メールペットな僕たち   作:水城大地

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長らくお待たせいたしました。
漸く、ハーメルン版の修正が終わったので投稿させて貰います。


メールペットとお正月~お年玉を受け取ったパンドラズ・アクターたちの話し合い~

 そして、新年が明けて三日が過ぎた頃。

 

 パンドラズ・アクターの部屋に、デミウルゴスとシャルティアの三人で集まっていた。

 彼ら三人が集う為に、どうして彼のサーバーが選ばれたかと言えば、色々な理由やお互いの主のメールのタイミングなどが重った結果である。

 丁度、新年の仕事始めの日が三人で集まる日程と重なった事で、モモンガ様が確実に昼休み以外で不在なのも、ここが選ばれた理由だった。

 

「おニ人とも、ようこそいらっしゃいました。」

 

 にこやかな声音と共に、自分の部屋で出迎えるパンドラズ・アクターに対して、デミウルゴスもシャルティアもいつもの様に挨拶を交わしながらにっこりと笑い返した。

 ここに来る直前に、二人ともきっちりと着替えてきたので、今はモモンガ様、ペロロンチーノ様、ウルベルト様の三人から、それぞれお年玉に貰った揃いのアイテムを身に着けている。

 もちろん、二人を出迎えたパンドラズ・アクターも同じ状態なのだが。

 それに加えて、シャルティアとパンドラズ・アクターの二人は、新年を迎えてから昨日までのメール配達の間、ずっと自分が身に着けていた新年用のスーツと大振袖を身に纏っていた。

 やはり、三人で集まった今回の目的から考えると、それが一番正しい装いだと考えたからなのだろう。

 デミウルゴスも、デザインこそいつもと同じ様なスーツだったが、生地の色合いなど細かな部分の細工が違っている事から、多分ウルベルト様が彼の為に最初から新年用に新しいものを彼のスーツとして用意していたとのだと、普段から毎日顔を合わせている二人にはすぐに判った。

 

 お年玉として、ウルベルト様がデミウルゴスにわざわざ渡さなかったのは、多分、ウルベルト様にとってデミウルゴスにスーツを用意するのは、それこそ数か月に一度行われている日常の事だったから。

 

 これに関しては、モモンガ様もペロロンチーノ様も似た様な行動をしているので、わざわざその理由を考えなくてもすぐに察せられたのだが。

 ただ、モモンガ様からパンドラズ・アクターが受け取るのは、デザインの差はあれどもほぼ軍服で固定されているし、ペロロンチーノ様がシャルティアに用意するのはドレス系がメインである。

 特に、三人の中で女性であるシャルティアに対して、ペロロンチーノ様が用意するのはドレスだけではなく細かな装飾品などの小物まで多岐に渡るので、彼女のクローゼットは結構凄い事になっているらしかった。

 とは言え、あくまでもそれらは普段使い用の品でしかない。

 

 故に、二人はウルベルト様と違い普段と違う物を贈る事を選択し、わざわざお年玉として最上級の品を用意したのだろう。

 

 もちろん、デミウルゴスがウルベルト様に新調して貰っただろうスーツだって、ウルベルト様の眼鏡にかなうレベルの上質の物なのはまず間違いがない。

 ただ、最初の段階でお年玉を別に用意していた事もあり、普段使いも兼ねて新調されただろうスーツと、完全に【新年】と言う行事を意識して用意されただろうスーツや着物だと、色々な意味で力の入り様が違うだけで。

 その辺りに関しては、三人ともちゃんと理解していた。

 

「……さて、こうしてこの場に集まった事ですし、先ずは何をお年玉としていただいたのか、改めてお互いに確認いたしませんか?

