話は、タブラさんをウルベルトさん達が身請けしに行く、二日前まで遡る。
そう……ギルド会議が終わった直後、急いで母親の安全確保の為に帰宅しようとしていたるし☆ふぁーに、ベルリバーさんが声を掛けた所から始まっていた。
あの時、彼は「自分が、もしかしたら知ってはいけない事を、偶然知ってしまったのではないか?」と言う不安に駆られていた為、早急に相談出来る相手が欲しかったのである。
だからこそ、富裕層の中でも特に高い位置にるし☆ふぁーがいると判明し、彼に急いで相談したのだ。
自分の持っている情報の内容的に、彼の立ち位置なら「上手く使えるかもしれない」と言う部分も多々あり、そこから自分の安全を確保出来るかもしれないと言う、下心も確かにあっただろう。
少なくとも、大切なギルドの仲間やペストーニャを残して、このまま何もせずに死にたくない。
彼が、自分の安全を確保したいと思った理由は、そんな単純なものだった。
幾らなんでも、自分の事を本気で頼ってくれた相手の事を見捨てられる程、るしふぁーも鬼じゃない。
それに、だ。
ベルリバーさんが齎した情報は、確かに自分や自分の祖父にとって有益な内容が、本当に色々と含まれていたのである。
むしろ、「よくぞ自分を選んで相談してくれた」と、ベルリバーさんに対して感謝の念すら抱ける内容だった。
正直、これだけ有益な情報をくれたのだから、当然彼の身の安全は祖父の力を借りても絶対に護るべきだろう。
〘 んー、元々俺に協力してくれる一人として、今勤めている会社は辞めて貰うのは確定しているし、ベルリバーさんがこの情報を偶然取得したのが今日の昼間だって話を踏まえるなら、まだ勤め先の上層部がその事実に気付いているとは思えないよね。
最初から狙ってハッキングした訳じゃなく、自分の受け持ちデータの中に紛れ込んだ場合、そのまま気付かずスルーするケースの方が、圧倒的に多いし。
だったら、今の俺の権限で動かせる爺様の所の人間使って、別件でのヘッドハンティングの態を取るべきだよね。
ベルリバーさんの勤め先、爺様の所より格下になるし。
だから、彼にはサクサク明日の朝一番に退職願を出して貰っておいて、爺様の会社の人に迎えに行かせたら文句が言えなくなると思う。
ヘッドハンティングの理由は、『孫が人を使う事になれるための練習相手として、それなりに事務系の実力がある上に身分的に都合が良かったから〗で大丈夫でしょう。
実際、あんな情報を偶然でも入手しちゃうって事は、それだけ能力が高い証だし。
あー……その話を進める前に、まずはベルリバーさんの電能サーバーに恐怖公を向かわせて、会社側も併せて〖情報を入手した〗って痕跡も消しとかないと駄目だよね。
正直いって、あまり派手に動きたくないんだけど、どうもベルリバーさん側にそういう能力は期待出来そうにないし……うん、恐怖公の眷属の中にある情報修正パッチで対応して貰おうっと。 〙
一先ず、やらなくてはいけない案件を頭の中で素早く纏めたるし☆ふぁーは、同時に色々な方向へ思考を巡らせていく。
あまり時間もない事なので、出来るだけ早く対策を決める必要があるからだ。
そんな風に考え込んでいた時、二人に対して声を掛けてきたのがウルベルトさんだった。
「……さっきから、二人してなんか不穏な雰囲気を漂わせてる気がするんだが、何か問題でもあったのか?」
多分、先程から俺達の様子がどこかおかしい事に気付き、状況的に「まだ何か問題があったのか?」と心配したからこそ、こんな風に声を掛けてくれたのだろう。
そんなウルベルトさんに対して、ベルリバーさんはどう答えるべきなのか、返答に詰まる。
正直言って、彼に対して素直にこちらの状況を教えていいものか、るし☆ふぁー自身だってまだ迷う所だ。
内容的に考えても、今、ここで彼の事をこちらの都合に巻き込めば、そのままたっちさんの家まで巻き込んでしまう可能性だってある。
既に、タブラさん側に関連する負担がかなり大きなっているだろう彼の家を、自分たち側の事情に巻き込んでしまうのは、流石に躊躇う所があった。
だが、ウルベルトさんの性格を考えれば、ここでヘタに嘘を吐いて誤魔化す方が、余計に勘ぐってこちらの状況を探ってくる可能性がそれなりに高い。
