彼が彼女の弟さん    作:kanaumi

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 妖精はかわいいだけじゃない。


暴食の妖精の特別ステージ

 窓から流れる涼しい風、誰かが咳き込む音、クラスメイトの顔にはマスク。この状況から分かる事、それはこのクラスで風邪が流行したという事。昨日までは何とも無かったのにな。症状自体は軽い物らしいが何故何だろうな?授業では、数分に一回はゴホゴホと誰かの咳が聞こえる。まあ、クラスメイトと言っても、風邪を引いてるのは男子だけなんだがな。

 

「加賀観、ティッシュがあったら貸してくれ。」

「ああ、ほい。」

「…なあ加賀観、俺にも貸してくれないか?」

「ああ。」

「加賀観、僕にも貸してくれない?」

「…ああ。」

 

 俺がティッシュを持っていると分かると奴らはありの様に群がって来た。そして、俺が持って来た物はどんどん無くなって行った。…俺の分も無くなったんだが?

 

「いやぁ、人気者だねぇ。」

「こんな事で人気者になりたくなかった。」

「だろうね、僕もこんな人気は願い下げだ。でも、なんだってこんな風邪が流行っているんだい?原因さん。」

「分かって言ってるだろお前。」

「そりゃね、僕も見ていたからね。」

 

 この風邪の流行の原因は、ほぼ確実に俺だろう。事件が起こったのは昨日だ。その日は、体育が最後の授業だった為に、男子皆でサッカーをしたんだ。だいぶ楽しんだから皆、多汗をかいてたんだ。だから、俺は気を使って帰り際に俺が水道水を雨のように降らせたんだ。シャワー替わりにな。そしたら威力が強かったのか皆が怒り出してな。そこからろくに乾かさずに鬼ごっこが開始して、その場にいたほとんどが風邪を引いた。これがこの流行の正体(仮)だ。

 

「うん、それよりも色無君、とりあえず鼻噛んだら?垂れてるよ。」

「ああ、そうする。…委員長、テッシュある?」

「え、無くなったの?ボックスで持ってたよね?」

「…秒だったね。」

 

 まあ、当然だが、当事者な俺も風邪を引いた。さっき俺のティッシュを取って行った奴らには私怨が有ったに違いない。だが、当事者でも例外がいたのを俺は今日の朝知った。

 

「なあ神、お前もあそこにいたよな?」

「ん?一緒に帰っただろ、それがどうした?」

 

 こいつだ。何故だか神は風邪を引いていない、あの場で一緒にかかっていたはずなのに。

 

「いや、お前風邪引いてないし、なんでだろうと思ってな。」

「ああ、あの後直ぐに吹いたし風邪薬飲んだからだろう。」

「…そっか。」

 これがバカと頭の良い奴の違いか。…バカは風邪を引かないとは何だったのか。

 

「まあ、風邪を酷くしない為にも今日は大人しくしている事だな。」

「…おう。」

 カッコ悪く風邪を引いてしまった俺はその言葉に頷くしかなかった。そして、自然な動きで俺は眠りの体制に入って行った。

 

「……お…い……加…賀観、……加賀観、起きろ、昼だぞ?」

「…んぁ?………昼か、…よし飯だな。神、食堂行こうぜ。」

「ああ。」

 起きたら授業が終わっていた。いつもの事だな。…後で呼び出されねぇよな?

 

「そういえばさ、あの蛇口って、直ったのか?」

「…ああ、昨日お前が壊した奴か、確か多々野先生がやってくれたみたいだぞ。」

「壊したとは失礼な、俺ただは捻っただけだぞ?」

「あれは捻ったじゃすまないだろ、蛇口取れてたぞ、あれ。…いや、仮にそうだったとして、力を入れ過ぎだな。」

 いやね、水の威力を強くしようと回したら、ぽろっと、錆び付いていたけど簡単に取れて俺もびっくりしたんだぜ?それで止めようとしたんだけど、取れてて水止めれなくて大騒ぎだったもんな。

 

「ちょっとは反省しとかないと後が怖いぞ?」

「…大丈夫だろ。」

「そうだと良いがな。…井戸田や今谷何かは大分お前に腹を立ててたっぽいけどな。」

「いや、彼奴らはむしろこっち側だろ。水の威力が弱いって言ったの彼奴らだぞ。」

「…そうだったか?」

 あーだこーだとだべりながら歩いていると、食堂の文字が見えて来た。あっという間についた感じだった。そんな事を思っていると、神がどうかしたのかと聞かれた。どうやら突然立ち止まった事を不思議に思って聞いて来たようだ。何故か気恥ずかしく思った俺は神を急かして食堂のドアを開いた。神はその様子を見て、呆れた風に俺を見ていた。