 一応、モモンガ様たちからは〖自分の主から貰った物と、お揃いで貰ったメールペット同士なら見せ合っても構わない〗とお許しを貰っていますし。」

 

 この場を議長の様に仕切るのは、家主であるパンドラズ・アクターだ。

 彼の言葉に、綺麗に結ばれている事から外せないリボン以外の品をテーブルの上に並べるシャルティアと、同じく身嗜み的に外せないネクタイ以外を並べるデミウルゴス。

 パンドラズ・アクター自身も、デミウルゴスと同じ理由で外せないネクタイ以外をテーブルの上に並べ、それぞれの品を見比べながら口元に手を置いた。

 

「……私とシャルティアは、新年の衣装をお年玉で貰ったのはすぐに判りましたが、デミウルゴスがウルベルト様から頂いたのは、その小さな手帳なのですか?」

 

 きっちりと、革のカバーで保護されている手帳の様なものに気付いたパンドラズ・アクターが、確認する様に尋ねると、目を細めながらにっこりとデミウルゴスは笑う。

 どうやら、それが単なる手帳ではないと察したパンドラズ・アクターの横で、サラリとそれが何か当てて見せたのはシャルティアだった。

 

「……確か、ペロロンチーノ様が〖ウルベルトさんがデミウルゴスにお年玉を用意するなら、ある程度の金額を入れた通帳だろう〗っておっしゃっていたでありんす。

 なので、それは手帳ではなく通帳と言うものでありんせんか?」

 

 シャルティアの言葉に、にっこりと笑みを浮かべるデミウルゴス。

 それを見るだけで、デミウルゴスが彼女の言葉を肯定している事を察したパンドラズ・アクターは、再度その革のカバーに包まれた通帳を見ると、少しだけ羨ましい気持ちになった。

 パンドラズ・アクターは、彼が受け取ったお年玉である【通帳】のあらゆる方面への有効性を理解出来るだけに、それだけのものをウルベルト様から与えられるデミウルゴスへの信頼感が、とても羨ましかったのだ。

 

だからと言って、自分がモモンガ様から受け取ったお年玉が嬉しくなかったのかと問われたら、間違いなく嬉しかったと断言出来るのだが。

 

「なるほど……それが通帳と言うものなのですね。

 初めて見るので、メモをするのに使う手帳と見間違えてしまいました。

 さて……私たちが、個人的に御互いの主から頂いた品に関しては、高額な品の場合もあると伺っていましたし、デミウルゴスの受け取った通帳がお年玉でも問題が無かったのでしょう。

 それよりも……我々が、こうして集まったのはお互いにお揃いで貰った品々に関して話し合う為です。

 他の方々にも、それと無く話を促す事でどんな感じのものだったのか聞いてみましたが……私達程、様々な意味で価値を持つ品を贈られた方は居ない様でした。

 多分、モモンガ様たちの間である程度までの内容の上限を決めた上で、それぞれ用意された品だからでしょう。

 そうですね……モモンガ様たちが用意されたそれぞれの品自体は、そこまで高価なものではない身の回りの品ではあります。

 ただ……どの品にも御三方の紋章を刻まれた事によって、我々の中で付加価値が予想外についてしまったと言うだけで。」

 

 そんな風に、少しだけ何とも言い難い表情でパンドラズ・アクターが言う理由は、彼らにとって主の紋章の持つ意味が大きいからだった。

 少なくても、メールペットたちにとって同価格のアイテムが並んだ状態なら、紋章が入っていない物よりも紋章が入ったものの方が、確実に価値は高い。

 それが、モモンガ様とウルベルト様、ペロロンチーノ様の三人の紋章が入っているとなれば、その価値はかなり跳ね上がると言っても過言ではないだろう。

 だからこそ、その事が周囲に知れ渡る前に、三人はこうして集ったのだ。

 

「確かに、我々がウルベルト様やモモンガ様、ペロロンチーノ様からそれぞれ頂いた品は、私たちの為に作られた品であると同時に、他のメールペットから確実に羨まれるものでしょうね。

 幸か不幸か、新年の挨拶回りの時に身に着けていた際は気付かれる事はなかったので、面倒な状況にはなりませんでしたが……

 それにしても、シャルティアは良くそのリボンの紋章を気付かれませんでしたね?

