メールペットな僕たち   作:水城大地

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お正月小説第三弾。
ウルベルトさんとデミウルゴスの話。


メールペットとお正月 ~ウルベルトとデミウルゴスの場合~

【 お年玉を用意するウルベルトさんの話 】

 

年の瀬も差し迫った頃、ウルベルトはデミウルゴスに渡す為に用意したお年玉を前に、本当にこれで良いのか少しだけ迷っていた。

彼が、早い段階で用意していたお年玉とは、デミウルゴスが以前から欲しがっていた品だ。

色々と考えた結果、お年玉として渡すのが一番いいだろうと考えて用意はしたものの、本当にこれで良いのかと問われたら少し迷う。

 

「……まぁ、これに関しては今日のギルド会議の話し合いの結果次第で、もう一度考えればいいか。

モモンガさんから、〖今日の議題に上げたい〗と連絡来てたし、それなりにどういう基準にするかとかも含めて、色々と話が出るだろうし。」

 

そんな事を考えながら、今年最後のギルド会議に出たウルベルトは、思った以上の数のギルメンたちがメールペットに与える【お年玉】の事を全く考えていなかった事を知って、かなり驚く羽目になった。

今のご時世では、確かに廃れかけている風習ではあるものの、全くなくなった訳でもないからちょっとした物を渡す位の事は考えていると思っていただけに、正直言ってこの状況は予想外だと言っていいだろう。

会議の話の流れによっては、自分が用意したデミウルゴスへのお年玉は問題がある事になってしまうかもしれないと思うと、正直気が気ではなかったのだが……ヘロヘロさん達の提案が採用された事によって、自分のメールペットに対して贈る分に関しては、特にお年玉の内容と金額に関して制限はなくなった。

 

これで、自分が用意したものは無駄にならないで済むと、ウルベルトはちょっとだけホッと胸を撫で下ろす。

 

〘 まぁ……流石に、これを自分のメールペットへのお年玉に用意するのは、多分俺位なんだろうが……それでも、デミウルゴスが以前からずっと欲しがっていたのは知っているからな。

多分、これが一番正しい渡し方なんだろうと思うし……〙

 

ただ、自分のメールペット以外に対しては、余り高額な物が禁止になったのがちょっとだけ悩み処ではある。

お互いに仲が良い相手に関しては、みんなへ渡すお年玉以外に追加で何か贈れる事になっていなければ、茶釜さんではないがちょっと文句を言っていたかもしれない。

普段から、モモンガさんの所のパンドラズ・アクターやペロロンチーノさんの所のシャルティアとは、デミウルゴスが色々と仲良くして貰っているし、自分自身もモモンガさんやペロロンチーノさんと仲良くしている間柄なので、出来れば一つお揃いの物を用意してたいと思っていたからだ。

それに、自分がハッカーに襲撃された一件では、るし☆ふぁーさんと恐怖公にも色々と世話になっているので、そのお礼も兼ねてお年玉の内容はそれ相応な品物を奮発して用意しておくべきだろう。

 

二度目の襲撃を受けた後の会議の終わりに、るし☆ふぁーさん自身には声を掛けてお礼を言ったし、後日お礼の品を渡してはあるが、こう言うのは自分の気持ちって奴だからな。

 

他に挙げるなら、ヘロヘロさんにはメールペットのデミウルゴスを作ってくれたお礼として、ソリュシャンにも多めのお年玉は渡したいと思う。

彼女自身は、ほぼ同時期に作られた試作機と言う意味でデミウルゴスの妹的立場に当たるから、付き合いも他のメールペットより長い訳だし。

多分、茶釜さんもペロロンチーノさんの所のシャルティアに対して、こういう感覚を抱いたから、あの場で手を挙げてあんな風に主張したんだろうな。

そうそう、デミウルゴスと個人的に仲が良い建御雷さんの所のコキュートスにだって、ちょっとは良い物を渡したいと思う。

やはり、親として子供同士で仲が良い相手の事を、気に掛けるのは当然だと思うし。

恐怖公と同じく、ハッカーの襲撃の際に助けられたと言う点では、タブラさんの所のアルベドにもお礼の意味でお年玉に色を付けたいと思う。

彼女があそこで頑張ってくれなければ、もっと大変な状況になっていたかもしれないのだから、それ位のお礼をするのは当然だった。

 

そして……この生活を維持出来ている最大の感謝の意味を込めて、たっちさんの所のセバスには、それこそ彼のイメージに合わせたスーツ一式を贈りたい所である。

 

「まぁ……流石に、そこまでは無理だろうから、無難な所でネクタイと手袋といった所か。

あー……まだ小さいといっても、みぃちゃんには幾らお年玉を包むべきなんだろうか……?