そんな事になる位なら、むしろここで簡単に事情を話して、上手く距離を取りつつ、必要な時に協力して貰う感じで巻き込んでしまうべきだろう。
彼が、こちら側にも関わる事になるのなら、そのままデミウルゴスの知恵も借りれるかもしれないのだから。
もちろん、自分達でも必要な対応策を考えるが、彼の所のデミウルゴスとモモンガさんの所のパンドラズ・アクターの知恵の回り方は、自分達よりも高い学習能力によって裏打ちされた、本当に素晴らしいものなのである。
そんな彼らなら、こちらが気付かないままつい見落としがちな部分を、きっちり気付いてフォロー出来る筈だ。
本音を言えば、状況的に既に多忙だろう彼を巻き込む事に対して多少の罪悪感を感じるのだが、こうして相談しているところを目撃されてしまった以上、それも仕方がないだろう。
どちらにしても、自分達とほぼ同時に行う〖タブラさんの救出作戦〗において、彼は仲間から集めた資金運用する重要な立ち位置にいる。
そういう部分を考慮すると、あまり深く彼を巻き込む訳にはいかない事はちゃんと理解していた。
「あー……うん、ちょっとベルリバーさんがリアル絡みで困る事が判ったんだってさ。
で、相談できる相手を探していた所に今回の一件で俺のリアルでの大体の立ち位置が判明したでしょ?
それで、自分の状況をどうにかする方法がないか、相談してきたって訳。
多分、今回の一件に協力者側に名乗りを挙げたのだって、タブラさんの事とか本気で心配したって言うのも嘘じゃないんだろうけど、それ以上に自分が置かれている今の状況を少しでも打破したいからだと思うよ。
そうでしょ、ベルリバーさん?」
既に、自分の頭の中ではどう対応するかまでざっくりと決めてしまっていたが、それでも本人の意思を確認する為にわざと話を振ってみる。
こちらの言葉に対して、ベルリバーさんは素直に頷いて同意した。
ここで、下手に否定するより同意した方が、嘘を重ねるよりましだろうと状況的に理解したからだろう。
それを聞いたウルベルトさんは、何か少し考える素振りを見せた。
つい、貧困層と言う生まれのせいで勘違いしてしまう面々が多いけれど、ウルベルトさんは凄く頭がいい。
本人にそう言うと、「頭を使う事は、どちらかと言うと苦手だ」と笑って否定するだろう。
だけど、本当は違う。
そもそも、元々の頭の出来がそれなりに良くて頭の回転が速くなければ、幾らサポートとしてデミウルゴスの力を借りているとは言っても、たっちさんの所で何年も家庭教師を続けるなんて事は出来ないだろう。
みぃちゃんが、あそこまで自分の才能を伸ばす事が出来たのは、間違いなくウルベルトさんの教育とそれ以上に人の能力を伸ばす力の賜物だった。
しかも、最近では彼の実家と妻の実家の双方から、彼女の能力を導き伸ばしてみせた実績によって信頼を勝ち取り、後見を引き受けて貰ったと聞いている。
そんな彼に、ベルリバーさんが抱えているだろう情報を渡して相談するべきか迷ったものの、今は話さない方がいいだろうとるし☆ふぁー判断を下した。
むしろ、最短で明日の昼には花街に行くだろう彼には、自分だからこそ出来るだろうアドバイスを一つしておくべきだと、るし☆ふぁーは考えた。
元々の予定だと、単純に金で話を付ける予定ではあるものの、向こうが下手にごねたりしない様に、先に相手側の落ち度を作っておくべきだと、そう考えたからだ。
「んー……あのさ、タブラさんの所に向かうなら、着ていく衣装は相手にどこか少しちぐはぐな印象を与える感じにした方が、良いかもしれないね?
なまじ、長年廓の楼主を務めてきた相手だし、着ている服とか身に付けている小物とか、後は相手の雰囲気とか……とにかく、色々な角度から観察した上で相手の格を判断する立場として、それなりに人を見る目を持っていると思うし。
今のウルベルトさんだと、多分、たっちさんの家で家庭教師を三年も勤めた事によって、最低でも貧困層ではありえないほど、上流社会に見合うセンスが育っていると思う訳よ。
特に、そう言う事に拘りそうなデミウルゴスとか、ずっと側にいるでしょ?
そう考えると、どう考えても富裕層の住人に見合う様な、それ相応に雰囲気に変わっているんじゃないかな?
