英雄伝説 双の軌跡   作:イヌ魚

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ウィルとアリア 前編

 翌日、自由行動日を迎え充実した一日を迎えるはずだったⅦ組の面々――ただし一名を除く――は今、困惑の渦中の真っ只中にいた。それこそ、顔を合わせれば一悶着を起こすユーシスとマキアスの二人が口論すらしないくらいには。と、そこへ遅れてフィーがやってきた。

 

「おはよう……」

 

「おはようございます、フィー様」

 

 フィーが席につくとメイド服の少女(・・)が彼女の元へ朝食を運ぶ。そう、このメイドこそがこの微妙な空気を作り出している原因なのだ。

 

「なあエリオット、あの子知ってるか?」

 

「ううん。昨日初めて会ったばかりだよ……フィーは普通に接してるみたいだけど」

 

 エリオットの言葉を聞きリィンがフィーへと視線を向けると、確かにフィーは謎のメイドのことを気にしていない。むしろ困惑している他の皆を訝しんでいるようにも見える。

 

「どうぞフィー様」

 

「ありがと。あれ? サラは?」

 

「サラ様は二日酔いで、自室で休まれております」

 

「そっか。だからサラがいないんだね」

 

 その言葉に納得したのかフィーは運ばれてきた朝食に手を出す。普段は二日酔いをしないサラがいないことにも疑問を抱いてはいないようで――

 

「待てフィー、確かにサラ教官もおらぬがウィルバートもおらぬ。そなた、何か知っているか?」

 

 その言葉に疑問を抱いたラウラの問いかけに、Ⅶ組の面々も興味を示していた。フィーのその態度は、同じく姿の見えない(・・・・・・)ウィルバートへの関心は感じられなかったため、何か知っているだろうと思ってのことだったのだが、フィーの答えは予想の斜め上を行くものだった。

 

「? ウィルバートならいるよ?」

 

「何を言っている? どこにも姿がないではないか」

 

「どこって……」

 

 フィーはメイドをチラリと見やる。その視線に対し、ペコリと頭を下げることでメイドが答える。それを了承と受け取ったフィーは、ついに爆弾を投下するのだった。

 

「――このメイドさんがウィルバートだよ?」

 

「…………………」

 

 絶句するラウラ。リィンは驚愕の顔を示し、アリサは理解が追い付かないのかメイドを指さし口をパクパクさせている。他の面々もぽかんとした顔を浮かべる――暫しの沈黙の後、フィーの言葉の意味がなんとか理解できたⅦ組は一斉に叫び出す。

 

『――はあぁぁぁ!?――』

 

 

 

 朝十時過ぎ。日曜ということもありトリスタ駅は割と混雑している。帝都へ行く人や東のクロスベル自治州に向かう人々などが列車を使うためだ。

 

 そんな駅の構内でウィルバートは待ち人をしていた。朝の爆弾発言の後、質問攻めをされる前にそれぞれ用事のあるⅦ組の面々を手際よく寮から追い出し、男姿へ着替えると一直線にトリスタ駅にやってきたのだった。夜には質問攻めに遭うだろうが、まあ仕方ないと既に諦めており、若干テンションが低いようにも見える。

 

「――すみません、遅れてしまいました」

 

「っ……」

 

 だがそれも掛けられた声によりすぐに鳴りを潜めることになる。

 

 身を包む白を基調としたセーターと臙脂色のロングスカートは普段纏っている鎧と同じ色合いであり、黄金に輝く綺麗に整えられた長髪にとても馴染んでいる。左サイドから流された三つ編みにはいつもの白銀のリング状の髪留めではなく、淡い青色のリボンに変えられている。

 

「おまたせしました、ウィル」

 

「ああ……よく来てくれたね、アリア」

 

 照れくさそうに"アリア”と呼ぶウィルバートの姿にアリアンロードは微かに微笑みを浮かべながら、二人してトリスタ駅を後にするのだった――

 

 

「ウィルが私達の元から離れて三週間程ですか……随分と懐かしく感じますね」

 

 折角アリアンロードが出向いたのだしトリスタ観光でもしようということになり、ウィルバートは絶賛頭の中で案内ルートの構築中だった。行ってもいい場所、行かないほうがいい場所の仕分けをしているのだ。

 

「でも毎週定期連絡を入れているでしょう? そんなに離れた気はしませんが」

 

「全く違います。朝起きても、稽古場に顔を出しても、食事の場でもウィルの顔が見れないのですよ?」

 

「そんな大袈裟な……」

 

 そもそも日頃から忙しなく活動しているアリアンロードと顔を合わす機会など週に数回しかなかった。とはいえ身喰らう蛇が大々的に活動することはそうそうなく、幻焔計画の発動前はそれなりに共に時間を過ごすことも出来ていたが……ともかく、ウィルバート個人としては別に珍しいことでもないということだ。