 普通に考えれば、それだけ目立つ場所に身に着けていた場合、誰かに気付かれない筈はないのですが……」

 

 デミウルゴスが、パンドラズ・アクターの言葉に同意する様に頷きつつ、ふとシャルティアがリボンの事で騒がれなかった事を思い出して、その理由を彼女に対して尋ねる。

 そう、彼女の頭を飾るリボンはペロロンチーノ様とモモンガ様、ウルベルト様の紋章が深紅のシルクに金糸で幾つも縫い込まれたデザインなので、今の様に普通に身に着けていれば目立つ筈なのだ。

 だからこそ、誰にも気付かれなかった事を不思議に思ったデミウルゴスの質問に、シャルティアはにっこりと笑いながら自分のアイテムボックスに手を入れると、そこからあるものを取り出した。

 彼女が取り出したのは、大小様々な薔薇を組み合わせて作られた、大きな髪飾りである。

 取り出したソレを、すっとリボンの紋章がある部分に掛かる様にそれでいておかしくない位置へと綺麗に差し込むと、にっこりと笑った。

 綺麗にリボンで結い上げられた髪を、更に豪奢なバラの髪飾りを着けて紋章を隠しつつ華やかな状態にすれば、確かに人の目は薔薇の髪飾りの方に向いてもおかしくない。

 

「ペロロンチーノ様が、〖モモンガ様とウルベルト様の所に出向く以外は、こうした方が目立たなくて良いだろう〗とおっしゃられたでありんす。

 それに、〖この方が華やかでより可愛い〗ともおっしゃって下さったでありんす。

 だから……ちびすけ達にも自慢せずに我慢したでありんす。

 今にして思えば、下手にちびすけたちに見せて面倒事になりんせんかった分、自慢するのを我慢して良かったと思っているでありんす。」

 

 するりと、自分の髪を飾るリボンを撫でながらそう呟く彼女の様子を見る限り、どうやら既に何かあったと思うべきだろう。

 パンドラズ・アクターが、デミウルゴスとほぼ同時に視線を向ける事で、一体何を知っているのかと話を促してみれば、シャルティアは小さく首を竦めた。

 少し考え、納得したのか小さく何度か頷くと、シャルティアはゆっくりと口を開いた。

 

「……どうやら、二人はこの話を聞き及んでいないのでありんすね?

 まぁ……どちらかと言うと、これはデミウルゴスやパンドラが知りんせんのも無理からぬ話でありんす。

 私がこの話を耳にしたのも、ちびすけの主であるぶくぶく茶釜様とペロロンチーノ様がご兄弟でありんすから、その縁でと言うものでありんすからね。」

 

 そこで言葉を切ると、シャルティアはどう話したものかと悩む様な、そんな素振りを見せた。

 多分、彼女がそう言葉を言い淀んだ時点で、直接関わった関係者以外は口を閉ざしている内容なのだろう。

 そう考えれば、主の立場上顔がかなり広い筈のデミウルゴスやパンドラズ・アクターの耳に話が入って来なかったのも、ある意味納得がいく状況である。

 

「そう……簡単に説明しんすと、やまいこ様の所のユリがぶくぶく茶釜様から受け取りんしたお年玉の中身を身に着つけて見せに来ておりんした所へ、偶然メールを届けに来た他のメールペットが顔を出しんして、ちょっとした騒動になり掛けたでありんす。

 私たちは、ペロロンチーノ様を始めとした主の方々から、〖新年の三日間の身お年玉が貰える〗と言う事と、〖特に親しい縁がある方からのお年玉は、メールペット同士でお揃いの品などちょっといいものかもしれない〗問う事、そして〖自分の主から貰った物以外で、他人が貰っていないものは自慢しない方が良い〗と聞かされていたでありんすが、そのメールペットは何も知らなかった様でありんす。

