メールペットな僕たち   作:水城大地

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メールペット側の視点。
シャルティアが、彼女なりに何を考えてどう行動したのか。


シャルティアの努力の結晶

メールペットのシャルティアが、同じメールペットのデミウルゴスに色々と教えを乞い始めたのは、メールペットシステムが正式に稼働し始めてからは一月後の事だ。

デミウルゴスと出会った頃は、お互い興味を持った話題を話す仲間として仲良くなったのだが、彼の豊富な知識に触れる事によってその頭の賢さを理解した後は、様々な相談を持ち掛ける様になっていた。

本当に、最初の頃の相談などは【メールペットとして、主や訪問先に居る仲間やその主の方々に対して、自分がしてはいけない事】など、誰でも持っていそうな細やかな相談内容だったのだが、相談内容が少しずつ変化し始めたのは、シャルティアが他のメールペットたちと接触する回数が増えて、色々な経験した事から必要な部分をちゃんと学んでいったからかもしれない。

自分のベースになった【ユグドラシルのNPCのシャルティア】からは、かなり掛け離れた存在になってしまった気もするが、それでも主であるペロロンチーノ様が喜んで受け入れて下さっているのだから、この変化事態はそれ程問題無いと思われているのだろう。

だが、それでもまだこの頃のシャルティアは、デミウルゴスに相談をして色々な事を話し合うものの、弟子ではなく友人の枠で十分収まる間柄だったのだ。

 

それなのに、どうして彼女が一か月後にデミウルゴスへの弟子入りを申し出たのか?

 

今の彼女の能力では、どうしても対応出来ないと思える相手が、メールペットの中に出現したからだ。

シャルティアなりに考えた結果、選んだ選択肢はデミウルゴスに弟子入りする事だった。

彼に弟子入りする事で、今までの様に彼の知恵を借りるべくただ相談するだけではなく、自分の意思で勤勉に物事を学ぼうと考えている事を示した彼女に対して、デミウルゴスから返って来たのは称賛の言葉。

 

「そこまで、あなたが確固たる意志を持って、自分の力で学びたいとおっしゃるなら、私も支援するのを惜しみませんよ。

むしろ、きちんと自分の事を鑑み〖自分だけでは学べない〗事を理解して、私の教えを乞う事を選んだその姿勢は、とても好ましいものです。」

 

と言って貰えた事も、彼女にとって学ぶ事への意欲へと繋がったと言っていいだろう。

そこから、彼女の生活は大きく変わる事になる。

普段の、メールペットとして役割を中心とした日常生活を重ねつつ、彼から与えられる課題をこなす生活を、彼女はずっと続けていた。

元々、頭の出来は脳筋よりで余り良くない彼女にとって、【様々な知識を得る楽しさ】を理解するのは難しく、最初の頃は与えられた課題の意味も余り解らないものばかりだと言って良かっただろう。

だが……少しずつではあったものの、デミウルゴスの解説を聞いて自分の解らなかった事が少しだけでも理解出来る様になると、与えられる課題を熟していくのも楽しくなってきたらしい。

そして、デミウルゴスやパンドラズ・アクターの様な頭の良いタイプの倍の時間を掛けて、彼女は少しずつ自分の出来る事を増やしていった。

こんな風に、シャルティアがデミウルゴスに頼み込んで弟子入りし、彼の与える課題を時間が掛かっても諦める事なく一つずつクリアして、こつこつと電脳空間でのスキルを学んでいった理由。

 

その理由が何かと言うと、ここの所一部の例外を除いた全てのメールペットの居る場所で、様々な問題行動を起こす事が多いアルベドである。

 

シャルティアは、本当に必死に考えたのだ。

その頃は、まだデミウルゴスに弟子入りする前の脳筋よりの思考の彼女だったけれど、それでも彼女なりに一生懸命に考えた結果が、〖 メールペットで一番頭の良いデミウルゴスの元で学ぶ事で、自分の賢さとスキルを上げてから、改めてアルベドへの対応策を考える 〗と言うものだった。

自分がいる時なら、ペロロンチーノ様から抱き付いて離れないアルベドを強引に引き剥がして、何とか彼女の事を押し退けられるから問題はない。

いや、ペロロンチーノ様とシャルティアのサーバーで、アルベドが好き勝手している事態が問題なのだが、それでもまだ自分が直接アルベドに対応出来る分、まだマシだろう。

問題は、自分がメールを配達する為に不在だった時だ。

その場合、ペロロンチーノ様がサーバー内に降りていなければそこまで気にしないで済むが、もしペロロンチーノ様がサーバーに降りていらっしゃる時だと、アルベドのやりたい放題を放置する事になる。

 

シャルティアには、とてもそれは許容出来なかった。

 

ペロロンチーノ様のメールペットとして、彼から愛されるのはシャルティアだけであり、アルベドはそこに含まれない。

他のメールペット達にも、ペロロンチーノ様が優しく接しているのは、仲間のメールを運んで来てくれる、仲間が大切にしているメールペットだからだ。

それを、アルベドはちゃんと理解した上で節度ある行動をするべきなのに、彼女はペロロンチーノ様からの愛される事を望んでいるのが、その素振りから伺えて。

自分の主が居るのに、ペロロンチーノ様の愛まで欲しがるアルベドに、腹が立った。

 

アルベドの思う様にさせない為にも、彼女がペロロンチーノ様と二人きりになるのを避ける方法は、ただ一つ。

 

〘 タブラ様のメールを、アルベドが持ってペロロンチーノ様の元を訪ねて来ても、何らかの方法によって彼女がペロロンチーノ様に会えない状態にしてしまえばいいのだ 〙と。

