「居た、あれが依頼された手配魔獣みたいだね」
「ああ。依頼主も困っていたみたいだし、しっかりやり遂げないとな」
東ケルディック街道外れの高台。そんなところにⅦ組A班の五人は来ていた。目的は特別実習の依頼の一つである手配魔獣の討伐だ。
「スケイリ―ダイノか。あの種は確かに煩いからなぁ」
「だが手ごわそうだぞ」
「ええ、気を引き締めていきましょう」
初めての依頼に初めての手配魔獣ということで慎重に相手の動向を探る四人に対し、ウィルバートはこの面子――というよりリィンとラウラならなんとかなりそうだと判断した。
「じゃあリィンとラウラが前衛、俺とアリサが中衛、エリオットが後衛で行くか」
「それは構わないけど、なんでまたウィルバートは中衛なんだ? 槍にしろ剣にしろ斧鎗にしろ前衛向きじゃないか」
「いや前衛に三人もいらないだろ。戦術リンクの仕様から前衛は偶数が好ましいから」
戦術リンクは基本的には二人一組で発揮されるものであるため、三人だと必然的に一人リンクから外れてしまうことになる。その点から前衛を辞退したウィルバートだったが、実のところそんなに苦戦しないだろうと思っての行動だ。
ウィルバートの予想通り、ピンチに陥ることなく手配魔獣を倒すことに成功した五人。ただ連携はまずまずといったところだった。
「はぁー、緊張したあ……」
「それに手強かったものね……」
「はは……それじゃあ少し休憩してから戻ろうか」
緊張の糸が切れたのかエリオットがへたり込んでしまう。アリサも疲労が強いようで、その様子に気づいたリィンが休憩を提案する。
「……」
「ラウラ? どうかしたのか?」
「……いや、なんでもない」
その様子をラウラが気にした様子で見つめていた。ウィルバートはそれに気付いたが、ラウラはウィルバートにも同じように見つめるだけだった。
今日の特別実習を終えたⅦ組A班は風見亭に戻り早めの夕食を食べていた。この後レポートをかかなくてはならないため、食事の後に全員で取り掛かることになっていた。
「それにしても今日は疲れたわね」
「うん……手配魔獣や他の依頼も大変だったけど……」
「大市での騒ぎ――あれが一番大変だったな」
手配魔獣を討伐してからケルディックに戻ってくると、大市で商人二人の出店場所がブッキングしているという騒ぎが起こっており、五人が止めに入ったが中々収まらず、結局は太市の元締めであるオットー元締めのとりなしでなんとかその場は収まったのだ。そして騒ぎが起きても中々静かにならなかったのは――
「領邦軍への陳情をやめない限り大市でのトラブルには無干渉とは……」
「それに出店場所のブッキングも杜撰というか……」
「ま、そんなもんだろ」
「――え?」
領邦軍のあまりにもな対応に辟易としている四人とは違い、ウィルバートはさほど気にした様子もなく食事を続けている。その様子に四人が呆気にとられている間にささっと食事を終え、テーブルを立つ。
「じゃ、俺は先に戻ってレポート進めておくよ」
そういうと背を向け歩き出すウィルバートに、たまらずラウラが声をかける。
「ま、待てウィルバート! そなた、領邦軍のあの態度に何も感じないのか!? 彼らはあきらかに守るべき領民をないがしろにしているのだぞ!?」
大声での叫びにリィン達や他の客も驚いて二人に注目する。当のウィルバートは振り返ることなく
「――腐った権力者なんて見飽きる程いるんだよ」
一言告げるとそのまま去っていった――
夜も更けた頃、ウィルバートは一人手配魔獣を倒した高台に来ていた。
「……………………」
思い返すのは先程のラウラの言葉。彼女達の言う通り領邦軍、ひいてはクロイツェン州を治めるアルバレア公爵家の対応に不満が出るのは当然で、実際ウィルバートだって何とも思っていないわけではない。
「こんなの、どこでもあったことだ……」
脳裏にちらつく下卑た笑い声、欲に塗れた顔、そしてこちらへ伸びる手――汚い人間はどこにだっている。彼はそのことを良く知っている――だからだろうか。ああ、またかと――
「そうだ、まただ――マスターならあんな連中、見逃したりするもんか……なのにどうして俺は――」
頭を抱え自問自答をするが答えは返ってこない――いや、答えなんて最初から知っている。いくら考え、否定しようとしてもそれは変わらない。そのことがウィルバートを苛み続け――
「――ウィルバート」
そんな様子のウィルバートに声がかけられる。振り向くと、そこには少女が一人、凛とした佇まいでいた。
「ラウラ……?」
「近くで素振りをしていたらウィルバートの姿が目に入ってな――どうか、したのか?」
「さっきは悪かった」
「うん? 何のことだ?」
「食事の時、態度悪かっただろ? 俺」
ウィルバートとラウラは二人夜空を眺めながらポツポツ話をしていた。といっても、ほとんどウィルバートが喋る一方だが。
「まあムっとはしたが――よいのだ。ウィルバートにも、理由があったのだろう?」
「ああ……いい機会だし、聞いてもらえるか?」
ウィルバートの言葉に、ラウラはただ頷く。それを見たウィルバートは一度目を伏せ――決意を固め口を開く。
「俺には故郷がないって話はしたよな?」
「うん。確か各地を転々をしていたから、故郷と呼べるほどの場所はないと」
「それ、嘘なんだ。いや、各地を転々としてたのは本当だけど……俺は、いわゆる捨て子でさ」
「え――」
「いや、もっと酷いかな。物心つく前に実の両親に身売りされたんだ。とはいってもこれも人聞きだから本当のところは知らないが――まあ、捨て子。それで買い取った奴がもうどうしようもないクズでさ、ソイツの仲間達も当然クズ。そしてそんな奴らに育てられた俺も――その関係で大人の汚いところは大分見てきた。ケルディックの領邦軍なんか可愛く見えるほどのね」
「それは――」
「ラウラは、いやみんなは知らないほうがいい――その後、今の俺の師匠にあたるような人に助け出されてからようやく、俺の常識は常識じゃなかったことを知った。おかげでこうして学生なんてやれてるんだが――どうやら俺の一部は壊れてるみたいでさ」
「壊れてる……? どういう意味だ? 体はなんともなさそうだが……」
「心、らしい……領邦軍や他のクズ共、、その所業を見たり聞いたりしてもなんとも思わないんだ、俺は。むしろ――いや、とにかくそういうわけ。あっ、だからといって許したり見逃したりはしないからな? マス……師匠もそういった人種が大嫌いだしね」
「ウィルバート……」
「っと、そろそろ肌寒くなってきたな。そろそろ戻ろうか、ラウラ」
なんでもなかったかのように歩き出すウィルバートに、ラウラは声をかけることは出来なかった――
特別実習二日目の朝。Ⅶ組A班の五人は早速朝食を取りにやってきた。その途中でリィンがラウラに謝罪をし、アリサとエリオットが微笑ましくその様子を眺めていた。ただ一人ウィルバートだけは謝罪の原因を知らないため何かあったんだろうなくらいにしか思っていなかった。そのまま依頼を始めようとしていたところに、思わぬ知らせが入ってきた――大市で事件が発生したというのだ――