本編とは少し違います。
私の日常
私の朝は、部屋に侵入してくる猫のシノンによって始まる。シノンは私が小さい頃に家の前で弟が拾った猫だ。いつもは一階のリビングで過ごすのだが、何故か朝の決まった時間になると私の部屋にやって来て私の睡眠を邪魔するのだ。今日もシノンが飛び乗ったのか腹部が少し痛い。シノンが飛び乗ると布団に大量の毛を付けていくので勘弁して貰いたいと思っているのだがシノンは関係ないと繰り返すのだった。まあ、シノンの事はいつもの事とだしいい加減に慣れてきている自分に私は目を背けるのが最近の日課に成りつつある。とまあ考えていると良い時間になったので私は身体を起こした。もちろん、起こす時にシノンを抱くのは忘れない。以前、気にせずに起きてシノンを腹で挟んでしまった事が有った。その時は、しばらくシノンの機嫌が悪くなって、構おうにもそっぽを向かれるなんて事も有った。さすがにそっぽを向かれるのは困るので、こうやって注意をしている。別に、私が太っている訳じゃ無い。シノンがくつろぐ場所が私の腹の上だから挟んでしまうのだ。何度も言うけど。
シノンをベッドの上に置いて、伸びをする。降ろされたシノンも同じく伸びをする。カーテンの隙間から零れる日差しが今日の天気を教えてくれる。そして、昨日の天気予報が当たった事に笑みを零した。昨日行った、友人との賭けは私の勝ちのようだ。後で笑ってやろう。気分の良くなった私は、鼻歌を歌いながら制服に着替えた。お母さんにクリーニングに出して貰っていたシャツを着て、紺のスカートをはく。黒と青の線の入ったリボンを結び、青みがかった黒いブレザーを羽織る。この作業も一年も続ければ慣れた物である。ブレザーは高校からで中学校の時は、セーラー服だった。驚くほどに変わる事は無かったけれど、セーラー服に慣れていた為に最初の頃は少し着替えに時間が掛かっていた。鏡を眺めて、可笑しい所が無いかを探す。…よし。床でこちらを見ているシノンを呼んで私は部屋を後にした。
家の朝食では、主食がパンの事が多い。理由は、私の両親がパン屋を営んでいるからだ。朝早くから仕込みをする関係上、お母さんが店に出すパンを作るついでに朝食分のパンも作るから家の朝食はパンである事が多い。しかし、種類は毎日違うけれど、パンには変わりなくて、続けて何日もパンを食っていると飽きが来るのも当然だ。だから、偶にはご飯も食べたいというのが私の主張だ。まあ、それを言うと自分で作ってと言われるから言わないけど。早起きはしたくないし。ちなみに今日のパンはメロンパンだった。表面の生地がサクッとしていて美味でした。私の好物はコロネパンだがメロンパンも好きだ。だから、中にメロンクリームが入った物をメロンパンと、好きな者として認めるわけにはいかない。そこの所をちゃんとわかっているとは流石、お母さん達だ。
机の上に4個用意されていたメロンパンが、残り1個になった所で我が家のお寝坊さんが降りてきた。よろよろと歩き、寝ぼけ眼な中学生。我が家の長男で、私の弟だ。眠い目を擦りながらやって来た弟の姿は、頭に寝癖を残したままで、服装もパジャマのままだ。以前、その事でお母さんに注意されていたがやはり直ぐには治らないか。まあ、弟がそんな直ぐに治せる何て家族の誰もが思っていない事である。それでも中学生ならもう少しは頑張って欲しいのが正直な所だけど。
「おはよう、姉貴。……ほぁぁ。」
「はぁ、…おはよう。…あんた、もう少し早く起きなさいよ。そんなだらしない姿をあの子に見られても良いの。」
「ほぁぁ…。…今更じゃね?」
「だから、言ってるんでしょうが!」
「はいはい。」
ホントにこの弟の情けない姿には呆れるばかりである。これでも学校では、きっちりしていて人気も有るのだ。どういう訳か弟は外と家ではキャラが違う。外では真面目な優等生をやっているが、家では呆けた天然小僧だ。家に来る弟の友人は、弟のキャラに驚いていた。まあ、学校では真面目な弟が、家に入ったらいきなり人が変わった様な事をしでかすからなのだが。オン・オフが上手いと言うべきなのか、呆れるばかりである。家にやって来たその友人は今でも家に遊びに来る。弟の変化にはもう慣れたのか、特に驚かなくなったと言うか、仕方ないみたいに思っている様だ。この友人のおかげで、弟の部屋はぎりぎりごみ屋敷を回避しているのだ。今日もその友人と登校する様だけど、弟の格好から準備が出来ている感じはしない。