四月二四日、特別実習初日。一仕事を終え、ウィルバートは荷物の最終チェックを行っていた。今日から二日間トリスタから離れての活動になるため、様々な状況に対応でき且つ出来る限り少ない荷物にしなければならない。そんなことでウィルバートが唸っていると、トントンとドアがノックされた。適当に返事を返すとドアが開かれる。
「おはようウィルバート。朝からすまぬな、少し話がしたく……て……」
「ああ、おはようラウラ……ラウラ?」
部屋を訪れたラウラだったが、すぐに言葉に詰まってしまった。何しろ目の前の少年が真剣な表情でメイド服を手にあーでもないこーでもないと呟いていたわけで……一応の事情は聞いてはいるが、その光景のインパクトにはなかなか慣れないものである。
「……済まない。だがウィルバート、その服も持っていくつもりか?」
「まあ、何があるか分からないし」
「いや実習中にその服に着替えることなどなかろう……」
呆れ顔なラウラを他所にウィルバートは手短に荷造りを終えてしまう。時計を確認すると、A班の集合時間までは少し余裕がある。
「それで、話って何?」
「ああ、そうだったな。いや、リィンとアリサのことなのだが……」
どうやらラウラはリィンとアリサが未だに仲直りが出来ていないことが気掛かりらしく、この実習が終わるまでにはなんとかしたいのだそうだ。この二週間ほどの間も二人の仲をなんとか取り持とうとしていたのだが、結果は芳しくなかった。そこで、ウィルバートとまだ話はできていないがエリオットにも協力してほしいとのことらしい。
「まあ確かにいつまでも仲違いされるのも困るけど……まあ、あの二人なら大丈夫でしょ」
「何故だ? この二週間なんの進展もないのだぞ?」
「今はちょっとすれ違ってるだけだと思うから。っと、そろそろ時間だ。行こうか、ラウラ」
時計は既に集合時間まであと僅かまで迫っていた。ラウラを連れ部屋から出ると、ちょうどエリオットも部屋から出てくるところだった。
「おはようエリオット」
「あ、おはようウィルバート……と、ラウラ?」
「ああ、おはよう……なんだ? 私の顔に何かついているか?」
「そうじゃないけど……なんでウィルバートの部屋から出てきたのかなって……」
「なんでって、ウィルバートに話があったからな」
それがどうかしたのかと首を傾げるラウラは、エリオットが抱いた疑問には気付いていないらしい。ウィルバートに目線をやると、首をすくめるだけだった。
「そうだエリオット、そなたにも一つ相談があるんだが――」
「いや、もう必要なさそうだよ?」
ウィルバートにも話した、リィンとアリサのことをエリオットにも話そうとするラウラだったが、それをウィルバートが制止し、階下を指さす。階段の上から丁度見えるところで、リィンとアリサが何やら談笑しているのが見える。どうやら知らぬ間に仲直りしていたようで、これで実習もなんとかなりそうだと三人は顔を見合わせ苦笑するのだった。
ウィルバートらA班がトリスタ駅に到着すると、既にB班も揃っていた。ただ、相変わらずユーシスとマキアスは背を向け合い無言のままで、他の三人は困ったような呆れているような顔をしていた。A班の到着に真っ先に気づいたフィーが、珍しく真剣な表情でA班の元へ向かってくる。
「ウィルバート……」
「ど、どうしたんだよフィー。やけに真剣だけど……」
「ん……ちょっと頼みがあって……」
いつも授業中に寝てたり昼寝してたりと猫みたいに自由気儘な姿とは違うその真剣さに、ウィルバートのみならずリィンら四人も固唾を呑みフィーの言葉を待つ。が――
「――班分け、代わって」
フィーの頼みとは、ずばりその一言だった――
「……は?」
「だから、班分け。見てよあれ、もう既にメンドそう」