だから、わざと〖貧困層の人間が、少し無理をしている〗と思わせてやった方が、楼主側が自分からより引っ掛かって自爆してくれると思うよ。
俺は、接待関係で座敷を使った時に一度顔を合わせただけなんだけど、その時に感じたあそこの楼主への印象は、特に心が狭いタイプって感じだったんだよね。
だから……自分よりも確実に質の良い品を着ている相手から、どこか貧困層の匂いがするのを感じた瞬間、自尊心を保つ為に何かしら必ずやらかすと思うからさ。」
にんまりと笑いながら、自分が知っている情報を教えた瞬間、思わずウルベルトさんが目を見開く。
まさか、花街に向かう前の準備段階からの仕込みで楼主に罠を仕掛ける様に、あちら側には関わらない筈の俺が勧めるとは思わなかったのだろう。
くすくすと笑いつつ、更に言葉を重ねてやる。
「花街ほど、権謀が嫌と言うほど渦巻く世界なんて、早々ないと思うけど?
特に、郭を仕切る楼主なんて、本気で面倒くさい魔物が多いんだよね。
なんだかんだ言って、遊女から聞き出した客の弱みをがっちりと握る事で、自分の花街での立場とか強化して裏で色々とやらかしているケースも結構多いみたいだし。
普通なら、弱みになる情報を握られたと判断した時点で、企業トップは排除に掛かるんだけど……花街の楼主連中が排除されることなく生き残れているのは、彼ら自身がきちんとその辺りまで弁えて、全部、花街の中だけの話として終わらせているからだよ。
どの楼主も、みんなそこまで馬鹿じゃないから、握った弱みで自分の立場の強化をするのだって、全部花街の中で済む内容に済ませて、権力者側との折り合い付けてるんだよね、うん。
そういう相手だから、まずは交渉の前の段階で向こうのペースに持っていかれない様に、色々最初の段階で打てる手は打った方が良いかなぁと思った訳。」
本当に、こうやって簡単に話しただけでも面倒な話が多いけれど、どれも事実である。
そもそも、花街がこうしてアーコロジー内に出来てずいぶん経つけど、決して廃れる事なく維持出来ているのは、昔から性に絡む商売が廃れる事がないと言う理由だけじゃなく、楼主側がそうやって幾つも握った弱みがあるからだって、爺様から聞いた事があるから間違いない。
だからこそ、自分が知る限りのアドバイスをウルベルトさんに伝える必要があると、そう思ったのだから。
「正直言って、ああいう面倒な位に老獪な手合いはね、それこそ相手の隙を見付けるのが凄く上手いんだ。
今回、誰よりもその点に注意するべきなのは、主役として同行するみぃちゃんよりも交渉役のウルベルトさんだと思う。
だって、ウルベルトさんは前にたっちさんが言っていた言葉通りなら、花街で通用する位の美人なんでしょ?
それなら、その容姿とか生まれの部分をわざと相手に付け入る隙に見える様にして、先に相手から〖客に対してしてはいけない〗失言を引き出してやれば、十分言動を封じる事が出来るんじゃないかな?
明確に相手の失言を引き出して、向こうが本格的に動く前にこっちの方が有利な状況を作ってしまえば、後の話を進めるのに、結構楽になると思うよ。
まぁ……この辺りの匙加減は、廓の事をよく知る建御雷さんと詳しく話し合った上で、どちらの方向性で進めるのかきっちり作戦を練った方が良いと思うけどね。
俺から、ウルベルトさんに出来そうなアドバイスはそれ位かな?」
軽く肩を竦めつつ、苦笑のアイコンを浮かべて軽く手を振れば、ウルベルトさんはちょっと嫌そうな気配を漂わせている。
どちらも、彼にとってどちらもコンプレックスに近い部分を刺激するものだから、あまり触れられたくない事なのかもしれない。
だが、そういう部分を突いて来るのが相手のよく使う手段だと判っている以上、逆に丸々罠にする位のつもりでいないと、ただでさえ厄介な廓の楼主を相手に交渉するのは難しいかもしれないのだ。
そういう意味でも、出来ればそちらに集中して欲しかったのだが……
「……先に言っておきますけど、誤魔化されるつもりはないですからね?
