にあの男への遺産相続が発生しない様に、自分達の持っている資産の名義を爺様の名前に変更手続きをするに決まってるでしょ。

 そうしたら、爺様にとって〖単なる娘婿〗と言う立ち位置で爺様と養子縁組をしていないあの男には、万が一爺様が死んだとしても一切の財産相続権は発生しないし。

 と言うか、この話を聞いた時点で爺様に連絡したから、その時点で名義書換に必要な手続きは済んでいて、明日の朝一番で書き換わる事が確定しているんだよね。

 だから、この段階であの男には一銭も入らない事が確定している訳だ。

 そうなった場合、当然だけど身請けするのに必要な莫大な支払いはあの男の持ってる資産で行う必要があるんだけど、俺が知ってるアイツの性格なら自分と溺愛している愛人以外の為に自分の金を使いたがらない筈だから、会社の金で支払うなんて言い出しかねなくてさ。

 アイツ、何だかんだ言って結構ワンマン経営しているから、そうと決まったらどんな無理を通してでも会社側に強引に金を出させるって断言してもいい。

 んでさ、もし本当にこの流れになった場合、会社はどうやってその金を捻出しようとすると思う?」

 

 一つ一つ、るし☆ふぁーさんが既に自分の取っている対策と、自分の名ばかりの父親が取る行動を並べ立てていくのを聞くうちに、誰もがこの状況の最後の結論に気付いたのだろう。

 彼が言う〖仲間達に対する余波〗とは、すなわち彼の父親が会社に無関係な筈の無理な支払いを押し付けた結果、会社側がそれを捻出する為に手っ取り早く出来る手段として、人件費の削減を目指して給料カットや首切りなどを行い、会社の経営状況によっては徐々に失業者を増やす、と言う事だった。

 既に、自分達の資産が相手の手に渡らない様に手を打っているなら、この状況を放置したら絶対に発生する案件だといっていいだろう。

 

「あー……その、るし☆ふぁーさん側の状況は判りましたけど、論点がずれてきてませんかねぇ?

 元々、今回の建御雷さんの協力要請は、〖タブラさんの一件に関して誰か助けて欲しい〗と言う話だったと思ったんですけど?」

 

 聞かされた内容の重さに、声も出せずに沈黙していた仲間の中から、ヒョイッと触腕を上げてそう声を上げたのは、ヘロヘロさんだった。

 彼が問い掛けた事で、自分たちにも無関係じゃない思わぬ状況を提示され、つい最初の議題から話がずれてしまっていた事に漸く気付く。

 それに対して、るし☆ふぁーさんは軽く人差し指を振るとそれを否定した。

 

「別に、論点がそこまで大きくズレてる訳じゃないと思うけどね。

 今回のタブラさんの件は、俺がアイツの事を追い落とせば一旦は引っ込む事だし。

 もちろん、タブラさんの所属しているお店の主がまた同じ様な事をしない内に、こっちで手っ取り早く身請けしちゃう方が面倒も少ないし、やるなら並行して動いた方が良いのは間違いないけどさ。

 実は、その為に必要な資金の一部にして貰うつもりで、名義変更しないで俺の手元に残してあった分に関しては、さっきウルベルトさんの口座に送金しておいたんだよね。

 正直言って、俺が個人で仕事の合間の休憩時間を利用して運用するより、デミウルゴスに任せた方が確実に増やしてくれそうだったし☆

 多分、元から手元にある資産と俺が送った資産を合わせて運用すれば、それこそすぐに身請けに必要な金額まで達成可能じゃないのかな?」

 

 笑顔のアイコンを出して、きっぱりとそう言い切ったるし☆ふぁーさんの言葉は、今までウルベルトさんから聞いているデミウルゴスの成長を考えれば、誰にも否定出来なかった。

 その辺りに関して、誰よりも実感しているだろうウルベルトさんが、困った様子で頬を掻いてはいるものの否定しないのだから、むしろ実際にその通りなのだろう。

 だとしたら、彼から渡った資産があれば数日後にはそれ相応の金額まで増える事は間違いない。

 正直に言えば、モモンガ自身もパンドラズ・アクターに預貯金の資産管理を任せた結果、デミウルゴス並みの恩恵を受けている身なので、彼の手元に運用出来る資産金額が増えれば自動的にどういう状況になるのか、想像するのは簡単だった。

 