フィーの指さす先には依然変わらぬユーシスとマキアスの姿が。あれは確かになぁとリィンとアリサがひそひそ話しているが、二人も昨日までこんな感じだったよね? とウィルバートは思ったが口にだすのはやめておいた。無論ウィルバートもあの二人と同じ班は嫌だし、フィーの気持ちも分かるのだが……
「ゴメン無理。正直言ってあの二人の仲を持つのは大変そうだし……何よりサラが認めるとは思えないしね」
「あー、それもそうだね。サラのことだし、メンドイけど仕方ないか」
班分けを決めたサラが意図的にこの組み合わせにした以上、何か狙いがあってのことだろうし、そもそも班分けに関して意見を聞く気はなさそうだったので、変更はないだろうと確信していた。
「まあ、代わってやることは出来ないけど応援してるからさ。それと、こんなことしか出来ないけど」
手に持っていた包みをフィーへ差し出す。朝早くB班のために作った弁当で、ウィルバートとしては同情半分、少しでも話のネタになることへの期待半分といったところ。ちなみにA班が向かうケルディックは一時間もかからない予想なため用意していない。
「ん、ありがと」
フィーが弁当を受け取るのとほぼ同時にヘイムダル方面行き列車の到着アナウンスが流れ、B班は改札を通って行った。続けてケルディック方面行きの列車も到着するとのことなのでB班を追いかける形でA班も改札を通るのだった。
列車の中でケルディックについて話し合ったり、ブレードというカードゲームに興じたりしていると、どういうわけかサラが隣のボックス席にやってきた。初めての実習なので最初だけ同行してくれるとのことだが、五人が質問をぶつける前に寝入ってしまう。しばらくしてケルディックに着いた一向は、未だに寝ているサラを起こしつつケルディックへと降り立つ。宿へ案内するというサラの後に続く五人――その姿を遠くから眺める人影に気づいたウィルバートは、軽く手を振ると何事もなかったかのように他のメンバーと話し始める。
「はいこれ。とりあえず必須以外のモノはやらなくてもいいわ。ま、どうするかはキミ達次第ってことね。それじゃあ私はこれで」
宿の部屋で荷物を降ろした五人は、未だ説明のない特別実習についてと五人で一部屋という困った部屋決めに文句を言うためサラの元へ。尤も相部屋に文句を言っているのはアリサだけなのだが、文句を言わずに受け入れているラウラが特殊なだけでこの年頃の女子としては割と普通な反応だろう。
そうして一階へ降りた五人が見たのは、真昼間からビールを煽るサラの姿だった。ひとまず疑問を突き付けると部屋に関してはもう空きがないので諦めるように、そして特別実習については一つの封筒を渡すだけで、この中に実習内容があるとしか教えてくれなかった。とりあえず近くのテーブルに座り封筒の中身を確かめることにし開封すると、中から紙が三枚出てきた。依頼書と書かれており、それぞれ魔獣の討伐、導力灯の交換、薬の材料集めといった内容が記されていた。
「これが特別実習の内容?」
「でもこれって、士官学院生がやるようなことかなぁ?」
お世辞にも軍の士官学院のカリキュラムとは思えない内容に困惑する者がいる中、リィンはなるほどと納得していた。リィンは先の自由行動日、半ばサラに嵌められる形で生徒会の手伝いを行い、その内容と特別実習の内容がほぼ同じ且つサラから特別実習のリハーサルとも聞いていたためだ。なお生徒会の手伝いは以降も行うつもりらしい。
「……………………」
そんな中ウィルバートは依頼書を眺め黙りこくっていた。信じられないものを見た、という顔をしている。と思えば離れた席のサラの方をじーっと睨み始める。その視線に気づいたサラは悪戯っぽく笑うと、またビールを煽り始めた。
(確信犯か……リィン達はともかく、俺にまで遊撃士紛いのことをさせるなんて、何を考えているんだ?)
これは何を言っても無駄だと悟ったウィルバートは四人と共に今日の予定を話し始めていくのだった。