 運が悪い事に、そのメールペットは誰からもお揃いの品を受け取りんせんかった……つまり、わざわざ特別に何かを受け取れるほど親しい相手がおりんせんかった事が露呈したでありんす。

 まぁ……そのメールペットの主が割と親しくしておりんすのが、るし☆ふぁー様だった事も特別な品を受け取りんせんかった一因らしいでありんすが。

 そのメールペットでありんすが、悔しさから主にその事を訴えたそうでありんす。

 もっとも、それに対して〖いや、本当はるし☆ふぁーさんから申し出があったんだが、流石に恐怖公とお揃いは嫌だろうから断ったんだ。多分、今から言えばまだもらえると思うけど〗とのお答えを知らされて、不敬にも慌てて泣きながら断ったそうでありんすぇ。」

 

 シャルティアが、色々と聞いた事を思い出しながら話してくれた内容は、るし☆ふぁー様に対してかなり失礼な内容ではあるが、ある意味では仕方がない事でもあった。

 恐怖公は、元々主の方々の半数以上が苦手としている影響なのか、それとも本人の外見モデルが問題なのか、どちらとも言い難い理由が原因で敬遠されがちなのである。

 つい最近まで、問題行動が多かったアルベドと比較対象になっていた事もあり、自然とある程度は受け入れられてはいるものの、それでもきちんと交流がある面々以外ではお揃いの品を持つのには度胸がいるだろう。

 

 デミウルゴスやパンドラズ・アクターとしては、紳士な彼との交流の証としてお揃いの品を持つのも吝かではないのだが、自分達以外ならコキュートスかセバスと言った一部の男性陣位しか、その提案に乗るのは難しいのではないだろうか?

 

 どちらにせよ、そんな状況が一部のメールペットから出ているのなら、確かに自分たちの様な揃いの品を持っているのを知られたら、面倒な騒動になりそうな気がした。

 そういう意味で考えるなら、最初からあまり気付かれない様に新年の挨拶回りで身に着けていたのは、ある意味功を奏したと言っていいだろう。

 また、これからもあまり人前で身に着けるのには、出来るだけ注意した方が良いのかもしれない。

 

「まぁ……もう少し時間が経ってこういう品を持つ者が増える状況になれば、我々が普通に身に着けていたとしても問題なくなるとは思うけどね。

 とは言え、暫くはこの大切な品が目立たない様に身に着けるか、ここぞと言う時以外は大切にしまっておいた方が良いかもしれないが。

 これに関しては、二人とも異論はないのだろう?」

 

 デミウルゴスの言葉に、パンドラズ・アクターもシャルティアも素直に同意した。

 先程の話を考えても、自分からわざわざ面倒事を招き寄せる様な真似をする必要はない。

 元々、お年玉を受け取る時点でそれと無くそれ俺の主から、下手に自慢して騒動の種にならない様にと釘を刺されている事でもある。

 そう考えると、ユリの一件は不幸な偶然が重なったと言わざるを得なかった。

 

 ユリ本人としては、あくまでもぶくぶく茶釜様に受け取った品のお礼と一緒に身に着けている姿を見せに行っただけなのに、偶々ぶくぶく茶釜様の元へメールを運んで来たメールペットがそれを見て、自分は受け取っていないと騒ぎ立てようとしたのだから。

 

「まぁ……実際には、その場だけの話で大きな騒動にならなかった事ですし、本人が例え誰が相手だったとしても〖お揃いの品〗を受け取るチャンスを自分から辞退した時点で、これ以上騒ぎ立てる事も出来ないでしょう。

 元々、ご自分の主も誰かと〖お揃いの品〗を用意していない……つまりは、そこまでするつもりが無いと言う事の裏返しだと、その騒いだと言うメールペット自身も、少し冷静になって考えれば気付ける話ですからね。