と言うか、家庭教師先の子供にお年玉って渡すもんなのか?」

 

メールペットの事ばかり考えていて、今現在の【リアル】の事が抜けていた事を思い出したウルベルトは、思わず頭を抱えていた。

ウルベルトとしては、彼女には随分と懐かれている自覚もあるからお年玉を渡したいと思わなくもないが、立場的には渡しても失礼に当たらないのか微妙な所ではある。

そもそも、富裕層の令嬢相手にどう対応して良いのか微妙に悩む所だ。

 

パンドラズ・アクターやシャルティアたち、メールペットへのお年玉の内容はほぼ迷わず用意出来たにも拘らず、思わぬ所で悩みを抱える事になった、ウルベルトだった。

 

*******

 

【 年越しからお年玉を貰った直後までのデミウルゴスの話 】

 

デミウルゴスは、年越しの為のカウントダウンから戻って来たウルベルト様が就寝したのを見届けた後、新年の挨拶をするまでの間の休息として軽く仮眠を取ると、彼よりも少しだけ早く起きて身支度を整えていた。

普段から、ウルベルト様よりも朝早くに起きて彼を起こす大役を受け持つデミウルゴスだが、今日は特に気合が入っていると言っていいだろう。

 

ウルベルト様から、「仮眠を取ったら新年の挨拶をするから、楽しみにしている様に」と、戻られてから眠るまでの間に言われているからだ。

 

わざわざそんな風に、普段とは違うと言う事を念押しする様にウルベルト様が口にしたと言う事は、この新年の挨拶は特別なものなのだろう。

だからこそ、デミウルゴスは特にウルベルト様の行動の僅か違いも見逃さない様に、気合を入れていたのだ。

多分……その気になれば、ネットの海には沢山の情報があるから幾らでも調べる事は出来るのだが、折角ウルベルト様が教えて下さると言うのだから、それを自分で調べる気にはとてもなれなかった。

 

デミウルゴスにとって、主であるウルベルト様の言葉は絶対なのだから。

 

仮眠から起き、誰の目から見てもきっちりと身支度が出来た所で、ウルベルト様の元へと赴く。

もちろん、初めの頃にウルベルト様と約束した通り、こうして朝の起床を促す役目はデミウルゴスの一つの楽しみだからだ。

いつもの様に、電脳空間からウルベルト様がいつも肌身離さず持ち歩いている端末へと素早く移動すると、そっと起床を促す様に優しく声を掛ける。

そうすると、目を覚ますと同時にウルベルト様が喜んで下さる事を、デミウルゴスはこの数か月できっちりと学んでいた。

 

「ウルベルト様、そろそろお時間ですのでお起き下さいませ。」

 

静かに声を掛ければ、ウルベルト様はその声に反応して意識を覚醒させて、ゆっくりと目を開いていく。

目覚められたウルベルト様は、口元に笑みを浮かべているので気分が良い事はすぐに判った。

どうやら、今日も無事にお起しする役目を果たせたらしい。

ホッとしつつ、デミウルゴスはいつもの様にウルベルト様に声を掛ける事にした。

 

「おはようございます、ウルベルト様。

新年、あけましておめでとうございます。」

 

にこやかな笑みを浮べて言えば、ウルベルト様はまたにっこりと柔らかい笑みを浮かべて、デミウルゴスに笑い返してくれた。

そして、朝の挨拶と共に教えられていた新年の挨拶を口にしたデミウルゴスに対して、同じ様に新年の挨拶を口にしてくれる。

 

「おはよう、デミウルゴス。

そして、新年あけましておめでとう。

急いで着替えるから、悪いがちょっとだけ待ってくれるか?」

 

ウルベルト様の言葉に、デミウルゴスが素直に頷いて同意すれば、着替える為に手にしていた一旦端末をベッドのサイドテーブルの上に置く。

そして、サクサクと着ていた寝間着を脱いで、サイドテーブルの側に用意してあった衣装へと着替え始めた。

こうして、端末の中からその様子を見ていると、自分にも【リアル】で動ける実体があればいいのにと、つい思ってしまうのだ。

そうすれば、ウルベルト様の着替えを手伝ったり、毎日身に着ける衣装を選んで用意したり、身の回りの世話をすべてこなせるだろう。

 

とは言え、そこまで無い物ねだりをするつもりなど、デミウルゴスには欠片もないのだが。

 