「あー……そうですね、資金面だけならデミウルゴスにある程度纏まった金額を渡して資産運用任せれば、それ程時間を掛けずに達成可能出来そうですよねぇ。

 だとすると、今回の件で建御雷さん達が欲しい協力と言うのは、富裕層関係者の勢力的なものだと考えればいいですか?」

 

 念を押す様に、必要な内容の確認を取ってくるヘロヘロさんに対して、建御雷さんは頷いた。

 この質問に対して、立場的に自分が答えるべきだと判断したからだろう。

 それを補足するように、ウルベルトさんが横から口を挟む。

 

「まぁ……そうだな。

 確かに、俺達が現時点で一番協力して欲しいのは、確かにある程度富裕層の中でも顔が利く奴ら、もしくはそちらに伝がある面々だ。

 だけどな、それと同時にるし☆ふぁーさん側の協力者も欲しいんだ。

 こいつ、元々自分は父親の会社の跡取りの立場から外れていると思っていた事もあって、もしこのまま父親を追い落としたとしても、一緒に会社を運営していく為に一番必要な信頼出来る仲間が居ないんだと。

 今から、父親の会社の中で信用出来そうな仲間を集めるのは流石に時間が足りないし、出来ればある程度会社の中の運営状況を掌握するまで、確実に協力してくれる仲間が欲しいんだよ、コイツ。

 簡単に言えば、富裕層側からのヘッドハンティングって奴だ。

 更に付け加えるなら、もし父親を追い落とせずに失敗する様な状況になったとしても、協力を申し出てくれた仲間の再就職先に関しては、きっちり保証してくれるらしい。

 ただし、それはあくまでも再就職の面倒まで見るだけで、その後は自分で努力しないと首を切られる可能性もあるぞ、とは言っておく。

 ……まぁ、簡単に言えばさっき出ていたコイツの爺さんの会社への斡旋だから、経営者の身内からの推薦だって事で努力しない奴はサクサク首を切られるが、上手くいけば出世コースにも乗れることにもなるんだと。」

 

 サクッと説明してくれた内容は、正直言ってかなり魅力的な話だと言っていいだろう。

 これが、もし説明したウルベルトさん本人が協力を申し出ている相手だったのなら、多くのギルドメンバーが協力を申し出たんじゃないかと思えるほどだ。

 しかし……実際に協力を求めているのは、彼じゃなく「ギルドの問題児」であるるし☆ふぁーさんである。

 この時点で、この本当にこの話を受けても大丈夫なのか、確実に仲間たちの中に躊躇いが発生してしまっている事をモモンガは直に悟っていた。

 今までの、質の悪い多くの悪戯の数々を考えれば、その反応も仕方がないのかもしれない。

 

 だからといって、ここで手を差し伸べずに彼を見捨てるという選択は、モモンガの中に存在していなかった。

 

 彼は、何だかんだ言いながらも自分の資産をウルベルトさんに預ける事で、自分に何があっても金銭的な面ではタブラさんの事を助けられるだけの手筈を、既に取っている。

 普通、自分が父親に命を狙われているなんて恐ろしい状態なら、他人の為じゃなく自分を最後まで守る為に使うという選択をしてもおかしくなだけの資産を、ネットゲームの仲間を助ける為にサクッと使う判断を下している時点で、彼が悪い人な訳がないのだ。

 そう思ったモモンガが、それでも少しだけ迷いながら協力の意思を示すべく手を挙げようとした時、別の場所から手が挙がる。

 

「一つ確認だけど、その協力者が現在どんな職種についていても、その点は問わないって事で良いのかな?

 それなら、俺、るし☆ふぁーさん側の協力者に名乗りを上げてもいいけど?」

 

 その声に、全員が視線を向けた先に居たのは、さっくりと結論を出したらしい弐式炎雷さんだった。

 まさか、自分よりも先に彼が声を上げるとモモンガは思っていなかったので、どうしてそんな風に誰よりも早く名乗りを上げられたのか、不思議で仕方がない。

 それに関しては、多分他の仲間たちも同じ気持ちだったのだろう。

 だからこそ、彼に視線が集中しているのだ。

 

「もちろん、こんな風に名乗りを上げた理由なら、ちゃんとあるけど。

 だって、先に建やんが助けようとしているタブラさんの為に、るし☆ふぁーさんが既に色々と協力してくれているのが判ったから、と言うのが大きな理由かな。

 それに、個人的にメール楽しくメールのやり取りをして居る相手を助けられない自分なんてなんか嫌だし、何よりナーベラルと恐怖公はそれなりに仲が良い相手だからね。

 るし☆ふぁーさんに何かあって、それが原因で恐怖公がメールペットとして居なくなることになったら、絶対ナーベラルが悲しむと思うんだ。

 だから、あの子を泣かせるなんて悲しい事態にならない為に、もるし☆ふぁーさんの方の協力者として名乗りを上げる事にしたという訳さ。」

 

