── 轟 ──
「クソが!!近付けねえじゃねえか!!いっそ最大火力でブッ飛ばすしか・・・」
「やめろ!!」
気を失ったB組の円場を背負い、一向に衰える気配のない
「木ィ燃えても即効で氷で覆え!!」
「馬鹿か!!爆炎はこっちの視界も塞がるんだぞ!?それに質量のある氷と違って俺の炎とお前の爆発じゃ仕留め切れなかったらカウンターのいい的だ!!手数も距離も向こうに分がある!!」
恐らく止める理由が森への延焼であると考えたんだろう爆豪は、ならばすぐに消火すればいいだろうと苛立たしげに吠えるが、止める理由はそれだけじゃないと伝えれば歯軋りしながらその場に留まった
「じゃあどうしろってんだ!!一生テメェが氷出してる訳にもいかねえだろが!!」
「だからそれを考えてんだろ!!」
防戦一方の現状を打破する策も思いつかず、さりとて攻勢に出ようにも分が悪すぎて賭けに出るどころか賭けにすらならない
「肉~!!」
「うるせえ!!このカニバ野郎が!!」
「爆豪!!前に出るな!!」
『常闇君手筈通りに!!』
「ヴァ?」
「おい、この声・・・」
森から聞き覚えのある声が聞こえてきた
── 緑谷 ──
「前方に轟君とかっちゃん、それ以外に二人分気配がある。内一人は轟君と重なるような位置に気配を感じるからB組の人かも」
「ならもう一人は
「・・・俺たちが襲われた地点が確かこの辺りだったと思う」
「なら現場に居そうなのは障子君が襲われたっていう
地面に接地していれば[操土]で拘束できる
「可能だが、今は闇が深く暴走する可能性が極めて高い。もしもの時は対処を頼むことになるが構わないか?」
「問題ないよ」
「なら大丈夫だ」
ちょうど段取りがついたところで轟君達が交戦しているであろう場所のすぐ近くについた
「常闇君!手筈通りに!!」
ー 轟 ー
「あ・・・?」
森から聞こえる声に一同視界を向けると黒い影が肥大化しながら飛来してきた
『ギャアァアアア!!!!!!』
「新しいニギュエ!!」
黒い影は瞬く間に巨大化し、腕を
「肉~~・・・ぼ、僕・・・僕の肉を・・・横取りするなぁあああ!!!」
「埋まってろ!!!」
「ギュぺ!!」
不意打ちの一撃で叩かれた
しかし、攻勢に出るよりも早く地中に引きずり込まれ吐血して気を失った
「ぐぅううう!緑谷!」
「いくよ!!」
暴走状態なのか、巨大な影の腕が徐々に常闇を浸食し、取り込み始めた
緑谷は直ぐ様
その後、意識を失って首だけ出して地中に埋められた
・・・助かった
「これで良し・・・皆無事?特にかっちゃん」
「無事に決まってんだろ!」
「そう怒らないでよ。とりあえず
「なら緑谷と爆豪は中央だな」
こいつ自分も標的なこと忘れてないだろうな?
まるで爆豪だけが標的であるかのように語る緑谷を爆豪と共に中央に押し込め、周囲を他のメンバーで固めた
「索敵は障子が頼む。迎撃は俺と常闇が担当する」
「わかった」
「了解した」
「なら僕も障子君と一緒に索敵に回るよ。迎撃はお願い」
「そうだな。索敵係は多いに越したことはない」
「あ、かっちゃんはジッとしててね?」
「てめっ!!ふざっ!!何さらっと俺だけ保護対象にしてんだ!!クソデクが!!」
「だってかっちゃん
「テメーもだろうが!!」
「そこはほら、索敵するだけだから戦わないし、間接的な援護ならある程度できるけどかっちゃんは・・・無理じゃん?かっちゃん、運動神経と頭の回転が速いからある程度は臨機応変に対応できるけど、基本的には
「なくないわ!!クソが!!」
「えー本当?見栄とかじゃなくて?」
「しばくぞテメェ!」
「ほら、バカやってないで行くぞ」
ギャーギャー騒ぐ爆豪も、感情で納得がいかなくても頭では納得するしかないことを理解しているからか、口では文句を言いつつも保護対象に甘んじていた
── 緑谷 ──
かっちゃん達と合流してから進むこと数分、ガサガサと草をかき分けて進むとやや右斜め前方に麗日さんらの気配を感知するもすぐ近くにまたしても知らない気配がある
「2時の方向、約100m位の所に麗日さんと梅雨ちゃんの気配を感知。ただ若干離れたところに知らない気配もセット」
「どうやら交戦中で麗日が優勢のようだ」
僕が[
「取り敢えず急いで合流するぞ」
「うん」
『お茶子ちゃん!?』
「!?」
「まずい走るぞ!!」
前方から悲鳴が聞こえ急ぎ現場へ向かうと、そこには太ももを抑える麗日さんとやや離れた位置に蛙吹さん、そして麗日さんと対峙するように立つ奇妙な機械を背負って不気味なマスクをつけた制服姿の見知らぬ女性、恐らく彼女は
「麗日さん!!」
「デクくん!?」
「あーりゃりゃ~お仲間登場ですか?これは三十六計逃げるに如かずってやつですね!!さよなら!!」
「待ちやがれ!!」
「追うな!!」
それに反応してかっちゃんが追おうとするが、轟君がかっちゃんの足元を凍らせて無理やり停止させる
ここで下手に深追いすれば皆まで危険に晒すことになる
「おやおや?これは運がいい!!