また、友人に助けて貰う気か。弟の友人は、弟の家での様子を見てから度々朝、家に迎えに来てくれる様になった。弟を迎えに来てくれるのはうれしいが、弟がそれに頼りだした為に起きるのが遅くなったのだ。彼方の好意だからやめてとも言えないのでどうしようかと、お母さんに相談した事も有る。その友人に迎えに来てくれる訳を聞くと、どうも弟は稀に遅刻ギリギリで登校していた様である。友人はそれを心配していたらしく、家での弟を見て訳が分かりほっとけないからだと。その理由を聞いて、弟を問い詰めた私は悪くない。結果、弟の迎えを此方から頼む形で落ち着いた。弟よ、私はお前の友人に足を向けて寝られないぞ。
朝食を食べ終わった私は、片づけを弟に頼みリビングを後にした。二階建ての家は玄関から入ってすぐの所に階段がある。二階は、私と弟の部屋の他にお父さんの書斎もある。玄関近くの階段を登り、弟の部屋の前を通り過ぎて私の部屋にたどり着いた。部屋に置いてある鞄を手に取り、部屋に立てかけてある時計を眺めた。時間は午前7時30分過ぎだった。学校へは、8時30分頃に着けばいいので少し余裕がある。とりあえず、リビングでテレビでも見ようと鞄を持って部屋を後にした。
階段を降りていると、玄関からチャイムが聞こえてきた。この時間に来る来客は彼女だろうと思い、私は玄関のドアを開けた。
開けたドアの先には、黒いセーラー服を着て、鞄を両手で持った女の子がいた。
「あっ、先輩おはようございます!!」
「うん、おはよう。今日も家のを宜しくね。」
「はい!任せてください!」
元気よく返事をしたのは、先ほどから話していた弟の友人の高尾未来ちゃんだ。今日も弟の為に、朝早くに起きてきたのだろう。未来ちゃんの家からうちへは、うちから学校に行ける位遠いのだ。未来ちゃんはその距離をほぼ毎日弟の為に歩いてきてくれるのだから頭が上がらない。本当に弟にはもったいない人である。未来ちゃんが弟に献身的過ぎて、友人?とも思える時も有るのだけれど、2人から恋仲という感じは余りしない。弟がだらしなくて未来ちゃんがお姉さんに見えるからだろう。まあ、二人の事は二人が解決する事なので深くは言わない。私としては未来ちゃんとの関係が近くなるなら嬉しいけどね。
「…?どうかしましたか?」
「…ううん、何でもないよ。じゃあ、弟はリビングにいるから行きましょうか。」
「はいっ!おじゃまします!」
未来ちゃんを連れて、リビングへ足を動かす。そして、リビングに弟がいるのを確認してリビングのドアを押し開けた。リビングに入ると弟は先程部屋を出る前と同じようにパンを齧っていた。私に続く未来ちゃんは、そんな弟の姿を確認すると弟に歩み寄った。弟は、リビングのドアの音に反応して此方に顔を向けた。そして、未来ちゃんを確認したのか露骨に顔を顰める。その顔にイラっとしたが、未来ちゃんの手前顔に出す事は無かった。
「明人、未来ちゃんがあんたの為に来てくれたよ。さっさと身支度しなさい。」
「明人君、おはようございます!早速ですけど、朝早くても服とかきちんとしなくちゃいけないですよ!」
「…俺は頼んで無いんだけど。…いや、何でも無い。」
未来ちゃんはさっそく弟の服装に注意を投げ、直すように進言する。弟はそれに小さく
何か発するが、すぐに訂正した。そして、未来ちゃんのされるままとなった。なされるままの弟に頷いた未来ちゃんは、手早く寝癖を整えていった。軽く2人の上下関係が垣間見えるが、いつもの事なので私は何とも思わない。弟に情けないとか思っていない、あれは未来ちゃんの押しが強いんだ。私でも抵抗出来ないから。その後、明人は未来ちゃんに連れられて二階の自分の部屋に戻って行った。
明人たちを見送った後、私は時計を確認した。2人を見ていたら思いの他時間が経っていた様で、7時50分を過ぎていた。まだ、テレビを見る位の余裕も有ったのだが、今から見るのも何だったので、このまま学校に向かう事にした。持っている鞄の中身を軽く確かめて、家の裏口に向かった。うちの裏には、私の両親が経営している『御橋麺麭屋』が在る。うちとはお互いの裏口から行き来が出来る。両親は朝の作業でだいたいそこにいるので、学校に行く前に寄り行ってきますと言ってから学校に行くようにしている。麺麭屋に入ると、お父さんとお母さんは生地を練っていた。麺麭屋のパンは、基本二人で作っているのでお父さんたちは朝早くから作業をしている。アルバイトさんもいるのだがまだ1人で作れるに至っていないので、お父さんたち2人で作っている。彼が早く作れるように成ってくれるとお父さん達も朝ゆっくり出来るのに。