 

「大袈裟などではありません」

 

 だがそんな態度が気に入らないのか、アリアンロードはジトっとウィルバートを睨みつける。

 

「これでも寂しいと思っているのですよ? それはデュバリィ、エンネア、アイネスも同じです。大体アナタは昔から――」

 

「無神経だって言うんでしょう? デュバリィから耳タコができるくらい言われましたよ……でもデュバリィやエンネア姉はともかく、アイネスまで?」

 

「ええ。むしろアイネスが一番かも知れません。あなたのブレードライフルを毎日手入れしては笑顔を浮かべているのですから」

 

「…………」

 

 自身のブレードライフルを笑顔で手入れするアイネスの姿を想像するウィルバート。しかしいくら想像してみても彼女が寂しがっているようには思えなかった。

 

「……まあいいや、そろそろ行きましょう」

 

「はぁ……それで、どこに案内してくれるのですか?」

 

「本当ならすぐそこの学生寮を案内したかったんですけど、サラに見つかると非常に面倒な事になりますので……アリアは行きたい所とかあります?」

 

「……いえ、特にはないです」

 

「そうですか。では、折角トリスタまで足を運んでくれたのだし、ショッピングなんてどうです?」

 

 どこがいいかなーなどと言いながら歩き出すウィルバート。その後についてきながら、アリアンロードは一瞬だけ街の北側に目を向けていた――

 

 

 ブティック《ル・サージュ》。帝都にある同名のブティックの支店でお手頃な物から高品質の物まで揃っており、トールズ士官学院の制服の受注をしていたり、ここトリスタでお世話になっているという人は意外と結構いる。そして休日ということもあってか今日はトールズの生徒もちらほら見かける。だが買い物客らの興味は女性服売り場で物色している二人組に向けられていた。

 

「うーん、やっぱメイド服はないか」

 

「別にメイド服に拘る必要もないでしょうに」

 

 ウィルバートとアリアンロードである。学生服のウィルバートと傍目から見ても美人なアリアンロードの組み合わせは街中でも目を惹いており、更に言えば女性服を吟味しているのはアリアンロードではなくウィルバートなためこれまた好奇と疑惑の目で見られているのだがそんなこと気にする様子も見せていない。

 

「いやいや、結構大事ですって。モチベーションが違ってくるんですから」

 

「そうなのですか? 私にはよく分かりませんが……」

 

「まあアリアが着ることはありませんから分からなくてもいいんですよ」

 

 結局目ぼしい物がなかったのか、ウィルバートはその場を後にし装飾品売り場へと向かい、アリアンロードはその後ろ姿をジト目で睨みながら追いかけていく。その表情からは不満がありありと読み取ることが出来る。

 

「……怒ってます?」

 

「別に。ただ、それは私にメイド服が似合わないということですか?」

 

 少し頬を膨らませウィルバートを睨むアリアンロード。普段見せることはないその姿に、ついウィルバートが苦笑する。

 

(いつもは綺麗で武人然としていて、デュバリィじゃないけど本当に素晴らしい人なんだけど……ホント、可愛いなぁ)

 

「……何やら良からぬことを考えてはいませんか?」

 

「いえ全く。それと似合うか似合わないかですが、似合わないでしょう? アリアはどっちかっていうとお嬢様……っと」

 

 失言だったとウィルバートが咄嗟に口を塞ぐ。

 

「気にしていませんよ。それに物の例えなのでしょう?」

 

 が、当のアリアンロードは全く気にしていないようだった。似合わないと断言されたことには不満があるのだが……

 

「そう言ってくれると助かります……お、これなんか良さそうだな」

 

 ウィルバートの目に留まったのは藍色の大きめなリボン。それを手に取りしばし眺めた後、うんうんと頷ずく。

 

「気に入ったのですか? 確かにウィルの真紅の髪には似合いそうですね」

 

「いえ、俺は既に似たようなリボンをつけてますし……これはアリアにプレゼントしようかなと」

 

「私に、ですか?」

 

 てっきり自分で着けるものを吟味していたと思っており自分へのプレゼントだとアリアンロードは考えもしていなかった。。

 

「しかし、そのような可愛らしい物はウィルやデュバリィにこそ似合うと思うのですが」

 

「アリアにも似合うと思うんですけどね。確かに美麗で聡明で凛々しくてそれはもう素晴らしい人ですけど、かわいいとこだってもあるんですから」

 

「デュバリィの受け売りですか……ですがかわいいは余計ですよ?」

 

「バレたか。あ、でもかわいいは本心ですよ? ちょっと待ってて下さいね」

 

「あっ、ウィル……!」

 

 手早く会計を済まし、アリアンロードの小言を聞きながらウィルバートはル・サージュを後にするのだった。

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