体感にして半分ほどは進んだだろうところで、ウィルバートは先行していた女子チームの姿を見つけた。ラウラと眼鏡の少女、それとリィンと一悶着あった金髪の少女の三人だ。
「あら、あなたは……」
「や。順調みたいだな」
周囲に魔獣がいないことを確認すると、三人の元へ足を運び軽く挨拶を交わす。
「ウィルバートか。ん? そなた一人か? てっきり他の者も一緒だと思っていたが」
「ちょっとあってね。そうそう、あの二人は見つけたよ。マキアスは他の面子と合流して、ユーシスは独りで行っちゃったけど……あの様子ならまあ大丈夫だろう」
「そうか。とすると残るはあの少女一人か……そういえばウィルバートはあの少女のことを知っていたようだが……」
「ああ、フィーとは何度か会ったことがあるから。あいつすばしっこいから心配ないよ」
すばしっこいどころではないが……言っても仕方ないことだし、本人のいないところであれこれいうのもお門違いだと思いそれ以上口にすることはなかった。
「そうか……そうだ、そなた達はウィルバートと話すのは初めてだろう。どうだ、自己紹介でもしてみては?」
「そういうことなら俺からさせて貰うよ。改めて、ウィルバート・テイミーだ。よろしく」
一日に何度も自己紹介するのも変な気分だなと思いながら適当に流してしまう。ラウラは既に全員と面識があるので飛ばされ、次は眼鏡の少女の番となる。
「エマ・ミルスティンです。よろしくお願いしますね」
「こちらこそ。それにしても、魔導杖か……」
エマの武器はエリオットと同じ魔導杖だった。細部は違っているがほぼ同じような代物で間違いはないだろう。だが特別なクラスとはいえ一つのクラスに魔導杖が二つも支給されていることにウィルバートは驚いた。魔道状はエプスタイン財団が開発したばかりの試作段階の武器だということは知っていたが……
「この武器のこと、お存じなんですか?」
「ていっても概要くらいのもので、実物を見るのは今日が初めてかな。エプスタイン財団が開発した試作武器ってことくらいしか知らないよ」
それに魔導杖は適正がある者にしか使えないらしい。そうすると適正持ちが二人もいることのほうが珍しいのかもしれない。もっともエリオットやエマが剣や銃で武装するほうがよっぽど似合わないだろうが。
「あとはそなただけだが……どうした?」
残ったのは金髪の少女だったが、どうにも自己紹介を渋っているようにも見える。
「……アリサ・R。ルーレ市の出身よ」
それでも結局は自己紹介はしてくれたが、ファミリーネームを伏せていた。なにやら事情があるのは確かだろうが。手に持っている弓は市販品とは異なっていて、どうやら導力式のようだ。
(アリサ・R……やっぱり見間違えじゃなかったか……)
だがウィルバートはアリサの素性を知っていた。だからファミリーネームを隠す理由も分かるし、
「――よろしく、アリサ」
「ええ、こちらこそ」
どうやらアリサは気付いてはいないようだとウィルバートは確信した。尤も
「そういえばウィルバートには包みの中身を見せてはいなかったな」
ふと思い出したように、ラウラは腰に下げた物を抜く。それはラウラの身の丈以上の大きさの大剣。装飾も凝ったものではないが綺麗で、いいアクセントになっている。
「それがラウラの……流石アルゼイド流、そんな重そうな物を軽々と扱えるなんてね」
「ふふ、日頃の鍛錬の賜物だ。ところでウィルバートの得物はその……」
「ああこれね。これは……」
リィン達にした説明をもう一度繰り返すし、実演とばかりにハルバードからランス形態に切り替えたところでアリサが気付いた。
「それ、私の弓と違って導力式じゃないのね。どうなってるの?」
「どうなってるのなにも……どうなってるんだろう?」
そういえばその辺りの説明を受けていなかったことに今更気付いた。黒の工房製の特注品だとは聞いたが……そもそも黒の工房の技術力はウィルバートには理解できないほど高い。多くの猟兵が使うブレードライフルですら一般の重火器のレベルを超えているが、ヴァリュアブルランスは正真正銘特注品のオーダーメイド、らしい。それゆえウィルバートの知らない技術が使われている可能性は十二分にあるわけで。
「呆れた。あなた自分の武器のことも満足に知らないの?」
「面目ないな……まあ貰い物だからね、今度詳しく聞いてみるとするよ」
あははーと笑いながらランスを背に戻す。
「ふむ、槍か……どこかの流派なのか?」
「いや、俺のは我流だったり師匠に教えてもらったり。でも師匠も我流っぽいんだけどね」
我流、というのも少し違うのかもしれない。ウィルバートはアリアンロードや鉄機隊の面々から技を教えてもらうか盗むかくらいしかしていないが、それはつまり彼女らの技の模倣であるからだ。
「そうか、なら機会があれば手合わせ願おう。我流とはつまり、決まった型などがないのだろう? なら新しい発見があるやもしれんし、目標へ近づく一歩になれば嬉しいからな」
「ラウラの目標?」
「うん。《槍の聖女》リアンヌ・サンドロット。我が祖先が副長を務めた《鉄騎隊》を率い、かの獅子心皇帝と共に戦っという女性。彼女こそが私の目標だ」
