今、この作品の各話を随時更新しています。
今日の天気予報は雨だった。この天気予報を見て、俺は洗濯物を干すのを止めてコインランドリーに走った。しかし、天気予報は俺を裏切った。朝起きると、カーテンから眩しい光が入って来ていた。天気予報のバカヤロー。
何気ない通学路を男は不機嫌そうに歩いていた。襟の寄れた制服に少し湿っているズボンを履き、ぼさぼさの頭をしてポケットに手を入れて歩く男は、トボトボと歩いていた。それを見た人は、目を背けながら道を譲っていた。誰も男のロードを邪魔しなかった。偶に、男は不気味に前触れも無く笑う。それを見た人は、違う道を歩む。次第に男を歩く人はいなくなっていった。そして、男は不気味に笑う。それが何を意味しているのかは、男だけが知っているかもしれない。
「なあ、加賀観。お前の通学路って、向こうの道じゃなかったか?」
「ああ、いつもは向こうの道を使うぞ。」
神と加賀観は基本的に、通学路で一緒になる事は無い。神の通学路と加賀観の通学路が違う為だ。しかし、今日はその通学路に加賀観がいた。それを神が不思議に思うのも仕方なかった。神は加賀観がなんとなくで通学路を変える事も想像できたが、今回は何となく違う気がしたのだ。たとえ、その理由がしょうも無くても聞きたいと思ってしまった。
「じゃあ、何で今日は違うんだ?」
「最近、あの道に出るらしいんだよ。」
「何が出るんだ?」
「変出者だよ。」
男の道は歪んでいた。もし、他人がその道を歩こうものならば、どれだけ真っすぐ歩こうと意識しても3歩歩いた時には自然と体の向きが変わる事だろう。男の道が歪みだしたのは最近の事だ。男は何処にでもいる会社員だった。上司に理不尽に叱られ、後輩からは蔑まされながら、朝早くから夜遅くまで働くそんな毎日だった。そんな生活を続けて早くも6年目になろうとしていた。世界から見て6年の月日は長かったのかも知れない、でも、男にとってはこの6年はとても早く感じていた。なぜなら、男はその生活に慣れてしまったからだ。一度慣れてしまえば後は簡単とはよく言った物だ。男にとってこの生活は、もはや日常の出来事でしかない。どんなに過酷でも、どんなに理不尽でも、男にとってこれは日常だった。しかし、それは別段珍しい事では無い。
世界は広い、それは誰もが口にした事の有る言葉だろう。それに比べれば日本は狭い、そう考える人も沢山いるだろう。しかし、実際はどうだろうか?面積と考えれば、確かに日本は小さいかもしれない。しかし、人一人が両手を広げても大きくても約2m位だろう。それに比べて日本はとても大きい。世界はさらに広い、そんなものは誰もが知っている。しかし、日本も広いのだ。どんなに人一人が手を伸ばしたって届くことはないそんな広さを人は実感しないで過ごしている。最近の若者の眼が中より外に向いているのはそんな広さを実感していないからだ。そんな中にいくつかは男と同じ日常を歩むもの五万といるのがこのご時世だ。だから男がいくら声を上げようが、対応はそれらの人と変わらない。男にとっての一番の薬と万物の薬は違うのだ。定例、凡例のそろったこの時代は男をそれらに押し込める。男の道が歪みだしたのはそれを意識してからだ。
歪んだ道を男は歩く。しかし、男の生活は変わらなかった。ただ、心体が歪み続けるのみだった。その歪みは時間が経つに連れて大きく、深くなって行った。1週間が過ぎた頃の男の心体は限界を迎えていた。そして、歪みはとうとう男の思考能力をも削り始めた。
現在の男は、会社に向かおうという事のみを考えていた。だから、会社に行くまでに交通事故に合おうが、誰かに助けを求められようが、男の眼には映らない。その姿を道行く人は嫌悪気味に見ていた。
「…なるほどな。確かに変出者っぽいな。」