デミウルゴスが色々と考えているうちに、着替えを終えたウルベルト様が電脳空間へ降りていらっしゃっていた。

こうして、ウルベルト様が降りていらっしゃった事に気付くのが遅れると言う失態に、デミウルゴスが少し焦りながら急いで出迎えると、片手を挙げて構わないと笑って下さる。

やはり、こういう部分は本当にお優しい方だと、デミウルゴスは同じ失態をしない様に心に誓いつつ、スッと頭を下げた。

そんなデミウルゴスに、ちょっとだけ苦笑しながらウルベルト様は軽く手招きする。

ご希望に沿う様に歩き寄れば、にっこりと笑いながらウルベルト様はアイテムボックスから何かを一つ取り出した。

 

「さて……色々と待たせたみたいだな、デミウルゴス。

これを、お前に渡しておこうと思ってな。」

 

その言葉と共に、デミウルゴスの前に差し出されたのは、お年玉と書かれた白いのし袋だった。

手に取るのを躊躇うデミウルゴスだったが、もう一度受け取る様にとウルベルト様から視線で促され、一先ずそれを受け取る事にする。

ただ、どういう意図で用意された者なのかが判らず、渡されたものを前に困惑するデミウルゴスに対して笑い掛けながら、ウルベルト様は理由も込みで説明を始めた。

 

「それは、俺からお前へのお年玉だ。

お年玉がどういうものなのか、デミウルゴスは知っているか?」

 

どこか、様子を窺う様に問い掛けられ、デミウルゴスは自分の中にある様々な情報からそれを探り当てる。

自分の情報が間違っていなければ、お年玉とは【新年を祝う為に送られるものであり、主に目上の者から目下の者へ贈られる】物の筈。

そう考えれば、確かに自分がウルベルト様から頂くのは間違いではないだろう。

 

だが、こういうものが贈られるのは一般的にアウラたちの様な、年少のものなのではないだろうか?

 

「……お前は、俺にとって大切な一人息子みたいなものだし、色々と考えたんだがそれが一番だろうと言う結果になったんだよ。

まぁ……中身を開けて見れば、俺がお前に渡すものとしてそれを選んだ理由もすぐに判るさ。」

 

多分、疑問に思った事が顔に出ていたのだろう。

「まずは開けてみろ」と促され、デミウルゴスがそののし袋の封を開けてみれば、中から出て来たのは一冊の通帳だった。

名義こそ、デミウルゴスのものではなくウルベルト様の本名になっているものの、これは間違いなくデミウルゴスが自由に使っていい口座と言う事なのだろう。

確認する様に視線を向ければ、クスクスと笑いながら頷くウルベルト様がそこに居た。

 

「……前々から、自分で使える口座を欲しがっていただろう?

中に、少しだけお年玉として自由に使えるお金も入れてあるから、全部デミウルゴスの好きにして構わないから。

そうそう、こっちも渡しておかないといけないな。 」

 

そう言いながら、ウルベルト様が何処からともなく取り出したのは、手のひらに乗る様な一つの小さなプレゼントボックスだった。

スッと、先程と同じように目の前に差し出されたそれを取れば、また開ける様にと促される。

一つだけでも、デミウルゴスにとってとても嬉しいプレゼントだったのに、もう一つ渡されたそれにちょっとだけ戸惑いつつ包みを開けてみた。

すると、小さな箱の中にベルベッドに鎮座する様に収められていたのは、ウルベルト様とモモンガ様、ペロロンチーノ様の紋章が並んだネクタイピンだった。

 

「これは……」

 

ウルベルト様の紋章は、主としてデミウルゴスが身に付ける物に入るのは、まだ判る。

だが、そこにモモンガ様とペロロンチーノ様の紋章が入るとなると、どうしてもそれにどういう意味があるのかを考えてしまい、受け取っても良いのか困惑してしまうのだ。

そんなデミウルゴスに、ウルベルト様はそっと手を伸ばして軽く頭を撫でると、小さく笑ってこの意匠の理由を教えてくれた。

 

「そんなに、深く考える必要はないんだがなぁ…

簡単に言えば、それは無課金同盟三人組を意味するんだよ。

お前達も、俺達の様にとても仲が良いから、三人のお揃いの品として作ったんだ。

紋章を使う事は、ちゃんとモモンガさん達に了承を取ってあるから、心配はしなくても大丈分だから。

多分、モモンガさんやペロロンチーノさんも、三人お揃いの品を用意してると思うぞ、デミウルゴス?」

 

クスクスと楽し気に笑みを零しながら、そう教えられてデミウルゴスは思わず自分の分のネクタイピンの入った箱を、嬉しそうに目を細めつつキュッと握り締めていた。

まさか、自分達の仲の良さを見ていたウルベルト様たちが、こんな風に思い出に残る品を【お年玉】として用意してくれているなんて、考えても居なかったからだ。

更に、今のウルベルト様の言葉を正しく理解するなら、他の方々の所を訪れたら他にもお揃いの品をいただけるかもしれないらしい。

 

こんな、過分なものをモモンガ様やペロロンチーノ様からも渡されてしまったら、それこそ本気で舞い上がってしまいそうな気分になるんじゃないだろうか?

