夕暮れに滴る朱   作:古闇

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二〇話.戻らない水色

 

 

 

 二日連続でこころちゃんの家に泊まってしまった日差しの中、こころちゃんのベッドで目覚めた。

 

 ベッドには私しかいなく、周りを見渡してもこころちゃんはいない。

 その代わりベッドの枕元にはメモがあり、私を起こしても起きなかったから先に食事を済ませるとのような、走り書きがされてあった。

 

 昨日から食事を口にしていないからお腹が空いていることに気づき、ベッドから抜け出て、ルームシューズを履く。

 

 昨日はいなかったクラゲさんが近づいてきて私の前に止まり、前に伸びた足の上に私のお泊りバッグとメモがあった。

 メモの主はこころちゃんでバッグは元あった客室に戻してくれるそうだった。

 

 こころちゃんと衣類を持ってきてくれた人に感謝を思って着替える。

 着替えて部屋を出ようとすると、イルカさんが私よりも先に廊下側の扉へ近づき触れて、扉が開いた。

 

 クラゲさんが持っていたメモにイルカさんが食事場所まで道案内をしてくれる、とあった。

 先導してくれるイルカさんについていき部屋から出る。扉も私が閉めるよりも先に自然と閉じた。

 

 ダイニングルームに辿り着くと、私が来るのを見越したようにお手伝いさんが出迎えてくれて、イルカさんはシャボン玉のように弾けて消える。

 

 席まで案内されて、そこで食事を頂いてお腹を満たす。

 デザートも貰った食後でぽけーとしていた。

 

 そうしているとお手伝いさんからこころちゃんが呼んでいると屋根下のラウンジまで連れていかれる。

 

 モーニングティーを楽しんでいるこころちゃんがいて、対面に座らされる。お手伝いさんが私の分の飲み物を注いだ。

 挨拶されるも昨日のことを思い出してしまって、小声で返す。頬が熱く羞恥心いっぱいで顔を見れない。

 

 

「身体の調子はどうかしら?」

 

「ちょ、調子はいいよ……」

 

「いい知らせね」

 

 

 こころちゃんはお手伝いさんに手と目線で合図すると、お手伝さんは礼と共に立ち去る。

 私は口を開くのを待っていたけど話がこなかった。二人の静かな時間、会話もなく時間だけが過ぎていく。

 

 私のティーカップの中身が空になり、気分がちょっぴり落ち着く。

 

 

「花音」

 

「う、うん!」

 

 

 静まってきた心が再燃焼。

 

 

「仲良くなって欲しい少女達が決まったわ」

 

 

 真面目な話だと思い、顔の熱が引いた。

 

 

「けどその前に、なぜそうすることであたしが自分を守りやすくなるかを話すわ」

 

 

 こころちゃんの目を見てしっかりと聞く姿勢をする。

 

 

「仲良くなる人物に関わることはこれから先、危険なことがあるかもしれないの。そして、仲良くなった人物に関わるモノ達があたし達の住む街で暴れる危険性があるのよ。死人がでるかもしれないほどにね」

 

 

 こころちゃんが危険から遠ざかることができないのは、こういったことのせいなのかな。

 

 

「仲良くなった人物たちの近況をリアルタイムで知ることによって、こちらは動きやすくなるし、自身を守る準備期間をかけやすくなるわ」

 

「こころちゃんが自分自身を時間をかけやすくなるってことはわかったけど、国の人は何をしているのかな?」

 

「動いているわ、専門職だっている。でも、あたしの住む町で好き勝手に動かれても困るし、すぐに行動に移せないこともあるから手出し不要にさせているのよ。あたしの周りにいる人間の監視者達に連携されても面倒になるしね」

 

 

 国の人が何とかしているなら、伯父さんの件はどうなのだろう。

 

 

「今回の伯父様達の件で専門職の本拠点を半壊させているの、相当な痛手で大変なことになっているわ」

 

「日本で起きていることだったんだね」

 

「ええ、もういよいよとなったら花音に知らせるわ」

 

 

 最初にアンナさんから話を聞かせれた時は、もっと個人なことだと思っていた。けど国の人でもこころちゃんの伯父さん達を抑えることが難しいんだ……やだな、こころちゃんは渦中に飛び込むんだよね。

