Fate/Sunshine〜浦の星聖杯戦争録〜   作:フィッシュボール

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♯1 復讐者とアイドル

 

 宵闇が桜内 梨子の部屋に異様な影を落としていた。

 彼女は部屋に新聞紙を敷いてその上から趣味で使っている絵の具で魔法陣を描いた。

 触媒は彼女が普段使っている小さな鏡で特に歴史といえるものはなかったが、東京から引っ越してきて何もかもが新しい中でこの小さな鏡だけが自分にとって一番馴染みのあるものであった。

 

 (千歌ちゃんはもうやったのかなぁ……?)

 

 ふと、千歌の顔が頭を過る。

 東京からここ内浦に来て、一番最初に声をかけてくれたのは彼女だ。

 彼女がいなければ今の自分の生活はきっとこんなに楽しくはなかっただろう……。

 だから、ホントは乗り気じゃなかったけどやってみる―――。

 

 「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公―――」

 

 「―――天秤の守り手よ!! ……ってなにも起きない……」

 

 梨子はキョロキョロと辺りを見回したが特に変わったところはない。

 部屋には静寂が流れている。

 途端に彼女は顔を真っ赤にして立ち竦んだ。

 自分はなにをしているのだろう……! こんなの恥ずかし過ぎる!!

 思わず顔を覆ってしまう。

 やはり、悪魔を呼び寄せるなんて眉唾だ、そう思って新聞紙を片そうとしたその瞬間だった。

 

 「いたっ! ……って、えっ?」

 

 突然、右手の甲に鈍い痛みが走り梨子は思わず確認する。

 そこにはなんともいえない独特の形を何かの紋章が浮かび上がっていた。

 

 (なにこれ!? こんなものさっきまで――っ!!)

 

 動揺が隠せない梨子の後ろで魔法陣が光を放ち、衝撃が彼女の包んだ。

 棚にしまってあった本が次々に落ちてゆく。

 

 「キャッ!!!」

 

 短い悲鳴を挙げる梨子、そしてその瞳は恐怖のあまり硬直する。

 彼女は見たのだ―――。

 

 あぁ、悪魔は本当にいた。

 だって目の前に現れたソレ(・・)はどっからどう見ても悪魔だ……。

 巨大な翼が見える。

 部屋の中だから畳んでいるのだろう、広げたら5メートルはくだらない。

 そして、何よりもソレの髪に当たる部分はまるで意志を持っているかのように動きまわり毛先はまるで牙の生えた爬虫類―――そう、『蛇』のような。

 いや、アレは悪魔なんかじゃない。

 

 ――アレはおぞましい『怪物』だっ!!

 

 恐怖のあまり歯を鳴らしながら震える梨子に怪物はゆっくりとこちらを向く。

 まるで身体が石にでもなったかのように動かない!!

 

 「ふん……、これはまた随分と可愛らしいマスターに呼ばれたものよ。貴様のような生娘に復讐者の素質があろうとわな……」

 「あっ……あっ……」

 「なに、怯えずともよい」

 

 怪物は鱗と鋭い爪を携えた手で梨子の頬を軽く撫でる。

 殺される……っ! 彼女は固く目を閉じる。

 

 「フフフッ……。貴様は本当に可愛らしい。私好みだ。案ずるな、殺したりはせん」

 「……えっ?」

 

 怪物のその言葉に梨子恐る恐る目を開ける。

 見ると、その怪物は人型をしており、驚くほど長く伸びた髪はやはり蛇のようになっていた。

 

 (髪が……蛇? どこかで聞いたことがある。確か……)

 

 梨子が思考を巡らせる前に怪物の顔がそっと音もなく彼女の顔に近づき肩口でそっと囁いた。

 

 「―――そなたは私が優しく喰らうてやろう……」

 

 「―――ッ!?」

 

 悲鳴を挙げる間もなく、梨子は蛇のような髪に呑み込まれた。

 まるで、蛇が獲物を仕留める狩りのように静かに残忍に彼女はこの世から姿を消した。

 

………

……

 

 〜召喚の儀、渡辺 曜〜

 

 「――これでよし、と!」

 

 家の外に出ていた曜はなんと家の前の道路にチョークで魔法陣を描いていた。

 ちなみに彼女が触媒として使用したのはスクールアイドルを始めてから使っているマイクである。

 もし、これで召喚される悪魔がいるならきっと歌が好きで友達になれるかもしれないというなんとも彼女らしい発想だった。

 

 「じゃ、悪魔の召喚に全速前進! ヨーソロー!!」

 

 右手を前に出して詠唱を始める。

 

