メールペットな僕たち   作:水城大地

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三人目は、ペロロンチーノさんとシャルティアの話。


メールペットとお正月 ~ペロロンチーノとシャルティアの場合~

ペロロンチーノは、ギルド会議でモモンガさんから質問されるまで、シャルティアに新年のお年玉を渡す事を全く考えていなかった一人だ。

正直、子供の頃に自分がほぼ貰えなかったと言う事や自分が渡す立場になった経験が無い事が、そこまで考えが及ばなかった理由なのだろう。

それは、モモンガさんも同じ状況の筈なのだが……やはり、周囲の事を見て気を配れる人は違うと思うしかない。

 

彼の提案のお陰で、ある程度ギルド内でメールペットたちに渡すお年玉の条件を統一出来たのは、ペロロンチーノにとって実にありがたかった。

 

ただ、「メールペットたちにお年玉を上げましょう」だけでは、一体誰にどんな風に渡したらいいのか判らず、ペロロンチーノは頭を抱える羽目になっていただろう。

それを自覚しているだけに、このある程度の渡す品物に掛ける金額の上限を決めるなどの取り決めは、実にありがたいものだったのだ。

今回の決定では、自分のメールペットへのお年玉に関しては特に制限が無いので、ペロロンチーノは遠慮なくシャルティアへのお年玉は大振袖を選択した。

 

やはり、新年を迎えるにあたってシャルティアへの晴れ着を用意するのは、ペロロンチーノの立場なら当然の話だと思う。

 

可愛い娘の為に、新しい衣装を新調するのは、やはり親の特権だと思うからだ。

メールペットたちに対して、下手にお金を与えても使えるかどうか判らないし、それなら現物で渡そうと言う提案が今回の会議で決まった事なので、これなら特に問題はないだろう。

自分の様に衣装じゃない場合は、メールペットたちが一番欲しがっている物を用意しそうな気もするが。

 

「それにしても……みんなは何を用意するのかな?

モモンガさんは、多分パンドラにスーツ一式とか用意してそうな気がする。

普段のパンドラは軍服姿だから、〖新年くらいはスーツを着せて見たい〗とかそういう感じの選択、かな?

ウルベルトさんは……ギルド会議の様子から察するに、既に準備済みの気配がしてるんだよね。

あの人の事だから、デミウルゴスの為に新規口座を作った上で、少しお金を入れた状態で用意して渡す気満々な気がするんだけど……まぁ、一応通帳ならギリギリ品物と言う範疇から外れないのかな?」

 

何となく、仲の良い二人が用意していそうな品を想像しつつ、丁寧にネットでシャルティアに似合いそうな着物の柄が無いか検索していく。

基本的に着物の型は決まっているから、配色や着物の柄にどんなパターンがあるのかさえ参考に出来れば、ペロロンチーノはシャルティアに似合う柄のデザイン位なら出来なくはないのだ。

サクサクと調べ上げ、彼女に似合いそうで更に自分の好みを反映させた大振袖の柄を仕上げていく。

 

着物のベースとして、選んだ色は黒。

見事な銀髪を持つシャルティアの場合、ベースとなる部分を淡い色にすると、その色合いでお互いに打ち消し合ってしまう。

だから、着物の柄を入れる前のベースの反物の色を黒にすると、逆に銀髪が綺麗に映えて美しく見えるのだ。

裾と袖の下の部分を、黒から紅色にグラデーションになる様に配色し、まずは裾から下半分に薄紅色の大輪の薔薇を一つ、対角線上の肩辺りにそれよりも小振りで少し濃い色合いの大輪の薔薇を一つ配置する。

後は、手の平大の深紅の薔薇を散らして、着た時に映える様に気を付けつつバランス良く配置すれば、彼女の為の一点物の大振袖の完成だ。

最初は、牡丹もなどの古典柄も考えたが、シャルティアを豪奢に飾るならやはり薔薇が一番だろう。

逆に、帯は艶やかな朱色に金糸や銀糸、色とりどりの色の糸で刺繍が施された、艶やかなものを選んだ。

帯紐を深く濃い紅と金糸を編んだ物を選び、淡いローズピンクの帯飾りを付ければ、シャルティアの華やかさを一段と引き立ててくれるだろう。

彼女へのお年玉は、この着物一式に決まりで良いとして、だ。

モモンガさんの所のパンドラズ・アクターや、ウルベルトさんの所のデミウルゴスに対してシャルティアとお揃いの品を一つお年玉として贈りたい。

 

〘 出来れば、シャルティアには着物に合わせて長い銀髪を結い上げるリボンにしたいから、二人にお揃いの品を贈るならネクタイかな?