 彼の口から、どうしてこの結論を出したのか、その理由を聞けば実に簡単な話だった。

 弐式さんにとって、親友と言うべき建御雷さんを助ける手立てをしてくれたから、今度は自分が助けに回る選択をしただけと言う事らしい。

 更に、彼にとって可愛くて仕方がないナーベラルが仲の良い相手の主だから、そんな相手に何かあったら彼女が泣く事になるという理由も納得がいく。

 むしろ、こちらの比重の方が大きそうな気もするが、それは横に置くとして。

 真っ先に、弐式さんが自分の立場を表明した事によって、自分の中で出ていた結論を口にする空気が出来たからだろう。

 気付けば、ヘロヘロさんがスッと手を挙げていた。

 

「あー……そう言う事なら、私もるし☆ふぁーさんの協力者側に回りたいと思います。

 流石に、私の立ち位置でタブラさん側の協力者になるのは難しいですし、今の彼に必要な協力者としてなら条件を満たせそうですから。

 それに……うちのソリュシャンとも恐怖公は仲が良いですからね。」

 

 軽く触腕を振りつつ、迷う事無くにっこり笑顔のアイコンでそう告げると、自分の言うべき事は終わったといわんばかりにイスに深く座り込む。

 彼の様子にも迷いがないので、既にきちんと自分の中の選択を済ませてしまっている事が伺えた。

 そんな彼らの様子を見て、モモンガも腹を括る。

 

 普段なら、仲間の意見を聞いた上で最後に全員の意見を調整する為に自分の意見を口にする事が多いのだが、今回ばかりは既に自分の中で結論が出ていた事もあり、他人の意見に合わせて自分の意見を主張しないという真似はしたくなかったからこそ、サクッと口にする事にしたのだ。

 

「私も、協力者に名乗りを上げて良いですか?

 ただし、私の場合は両方に参加させてください。

 タブラさん側に関しては、立場的な面で協力するのは難しいので、資金面で協力したいと思います。

 こちらに関しては、この一年間うちのパンドラがデミウルゴスに倣って、俺の預金の半分を元手に資金運用しているので、それなりに出資出来る予定です。

 本人曰く、『ナザリックの財政担当として、その名に恥じない資産運営をさせていただいております』との事でしたから、今の生活に影響が出ない範囲内に絞っても、それなりの額になると思いますから。

 るし☆ふぁーさんに関しては、どの程度まで俺に出来る事があるのか判りませんが……今までの様に仲間の意見の調整役兼雑用係的な立ち位置、と言う事でいいのなら……協力者側に付きたいと思います。」

 

 モモンガが口にした、具体的な提案込みでの協力の申し出に、その場にいた仲間たちがざわざわと騒めく声が上がる。

 出来れば、こちらの事で驚くよりも自分がどうするか答えを出す方を優先して欲しいと思うのは、先に結論を出した側の我儘だろうか?

 実際、そろそろ最初にるし☆ふぁーさんが提示した五分になるのだから、他人の結論を聞いて驚いている暇などない筈だ。

 そんな、モモンガの気持ちを察したかのようにスッと手を挙げたのは、朱雀さんだった。

 

「そろそろ、残り時間も少ない事ですから、私も結論を口にしましょうか。

 私も、モモンガさんと一緒で両方に協力する事にします。

 タブラさん側への協力に関しては、主に私の名前と立場を貸す形になるかと思いますが……あらゆる方面で協力する事を視野に入れています。

 るし☆ふぁーさんに関しては、まぁ……協力しないまま放置するという選択肢は、個人的にありませんからね。

 ただし、あくまでも相談役と言う形になると思うから、その辺りは調整してくれるんだろう?」

 

 最後の一言は、完全にるし☆ふぁーさんに対して向けたものだったので、もしかしたら二人にはリアルでも個人的に付き合いがあるのかもしれない。

 一番可能性が高いのは、るし☆ふぁーさんがリアルでは大学教授だという朱雀さんの教え子と言う線だろう。

 それなら、流石に教え子を見捨てるのは気まずいからと、大学教授の片手間として何とか出来そうな、相談役と言う立場で協力を申し出たのも納得がいく。

 