 ここでもし騒げば、自分が強請っておきながら相手を知って断ると言う、大変失礼な事をした事も周囲へと伝わる訳ですし、恥の上塗りになるのは間違いありません。

 もっとも、その方がどう動いたとしても、私たちには一切関係ない話ではありますが。

 さて……その話に関しては、これ位にしておきましょう。

 私たちには、もっと話し合うべき重要な件がありますからね。」

 

 ピッと、指を立てながらそう本題に話を戻すパンドラズ・アクターに、シャルティアもデミウルゴスも頷いて同意する。

 あくまでも、彼らが今回集まったのは自分達が貰ったお揃いのお年玉の扱いと、パンドラズ・アクターから持ち掛けられた内容について話し合いをするのが目的であり、シャルティアが知っていた一件はお年玉に関する関連情報でしかない。

 一体何があったのか、ざっくりとそれに関する状況さえ分かれば、自分達には直接関係ない話でしかないのだ。

 

「こうして集まって下さった時点で、お二人とも事前に私が提案した事に反対ではないと、そう考えさせていただいても宜しいですね?」

 

 念の為にと、最終確認する様に問うパンドラズ・アクターに対して、問題ないと頷いて同意を示す。

 二人から同意を得られた事で、ホッとした素振りを見せながら三人で囲むテーブルを軽く一撫でした。

 すると、ポンと軽く何かが弾ける様な小さな音が、パンドラズ・アクターの座っている椅子の横で発生し。

 次の瞬間には、音がした場所に一つのホワイトボードが出現したのである。

 そこには、大きく【モモンガ様、ウルベルト様、ペロロンチーノ様に三人で贈り物をするにはどうすれば良いのか!】と書き出されていた。

 

 そう……三人が今回集まったのは、お年玉で三人お揃いの品をモモンガ様たちから頂いたお礼に、今度は何か自分達からモモンガ様たち三人へ、贈り物が出来ないかと言う話し合いの為だったのだ。

 

 元々、それぞれの主の仲がギルメンの中でも特に良かった事から、パンドラズ・アクターたち三人も仲が良かったのだが、アルベドの一件で連帯責任の様に一緒にレポートに絡む仕事をする様になって、ますます意気投合したのである。

 その結果、今回のお揃いの品をお年玉として受け取った事から、自分達からも主たちへと細やかなお返しがしたいと考え、「三人連盟で贈り物をしないか?」と言うのがパンドラズ・アクターからの提案だった。

 この提案に、同じ様な事を考えていたデミウルゴスやシャルティアがあっさりと乗った事で、こうしてこの集まりが開催されたのである。

 

「一応、こうして集まる前に出された案としては、来月のバレンタインデーを上手く利用すると言うものですが……こう言っては何ですが、あれは女性の為のイベントですよね?

 シャルティアはまだしも、私やパンドラには参加するのは難しいイベントではないでしょうか。」

 

 事前に提案された、贈り物を贈る為の方法に対して、デミウルゴスが懐疑的な意見を出す。

 どうやら、シャルティア自身も同じ事を考えていたらしい。

 少しだけ目を伏せつつ、デミウルゴスの言葉に更に追加する様に自分の意見を口にした。

 

「確かに、デミウルゴスの言う通りでありんす。

 バレンタインデーは、女性が男性に告白する為の一大イベントと言うものでありんしょう?

 そう考えるのでありんすと、デミウルゴスやパンドラが参加しんすのは、かなり難しいと思うでありんす。

 とは言え……私たちには、チョコレートを作る能力も材料もありんせんから、実際には私たちですら参加は難しいのでありんしょうが。」

 

 ちょっとだけ、自分の料理などの能力の無さを恨めし気に呟くシャルティアに対して、パンドラズ・アクターはピッと指を立てた。

 

「そこですよ、シャルティア。

 あなたが言う様に、多くのメールペットたちには料理の能力がありません。

 元々、それらの能力を求められていないのですから、当然の話ではありますが。

 ですが、数少ない例外として【ナザリックのパンドラズ・アクター】の能力を継承している私には、主の方々のお一人の姿を借りて、料理をする事が可能です。

 そして、私たちは時間を掛ければある程度の能力を学習する事も可能な、【ナザリックのNPC】とは違う可変性を持っています。

 私が、今の時期からあなたにチョコレートの作り方をお教えして一緒に練習を重ねれば、バレンタインデーには贈り物に出来る程度の品を作れる様になるのではないでしょうか?