元々、着物の薔薇に合わせて赤系統のリボンを用意するつもりだったし、そこに俺達の紋章の刺繍を入れるとして……二人には、同じ色に同じ刺繍が入ったネクタイを用意すれば、お揃いになって良いと思うし。 〙

 

サクサクと、シャルティアの為に用意する予定だったシルクのリボンに刺繍で紋章を入れたデザインを作ると、それに合わせたネクタイも一緒にデザインしていく。

これなら、お揃い感が出ていいだろう。

ただ、勝手にモモンガさんやウルベルトさんの紋章を使うのは拙いので、ちゃんと連絡して了解を取る必要はあるだろうが。

 

「そうと決まれば、早めに二人に連絡しておかないと駄目だよな。

こう言う贈り物系は、お互いに内容が被らない方が良いだろうし。

うん、早速メールして大体どんなものを贈るか相談しないと、同じ事を二人も考えてそうだし……」

 

そんな事を呟きながら、ペロロンチーノは速攻でモモンガさんとウルベルトさん宛のメールを書く準備をし始めたのだった。

 

*******

 

シャルティアは、その日は朝からどこかソワソワしていた。

主であるペロロンチーノ様から、今日の最後のメールの配達を頼まれて戻って来てからは、それが少しずつ強くなり、今ではもう周囲に丸わかりになるほどソワソワしていると言っていいだろう。

そして、何かに反応してはすぐにしゅんと萎れてしまうのだ。

ペロロンチーノ様が出掛けてから、ずっとソワソワしては何かに反応してしゅんと萎れると言う行動を繰り返しながら、自分のベッドの上で何度も転がっていた。

 

今日は、割と夜の早い時間からペロロンチーノ様は【ナザリック】へ向かい、そこで仲間たちと新年を迎える為に集まっているらしい。

 

そこに、自分が加わる事が出来ないと言う事に関しては寂しさを覚えるものの、こればかりはメールペットなら同じ条件なので諦めるしかないと判っていたから、シャルティアは大人しく主のペロロンチーノ様の帰りを待っていた。

少なくても、ペロロンチーノ様は日付を跨いで暫くしないと、自分のいるこの【リアル】に帰ってこないだろう。

 

今日の集まりは、特に祝い事でほぼ集まった全員が羽目を外すだろうと言う前提だから、もしかしたら帰りは夜明け前になるかもしれない。

 

「判っているでありんす……でも……私もペロロンチーノ様と一緒に新年を迎えたかったでありんす……」

 

あの騒動の後、割と仲良くなったアルベド手製のペロロンチーノ様のぬいぐるみを両手で抱き締めながら、シャルティアはペロロンチーノ様の事を一人で待つ寂しさを紛らわせる様に呟く。

彼女が、自分の部屋で一人ずっとソワソワしていたのは、ペロロンチーノ様がいつ【ナザリック】から戻って来るか判らないから。

何かに反応してはすぐに萎れてしまうのは、今の彼女が全身の感覚を研ぎ澄ませて小さな物音にすら反応し、それが主の帰宅を知らせるものではない事を瞬時に気付いて、期待した分がっくりとしてしまうからだ。

 

ここまで、シャルティアが色々な意味でソワソワしている理由は、ちゃんとあった。

 

ナザリックには、自分のベースになった【階層守護者シャルティア・ブラッドフォールン】がいる。

今の自分と、あそこに居る彼女では根底部分は一緒かもしれないが、様々な点で随分と差が出来てしまっていると言っていい状態なのだ。

やはり、色々と成長して変化した自分よりも、ペロロンチーノ様の理想をこれでもかと詰め込んだままのもう一人の自分が、より彼の好みなのではないかと、不安で仕方がない。

 

普段はそんな不安など感じた事が無いのに、何故か今日だけこんな風に寂しく思ってしまうのは、初めて新年を迎える事で色々と他のメールペットが楽しそうに準備していたのを見て、自分もペロロンチーノ様と一緒に準備をしたいと思ったのに、実際に気付いた時には何もする事が無かったからだろうか?

 

そう……彼女は、新年を迎える準備を自分では一切していなかった。

彼女の主であるペロロンチーノ様は、ギルメンの中でも交友関係がかなり広い人物であり、毎日出すメールの数は割と多い。

その為、彼女が預かったメールの配達をしている間に、ペロロンチーノ様が新年の為の準備を全て済ませしまっていた為、シャルティアが気付いた頃には本当にする事が無かったのだ。

メールペットの中でも、特に仲が良い上に同じ様にギルメンへのメールを沢山運ぶだろうパンドラズ・アクターやデミウルゴスが、同じ条件の筈なのに色々と忙しそうに新年の準備している姿を見て、どこか羨ましくなってしまった部分もあるだろう。

 

