英雄伝説 双の軌跡   作:イヌ魚

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特別オリエンテーリング

 士官学院本校舎の裏側、人気もなく廃れた雰囲気に包まれた場所に一つの建物がある。

 

 トールズ士官学院・旧校舎

 

 現在は使われておらず普段は鍵が掛けられている。そんな場所にサラとウィルバート達赤い制服の生徒達はやってきた。途中紅毛の少年が口に出していたが、いかにも出そうという感想はここに来た誰もが一度は思うだろう。そんな彼らの気持ちなどどこ吹く風、口笛を吹きながらサラは旧校舎の鍵を開けとっとと中に入ってしまい、他の者も中に入らざるを得なくなってしまった。

 

 旧校舎の中は照明もないのか薄暗く、だだっ広い空間が広がっていた。そう、何もないただの広い空間で、一体なんのために連れてこられたのか分からず困惑する者やイライラしだす者、呆れる者とがいたがやっぱりサラはそんなこと気にも留めず壇上へ上がると、やっと彼らへ向き直った。

 

「サラ・バレスタイン。今日から君たち《Ⅶ組》の担任を務めさせてもらうわ。知っている人もいるだろうけど、よろしくお願いするわね」

 

 知っている人、のくだりでチラリと自分と銀髪の少女に目をやったのをウィルバートは見逃さず、その行動で銀髪の少女が想像通りの人物だということを確信した。ちなみにこの少女、ウィルバートがトリスタの公園で見かけた少女だったりする。

 

「な、Ⅶ組……!?」

 

「それに君たちって……」

 

「ふむ……? 聞いていた話と違うな」

 

 当然の如く生徒達からは疑問の声が次々に出てくる。それもそのはず、特別オリエンテーリングもだし、Ⅶ組という初めて聞く単語もあり、どう考えても説明が足りない。疑問を抱くなというほうが無理があるだろう。

 

「あ、あの、サラ教官? この学院の一学年のクラス数は五つだったと記憶していますが。それも各自の身分や、出身に応じたクラス分けで……」

 

 眼鏡をかけた女生徒が恐らく皆が思っているだろう疑問を投げかけた。そういえば身分関係なく集めたという事実は知っていても、その理由は知らないなーとウィルバートはふと思っていた。まあ大体の予想はついていた。制服と一緒に送られてきたアレ(・・)だろう、と。

 

「お、さすが主席入学。よく調べているじゃない」

 

「いやサラ、それってパンフレットにも書いてあることじゃ」

 

「だまらっしゃい」

 

 ついツッコミを入れたウィルバートを軽く黙らせると、サラは話を続けていく。確かに身分によって分けられた五つのクラスがあり、そのいずれかに所属することになる――去年までは、と。そのまま今年から新設される特科クラスⅦ組の概要を説明し、身分関係なく~のくだりに入ったところで眼鏡をかけた緑髪の少年が声を張り上げ、それに応えるように金髪の少年も眼鏡の少年を煽るような言動で答えなし崩しに口論に発展していった。

 

 眼鏡の少年――マキアス・レーグニッツと金髪の少年――ユーシス・アルバレア。貴族嫌いのマキアスと貴族の子息ユーシスという、相容れないだろう二人のファーストコンタクトである。

 

 ちなみにユーシスの実家であるアルバレアとは勿論あの四大名門・アルバレア公爵家である。つまりユーシスは貴族の中でも知らぬ者などいない大貴族の身である。その事実もまたマキアスは気に食わないようだが、サラの制止で一旦落ち着きを取り戻したようだ。依然、ユーシスを睨みつけたままだが……

 

「さてと、そろそろオリエンテーリングを始めないとねー」

 

「オリエンテーリングって、結局何をするんですか……あっ、もしかして門のところで預けたものと関係が?」

 

「あら、いいカンしてるわね」

 

 黒髪の少年の言葉に満足したのか、サラはやけにニコニコしていた。他の者もそういえば……と何かしら預けたことを思い出したようだ。ちなみにウィルバートは門のところでサラに捕まったのち、すれ違い様にサラに包みを引っ手繰られていた。そしてその包みを今サラは持っていない。