 

つい、嬉しげに口元へ笑みを浮かべるデミウルゴスに、更なる爆弾発言が齎された。

 

「あー……俺やモモンガさん、ペロロンチーノさんだけじゃなく、お年玉はこの三日間メールを届けに行った場所では、漏れなく貰える事になっているからな。

まぁ、俺達の様に特別なお揃いの品とかじゃなくて、ちょっとした品だとは思うけど……とにかく、新年を迎えたお祝いの品だから、遠慮なく貰っておけ。

今回ばかりは、俺達からお前たち全員に渡す様に用意している品だから、逆に受け取らない方が失礼に当たるからな?」

 

念を押す様に、ウルベルト様からはっきりと言われた言葉に、慌ててデミウルゴスは頷いた。

どうやら、これは辞退する訳にはいかないらしい。

身の回りの品々は、ウルベルト様が過分なく揃えて下さっているし、菓子の類なら自分が受け取るよりも他の者が受け取った方が喜ぶだろうと思ったからこそ、デミウルゴスは断ろうかと思ったのだ。

だが、新年を迎える為の祝いの品として全員分用意されているのだと言われてしまえば、確かに断る方が失礼に当たるだろう。

言われれば納得出来る理由に、素直に頷いた判断は間違いではなかったと安堵しつつ、そっとウルベルト様から頂いた真新しい通帳を軽く撫でた。

 

これで、多少なりとも自分で運用する事が出来る口座と所持金を、デミウルゴスは持つ事が出来た事になる。

口座を作る為の諸事情から、名義はどうしてもウルベルト様の【リアル】の名前になっている点を踏まえて、運用方法を間違えて無様に損失を出す事は絶対に出来ないし、そんなミスを犯すつもりはデミウルゴスには欠片もなかった。

むしろ、ここまでウルベルト様にお膳立てして貰ったのだから、後はどれだけ自分が上手くこの元手を増やす事が出来るか、自分の力量次第だ。

ウルベルト様のお名前を借りた口座を使い、入金されていた金額からきっちりと確実に運用して元手を増やせば、ウルベルト様のいざと言う時の備えにも出来る。

 

もちろん、これはデミウルゴスだけの独断で行う事ではあるが、既にウルベルト様自身から「自由にしていい」と言う言質は頂いてあるから、それ程問題ではない筈だ。

 

それにしても……と、大きな変化があった昨年の事を思い返し、デミウルゴスは小さく首を振った。

正直言って、ウルベルト様の前職は余り良いものではなかったと、デミウルゴスも思っていたしいずれ転職していただくつもりだったので、この状況は悪くないのだろう。

今の、たっち様のお嬢様であるみぃ様の家庭教師役は、ウルベルト様にとってはこれ以上無い適任だったのだ。

ウルベルト様の的確な指導の下、彼女の学習能力や生活態度なども含めた全方面において、良家の令嬢として相応しい成長が見られるらしく、このまま家庭教師役はウルベルト様の知識が及ぶ限り続く事になっている。

たっち様の性格から考えても、これだけの結果を残しているウルベルト様の事を、みぃ様の家庭教師役を終えた後もいきなり放り出したりせず、それ相応の仕事を紹介してくれるとは思うが、この手の備えは幾ら有っても困らないだろう。

 

そういう意味でも、このお年玉は本当にデミウルゴスにとって嬉しいものだった。

 

だからと言って、もう一つのお年玉が嬉しくない訳じゃない。

以前、三人だけでレポートの討論会をした後、元々仲が良かったパンドラズ・アクターやシャルティアとは、いつの間にか三人で集まって何かを話し合うのは楽しみになっていた。

それこそ、お互いに趣味の事や知識の共有だけじゃなく、己の主について色々と話しても構わないレベルで話し合うのは、とても楽しい。

だから、彼らとお揃いの品を貰って嬉しくない訳が無いのだ。

 

しかもそれが、己の主や彼らの主の紋章を模ったものを並べたネクタイピンだと知って、喜ばないメールペットは居ないだろう。

 

「ありがとうございます、ウルベルト様。

どちらも、大切に使わせていただきます。」

 

そう、心から感謝の念を口にしたデミウルゴスだった。

 




という訳で、デミウルゴスはリアルに自分が自由に出来る口座を持つ事になりました。

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