「総員警戒態勢!!」
新手か!?
「下がれ!」
いつの間にか前方の木の上に仮面を被ったマジシャンのような出で立ちの
轟君が氷で攻めるが、
「そうかっかしなさんな。ほれ飴ちゃんくれてやるから」
そう言って放り投げた2つの『飴玉』は、空中で小さな音を立てて割れるとマンダレイのところで討伐した
「あら、カワイ子ちゃんが沢山!目移りしちゃうわ~!」
「マグ姉、気を付けた方がいいかもしれないぜ?なんせ過去にOM仕様の脳無を単身ぶっ飛ばしたバケモンがターゲットの一人だ」
「わお!!これは骨が折れそうね」
「数が増えやがった!」
[
・・・また複製体ってことは爆弾も仕込まれてるかもしれない
「どけ!俺がぶっ飛ばす!」
「やめろ!」
「ダメよ爆豪ちゃん!」
「離せ!」
[操土]
「もしかしたらご存じかもしれないが、俺のなま──」
「きゃっ!?」
両手を広げ、余裕の表情で自己紹介を始めようとするトカゲ
数秒空けて地面から爆発音が聞こえたが、圧縮された土を破壊するには至らずただ地面を少し揺らしただけだった
「うわ・・・不意打ちからの確殺とかそれがヒーローのやることかよ」
「形振り構ってられないんでね」
「あーあー、こちらコンプレス。強敵出現につき応援求む。マグネとスピナーの分身はあっという間に溶けた。ターゲットは揃い踏みでおまけが数人・・・え?あー・・・了解」
コンプレスと名乗る奇術師姿の
宙に舞ったビー玉が小さな破裂音を鳴らして砕ける視界を埋めるほどの巨大な岩が出現した
「っ!?」
[複製腕]
[指長]
[鉄腕]
[鎌鼬]
[突風]
飛来する大岩を切り刻むと礫となった元岩が周囲に土埃を舞い上げる
もうもうと舞い上がる粉塵を[突風]で吹き飛ばすとそこに新たな
「ジャンジャジャーン!!ジャンクフランケーン!!いやー持ってきといてよかった!!」
脳が剥き出しの化け物 ー 脳無 ー
異なる色の肌や毛深い獣の脚、岩や鉄で出来た腕がまるでパッチワークの様に継ぎ接ぎに縫い付けられ、それぞれの縫い目から血が垂れている
今までに見た脳無は能力や体格差はあれど、ここまで歪ではなかった
まるで複数の人形を分解して接着剤で無理矢理くっ付けたような不気味さ
「どうよ?大事に保管されてた脳無のプロトタイプの内の一体だぜ?異形種の異形たる器官や部位を移植して、薬で拒絶反応を押さえてるんだとさ。まあオツムはスカスカ、体は虚弱の失敗作だけど・・・捨て駒には丁度いいだろうと渡されたのさ」
「ガァァアアア!!」
「邪魔だボケェ!!」
突っ込んでくる脳無に対してかっちゃんが飛び出し、溜まりに溜まったフラストレーションをぶつける様に強烈な[爆破]をたたきつけた
「うわ、躊躇なくぶっ飛ばしやがった・・・でもそれは悪手ってもんだ」
「爆豪!前に出るな!」
「グゴゴゴゴ・・・」
爆煙が晴れた後、直撃を受けた脳無を見れば、右半身が抉り取られたようになくなっていた
脳無はそのまま倒れることもなく、みちみちと音を立てながら膨らんでいく
まさか!!?こいつにも仕掛けてあるのか!!?
「皆伏せて!!」
最も近くにいたかっちゃんの襟を掴んで皆のもとへ投げると即座に翼を広げて全身を硬質化した
膨らみ続けた脳無は眩い閃光を発し、肉片と共に周囲に鉄片をばらまいた
くそ!!炸裂手榴弾かと思ったらまさか音響閃光手榴弾と複合とか用意周到すぎだろ!!