 

「――それじゃ、さっそく始めましょうか♪」

 

 サラはそのまま少し後ろに下がると、何かを押した――

 

「えっ……」

 

「きゃあっ……!?」

 

 途端、床が傾き下へ滑り落される八名(・・)。咄嗟のことで反応が出来なかったのか、皆抵抗することなくずるずる下へ落下していく。

 

「ん? あの黒髪の奴は違うみたいだな」

 

「そうみたい」

 

 自身も落下する中、黒髪の少年が咄嗟に近くにいた金髪の少女を助けようと動いたのをウィルバートと銀髪の少女は目撃していた。この二人、サラ謹製の落とし穴をさらっと回避していたのだ。銀髪の少女はどこからか取り出したアンカーワイヤーを天井の梁に絡ませ宙に浮いている。一方のウィルバートは落とし穴が作動した瞬間に跳躍し、サラの隣に来ていた。

 

「ちょっとウィルバート、フィー、アンタ達も行きなさいよ」

 

「ヤ。めんどくさそう」

 

「俺は行ってもいいんだけど、落とし穴に嵌るのは嫌だったからつい」

 

「いいから行くっ!」

 

 懐から取り出したナイフを投げ銀髪の少女――フィーがぶら下がっているワイヤーを切断し、フィーは面倒そうな顔を浮かべながら落下していった。

 

「おーおー、酷いことするなサラ」

 

「なに他人事みたいに言ってんの、アンタも行くの。ほらっ!」

 

 ジト目で睨みつけながら、腰に下げた銃に指をかける姿を目撃したウィルバートは一瞬にして顔を真っ青にし落とし穴へ飛び込んでいった。それを見てサラはうんうんと笑顔で頷くのであった。

 

 

 

 ウィルバートが穴の底に着地するのと、バチンっと大きな音が部屋に響いたのはほぼ同時だった。音のした方ではどうやら黒髪の少年が金髪の少女にビンタをされたところらしい。何故そうなったのか生憎ウィルバートは見ていなかったため分からないが、大体のところは察していた。つまり

 

「ラッキースケベか」

 

「うん。そうなるのだろうな」

 

 ちょうど横にいたラウラが答えたため、推測は確信になってしまった。何にせよ気の毒なことだとウィルバートは同情した。先ほどみた限りだと黒髪の少年は他意も下心もなく、ただ金髪の少女を助けようとしただけだった。その見返りはこれではあんまりである。

 

(ん? あの金髪の子、もしかして……)

 

 その金髪の少女の姿を知っている気がするウィルバートが確認のため少女に話しかけようとした時、不意に通信音が鳴り響いた。どうやら全員のポケットから聞こえてくる。それは入学案内書と共に送られてきたもので……

 

「通信用のオーブメントか」

 

「いや、これは……」

 

『――それは特注の戦術オーブメントよ』

 

 導力器からサラの声が流れる。通信機能付きの戦術オーブメント。それも見るからに新品同様のもので――

 

「まさか、これって……」

 

『ええ、エプスタイン財団とラインフォルト社が共同で開発した次世代型戦術オーブメントの一つ。第五世代戦術オーブメント《ARCUS(アークス)》よ』

 

「アークス……」

 

『戦術オーブメントは、クオーツをセットすることでアーツが使えるようになるわ』

 

 七耀石(セプチウム)の欠片であるセピスから作られるクォーツという結晶を組み込むことで、アーツという魔法のようなものが誰でも使えるようになる。更には所持しているだけで身体能力をも向上させるというのが戦術オーブメントで、軍人や遊撃士などの必需品といえる。尤も、エレボニア帝国の軍人には不要かも知れないが。

 

『君たちから預かっていた武具と特別なクオーツを用意したわ。さ、受け取りなさい』

 

 言い終わると同時に部屋の照明がついた。周囲にはそれぞれが持ってきた包みやらケースやらが小さな箱と共に並べておいてあった。しばしの無言の後、それぞれの場所へ全員が向かっていった。

 

「俺のは……あれか」

 