「お母さん、お父さん、時間だから学校に行ってきます。」
「ん?おお、そんな時間か。行ってらっしゃい、気を付けてな。」
「あら、そうなの?…うん、身嗜みも大丈夫そうね、行ってらっしゃい。」
作業の手を止めてこちらを向いたお父さんとお母さんは、時計を見ていなかったのか驚いた様子で答えた。お母さんが私をじーと見つめたて私の身嗜みを確かめたのか頷いた。2人から行ってらっしゃいを貰った私は、改めていってきますと言って麺麭屋の正面入口に向かった。麺麭屋の正面の通りは、家の通りより学校に近いので両親へのあいさつも兼ねていつも麺麭屋を経由して学校に向かっている。ちなみに中学校の頃は、家からの方が近かったので麺麭屋に寄って行くのが面倒に思っていた事も有った。
私の家がある地域は、住宅街の外れ方に在る。だからか、道路に歩道が無く道もあまり広くない。車2台分と人が一人通れる位の広さだ。しかし、車の通りが少ないため今まで大きな事故は起きていなかった。だが、いずれ事故が起きるかもしれないと、この辺りの住民は対策を立てようと会議を偶に開くのだが、話し合いはあまり進んでいないようだ…。とはいえ、何もしない訳にも行かないので学生の登校時間には少ないながらも大人が立って見張る様にしている。それで安心とは言い難いが、抑制位にはなってくれるだろうとはお父さんの談だ。
私が通う高校は、住宅街から歩いて30分程の所にある。だからか、自転車で通う人がとても多い。学校もそれを推奨している。私は持っていないが、自転車で着ている友達は学校前の坂がきついと話していた。学校前の坂は歩いてもきつい坂なので、自転車だととても大変そうだった。その坂のせいで自転車通学を諦めた子もいる。まあ、男子どもは関係なしに上っていくが。学校の男子どもが本当に元気なのよね。
何時もよりも早い時間に家を出た事で時間にかなりの余裕が出来ていた。だから、何時もよりも歩くスピードを下げているのだが、どうも思っているよりも遅かったようだ。普通に歩いていたら追い抜かされないウォーイング中の御婆さんに抜かされてしまった。そんなに遅いとは自覚してなかったから、小さくショックを受けてしまった。まあ、そこでむきになる事は無いのだが。
「あれ?詩織、ずいぶん遅い歩行ね、何かの訓練なのかしら?」
「違うわよ、これは余裕を持った人の歩きよ。時間を持て余してしまう人類に許された行動です。」
「何それ、意味わかんないですわ!でも、何かとても楽しそうですわね。」
突然声を掛けて来たのは、私の同級生の原田尚古だ。先程、彼女は私の歩行に難癖をつけて来たが、だいたい私に構って欲しいだけの難癖だ。彼女は一応、私の友人なのだが何故かこういう構ってくれアピールをしてくる事が有る。別段、迷惑とかは無いのだが反応をするのが少しめんどくさかったりする。だからと言って、無視すると拗ねるので適度に答えてあげなければならない。そういう性格なので彼女も友達作りに苦労していた時があった。まあ、彼女が自分の性格を理解して、自重し始めてからは話せる友達も増えていったのだが。そんな彼女であったが、何故か私に関してはその自重が機能しないのか構ってアピールを沢山して来る。私が適当にあしらっても再度アピールして来る。何が彼女を突き動かしているのだろうか?もしや、私に対して好き的な思いが有るのだろうか?もし、そうならば早い内に言って措かなければならない。私はノーマルだ、だから普通に恋がしたい。だが、彼女を悲しませたくないの気持ちもあってなかなか言い出せないでいた。
「ねえ、詩織。貴方更に遅くなっているわよ?このままでは学校に遅れるわよ、少し速くしないかしら?」
「うーん~~~~。」
「ねえ、聞いているのかしら、詩織?」
「うーん~~~~~~~。」
「詩織、詩織っ!!」
「ん、何か言った?」
「貴方、このままですと遅刻しますわよ⁉」
尚古に言われて腕時計で時間を確認した。そこには、8時20分と長針と短針が指し示していた。朝礼は30分だ。不味い、完璧に余裕をこき過ぎた。
「い、急ごう!余裕をこき過ぎたよ!」
「はい、これも詩織が唸るからですわよ!」
「ごめんなさい!許して!」
「良いですから、急ぎましょう!」
朝礼には何とか間に合った。