両腕で顔を庇っていたので視覚は問題なく機能しているが、至近距離で爆音をくらったせいで三半規管がやられて視界が揺れ、上手く立つことができない
轟君やかっちゃん達は、脳無から離れていたのと僕が影となっていたのが幸いして僕ほど酷くはなさそうだ
「──!!──!!────!!」
[複製腕]
かっちゃん達の無事を確認して安堵し、使えなくなった耳の代わりに[複製腕]に耳を生やした瞬間、皆の焦る声と共に背後から何かが迫る音が聞こえた
「──ろだ!!デク!!」
「っ!!」
[
[金剛石]
眼を向ければ目の前に大岩が迫っていて、そのまま弾き飛ばされた
「グッ!?」
[反射]
「うぐ・・・のりゃ!!」
何本もの木をへし折りながらもどうにか着地し、[反射]を発動させて無理やり大岩を横にそらした
「ハア・・・ハア・・・クソ!引きはがされた!!」
三半規管が乱れてまともに立てない中、脚を縺れさせながら急いで戻った時にはボロボロにされた皆と掌でビー玉をジャラジャラと弄ぶ
「皆!!」
「爆豪が・・・!!」
「かっちゃん!?」
[
いるはずのかっちゃんの姿がなく気配を探ってもどこにもいない
代わりに捉えたのは少し離れたところから接近してくる覚えのない2つの気配
「残念だったね、お探しの爆豪君はここだよ?彼はこちら側の方が力を発揮できるからね?」
掌でビー玉を弄びながらへらへらと笑う
「返しやがれ!!」
「返せ?妙な話だぜ。爆豪君は誰のまるで物みたいに言うなんて。彼は彼自身のモノだぞ!!エゴイストめ」
[ジェット]
「返せぇえええ!!!」
視界がグラグラと揺れるのも構わず飛掛るが、投げつけられた岩に当たり地面に叩きつけられた
「我々はただ凝り固まってしまった価値観に対し『それだけじゃないよ』と道を示したいだけだ。今の子らは価値観を選ばされている。爆豪君は気性といい【個性】といいこちら側の方がきっと伸び伸び出来るだろうぜ?」
「ゲホッ!ってに・・・勝手に決めるな!」
「ムーンフィッシュ・・・【
「断る!俺は俺の意思で誰に指図されたわけでもなくここに居る!勝手に決めるな!」
「おっと振られちまったぜ!ダメもとで聞くけど緑谷はどうよ?」
「ふざけんな!」
「緑谷落ち着け」
轟君が特大の氷で
「はっはっはー!どうしたヒーロー!そんなんじゃ俺にゃ追い付けないぜ?開闢行動隊サブミッション完了!メインは抵抗中だ!増援まだかい?」
「この!」
[操土]
[剛力]
[怪力]
[
[
[
[鬼]
[操土]で即席の砲丸を作り出して投げまくるが照準が定まらない為当たらず、逆に合間を縫うようにビー玉を投げつけられ、その度に炎や氷、大木、巨岩等が飛来してくる
遊ばれてる!
豪っ!!!
「熱!!??」
やっと調子の悪かった三半規管が回復し、再び
「いつまで遊んでるつもりだ。引き上げるぞ」
「そうだそうだ!ちんたら遊んでんじゃねぇぞ!もうちょい遊ぼーぜ?」
「新たな増援か・・・!!」
新たに現れたのは、腕や顔に火傷が目立ち青い炎と黒い炎を両手から吹き出す
「嘘だ・・・な・・・んで」
隣にいる轟君から動揺した声が聞こえた
「轟君?」
「何で・・・何で燈矢兄さんがそっち側にいるんだよ!」
「騒ぐな鬱陶しい」
「危ない!」
「アツイィィ!」
「ぼけっとするな轟!」
「わ、悪い・・・」
「兄さんって兄弟?似てねえな!目元がそっくりだぜ!」
「さっきぶりですね!お茶子ちゃんに梅雨ちゃん!・・・あ・・あの人いいかも」
「あら~?皆ボロボロじゃない?これじゃ弱い者いじめかしら?」
「油断大敵だぜマグ姉!俺達2回も複製体やられてんだぜ?」
「遅いぜお前ら」
「遊んでるからだろう?遅くなってごめんな!」
そして続く様にトカゲ
「さっさとメイン回収してズラかるぞ」
「そうは問屋が卸さないよ!」
森の中から飛び出すように現れた人影は
「うおあ!?」
「スピナー!?」
「ヒーローなめんじゃないよ‼」
「緑谷無事かい?」
「マンダレイ!虎!」
「悪いけどこれ以上生徒達に手出しはさせないよ」
「・・・チッ」
底なし沼に嵌ったかのような現状に一筋の光が差し込んだ瞬間だった