亜種聖杯戦争 冬木――反転   作:gtrh

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初動

「どこで生まれて、どこで育ったんですか? 教えて欲しいです」

 

 少女の懇願は、これからの死を予期しているようだった。今しか聞けないだろうから、今聞こうというような、そんな印象を受ける。

 けれど懇願を受ける少年には、それを読み取るほどの余裕は無かった。到底耐え切れぬであろう重圧に押し潰されそうになって、それでも胸を張るのは全て虚勢を張るのは全て、目の前の少女を不安にさせない為だ。

 自分は彼女に比べれば取るに足らない努力をしている過ぎない。そう思って踏ん張っている。

 

「大して話すほどの事は無いよ? 普通なもんで」

 

 少女はまたかと思う。少年は事ある毎に普通と言う。その普通が少女にとってどれほど輝きを持つものか知らないからだ。

 

「普通で良いんです。それを知りたいんです。それに――の普通は信用できないじゃないですか。――の普通の中に、私が驚くような思い出があるかも知れません。これまでの旅がそうであったように」

「これまでの旅が鮮やかな色を見せるのは、オレのおかげって言うより、――のおかげだよ。他にも色んな人がいたからでもある。けどオレにとっての一番は――だ」

 

 嘘は無かった。少年は少女がいなければ足を止めていた。多くの英雄では少年を奮起させるには至らない。普通の少女が、死を恐れ、戦いを恐れる少女が奮起する様にこそ、少年は心を揺さぶられるのだ。

 少女は少年の言葉に頬を赤らめる。

 

「あ、ありがとうございます、――。でも、それは私にも言える事です」

「そう? それなら嬉しいよ。じゃあ話そうか。そうだなぁ、オレの人生は――」

 

 少女は、少年がいつもより薄く感じられた。いつもの状態に白を重ねた色をしているような、そんな印象を受けた。それが、ただの勘違いであればどれほど良かったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「聖杯は一つの端末として成った。さて、どうするかね?」

 

 内より出でる声に少女は眉を曲げる。

 少女は白髪に金色の眼、色素の薄い肌と口元には邪悪な笑みを浮かべる。唇は蠱惑的な桃色を見せている。衣服は身に纏っておらず、魔神柱が身体を這うようにして衣服のような形に見せている。

 

「分かり切っている事を聞かないで。決まってるわ。ここに亜種聖杯戦争を開始する。私と彼の永劫の愛の為に」

「ふふふ、了解」

 

 その宣言と共に、冬木での亜種聖杯戦争が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

「訳分かんないわね、これ」

 

 ジャンヌオルタはため息を吐いた。彼女はビルの屋上で夜景を見下ろしていた。だが彼女は夜景に動揺している訳では無い。

 

「私がルーラーって、馬鹿でしょ」

 

 ルーラーは公平性を保てるサーヴァントが選出され、聖杯戦争を規則通りに進める役割を持つ。しかしジャンヌオルタは事と次第によっては誰かに肩入れするだろうし、ルール違反を咎めない事もあるだろう。

 

「神明裁決は無し、ね。ま、あっても気持ち悪いだけだけど」

 

 ルーラーのみが持つ特権のうち神明裁決が剥奪されていた。けれど気配探知と真名看破は健在だ。冬木にいるサーヴァントの動きは見て取れるし、そのサーヴァントが誰かも分かる。

 

「ランサーが活発……それも異常に。私怨でもあるのかしら?」

 

 ジャンヌオルタは邪悪な笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは今し方起こった出来事にため息を吐いた。

 

「おかっしいなぁ。なんであのサーヴァントなんだろう」

 

 イリヤの要望通りだったのはバーサーカーである所までで、あとは全てが思惑と違った。サーヴァントと呼ぶと共に一つ目の令呪で『私を殺すな』と命令すると、バーサーカーは窓を破り市街へと跳んでいった。

 

「牛若丸……日本のサーヴァント? ううーん、もう訳分かんない!」

 

 規格外の状況にイリヤは再度ため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 アーチャーは森を駆ける。だがランサーが目の前に回り込み、槍を構える。

 

「弓兵。生き残ることに関しては一流らしいが、それはお前の専売特許じゃねぇな」

「今の貴様の専売特許でも無いだろうがな」

 

 アーチャー・エミヤオルタの言葉に、クー・フーリンオルタは笑みを浮かべる。

 

「抉り穿つ鏖殺の槍《ゲイ・ボルグ》」

 

 その投擲は、全力を超えるほどの全力である故に彼の右腕を損傷させる。それをルーンの魔術で再生させる。その間にある筈の激痛を狂化も無い状態で涼しい顔で耐えていた。

 

「終わったぜ」

「ご苦労」

 

 言峰綺礼はクー・フーリンオルタに歩いて近付く。

 

「しかし、令呪二画を使ってまでやる事か? あのアサシンとこのアーチャーはどちらもちゃんと状況を揃えりゃ勝てる相手だったと思うがな」

「それはその通りだろう。単純に聖杯戦争を勝ち抜くという目的であれば、正しいな。しかし今回の聖杯戦争は亜種だ」

「まあ、オレがいる時点で普通じゃあねえな」

「それだけでは無い。あのアサシン、衛宮切継もいたのだからな」

 

 守護者として聖杯戦争に呼ばれたと受け止めるには、あまりにも異常だ。

 

「で? オレはどうすりゃ良い」

「暫くは静観する」

「それは良いが……」

 

 クーフーリンオルタが林を見ると、その中から憎悪を着て歩いている女性が現れた。

 

「ルーラー・ジャンヌ・ダルクです」

「そうは見えないが?」

 

 ジャンヌオルタはその言葉に頷く。彼女としても聖女のふりをするのは耐えがたい屈辱であったが、反転していると素直に告げるのも癪だったのだ。

 

「そうね。まあルーラーという事には変わりません」

「ふむ」

「今回の聖杯戦争の異常性について、何か知っている事はありませんか? 何故ジャンヌ・ダルクでは無くジャンヌダルク・オルタ()なのか。何故クー・フーリンではなくクー・フーリンオルタなのか」

「教えるにはあまりにも手札が少ないものでね。ここで切るのは惜しい」

「なら力付くで聞き出すだけよ」

 

ジャンヌオルタが剣を構えると、言峰は肩を竦める。

 

「本当にルーラーか?」

「黙りなさい」

 

緊迫の空気に、一石投じられる。

 

「あれ? ここは?」

 

呑気な様子で周囲を見渡すのは、ゲーティアを退けたマスターだ。オレンジ色の髪が揺れている。

 

「マジかよ」

「嘘でしょう……?」

「?」

 

クーフーリンオルタ、ジャンヌオルタ、言峰は三者三様の反応を見せる。

そして、ジャンヌオルタが剣を下げると、クーフーリンオルタも槍を下げる。

 

「戦いは中断とします」

「賛成だ。良いな。マスター」

「ああ。彼女に話を聞くとしよう」

 

そうして、聖杯戦争は動き出した。




原作はステイナイトとグランドオーダーのどちらにすればいいのか。
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