最近の学校はとても賑やかだと思う。運動会にやる気を出す者、行事という響きが嬉しい者、運動会の準備で駆け回る者、特集号を作成する者など運動会に向けて皆思い思いに過ごしている。そんな中、些細な問題があちこちで起こっていたりする。体育会系の対立や賭事など様々だ。生徒指導室は連日賑わっている。それでも静まらないのはどこからでも出てくるからだろう。
「あっ、またやってる。」
窓の下では、確か普通科2年のAクラスの奴らとCクラスの奴らがにらみ合っていた。声は良く聞こえないが運動会でやるような雰囲気ではないようだった。にらみ合っていた両グループの代表者なのか一人前に出た。両者は何かを話し合うとグループに戻り、解散して行った。
「……こんなのが多いな、最近…」
「三鷹学園は来る者拒まず、その方針だからいろいろな人が此処にはいるのだ。真面目な人から柄の悪い人までな。」
溜め息混じりの独り言は漂わずにどこかの誰かに拾われた。こんな独り言を拾う者好きは誰だと振り返ると、そこにはいるはずの無い人物の登場に言葉を無くした。
「何を驚いている?」
「…いや、驚くでしょうよ。」
独り言を拾ったのは、俺らの担任の紅先生だった。
「先生、出勤は明日からだろ?」
「でも、謹慎は今日までだ。」
「良いの、それ?」
「さあ、どうなんだろうな?」
先生は微笑みながら言う。その微笑みは、謹慎前の先生からは見られなかった表情だった。
「校長先生には言付けてあるが、あまり大っぴらに出歩いては行けないんだろうけどな。」
あの校長まだ何かするつもりかよ。
「まあ、自分の教室位はと足を運んで来たらお前がいた、それだけだ。」
で、俺の独り言を拾ったと。…恥ずかしっ!……。
「なあ、加賀観。」
「……なんだよ。」
「…私は織斑千冬になれてたか?」
……なるほど。
「いや、先生は織斑千冬にはなれてなかったぜ。」
「…そうか。やはり、私ではなれなかったか。」
「ああ、まるで織斑千冬を書いた紙を貼った紅葉月だったぜ?」
「それは、もう私だろ!……お前、やっぱりあの時謝りたり無かったのか?」
「いや、もう謝んなくて良いから。…先生の言った通り俺らから見たら先生は先生としか見えてなかったのさ。」
「…」
「俺らは、1年から先生を見てたんだ。2年から先生が何か変になったって良く話してたんだぜ?」
「そうだった、のか。」
「先生が好んでそうなったなら皆、先生の事そんな風に思わなかったんだぜ?遅い高校デビュー位に思ったと思う。」
「…遅い高校デビュー…」
何か先生が落ち込んだが、まあ続けよう。
「でも、先生が無理してそうに見えたから、わかったから皆は変だって思ったんだ。先生は、織斑千冬みたいに立派な先生になってたんだろうけど、俺らからは無理した先生にしか見えなかった。そこをわかってくれよ。」
先生は深く考え込むような顔をした。
「……お前がくれた謹慎期間、お前があの時言った事を考えていた。私にとっての織斑千冬は何なのかと。お前に言われるまで心の中では、私は織斑千冬になっていると思っていた。織斑千冬みたいに立派な先生をやっていたと、思っていた。だが、お前の話を聞いて思ったよ。私にとって織斑千冬は何なのか。私は織斑千冬に何を思っていたと。だから、考えた。そして、答えをみつけた。私にとって織斑千冬は憧れの存在で、織斑千冬みたいにかっこいい先生になりたいと。そう思っていたのを思い出した。」
先生にとって織斑千冬は憧れで目標だった。いつかあんな風にと思っていたんだろう。
「けど、憧れが変化していたんだな。今、思うとムチャクチャやったと思う。ネットで織斑千冬がこうやってたと書いてあった物をとことん行ってしまい、怒鳴ったり、…お前にも怪我をさせたな。…ああ、やっと自分がしてきた事がわかった。…遅かった、か。」
先生は、窓を見て最後にポツリと言った。
「いんや、まだ間に合うぜ。まだ、4月何だからな。」
「…4月…」
「高校デビューは、4月までなら簡単に治せるんだぜ?」
「フフッ…そうか。そうだな。」
その後、先生と他愛もない話をしていた。
「…さて、そろそろ時間だろう。」
窓から見える夕日はその形を変えていた。もうすぐ、夜がやってくるだろう。
「じゃあ、気を付けて帰れよ。寝坊するなよ?」
「高校生にそれ言うかよ。」
「寝坊に年は関係無いと思うがな。」
「だいたい、俺は寝坊したこと無いよ。」
「居眠りする奴が威張るな。…じゃあね。」
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