英雄伝説 双の軌跡   作:イヌ魚

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Ⅶ組発足

 しばらくしてウィルバートとフィーは最奥の階段部屋目前まで辿り着いた。あとは大広間を抜けて階段を駆け上がるだけ……なのだが、どうやら問題が発生しているようだ。

 

「バカな、――するだと!?」

 

「だが、――――」

 

 鳴り響く剣戟の音、導力魔法(オーバルアーツ)の駆動音。戦闘状態にあるのは間違いないようだ。早速二人も中の様子を伺うのだが、その眼に飛び込んできた光景は予想の遥か上をいくものであった。

 

「ウィルバート、あれは?」

 

「知らないよ……でもまあ、特徴からすると御伽話によくでる石の守護者(ガーゴイル)ってとこだろ」

 

 石の守護者(ガーゴイル)――その名の通り石造に擬態している魔物で、帝国のおとぎ話や伝承にちょくちょく出ており、空想の存在か遥か昔の暗黒時代の産物だというのが一般説な存在である。勿論、大帝ゆかりの――いやだからこそ、こんなところにいるとは考えられない存在なわけだが、現実問題目の前にいるというのは変わらない。既に他の八人は大広間に辿り着いていたようで、皆必死に石の守護者に立ち向かっている。

 

「フィー」

 

了解(ヤー)

 

 ウィルバートの言葉と同時に駆け出すフィー。石の守護者と戦っていたリィン達は突然現れたフィーに虚を突かれたようだったが、そんなことお構いなしと駆け続け石の守護者の手前で大きく跳躍し背後を取る。石の守護者がフィーに反応するより早くフィーの双銃剣(ガンソード)が敵の脚を捕らえる。苦悶の声をあげた隙を見逃さずウィルバートが重い一撃を叩きこむ。兜割り――ハルバードの重量を活かし敵の脳天を粉砕する程の一撃を浴びた石の守護者の角が折れよろめく。が、直ぐに角が生え始めていく。

 

「再生能力か。だが、今なら!」

 

「ああっ!みんなっ! 今がチャンスだっ!!」

 

 生まれた一瞬のチャンスを見逃さず、リィンの掛け声と共に全員が一斉に攻撃を加えていく。その時、十人全員が淡い光に包まれ――止めのラウラの一撃で石の守護者の首は斬り飛ばされ、完全に沈黙したのだった。石の守護者という脅威が去りしばし全員が茫然としていたが、石の守護者が消滅するのに合わせ自分達が勝ったのだとようやく実感が沸いてくる。

 

「や、やった……」

 

「よかった、これで……」

 

「ああ、俺達の勝利だ」

 

 勝利を噛みしめる者、ホっと一息つく者など様々であったが、皆一様に喜びを分かち合っている。

 

「それにしても……最後のアレ、何だったのかな?」

 

 そんな中エリオットが思い出したかのように呟いた。それは先程全員を包んだ淡い光のことだ。あの時、確かに十人全員の動きが手に取るように理解でき、どう動くのが最適なのか把握できた……ような気がするというエリオット。ラウラやフィーもその感覚を感じ取っており、間違いなく本当のことだったと皆が驚きの表情を浮かべる。一人を除いて、だが。

 

「そう、それこそがARCUSの真価、《戦術リンク》よ」

 

「って、サラ教官っ!?」

 

 笑顔で拍手をしながら階段を降りてくるサラ。そのまま十人の前までくると、特別オリエンテーリングの終了を宣言した。色々言いたいことはあったが、ひとまずこれ以上振り回される心配はなさそうだと全員が胸を撫で下ろす。

 

「それよりサラ教官、戦術リンクとは一体なんなんですか?」

 

 リィンのその言葉に、他の者も気になっているようでサラへ注視する。

 

「君達も実感したと思うけど、戦術リンクを結んだ相手の動きや思考が感覚的に理解できる、とまあそんな感じの画期的な機能でね。仮にどんな状況、どんな相手とでも一糸乱れぬ連携が取れる精鋭部隊。そんな部隊が誕生すればどうなると思うかしら?」

 

「それは……まさに革命ですね」

 

「でしょう? 君達がⅦ組に選ばれた理由は幾つかあるけど、一番の理由はこのARCUSの適正ってわけ。ま、知っていた子もいるみたいだけど、納得したかしら?」

 

 知っていた子、のくだりでサラからの視線を浴びたウィルバートは明後日の方向を向いて誤魔化す。先ほど皆が驚くなかウィルバートは既に戦術リンクを知っていたため特に驚くこともなかった。そこをサラに見られたのだろう。そのウィルバートの態度に溜息をつくとサラはⅦ組についての説明を続ける。Ⅶ組はARCUSの試験運用を目的とした特科クラスで、そのため身分関係なくここにいる十人が集められたこと。Ⅶ組には特別なカリキュラムが組まれており、従来のクラスよりハードスケジュールになるだろうこと、気が進まない者は本来入るはずだったクラスに所属することになること。

 

「さて、それを踏まえた上でⅦ組に参加するかどうか――改めて聞かせてもらおうかしら?」

 

 サラのその言葉に沈黙が走る――突然そんなことを言われても即決できる者はそういないだろう。サラもそう思い、特に悩む必要の無さそうなウィルバートとフィーの二人から答えを聞こうとしたのだが――

 

「――リィン・シュバルツァー、参加させてもらいます」

 

 それよりも早く、リィンがⅦ組への参加を宣言する。

 

「一番乗りは君か。何か事情があるみたいね?」

 

「いえ、我儘を言って行かせてもらった学院です。自分を高められるのであればどんなクラスでも構いません」

 

(ふぅん……?)