 何も、最初から難しいチョコレートを作る必要などはありません。

 おやつに用意されている板チョコを溶かして、ココア用の生クリームを少し混ぜて型に流し込む簡単なものから、練習を始めてみてはいかがでしょうか。」

 

 にっこりと、笑い掛ける様な気配と共に告げるパンドラズ・アクターの提案を聞いて、シャルティアはつい心を惹かれるものを感じていた。

 確かに、今から彼からチョコレートを作る為の指導を受ければ、バレンタインデーには間に合わせる事が出来るだろう。

 それは、彼女でもすぐに理解出来た。

 

 だが、それなら自分とパンドラズ・アクターの二人だけの話し合いで済んでしまう事なのに、どうしてデミウルゴスまで呼ばれているのだろうか?

 

 一瞬、デミウルゴスも似た様な事を考えたのだろう。

 少なくても、今の話だけでは彼に出来る事は何もないのだ。

 それでも、わざわざこの話を聞かせる為だけに、パンドラズ・アクターがデミウルゴスに声を掛けるとは、とても思えなかった。

 だとすれば、パンドラズ・アクターにはデミウルゴスにさせたい事があるのは間違いない。

 どうやら、その推測は間違いではなかった様だった。

 

「もちろん、この場にデミウルゴスを読んだのは、一つ協力をして欲しい事があるからです。

 残念ながら、最初から私が料理する事を想定されていない事もあり、チョコレートを成型する為に必要な型がありません。

 もちろん、その気になれば私にもそれを作る事は可能ですが、空いている時間は出来るだけシャルティアとのチョコレート作りに専念したいので、デミウルゴスにその型作りをお願いしたいのです。

 御三方にお贈りするチョコレートに使う型ですから、手抜きで簡単に済ませるなどあり得ませんからね。

 更に、完成したチョコレートを包装する為のギフトボックスなども、全てデミウルゴスに作成を依頼してもよろしいですか?

 出来れば、チョコレート以外にちょっとした……そう、チャームの様な小物を三つ入れられるスペースを作っていただけると、なお嬉しです。」

 

 にっこりと提案するパンドラズ・アクターの言葉に、彼が何を考えているのかすぐに判った。

 御三方に贈る為の、メインのチョコレートをシャルティアに、それを入れる箱やチョコレートを作る為などの型をデミウルゴスに、チョコレートを作る為の指導をパンドラズ・アクター自身が受け持ち、それぞれが自分達をイメージしたチャームを作り、三人連盟で一つの箱に纏めてモモンガ様たちに贈ろうと考えているのだ。

 あくまでも、小さなチャームなどはおまけ程度の意味合いと言う形を取る事で、主役はシャルティアからのチョコレートと言う事にして、バレンタインデーに贈る品としての名目も外さない事を告げれば、それで漸く納得したかの様にシャルティアは頷いてくれた。

 デミウルゴスは、パンドラズ・アクターが作って欲しい品について半分話した時点で、それがどういう意図で提案されたものなのか察したらしく、目を輝かせて思案を巡らせ始めていたのは流石と言うしかない。

 

「あくまでも、これは私からお二人への一つの提案であって、他に良い案があるならそちらを優先して検討したいと思います。

 どんな方法でも、モモンガ様たちに対して頂いたお年玉への私たちからのお返しが出来れば、それで構わない訳ですからね。」

 