 

 昼休憩が始まってから大分経っていたが、食券を持った生徒の列が出来ていた。

 

「今日の列は特別長く感じるな。」

「今日は別に何も無かったと思うけどなぁ?」

「ん?君達は知らないのか?」

 食券機の列を並んでいると、前の男子生徒が振り向き、声をかけてきた。

「今、あそこで葵先生が大食い大会を開催してるのさ。」

 

 そう言って、男子生徒は集団の一角を指さした。そこを良く見ると、集団の中央で保健室の葵先生らしき人物が大振りの丼を前にして、何かを宣言しているように見えた。大食い大会「葵杯」、それは学校内でも大食いで知られている葵先生が自費で開催している大会だ。勝者には食堂から無料の食券を先生が購入した者が与えられる。最近は参加者が揃わないからと、行われていなかったが今日は人数が集まったようだ。

 

「ああ、だからこの込みようか。納得が行った。」

「それで、今回の参加者は誰なんだ?」

「今回の参加者は2名で、1人は2年の常葉さん。もう一人の名前はわからない。今回初参加らしいけど…」

 初参加か、珍しいな。葵杯は大会と銘打っているだけに出て来る量は大量で、なかなか食べれた物じゃ無いはずなんだがな。俺も一度挑戦したが半分位でリタイアした程だ。

 

 その後、そんな大会を横目に食券を料理に引き換えて席についた。

「やはり委員長が参加していたな。」

「ああ、…そういえば教室を出る時とてもニコニコしてたな。」

「委員長は相変わらず食べるの好きなんだな。」

「しかし、初参加とは珍しいよな。」

「そうだな、委員長が参加して以来なんじゃないか?」

「…そうだな。皆、委員長を見て参加諦めていたからな。」

 話しながら箸を進めていると、会場の方から一際大きな歓声が聞こえた。どうやら、決着がついたようだ。

 

 

「勝者!常葉千古!」

「いえーい!」

 審判の葵先生の宣告に周りから大きな歓声が上がった。勝者の委員長は元気に立ち上がって喜んでいる。その隣で謎の初参加者は苦笑いで拍手している。

 

「勝ったか、流石委員長だな。」

「ああ、委員長位食べるのはなかなか居ないだろうしな。」

「あの参加者も善戦したみたいだな。」

「あの委員長に善戦出来たんだ、強いのだろう。」

 

 委員長の胃袋はちょっとやそっとでは倒せる物じゃないからな。あの大会は先に完食した人が優勝なルールだから、委員長を倒すには委員長よりも早く食べるしかない。あの参加者は、話では前半は委員長よりも早く食べていたようだがどんどん追いつかれて負けたようだ。前半勝ってた分悔しいんだろう。負けた参加者は、参加賞を貰い早々と食堂を後にした。勝った委員長は葵先生から優勝商品の食券を貰っていた。あの様子ではこの後貰った食券を引き換えに行くのだろう。なにあれ勝利を祝いに行こう。神と目を合わせ委員長の所に向かった。

 

「よう、委員長。」

「あっ!二人共、やったよ!商品の食券、デラックス定食だったの!」

「お、おう、良かったな。」

「おめでとう、委員長。」

「うん、おいしそうだよ。さっそく頂こうかな?」

 

 委員長が凄い目をキラキラさせて見ているのは、今回の商品、デラックス定食だ。量良し、味良し、見た目良しな、一品だ。普通は朝飯を抜いて食べる物で、間違っても大食い大会の後に食う物ではない。価格はデラックスにふさわしい価格だが、2食分より安いので朝飯を抜くとお得になるのだ。運動部の連中が朝飯をおにぎりだけにして、このデラックス定食を頼むのを良く見かける。

 

「もぐもぐ、ん~♪おいしい!」

「……幸せなのは委員長だけかな?」

「ああ、周りの奴らは腹を抱える者や口に手を置く者でいっぱいだ。」

 食べている量を考えて胃もたれでも起こしているのだろう。…まあ、仕方ない事だ。

「ん~♪おいしいよ、止まらないよ~♪」

 美味しそうに食べ続ける委員長。そこはまるで委員長にスポットライトが当たったような光景が広がっていた。

 




 
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