そりゃ、アドバイスに関してはありがたく受け入れますが……だからと言って、そっちに意識を向けさせておいて、ベルリバーさん関連の話をうやむやにするつもりなら、当てが外れたと思って下さい。
あんな風に、さっきの今で真剣に相談している様子を見たら、誰だって心配になりますからね。」
どこか拗ねたような口調で、サクッと話を戻すウルベルトさん。
こちらが、これからの行動に関わるアドバイスをする事によって、そちらに意識を向けさせようとしている事にすぐに気付いたんだろう。
すぐに察する当たり、やっぱりウルベルトさんの頭の回転は悪くない。
だからこそ、彼の言葉にるし☆ふぁーは少し渋い顔した。
正直に言うなら、ここから先は誰が聞いてもあまり聞いていて気持ちの良い話でもない。
特に、一度使い捨ての駒にされ掛けた事があるウルベルトさんにとって、どちらかと言うと逆鱗に触れてもおかしくない類だろう。
そう思うからこそ、上手く話題をすり替えてご誤魔化そうとしていたのに、どうやら彼は 誤魔化されてくれないと言うのだ。
流石に、るし☆ふぁーじゃなくとも渋い顔をせざるを得ないだろう。
こうなると、やはりここで変にウルベルトさんに誤解を与えない為にも、きちんと話しておくべきかもしれない。
状況的に、巻き込むのはあまり宜しく無い状況だと判断したけど、ここで下手に誤解をさせたまま放置した方が絶対に面倒な事になる。
そう腹をくくると、るし☆ふぁーは口を開いた。
「……いや、別にウルベルトさんを信用してないから誤魔化そうとしてた訳じゃなくて……
この事について、単にウルべルトさんの耳に入れたくなかっただけ。
だって、詳しい話を聞いたら絶対に怒るだろうし、今だってそんなに余裕ない状況なのに、こっちの方にも全力で協力しそうだもん。
それが簡単に予想出来るから、話さないのを選んだだけなんだよね。」
そう、俺がウルベルトさんに話を誤魔化して話さずに済まそうとしたのは、今のウルベルトさんの負担具合を考えたからだ。
今回の一件がなくても、ウルベルトさん自身は富裕層の上層部の跡取りになるみぃちゃんの教育と言う、本人が思う以上に大変な事をして居る。
それに加えて、タブラさん救出のために必要な資産運用をするには、ウルベルトさん所のデミウルゴス一人だけじゃ、多分、運用資金があっても時間が足りない。
もちろん、有能すぎる位に有能なデミウルゴスなら、その辺りもきちんと考えて仕上げようとしてくるだろうけど、今まで以上に資産を集める為に性急に動きを見せれば、周囲だってそれに反発して何かを仕掛けてくる可能性は高いと考えるべきだろう。
多分、そのフォローとして、モモンガさん所のパンドラズ・アクターと、今ウルベルトさん所で身柄を預っているアルベドの二人が、協力に入ると思う。
そうなった場合、三人が暴走してやりすぎないように、三人の事を見張るのはウルベルトさんだ。
「今回は、時間的な余裕がないからギリギリのラインを見極めながら、資金運用をする必要があるだろう?
幾らたっちさん保護があると言っても、ギリギリ見逃がせるラインを超える様な目立つ資金運用をすれば、他の富裕層が黙っていない可能性があるからね。
多分、デミウルゴス一人でやるよりもアルベドやパンドラも協力して分散した方が、そういう危険なリスクは下げられる。
で、彼らに対するお目付け役は、ウルベルトさんがやる必要があるんだよね。
アルベドの主で捕らわれの身のタブラさんはもちろん、パンドラの主のモモンガさんは俺への協力が主体になって手が回らなくなるから、自然にそういう役目がウルベルトさんに振られちゃう訳だ。
セーブしながら、それでも確実に必要金額以上……そうだな、俺が予測している金額的には五億、かな?