 

 

「仲良くなって欲しい少女達はこれに記載したわ」

 

 

 そう言って一冊の手帳を私に渡した。

 開いて内容を確認すると名前やプロフィールやどの場所でよく過ごしているかなど記載されてあった。

 

 仲良くなって欲しい優先度もあって、先に書かれていた少女が身近な人だった。

 

 

「千聖ちゃん?」

 

「そう、白鷺千聖よ、彼女の問題をまず最初にどうにかしないとね。お互い情報の齟齬があるといけないわ、花音が知っている千聖の八月ころからの様子を教えて欲しいの」

 

 

 まさか千聖ちゃんの名前がこの手帳に載っているとは思わなくて少しフリーズしてしまったけれど、千聖ちゃんの話を聞きたいということで最近の千聖ちゃんのことを語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千聖ちゃんのお兄さんが行方不明になったこと、千聖ちゃんのお家で見た不思議な現象、最近の千聖ちゃんの体調などを話した。

 

 

「――それでね、千聖ちゃんが体調悪そうだったよ」

 

「ありがとう、次はあたしね。手帳に記載してないことも喋るからふわっと覚えておいてね」

 

 

 ふわっと覚えたら私が困らないかな。

 

 それにしても不思議な気分。いつもはこころちゃんが決めて美咲ちゃんと私で細かな相談をするのに、こうしてこころちゃんと話すのははじめてかもしれない。

 

 

「まず一つ目、白鷺家の長男はこの街に来る前から死んでいるの、今は手先の悪霊となって千聖を狙ってる。花音が白鷺家で見た千聖の兄は悪霊とは別で、記憶の残滓。残滓は放置しても自然消滅するけれど残滓の方も悪霊化が進んでミッシェルが成仏させたわ」

「二つ目、白鷺家の家の壁を叩いたのはミッシェルだわ。悪霊化が進んだ兄が千聖に悪夢を見せようとしたから叩き起こしたの、今は心配はないわ……でも、この街から離れたらわからない」

「三つ目、千聖に元気がないのは白鷺家の兄が行方不明になったことでトラウマが再発して体調を崩したからかもね、それか外での悪霊の介入か。今の現状が長引くようならあたしが大元ごと終わらせるわ。ただ、トラウマの克服は難しくなる、どうにかするなら早めにね。あたしからはこのくらいかしら」

 

 

私が思っている以上に千聖ちゃんの現状が悪い。お兄さんが死んだ元凶がいて、お兄さんはその手先になったのだろう。

 

 

「千聖ちゃんになんて言おう……県外でもお仕事しているから危ないよね……」

 

 

 死んだお兄さんが千聖ちゃんを狙ってる、なんて千聖ちゃんに報告できるわけがない。情報の出処を探られても話せない。

 お兄さんの葬式もあったなんて聞いてないから死体も見つかってない。

 

 私が千聖ちゃんのためになることすればトラウマの克服なのだろう。

 

 

「千聖に付ききりでもないけれど、ある程度はミッシェルが守ってる。でも乗り物で移動されると厄介なのよね、高速道路を走ったり、新幹線だとミッシェルが追いつけないの」

 

「ミッシェル……ちゃんの他に千聖ちゃんを守っている人はいるの?」

 

「バンド活動する際は、手がフリーの人に行ってもらっているわ。基本はミッシェルね」

 

 

 ミッシェルちゃんがどのような力を持ち、会話したこともないけれど、こころちゃんが任せているのだからきっと力のある幽霊さんだ。

 

 

「千聖ちゃんがお守りを欲しがっていたけど渡せないよね」

 

「まぁ、そうなの? 辻褄合わせをこちらでするとして、事が終わるまでの間は常に身につけて貰えるような物にしておかないとね。花音が説得して千聖にいつも持たせて、こちらで用意しておくわ。ミッシェルは少し我慢してもらいましょうか」

 

「……あ、ミッシェルちゃんって幽霊さんだった、千聖ちゃんを守っているのに神聖な物とかで力が弱くなったりしないの?」

 

「ミッシェルは苦労して強い幽霊になっているから余程の物でなければ効かないわ。でも、祝福された聖水ってミッシェルには泥水と同じだから怒るわよ、気をつけてね」

 