出来れば、ペロロンチーノ様と一緒に準備をしたかったと思ってしまったのだ。

 

あくまでも、ペロロンチーノ様は忙しくメールを運ぶ自分の為に気を回してくださったのだと判っているので、こんな風に自分も何かしたかったと思ってしまうのは、多分我儘が過ぎるかもしれないとシャルティアは思う。

色々な事を悶々と考えているせいで、シャルティアはいつもよりも自分が強い力でぬいぐるみを抱き締めすぎている事に、全く気付いていない。

このままだと、ペロロンチーノ様が戻ってくるまでにベッドの上でぬいぐるみを相手に暴れ過ぎて、せっかく作って貰ったぬいぐるみを引きちぎってしまいそうな状況だった。

 

でも、ペロロンチーノ様に対する恋しい乙女心が暴走しているのだと考えれば、この反応も仕方ないのではないだろうか?

 

心の底から、ペロロンチーノ様の事を恋しいとシャルティアが思っているからこそ、こんな風に一人でモダモダと悩んでしまうのだ。

多分、今のこんな風にソワソワしてはパッと何かに反応し、すぐにしゅんとしてベッドの上で転がるシャルティアの姿を彼が見たら、それこそあまりの可愛さに身悶えてしまっていただろう。

自分が、そんな恋する乙女の可愛らしさあふれる姿を見せているのだと、シャルティアは自分で自覚する事なく……ペロロンチーノ様が戻って来る前に寝落ちしてしまっていた。

 

*****

 

それから数時間後、寝落ちしている間に戻って来たペロロンチーノ様から手渡された晴れ着を前に、シャルティアは感無量の状態だった。

 

思わず、受け取った中身を見た瞬間、彼にギュッと抱き付いて頬へとキスしてしまう位には。

シャルティアからすれば、自分の為に用意されたお年玉の晴れ着が、それだけ嬉しかったのだから仕方がない。

そんな彼女の反応に、ペロロンチーノ様は同じ様に頬にキスを返す事で答えてくれているので、急に抱き付いてキスしても問題はなかったのだろう。

暫くの間、ペロロンチーノ様に抱き付いて甘えていたシャルティアだったが、ペロロンチーノ様に「着せ見せてくれないかな?」と期待満ちた目で言われれば、その期待に応えない訳にはいかない。

と言うか、言われた瞬間に早く自分も着て見たいと思ったのだから、実に現金なものである。

 

いそいそと、受け取ったばかりのお年玉の衣装を取り出したシャルティアは、ペロロンチーノ様が用意していた着付けの仕方の説明書を片手に、着物に着替えるべく移動したのだった。

 

「あの……これで着方は合っているでありんしょうか?」

 

数分後、受け取った着物をきっちりと着込んだシャルティアが姿を見せると、ペロロンチーノ様は手放しに「似合う」と言いながら、手にしていた物で大量にスクリーンショットを撮影していく。

多分、数日後には彼女の晴れ着姿のアルバムが一冊出来上がっているのは間違いないだろう。

その上で、更に可愛くなる様にとおっしゃりながら一度結んであった帯を解き、可愛らしくも華やかな【華蝶結び】と言う結い方に御自ら変えて下さって。

あまりの嬉しさに、それだけでシャルティアはふわふわとした浮かれた気分になってしまう。

更に、髪を用意していただろう極上の赤いシルクに金糸で刺繍の縫い取りがされたリボンで結い上げられ、満足げな笑みを浮かべて下さったのを見たら、それこそ心の底から嬉しくて仕方がなかった。

 

「さっきも言ったけど、着物は俺からシャルティアだけへのお年玉。

で、今さっき髪を結ったリボンは、シャルティアだけじゃなくパンドラとデミウルゴスの三人のお揃いとして、俺が用意した別のお年玉だからね。

まぁ、あの二人へ用意したのはネクタイだけど、デザインが一緒だからお揃いって訳だ。

うんうん、俺のシャルティアは可愛いから何をきても似合うなぁ。」

 

ニコニコと、柔らかい笑顔でペロロンチーノ様からそう言われ、シャルティアは本当に天に上る気持ちになる。

リボンを良く見れば、金糸で刺繍されているのはペロロンチーノ様とモモンガ様、ウルベルト様の紋章で。

これこそ、ペロロンチーノ様が口にした【お揃い】と言う理由だとすぐに判った彼女は、嬉しくて堪らないと言わんばかりにもう一度ペロロンチーノ様に抱き付き、そのまま頬へとキスを贈ったのだった。

 




ペロロンチーノさんは、シャルティアの為に着物の柄くらいは軽くデザインしそうな気がしたので。
後、そわそわしながらペロロンチーノさんの帰りを待つシャルティアを書くのはとても楽しかった。

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