「まあ、何か有る訳じゃ無いからあっちの道を通っても良いんだけどな。」
「…あれか、最近また話題になりだしたリストラ増加のニュースの奴か?」
「…さあな、詳しくは知らんしな。でも、危険そうな雰囲気だったな。……。」
その男の話を聞いて、神は最近のニュースとの関連性を聞いたが加賀観は呆気らかんに言った。しかし、何か気にしているような物言いだった。
「まあ、その事は別にどうでもいいかなとも思うがな。」
「そうなのか?結構危険だと思うが。女子とかはうかつにあの道を通れないだろう。」
「まあ、しばらくはそうだろうよ。実際の所危ないしな、相手が何するかわからないんだし。けど、俺らにとってはそこまで脅威では無いだろうよ。」
今日のホームルームとかで注意喚起がされるだろうけどな。でもまあ、気にするほどじゃないだろう。
「おっと、神!急ごうぜ、朝礼が始まっちまう!」
「っ!…もうそんな時間か、ああ急ごう。」
ふと見た腕時計は8時半を指していた。朝礼は45分からなのでのんきに歩いている時間は無かった。あるいていた歩道には学生の姿は無く、まわりを気にする必要も無くトップスピードで学校までを走りぬいた。しかし、神は気づいたかは知らないが走っている途中に異様な雰囲気の男を見かけた。おそらく奴がそうだろうなと、不思議とそう感じた。そして、心の中で男の幸運を祈った。
朝の時間から大分経った昼休み。
「加賀観、今日は食堂に行こう。弁当を用意していなかった。」
「おう、行こうぜ!今日の日替わりは何だったかなぁ。魚料理が良いんだけどなぁ。」
「今日は、炒飯と生姜焼きだったな。」
「おお、それでもおいしそうだな。楽しみにしていよう。」
あの後、どうにか朝礼に間に合った。だけど、教科書を入れ間違えた為に、先生ににらまれる羽目になった。まさか数学と古文を間違えるとは、どっちの教科書も緑を基調にした配色だ。朝は何だかんだと急いでいたから見間違えたみたいだ。まあ、今日の授業ではそこまで教科書を使わなかったので、少し隣に座っていた小西さんに見せて貰って対応した。最近、日頃の態度が悪いせいか、先生達からは何か在ると睨まれる様に成ったんだよな。悪いのは俺だって事は分かってはいるんだが、何か眠たくなるんだよな。どっかでちゃんとしなくちゃとは思っているんだがなぁ。
神と話しながら食堂に向かっていると、前の方から目立つ集団が歩いて来た。茶髪の女子生徒を先頭に歩く集団は、廊下の真中を堂々と歩いていた。周りの男子生徒は迷惑そうに道を開けていた。その女子生徒は開いた道を当たり前の様に歩いていた。
「…あいつ誰だ?」
「知らないのか?ここ等で有名な資産家、高無家の一人娘だよ。確か名前は高無霞だったか。」
「……高無…ああ、分かった。で、何であんなに偉そうに歩いてんだ?」
「…大方、貴族と平民みたいな関係だと思っているのだろう。」
「…マジでか、今時そんなのやる奴いるんだな。」
「ああ、そうだな。…さて、食堂に行こうか。」
「おう、腹が減ってるしな。」
あの集団には近づかない様に避けて食堂に向かった。
「なあ、これってどうしたらいい?」
「他の物を選べばいいだろう。」
「Aランチ食いたかったんだが。」
「売りきれているんだ、仕方ないだろう。諦めて他の物を早く頼め。」
今日の食堂はいつもよりも人が多いなぁと楽観視していた俺だが、いつも楽しみにしていたランチが食べられないとなったらそんな楽観視なんてしないのに。売り切れるなんて、今まで無かったのに。
「……おい、加賀観、早くしろ。後ろがつっかえているぞ。」
「げっ、…ええと、…これかな?よし、行こう神。」
何だかんだと考えていたら大分後ろに人が並んでいた。急いだから特に考えずに選んだが大丈夫だろうか?…あ、これおむすび二個セットだ。