 どちら側にも、名前を貸す形での協力でもそれなりにメリットがある立ち位置、と言う事なのだろうから。

 

 そして、彼が時間の事を口にしてくれたお陰で、今までただ騒めくだけだった面々も自分の中で協力するかしないか、協力するならどちらなのかと言う結論を出して、手を挙げてその答えを手短に返答してくれている。

 一人ずつ、答えを口にしている内容を素早く記録しているのは、既に協力者側に居る弐式さんとヘロヘロさん、そしてウルベルトさんの三人だった。

 いつの間にか、それぞれ受け持ちを決めていたらしく、自分が担当する名簿に名前を記録している。

 こんな風に名簿まで作っているのは、先程ウルベルトさんが口にした「失敗した際の協力者の再就職」とか色々と必要になるからだろう。

 

 ただ……モモンガには一つだけ気になった事があった。

 実は、時間ギリギリになってまで迷っていた面々が少しだけ居たのだが、彼らは全員るし☆ふぁーさんによって「時間切れ」と判断され、容赦なく「不参加」側に割り振られてしまったのである。

 中には、それなりにるし☆ふぁーさんと付き合いがある人も居たのだが、そんな相手に対してもるし☆ふぁーさんは一度下した結論を翻さなかった。

 

 彼曰く、「この時点でまだ迷っているのなら、下手に協力者として参加しない方が良い」との事らしい。

 

 この段階で、「自分はどうするべきなのか」と言う事が決められない優柔不断さでは、有事の際に直に判断を下せず仲間に迷惑を掛ける可能性が高いという彼の主張は、確かに正しいのだろう。

 特に、今回はゲームの攻略などではなく『リアル』がメインで動く事になる以上、ちょっとの事が本気で命取りになる可能性もある。

 このるし☆ふぁーさんの判断に対して、リアルで富裕層のたっちさんですら何も言わなかったのだから、彼らも同じ判断を下したと言う事なのだろう。

 

 そうして、それ程間を置く事無く協力する側としない側の名簿の作成は終わっていた。

 

 やはり、色々なリアルのしがらみなどもあるから、協力する側に回ってくれる人はそれ程いない。

 先に名乗りを上げたモモンガ達以外で、タブラさんかるし☆ふぁーさんにこの場で協力を申し出てくれた人は、やまいこさんとぷにっと萌えさん、ベルリバーさんとあまのひとつさん、音改さんの五人だけだった。

 ペロロンチーノさんと茶釜さんは、〖自分達の手掛ける仕事の内容的に今の段階ではるし☆ふぁーさん側でも協力する手段が思い付かないから〗と言う理由から、今回は参加を見送る事にしたらしい。

 この二人返答は、ある意味ウルベルトさん達も予想がついていたのだろう。

 むしろ、「二人に協力して貰うなら、まず今回の事を決着付けた後だから」と笑って返事した辺り、るし☆ふぁーさんは既に腹を据えて先の事を考えているんだと、思わず実感してしまった。

 

 今回は協力するのを見送った面々には、ホワイトブリムさんの様な漫画を描くなどの創作活動で生計を立てているような人や、茶釜さんの様に声優など何らかの形で芸能界に所属している人たちも入っている。

 

 既に、それなりに有名にはなっている人たちも居たが、それでもまだ彼ら自身が今回の一件に協力出来る程の力はないと、自分なりにきちんと理解しているからこそ、協力を申し出られなかったのだろう。

 この辺りに関しても、建御雷さんやるし☆ふぁーさんは最初からそうなるだろうと察していたらしい。

 だからこそ、協力するかどうかの選択肢を最初の時点で提示してくれていたのだと、茶釜さん達との会話ですぐに判った。

 むしろ、彼らからすればモモンガが両方の協力者に名乗り出た事の方が、意外だったようだ。

 

 唯一、ウルベルトさんはタブラさんの事を話した時点での俺の雰囲気から、何となくそう言い出しそうだと察していたらしいが。

 

 とにかく、協力する面々が確定した時点で、今日の会議は中止して協力者以外はその場で解散、と言う流れになった。

 

 




モモンガさんの視点なのに、るし☆ふぁーさんが動く動く!
一先ず、今回の話で協力す津メンバーが絞られました。
本当は協力したくても、出来ない人たちも居ますからね。

そして、これは大事な事なので一つだけ。

前回の幕間に出て来た、メールペットであるルプスレギナの主は、協力者側にはいません。
その理由は、今回の話の中でほんのり出て来ています。


次の話の更新は、今月中の予定です。

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