「私はあれだな」

 

 ウィルバートとラウラも自分の武具の元へ行き、真っ先に武具の確認をする。どうやらキズはついておらず、何かしら弄られた形跡もないことを確認すると、ウィルバートはホっと一息ついた。これは大切な人から授かったもので、万が一キズなどあれば後先考えずにサラに喧嘩を売りに行ってもおかしくないほどの気の入れようなのだ。それから小箱を開けると、中には普通とは違うクオーツが入っていた。

 

『それはマスタークオーツよ。アークスの中心に嵌めればアーツが使えるようになるわ』

 

「ふむ……アーツは柄ではないが、用意するに越したことはないか」

 

「確かにアルゼイドの剣術があればアーツは補助程度で十分だもんな」

 

 マスタークォーツをアークスに嵌めると、一瞬淡い青色の光を放った。サラが言うにはアークスと装備者が同調した証だとか。その他にも面白い機能(・・・・・)が隠されているらしいが、現時点では教えてくれる気はなさそうだ。

 

『さ、準備は整ったわ。始めましょう』

 

 サラが操作しているのか、タイミングよく奥の扉が開いた。

 

『その先のエリアはダンジョン区画になってるわ。割と広めで、入り組んでいるから少し迷うかもしれないけど……無事、終点まで辿り着ければ旧校舎一階に戻ってこれるわ。ま、ちょっとした魔獣なんかも徘徊しているんだけどね――それではこれより、士官学院・特科クラス《Ⅶ組》の特別オリエンテーリングを開始する。各自、ダンジョン区画を抜けて旧校舎一階まで戻ってくること。文句があったらその後に受け付けてあげるわ。何だったらご褒美にホッペにチューしてあげるわよ♪』

 

(サラにされても嬉しくないな……見た目だけ(・・)ならスタイル抜群の超絶美人なのに……)

 

 そんなことを考えのんびりと構えているウィルバートと違い、他の面々はどうするべきか悩んでいるようだった。行くべきなのは確かだろう。だが、その第一歩を中々踏み出せないのだろう。

 

「ふん……」

 

 真っ先に動いたのはユーシスだった。他の者を気にせずに真っ直ぐにダンジョン区画に進んでいく彼をマキアスが引き留めた。

 

「ま、待ちたまえ! 一人で勝手に行くつもりか?」

 

「――馴れ合うつもりはない」

 

 そこから始まる二人の口論……どう止めるか周りが悩んでいる間に、カっとしていたマキアスがユーシスより先んじるためにダンジョン区画に入っていった。そのあとにユーシスが続く。

 

「はぁ……」

 

「ど、どうしましょう……」

 

 本来なら全員まとまって行動するのがベストなのは間違いない。互いの実力も、徘徊している魔獣の強さも分からないのだから。だが既に犬猿の仲の二人は先にいってしまった。それも恐らく、いや絶対に単独行動のはずだと全員わかっていた。

 

「考え込む暇はないんじゃないか?」

 

 そんな中で周囲に声をかけたのはウィルバートだ。

 

「どういうことだ?」

 

「あの二人が先に行ったのは事実だ。だがどんな危険があるか分からない場所で単独行動するのは危険だ。二、三チームに分かれて二人を捜索するべきだ」

 

「む、確かに……」

 

 ウィルバートの提案に反対するものはおらず、早速チーム分けを行おうとしたが、一人ダンジョン区画に向かう者がいた。

 

「私、先に行くね。ウィルバート、後お願い」

 

 フィーだ。フィーは返事も待たずに先に行ってしまった。当のウィルバートはそれを止めようとはしなかったわけだが。

 

「ウィルバート、彼女はいいのか?」

 

「フィーなら大丈夫だろ。そうだな、無難に男女で分かれようか」

 

 こうして二チームに分かれた七人。女子三人組は早々にダンジョン区画に入っていった。金髪の少女は黒髪の少年を終始睨んでいたが……そして男子四人が残される形となった。

 

「なんか勝手に仕切ったりしちまって悪かったな」

 

「いや、正直助かったくらいだ。ありがとう」

 