リアンヌ・サンドロット――獅子戦役において獅子心皇帝こと、ドライケルス・ライゼ・アルノールと共に戦乱を駆け抜けた女性。《槍の聖女》の二つ名で有名で、レグラムには彼女の像まである。一説では、《鋼の聖女》と同一視されているらしいが……真相を知るウィルバートだが、それを言うわけにはいかないので少々複雑な心境だ。
「《槍の聖女》。それに《鉄騎隊》か……」
「もしかして、ウィルバートも彼女に憧れているのか? 確か槍の聖女はランスを使っていたようだし、ウィルバートのそれもランスだしな」
「んー……まあ確かに聖女には憧れを抱いてるよ。それに《鉄機隊》にもね」
「そうか! ウィルバートもそうだったか! いや思っていた通り、そなたとは話が合いそうだ。これからもよろしくお願いする」
「あ、ああ……」
微妙に話が噛み合っていないことに気づいているのはウィルバートだけだった。別に深い意味はなくただ思ったことを口にしただけだったのだが……勿論、誤魔化すところは誤魔化して、だが
「それでウィルバート、良ければ一緒に行かないか?」
「あー、それなんだけど。流石に女の子三人の中に入るのは気が引ける。というか正直に言うと恥ずかしい。俺はフィーでも探しながらゆっくり進むよ」
「む、そうか。それは残念だ……」
ではまた後でと言い残し、ラウラ達は先に行く。その後ろ姿が見えなくなった辺りで、ウィルバートが大きく伸びをすると奥へと足を進め始めた――
三人と別れてしばらく進んだところで、行き止まりに辿り着いてしまった。サラが言っていたように、確かに入り組んだ場所となっているようだった。
「ウィルバート、見つけた」
踵を返そうとしたところで、上から声が届いた。次の瞬間、ウィルバートの目の前に一人の少女が飛び降りてくる。
「フィーか。斥候役お疲れ」
「別に。大したことじゃないし」
特別オリエンテーリングを受けさせられている十人の、最後の一人である銀髪の少女――フィー・クラウゼルだ。
「でも意外。ウィルバートがこんなところに来るなんて」
「お前だってそのこんなところにいるんだけど……どうしてここに? 団はどうした?」
「ん……」
どこか悲し気な、遠くをみるような目でフィーは続ける。
「団長は死んじゃった……それに、団のみんなは私を置いてどこかいっちゃった……そこをサラに拾われたの」
「噂には聞いていたけど……ルトガーさん、マジで死んだのか……」
《猟兵王》ルトガー・クラウゼル。猟兵団《西風の旅団》を率いる団長で、フィーにとっては父親のような存在だった。ちなみにフィーとは実の親子ではなく養子のようなものらしい。
「うん。《闘神》と三日三晩闘って……相打ちだった」
「《闘神》と……殺しても死ななそうだった癖にな」
《闘神》とは、《西風の旅団》と共に大陸最高峰の実力を誇る猟兵団《赤い星座》の団長だった傑物だ。
「で、サラに拾われてトールズに?」
「そうなるかな。ウィルバートは? 確かウィルバートのとこも解散したんだったよね」
「ああ……そうだな」
身喰らう蛇――というより鉄機隊に所属しているウィルバートだが、昔一時期身を寄せていた猟兵団があった。フィーやサラとはその猟兵団にいた頃からの付き合いでもある。
「猟兵団《ヴァナルガンド》。団長だった《狼王》が死んで、自然解散したって聞いた」
「……ま、そうだな」
「でも解散したのって三年前だったよね? それから何をしてたの?」
「師匠の元へ帰ってね。しばらくそっちにいたんだけど、どういうわけかトールズへの入学案内が俺のところに来てね。それでやってきたってわけ」
嘘は言っていない。師匠とは勿論アリアンロードのことで、入学案内もカンパネルラが持ってきたわけだから間違ってはいない。ただ、サラと違ってフィーは猟兵のウィルバートしか知らないから本当のことを話すわけにはいかなかった。
「そういえば、見たことない武器を使ってるね」
「これか? 工房の特注品。いいだろ?」
ちょっと自慢してみたが、フィーは横に首を振る。お気に召さないようだ。
「扱うのむずそうだし、重そう。私には合わない。それに、あのブレードライフルはどうしたの? あれも特注品だって自慢してたよね?」
多くの猟兵の例にもれず、ウィルバートも猟兵時代はブレードライフルを使用していた。尤もそれも普通のブレードライフルではなく少々カスタムされた代物だったわけだが……
「あのな、一応学生の身分で来てるのに、ブレードライフルなんか振り回してたら悪目立ちしすぎるだろ」
「あ、そっか」
今気づいたかのようなフィーに呆れのような心地よさのようなものを感じてしまう。久しぶりに会ったが相変わらず猫のような女の子である。
「それにしても、エレボニア――というより貴族制度か。俺達には馴染みがないからやり辛くて構わないよ……」
「ん。正直メンドウ。ま、私はウィルバートがいるなら悪くないかな。ウィルバートの料理、美味しいから」
「全く……さて、随分と時間を潰してしまったわけだし、そろそろ行こうか?」
「らじゃ」
オリエンテーリングが始まってから既に結構な時間が経っている。ひょっとしたら最奥に辿り着いたチームもいるかもしれない。面倒なことになってなければいいなーと祈りつつウィルバートはフィーを連れ奥へ向かっていく。