 

 何やら事情があるようだが、ともかくリィンのⅦ組参加が決定した。リィンに続くようにラウラ、ガイウス、エマ、エリオットの四人もⅦ組へ参加を決める。アリサも思うところはあるようだったが、一々気にしていられないと参加を決意。そしてユーシスとマキアスがまた言い争いを始めるのだが、Ⅶ組参加を宣言しマキアスに辞退するように告げるユーシスに反発する形でマキアスもⅦ組参加を宣言し、結局二人とも揃ってⅦ組に参加することになった。

 

「これで八人ね。フィー、ウィルバート、アンタ達はどうするの?」

 

「めんどくさい。サラが決めて」

 

「ダメ。自分のことは自分で決める、そういう約束でしょ?」

 

「はぁ……じゃあ参加で」

 

 なんとも適当なフィーの答えに困惑する八人。ウィルバートすらもそんなんでいいのかと疑問に思ってしまうほどの適当っぷりである。

 

「ちょっとウィルバート、アンタは?」

 

「――決まってるさ」

 

 そう、そもそもウィルバートは悩む必要はなかった。元々そのつもりでわざわざ帝国まで来たのだし、何より“彼女”との約束もあるのだから。

 

「ウィルバート・テイミー、特科クラスⅦ組に参加させて貰うよ」

 

 

 

 トリスタ市街の一角、トールズ士官学院からだいぶ離れた場所にある第三学生寮が特科クラスⅦ組が今後二年間生活する場となっていた。その一室、ウィルバートにあてがわれた部屋の中で彼はARCUS越しに導力通信をしていた。本来であれば一定距離より離れた場所との通信は不可能なのだが、ウィルバートのARCUSは少々弄られておりそれを可能としていた。

 

『へえー、そんなことがあったんだ。特別オリエンテーリング、なんだか面白そうだね』

 

「そんなにいいものじゃなかったけどね……」

 

『えー、そんなことないよ。まあボクだったらもっと趣向を凝らせたものにしちゃうけどね』

 

 ARCUS越しに聞こえてくる少年の笑い声にウィルバートはやれやれと首を振る。

 

「それは勝手にすればいいけど……どういうつもり? カンパネルラ」

 

『ん? 何がさ?』

 

「はぁ……《紫電》が教官として勤めているなんて聞いてないよ?」

 

『ああ、そのことかー』

 

「しまいには《西風の妖精(シルフィード)》まで出てくるし……」

 

 全く悪びれもしないカンパネルラの様子に呆れてしまうウィルバートだったが、彼は元々こういう奴だったと思い出すとまた溜め息をついてしまう。

 

「アハハっ。でも紫電はともかく西風の妖精はボクも知らなかったんだって。ね? 勘弁してよ」

 

「はぁ……まあいいよ、カンパネルラにしては悪ふざけしてない方だからね」

 

『えっ、許してくれるの?』

 

「ダメ。今度会ったら殴るからね?」

 

『ちぇー』

 

 そんな取るに足らない話をしていると、部屋のドアがノックされた。どうやら来客のようだ。

 

「今開けまーす! 悪いカンパネルラ、報告はここまでってことで。また来月にでも定期報告するからさ」

 

『仕方ないなあ。じゃ、今回はここまでだね。バイバイ、ウィルバート』

 

「ああ。大丈夫だと思うけど、カンパネルラも気をつけてね? それじゃ」

 

 手短に通信を終えARCUSを仕舞いつつドアを開ける。

 

「こんな時間に誰? ……マキアス?」

 

 そこにいたのは、何やら神妙な顔をしているマキアスだった。

 

「すまない。邪魔したか?」

 

「いや、ちょうど終わったところだったから。それで、何のようかな?」

 

「あー、その、なんだ……」

 

 言い出しづらそうにマキアスは視線をあっちこっちに移しているが、急に頭を下げた。

 

「すまなかった! 傲岸不遜な貴族相手ならともかく、真っ当な者まで貴族というだけで色眼鏡にかけるのは確かに悪いことだ」

 

 どうやら旧校舎での一件を謝罪しに来たようで、まさか謝られるとは思っていなかったウィルバートは目を開けびっくりしてしまっていた。

 

「い、いや……俺も言い過ぎたと思う。だからおあいこってことでどうかな」

 

「そういって貰えると助かる。君には見苦しいとこを見せてしまったからな。改めて、これからよろしく頼む」

 

「俺もマキアスの事情を知らずに偉そうな事言っちゃったからな。こちらこそよろしく、マキアス」

 

 握手を交わす二人。貴族が絡むとどうしても反発的になってしまうマキアスだが、根はいい奴なのだろうなとウィルバートは感じていた。ユーシスも彼のいう傲岸不遜とは違うようだし、案外早く仲直りするかもしれないと思ってもいた。

 

「そういえばラウラとは普通に接していたよな? この際諦めてユーシスとも普通に接してやったら?」

 

「じ、冗談じゃないっ! どうして僕があの傲岸不遜の大貴族なんかとっ!!」

 

 まだまだ先は長そうだなと笑いながら、案外Ⅶ組とやらは上手くいくかもしれないなと思うウィルバートだった。

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