「それでどうする? 俺達ももう行くか?」

 

 少し考えたあと、ウィルバートは首を振った。

 

「まず簡単に自己紹介と、得物の確認をしよう。得物が分かれば得意な距離や連携がやりやすくなる」

 

 正直そんなに急ぐこともないとウィルバートは感じていた。いくらサラでも命の危険があるようなことはしないだろうし、フィーは何も言わなかったが斥候役を買って出たとこくらいは気付いていた。それにラウラも、実力ならこの中でも上位だと踏んでいるため、心配事は実はそんなにない。犬猿そうな二人がバカをしないかのほうが問題だともいえるくらいには。

 

「うん、そうだね。じゃあ僕から。エリオット・クレイグ。よろしくね。武器はこれなんだけど……」

 

 紅毛の少年――エリオットは手にしていた奇妙な杖を珍し気に眺める。

 

「それ、魔道杖(オーバルスタッフ)じゃないか」

 

「うん、入学時に適正があるって言われたから使用武具に選んだけど……キミ、知ってるの?」

 

「ああいや、聞いたことがあるだけで。見るのは初めてだけどね。そっちは?」

 

 ウィルバートは魔道杖(オーバルスタッフ)を知っている。知り合いにラインフォルトに詳しい人がいるため、そこからの情報だ。ただ詳細までは流石に教えては貰えないため、概要程度しか知らないのだが。

 

「ガイウス・ウォーゼルだ。帝国に来て日が浅いから、宜しくしてくれると助かる」

 

 日に焼けた肌にクラス一の長身の留学生、ガイウスの得物は十字槍だった。なんでも故郷で使っていたものらしい。

 

「次は俺だな。リィン・シュヴァルツァーだ、よろしく頼む」

 

「よろしくリィン。それで……リィンの武器はその?」

 

「ああ――」

 

 黒髪の少年――リィンは懐に差した鞘からそれを抜き放つ。それはエレボニアでは珍しいもので……

 

「それって……剣?」

 

「帝国のものとは異なっているようだが……?」

 

 エリオットとガイウスも当然知らなかった。が

 

「それ、太刀だよな?」

 

「よく知ってるな、こっちでは珍しいんだけどな。もしかしてキミも太刀を?」

 

「いや……知り合いに太刀使いがいたってだけだ」

 

 そう答えるウィルバートはどこか遠くをみるような顔で――すぐに人当たりのいい笑顔に戻したため、気付いたものはいなかったのは幸か不幸か。

 

「さて、言い出しっぺなのに最後で悪いね。ウィルバート・テイミー。エレボニアの出身だけど、外国暮らしが長くてね。案外エレボニアのことは知らないんだが、まあよろしく」

 

「ああ、こちらこそだ。それで、ウィルバートの武器は?」

 

「俺のは……これさ」

 

 ウィルバートは持っていた包みをあけ、中から大型の槍を取り出す。それはまるで機械仕掛けの槍で、綺麗な白銀色をしている。それを見た三人は驚きを隠せないようだった。

 

「ヴァリュアブルランス。見ての通り機械仕掛けの槍さ」

 

「凄いな、そんな武器があるのか……でもガイウスと同じ槍か」

 

「だが、俺のものとは全く異なる武器のようだな」

 

 確かにガイウスの十字槍と違い、ヴァリュアブルランスはランスだけあって刺し貫くというよりは轢き潰すような使い方をするが、この武器の真価はそれではない。ヴァリュアブルランスは、機械仕掛けなのだ。

 

「これは特注品だから市販はされてないぞ? ふむ、太刀、槍、魔道状か……ならこれかな」

 

 ウィルバートが弄るとヴァリュアブルランスは静かに、しかし素早く形を変えていく――変形機構。これが機械仕掛けであるポイントだ。

 

「とりあえず今回はこれで行かせてもらうとするか」

 

 そうしてウィルバートの手には完全に形を変えハルバードとなったヴァリュアブルランスが握られていた。未だ口が塞がらない三人に苦笑いしつつ急かし、四人はようやくダンジョン区画に入っていくのだった。

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