 

ざっくりとその目標を思い立った時点で、それを現実にするにはどうするのが一番なのか、シャルティア必死に考えた。

だが、頭の出来が脳筋よりのシャルティアには、その方法が思い付かない。

しかし、だ。

せっかくここまで思い付いた結論を、何もせずに諦めたくはない。

 

そう考えた彼女が、自分の考えを実際に現実化させる為にどうすれば良いのかと、自分で考え付かない部分の相談相手にとして、選んだのがデミウルゴスとパンドラズ・アクターだった。

元々、主同士の付き合いもあってシャルティアとデミウルゴス、パンドラズ・アクターの三人は仲が良かったし、アルベドの一件に関してはパンドラズ・アクター自身も被害者で、今まで自分のサーバー内での彼女の所業に色々と頭を悩ませていた事もあり、シャルティアの相談についても一緒に色々な解決方法を考えてくれたのである。

 

そうして出された結論は、〖 アルベドが訪ねて来たら、自分たちが居るメインサーバーをコピーした別の仮想サーバー内へ、強制的に隔離する 〗と言うものだった。

 

彼らからの提案と対策を聞いて、これこそ自分の目指すものだと理解したシャルティアは、それを実際に作り上げる為の勉強を本当に頑張ったのだ。

普段なら、頭を使う事に関しては苦手意識が強いシャルティアだが、今回ばかりは投げ出す事なく根気よく頑張り続けたのである。

そんな彼女の努力を前に、デミウルゴスとパンドラズ・アクターも提案しただけで後は彼女自身に任せたまま放置したりせず、それこそ根気良く目標に向けて邁進する彼女に付き合い、アドバイス等を与え続けた結果。

 

とうとう、アルベドがペロロンチーノ様のサーバーに近付くと、彼女に感知出来ない様に分岐した仮想サーバーが展開され、普段シャルティアが過ごす部屋と全く同じものが設定されているそのサーバーへとアルベドを誘導するシステムを設定したのである。

 

もちろん、これを完成させたのは彼女だけの力ではない。

実は、ヘロヘロ様が緊急時用に考えていたミラーサーバーと言う、既存のシステムを応用したもの展開して使える様にしただけなのだが、それでもここまでやり遂げたのは間違いなくシャルティア本人である。

本来の脳筋娘の設定を越えて、この仮想サーバーを展開するシステムを完成させるまで頑張り続けたシャルティアが凄いのか、それともそこまでさせる決意を抱かせたアルベドが問題なのか。

どちらにせよ、この【 デミウルゴス及びパンドラズ・アクターメイン設計、作成者シャルティア 】のシステムは、それぞれ使用者を設定すればほぼ誰でも利用出来る位に応用が利く事もあり、アルベドを除くメールペット達からとても歓迎された。

 

それだけ、アルベドによる被害がそれだけ広がっていたと言う証だろう。

 

シャルティアは、すぐに仲間のメールペットたちへとこのシステムデータを配布する事を決定した。

アルベドの被害を受けていたのは、自分だけじゃなくほぼ仲間全員だからだ。

自分が利用するだけじゃなく、同じ様な被害に遭っている仲間たちの役に立つなら、アルベド以外の仲間全員に配布するべきだろう。

 

このシステムは、ただ自分だけが利用するよりも全員同時に利用した方が効果的だと、そうシャルティアは考えたからだ。

 

とは言え、今はまだアルベドに対して使う事は出来ない。

彼女が頑張ってこのシステムを作成している間に、色々な変化があったからだ。

自分達の主が、アルベドの主であるタブラ様と定例会議の場で話し合い、ほんの少しではあるがアルベド側に改善が見られたし、彼女の主であるタブラ様からも色々な気遣いを受ける様になってきている。

今まで、タブラ様のお声を耳にした事が無い事にはシャルティアも気付いたのだが、どうやらそれにはタブラ様側に別の問題が発生していた為であったらしく、それを改善するべく建御雷様達が現在進行形で動いているらしい。

 

そんな状況では、流石にこれを作動させてしまうのは拙いだろう。

 

実際、アルベドの態度もちょっとだけマシなものに変わってきたと言えなくもない。

なので、アルベドの被害者を中心にアルベドを除く全員で〖アルベドへの対応をどうするのか?〗と言う議題で、割と時間を掛けてじっくりと話し合った結果、しばらく様子を見る事で決定した。

どちらかと言うと、長い話し合いをした上でこの決定で落ち着いた理由は、ほんの僅かにアルベドが変わったと言う事実よりも、こちらに対して気を使ってくれる様になった彼女の主であるタブラ様の顔を立てた結果である。

 

もし……次にアルベドが何か大きな問題行動を引き起こす事態になったら、シャルティアは問答無用でこれを使うつもりでいたのだ。

 

こんな風に、アルベドに対して温情を掛けるべきではなかったと、シャルティアが後悔する羽目になったのはそれから一週間後。

それこそ、緊急連絡網でデミウルゴスからウルベルト様が彼女の引き起こした事で、最悪ギルドから去る事になるかもしれないと言う連絡が来た時だった。

 




という訳で、ギルド会議の際にウルベルトさんがモモンガさんに言っていたのは、この事でした。
と言っても、ウルベルトさんも詳細を知っていた訳ではありません。
後、pixiv版は、この後にデミウルゴスの話も付いていましたが、あちらは加筆すると今よりも確実に長くなるので、まずはシャルティア側だけ投稿します。
デミウルゴス側は、早ければ今夜、遅くても明日の朝には投稿予定です

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