「うん、ミッシェルちゃんは神聖な物とかダメなんだね、気をつけるよ」

 

 

 教会とか神社とかも好きじゃなさそうだ。

 

 こころちゃん達は人を守ることをしているけど資金源ってどこから出てくるのかな。

 

 

「こころちゃん、こういった活動って国に支援とかしてもらっているのかな?」

 

「自分たちで好き勝手にやりたいから国からの援助金や人材などは断っているわ。それと、協力関係は築いているけど派閥があって必ずしもあたし達と連携できる訳ではないの」

 

「自由にやりたいのも大変なんだね……気を悪くしないで欲しいんだけど、こころちゃんって箱入り娘だからこそ世界を笑顔にできると思っていたの。こころちゃんのお話を聞いているととても怖い人達がいるのにどうして笑顔にしたいって思ったの?」

 

 

 人助けをしたいのは素敵なこと、普通の人間の少女だったら素直に認められる。

 けど、こころちゃんは妖精さんで怖ろしい人達を知っていて、現実的なことも見えているはず。それでも世界を笑顔にしたいのはなぜか知りたかった。

 

 

「そんな気分だからよ」

 

「……き、気分なの?」

 

 

 気分にしてはスケールが大きい気がする。

 

 

「ええ、気分だわ、何かをしたかったり気になったりするじゃない。花音もあるでしょ?」

 

「あるけど、あるんだけどっ……もっと理由があるのかと思ってたよ」

 

「理由なんて深い考えはないの、したいからしているのよ」

 

「そっかぁ、素敵だね」

 

 

 こころちゃんが笑顔で笑い、私もつられて笑った。

 

 お日様のようなこころちゃんの笑顔が眩しい。長いこと生きているみたいだけど、これは変わって欲しくない。 

 

 

「今日はミッシェルが戻ってきていて会話をして欲しかったんだけど……怒っているから、近づかないほうがいいわね」

 

「ふぇ? なんでなのかな」

 

 

 私は首を疑問に思って首を傾げる。

 ミッシェルちゃんに怒られるようなことをした覚えがなかった。

 

 

「本人に聞いてね。ミッシェルに一言話しておくけど、どうしようもなくなったらあたしに言って、なんとかするわ」

 

「が、頑張るよ……お話できるかな……」

 

 

 ミッシェルちゃんが会話してもいいと思ってくれなかったら話せないんだっけ、大丈夫かな。

 ミッシェルちゃんのことを話していたら気づいたことがあった。

 

 

「こころちゃんも薫さんもキグルミに入ってDJしている人が美咲ちゃんだってわかっているよね、知らないふりはやめられないのかな……」

 

「時期を見ているの。今の調子の美咲なら、二年生になる春ごろには話せるわ。その時ならお願いも聞いてもらえそうだしね」

 

「もしかして、そのお願いのために気づかない振りをしてるの引っ張ってるの?」

 

「違うわよ、美咲はなんだかんだで楽しんでくれていると思っているけど、自分を守れるように一歩線を引いているの。面倒見がいいから、ハロハピに愛着を持たせている最中だわ」

 

 

 他の人から見ると、ハロハピメンバーの中で美咲ちゃんは裏方だと認識されている。自分のことで騒がれたりするのを好まないから他の人に自分がミッシェルだって話していない。

 そんなこともあるから、こころちゃんは待っているのかもしれない。遠回りな方法だけれど、やり方に正解はないと思う。

 

 

「だったら、私から美咲ちゃんのことで話すことはないかな」

 

「なら、あたしから最後の質問ね、これで休憩にしましょ」

 

 

 私は頷く。

 

 

「自分が変わったと感じたことはないかしら」

 

「…………普段どおりだと思うよ?」

 

 

 泉で溺れたときのことか、それとも昨日の無茶じゃないかと思えることをしたからか、こころちゃんは少し心配性になっているのかもしれない。

 

 

「ありがとう、少しばかり休憩にするわね」

 

「うん」

 

 

 私こころちゃんのお願いを叶えるのは当り前のことなのだから無茶振りはもう少し考えて欲しいと私は思った。

 

 

 

 

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