 そう言葉を結び、自分の提案を終えたパンドラズ・アクターは、にっこりと笑って自分の席へと座った。

 とは言うものの、この提案以外で都合よく別の案が出てくるとは、パンドラズ・アクターは思っていない。

 他に、自分たちからプレゼントを渡すタイミングは、暫く来ないからだ。

 こう言う事は、きちんとタイミングを考えないと失敗する可能性が高いのを、パンドラズ・アクターは良く知っていた。

 多分、デミウルゴスやシャルティアもそれは理解しているだろう。

 だから、この提案に乗ってくれるだろうと、ほぼ確心していた。

 

「……確かに、その方法が一番確実のウルベルト様たちへお年玉のお返しが出来る方法だと、私も思いますね。

 最初から、チャームなどと言った小物が小さな入るスペースを三つ作るのは、私たち三人がそれぞれ御方々に対して自作の品を贈れる様にと言う提案でしょう。

 あくまでもチョコレートが主役ですが、それなら私たちから個人的なものを贈れると思いますし。

 いっそ、それぞれ贈る品は全員チャームで統一しても構いません。

 お互いに、自分達と主をイメージしたチャームを二つ一組で三つ作り、それぞれの箱に収めればお揃いの品にもなりますからね。」

 

 こちらの意図を理解し、どこか微妙な顔をしていたシャルティアの為に、更に提案を追加して暮れるデミウルゴスに感謝しつつ、パンドラズ・アクターはシャルティアの顔を見た。

 今の言葉で、デミウルゴスからは了承を得られたと考えて良いだろう。

 後は、御三方へ贈るチョコレートを作る側になるシャルティアが、この話に乗ってくれるかどうかで話の流れは決まると言っていい。

 同じ事を考えたのか、デミウルゴスもシャルティアに視線を向ける。

 二人の視線を受け、シャルティアは小さく首を竦めた。

 

「別に、誰も話に乗らないとは言っておりんせん。

 むしろ、パンドラの指導がありんしたら、一月後には美味しいチョコレートが作れる様になる上に、御三方へのお揃いの品まで用意出来るチャンスでありんす。

 私にとって、どこをどう取っても悪い話でありんせんのに、この話を受けない筈がないでありんす。

 その代わり……デミウルゴス、こなたにはチャームの作り方を教えて欲しいでありんす。

 私は、こなた達と違って手先が器用ではありんせんから、チョコレート作りとチャーム作りを並行して練習する必要があるでありんすが……もちろん、協力してくれるでありんすよね?」

 

 にっこりと笑うシャルティアに、デミウルゴスは「もちろん」とにっこりと笑う。

 これで、最初の予定通り今後の目的が決まったので、後はそれをどうやって成功させるかスケジュールを調整する必要があった。

 まぁ、モモンガ様たちの間ではほぼ毎日の様にメールのやり取りがされているのだから、それを上手く利用すれば問題はないだろうが。

 

「……では、話はまとまったと言う事で、それぞれ誰にどんなチョコレートとチャームを贈るのか、ざっくりとした話し合いをして今日はお開きに致しましょう。」

 

 ホワイトボードに、【チョコレートのデザインと、チャームのデザインはどうするのか?】と書き込みつつ、二人に対してそう切り出すパンドラズ・アクターだった。

 

 




彼らの中で、バレンタインデーにチョコを贈るのは確定事項になったようです。
このまま、三人だけで話が進むのか、それとも誰かが彼らの行動に気付いて同調するのか、それは次のお話にて。
という訳で、バレンタインデーネタがアルベドさんの話の前に入る事になりました。
後、文章の書き方で文頭を一マス開ける方が良いと言うご意見をいただいたので、試しに今回の話で変更してみたのですが、普段の文頭を開けずに詰めた状態の書き方と、どちらの方が読み易いですか?
もし、こちらの方が読み易いならこれから書く話は、文頭部分を一マス開ける様に変えていこうと思います。
活動報告にも同じ質問を上げるので、出来ればそちらにコメントをいただけると嬉しいです。

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