とにかく、それ位まで資金を増やすように指揮を執り、更に当日には楼主と身請け金額の交渉とか……うん、ウルベルトさんがやらなきゃいけない事は本気で一杯なんだよね、実は。
こっちはこっちで大変だし……正直言って良いなら、一旦この件に関しては後回しにしたい訳よ。」
サクッと、最初の予定金額よりも必要額の最低額を引き上げてやると、ウルベルトさんが思わず息を飲む音が聞こえた。
まぁ、そういう反応するのが普通だと、俺も思う。
隣にいたベルリバーさんも、俺がさり気なく金額を増やしているのに驚いてたし。
「それって、交渉する際に余裕を持たせる為に必要な額では?」
予定よりも更に高額を告げられ、思わず口に出して聞きたくなったのだろう。
そう、聞き返したくなる気持ちは分かるけど、俺だってちゃんと確信をもっていっている金額なのだ。
だから、彼らに対して軽く首を竦めて見せると、その金額になった理由を口にする。
「ぷにっと萌えさんはあぁ言ったけど、俺としては見積もりが甘いと思う。
最低額として、五億は用意しておいた方が良いと思うんだよね。
一度会ったきりだけどさ、それでも直接会った事がある俺があの楼主の立場とか性格とか、色々と考察を加えた上でその言動を予測すると、こっちが下手に出し渋る素振りを見せたりしたら、その時点で交渉を打ち切りそうにしか思えない訳。
まぁ、そうなる前にこっちが交渉の主導権を握ればいいんだけどね。
それで、話を戻すけど……そもそもこの件に関していっちゃうと、ベルリバーさんの身柄を今の勤め先から、大々的にこちらが引っ張ればいい話なんだ。
つまり、俺が爺様に人材の相談をした結果、〖自分の部下として必要だから、ヘッドハンティングをしたい〗って流れにしちゃえば、そこまで揉めないと思う。
うちの爺様、そこそこいろいろな企業に顔が利くし、〖孫が漸くやる気を出したので、初めて持つ部下はそれなりに使える者を与えてやりたい〗って言えば、色々な兼ね合いから話は通ると思う。
もちろん、ベルリバーさんにも上司に退職届を出す際に、〖○○氏から直接引き抜きの話が掛かった〗と言う内容を話して貰うつもりだし。
因みに、これはモモンガさんやヘロヘロさんにも同じ事をして貰うつもりだよ?
そうやって、全面的に〖孫の為に、それなりに使えると判断した相手への引き抜きがあった〗という退職理由を前面に押し出して、相手の疑念をうやむやにしちゃうのさ。」
自分の立ち位置を前面に出し、ベルリバーさんの身柄の安全を確保しようとしているこちらの主張を聞いて、ウルベルトさんは苦笑のアイコンを浮かべた。
多分、彼からしたら俺がわざわざそんな手を取ろうとするのは、ある意味予想外だったんだろう。
と言うより、これは俺以外に選択出来る手段ではない。
もしかしたら、似た様な立ち位置にいるあまのまひとつさんだったら出来そうな気もするけれど、俺がやる方がより確実だと思う。
それに、彼には別にやって欲しい事もあったので、この件で協力して貰う訳にはいかなかった。
〘 まぁ……うん、なんだかんだで問題が起きた時のバックアップ先は、可能な限り数が欲しいからね。 〙
ある程度、こちらの意図を説明した事によって、ウルベルトさんは納得してくれたのか軽く首を竦めると、ぽんとこちらの肩を叩く。
そして、ベルリバーさんの方を向くと、同じようにポンと軽く叩いた。
「まぁ、色々大変なのは分かったから、問題が起きそうならこっちにも相談しろよ?
ある程度、資産運用の目途が付くだろう昼頃なら、デミウルゴスをそっちに送れるから。」
こんな風に、笑顔のアイコンを浮かべながウルベルトさんはそう言うけれど、実際にはそんな余裕はどこにもない筈だ。
それに、メールペットがこちらに来るなら、デミウルゴスが来るよりパンドラズ・アクターを戻して貰う方が、モモンガさん的にも都合がいい。
多分、金銭面の運用ではそろそろデミウルゴスとパンドラズ・アクターの実力は並ぶレベルになっている気がするけど、それでもまだデミウルゴスの方に経験値の差による軍配が上がるだろう。
「あー……その申し出は嬉しいけど、それならモモンガさんが協力させる為に差し向けてるだろうパンドラを返した方が、モモンガさんのサポートに戻せるからいいかも。
モモンガさんのガードが強化される状況になれば、他の二人も自動的にガードが固くなると思うし、そっちの方がいい気がするんだよね。
大体、みぃちゃんの教育問題にも関わるから、デミウルゴスをこっちに寄こすのは拙いでしょ?
まぁ……何かあったら、ちゃんと相談するつもりだけど、こっちの行動力を示す意味でも、そこまで至らないうちに解決するつもりでいるんだよね。」
そう言いながら、笑顔のアイコンを浮かべたるし☆ふぁーは、まず急ぎの案件を取り扱うべく、二人に断ってログアウトしたのだった。
本当は、タブラさんの身請けの裏側として、当日のるし☆ふぁーさん達の動きになる予定だったのに……!!
そこまで持っていくと、また長くなりそうなので一旦切りました。