 「素に銀と鉄。礎に石と契約のタイコー……タイコーってどういう意味だろ? ま、いっか! 続き続き! 降り立つ壁には風を―――って、間違えちゃった。アハハハ! えっと降り立つ風には壁を―――!!」

 

 と、穴だらけながらも曜はなんとか最後まで詠唱を続けた。

 

 「抑止の輪より来たれ! 天秤の守り手よ―――!!」

 

 呪文を唱え終えた瞬間、一迅の風が砂埃を舞い上げながら曜を襲い、思わず彼女は目を瞑る。

 再び、目を開ける。

 が、そこには砂埃でチョークが削れたのか掠れた魔法陣とマイクがポツンと転がっているだけだった。

 その様相にポカンとしていた彼女だったがなにも起きていないと判るとケラケラと笑いだした。

 

 「なーんだ! やっぱりなんも起きなかったかぁ!! ま、そりゃそうか! さーて、部屋に戻って……って誰かいる!?」

 

 家の屋根の上、誰か立っている。

 ……アレは人間? なの??

 夜故にシルエットになってしまいよく見えないがフリフリの衣装を纏い、頭部と思わしき部分には2本の角、そして先端が割れた尻尾が生えている。

 何より目を引くのがソレの身の丈より大きなマイクスタンドにも見える物騒な槍のような物。

 あれは……あれは……

 

 「アイ…ドル……。衣装?」

 「―――問おう、あなたが私のマネージャー?」

 「えっ!? 私はスクールアイドルの―――」

 「なーんて☆ 言ってみたかったのよ、これ!」

 

 ソレは家の屋根から颯爽と飛び降りると曜の前でポーズをとった。

 濃い桃色の髪をしたソレはまさに美少女という言葉の為に生まれて来たような可愛らしさも持ち、そしてどこか近寄り難い高貴な雰囲気も兼ね備えていた。

 

 「……可愛い」

 「当然よ! 私はなんたってアイドルなんだからっ!! ところで、あなたさっき、なんとかアイドルって言ってけど……子リス、あなたもアイドルなのかしら?」

 「えっとぉ……はい! 私は渡辺 曜。浦の星女学院のスクールアイドルAquasに所属してます!」

 「そう、ヨウね。あなたは中々良いものを持ってるわ。私は―――あっ、と真名は伏せたほうがいいわね。とりあえず、『エリちゃん』と呼びなさい、子リス」

 

 エリちゃんと名乗ったその美少女はひらりと一回転して曜を指差した。

 分かる……この人(?)は天性のアイドルなんだと。

 

 「あ、あの……エリちゃんさん」

 「何かしら? 子リス?」

 「(子リスって私のこと!? ……でも、ま、いっか! なんか可愛いし!!)あなたはその、悪魔なんですか?」

 「悪魔……? アッハハハハ!! おかしなことを言うのね。私はサーヴァントよ? クラスは…そうね、『ランサー』かしら?」

 「ら、ランサー?」

 「そうよ。あなたこそ魔術師じゃないの?」

 

 曜にはエリちゃんの言ってるいることがまるで分からなかった。 

 サーヴァント? ランサー?? 魔術師??? まるで、善子が常に口にしているような単語ばかり出てくる。

 もしかして、目の前のこの悪魔は中二病なのかもしれない、と彼女は思った。

 

 「私は……ただの高校生ですよ」

 「へ? あなた、聖杯戦争に参加した魔術師じゃないの!?」

 「聖杯戦争って……?」

 「そう……とうとうこの私が聖杯戦争を知らない一般人と組むなんてね。まぁ、いいわ。とにかく、子リス! 私とあなたの二人で聖杯手にするわよ!!」

 「なんだか、よくわからないけど……りょーかいであります!! 聖杯に向かって〜全速前進! ヨーソローー!!」

 「何その掛け声? ……中々いいじゃない!」

 「なら一緒にやりましょう! せーの!!」

 

 「「聖杯に向かって〜全速前進! ヨーソロー!!」」

 

 渡辺 曜とエリちゃんは前方を指差して元気よく叫んだ。

 

 

 

 

   




 ということで、2年生は全員、召喚しました。
そして、梨子ちゃん推しの方、申し訳ありません!! 
別に私も梨子ちゃんが嫌いってわけじゃないんです!!
ただ、今後の物語の展開の為に今は一時休憩という形をとっただけです。
 さて、言い訳はこの辺にして……今回は二体のサーヴァントが出てきました。
 はっきり言ってこれは両方ともわかるでしょう。
 ので、言うまでもありませんが一応、まだ真名は伏せておきますね。
 次回もお楽しみに!! 
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